内通者   作:三軒過歩

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佐々木とか、印照とか、何で名前を明かさなかったのかって思ってる人いるかもしれませんが、理由は単純です。名づけセンスが無いからです。何か壮大な伏線ではありません。名前を考えるのが大変だからできるだけ名前を使わないのです。それで読みづらくなるなら本末転倒なんですけどね。


内通者、その過去7

「ホントに今日はイイ日だなあ。」

 

直前でステインの攻撃を防ぎ、かすり傷程度で回避したムーンフィッシュはステインに相対する。

 

「今日だけで、五人もミレルなんて、シアワセだあ。」

 

かすり傷がこの相手では致命傷になることをムーンフィッシュは知らない。

 

「本当にうるさいぞ。阿呆が。」

 

「ア?アレ?身体が、動かない。」

 

「徒に力を使う犯罪者は、偽物よりたちが悪い。ここで始末してやる。」

 

「ア、アア。マッテ、ヤメテ。」

 

身動きの取れない相手に容赦なく刃物を振りかざす。

 

「ここだ!あいつらは…!?」

 

「まずい、人が何人も倒れてるぞ。救急車を呼ぶんだ!」

 

印照が呼んだ応援がようやく現着した。

 

「チッ!偽物がわらわらと。」

 

座り込んだ佐々木の前で忌々しくそう吐き捨てるとステインは姿を消す。

 

「バンブル!それにこいつは、ムーンフィッシュ!?どうなってるんだ!?」

 

「おい、まて、この子とバンブルの応急処置が先だ。相当な出血量だぞ。」

 

「君は軽傷だね。良かった。この人たちの応急処置が終わるまで少しだけ待っていてね。」

 

何を言っているのか、ステインの言葉は鮮明に聞こえていたのに、目の前にいる人からは何を言われているのか全く理解できない。何か、僕の心を保つために大切なものが砕ける音が聞こえた気がした。

 

 

それからのことを僕はほとんど覚えていない。救急車で運ばれ、手当てを受けたらしい。僕はすぐに完治するほどの怪我しか負わなかったのに他の人はみんな大けがだった。バンブルはもう脊髄損傷でヒーロー復帰は絶望的だと診断されたようだ。印照は出血多量のショックで意識を失ったままいつ意識が戻るかもわからない。逆にムーンフィッシュは軽傷であの後動けるようになるまでに拘束され今は裁判を受けるために留置所にいる。そのうち刑務所に送られるだろう。

 

(善人だけが、大けがを負って、悪人が無事なんて皮肉だな。)

 

後で聞いた話だが、竹下もステインと会敵したらしい。しかし殺されなかったとか。悪人(ステイン)に自分は助けられた。ヒーロー(バンブル)は自分自身さえも守れずにいたのに。ステインは僕を助けて、しかも未だ逃亡中だ。

 

「印照さん、まだ意識が戻らないみたいだね。」

 

「早く元気になってくれるといいんだけど。」

 

そう言ってクラスメイトが佐々木に目線を流す。佐々木は事件なんてなかったかのように振舞っていた。いや、事件のことを引きずっているようにクラスメイトには映っていたのだろう。印照が学校でやっていた役目のほとんどを佐々木は引き継いでいる。それは勉強を教えたりすることも含めてだ。

 

「平気なふりしているのが却って痛々しいのよね。」

 

「平気なふりって言ったら竹下君もだけど。」

 

父親はもう車いす生活からは逃れられず、ヒーローを引退した。しかし竹下も佐々木と同様に事件なんてなかったかのように生活している。だが、あの事件以降、竹下がヒーローになるといった旨の発言をすることはない。

 

「それでさ、昨日の番組であの芸能人が…」

 

「マジで。そりゃすげえな。」

 

竹下のことを気遣って、竹下と仲の良かったクラスメイトは当たり障りのない話題を探し、何か見えない壁のようなものができている。その壁を感じるのを嫌ってか、竹下は佐々木のところに来ることが増えた。似たような傷を共有する仲だと思っているのだろう。お互いにヒーローの話をすることはない。

 

「そう言えば、印照さんのお姉さんはヒーロー科に行くらしいわよ。お姉さん、もともとそっちの道には興味なかったはずなんだけど、急に言い出したんだって。」

 

「印照さんがあの状態だから、妹の代わりになろうとしているのかもしれないわね。」

 

「この時期からだと、私立校ぐらいしか行けないんじゃないかしら。彼女、雄英の普通科に受かってたらしいのにもったいないよね。」

 

「先生方が残念がってたもんね。普通の公立高校から普通科とは言え雄英進学者が出たなんて言ったら凄いことだし。」

 

噂程度には話題になるが事件のことは学校ではタブー視され、それ以上に話が膨らむことはなく、佐々木は三年に進級した。

 

 

「今日で一ヶ月かな。君が意識を失って。」

 

病室で植物状態になってしまった印照に対してそう言う。面会謝絶の状態は解除され、今は一般病棟で管をつながれ、生かされている。

 

「バンブルは今日でヒーローを名実共に引退するらしいよ。もうチャートのランキングにも載らない。」

 

前期と後期が入れ替わる。今回も一位はオールマイト、二位はエンデヴァーだ。バンブルは二桁と三桁を行き来していたが、もうそのランキングに名が連なることはない。

 

「ヒーローっていいものだと思ってたけど、蓋を開けてみれば僕を救ったのは犯罪者だった。ヒーローはほとんど何もできてない。君を起こすこともヒーローには叶わない。そんなものに、なりたがっていたなんてもう考えられない。」

 

 

それでも私はヒーローを目指すよ。

 

 

「!」

 

幻聴だ。そう言って欲しいという思いが生み出した願望かもしれない。

 

「僕はもうヒーローは目指さないし、君にも目指して欲しくない。ヒーローは英雄であるべきだったんだよ。職業として存在してはいけないんだ。だって僕たちは凡人なんだから。」

 

 

違う、誰かを救いたいと思って動く人は英雄と呼ぶにふさわしい。凡人かどうかなんて関係ない。

 

 

「っ!賭けは僕の勝ちだ。だから、君に聞いてもらう僕の願いは、ヒーローを目指さないことだ。」

 

 

それは、君の良識の範囲内なの?

 

 

「そうだ。僕はもう間違わない。ヒーローにはならないし、そんなヒーローを目指したがる社会は正しくない。」

 

「英雄であろうとあがくヒーローが賞賛され、目標とされるのは当然のことですわ。」

 

振り向くとそこには印照才子がいた。

 

「失礼をお詫びします。盗み聞くつもりはなかったのですが。」

 

「いえ、気にしないでください。」

 

立ち上がりその場を去ろうとする。

 

「あなたは、佐々木さんですね。妹がよく話していましたよ。優秀な人だ、と。」

 

(危うい人とも聞いていますけれどね。)

 

印照才子はそう口にせず続け、どうぞ、とばかりに持ってきた紅茶をカップに注いだ。佐々木はそれには応じず立ったまま話を続ける。

 

「いえ、僕は優秀とは対極にいる人です。呪われた力を持つ本物の悪です。」

 

個性を使って他人を傷つけるなんて想像もしていなかった。それが今、なされている。バンブルの半生を奪い、印照の未来を台無しにした。

 

「呪われた力、ですか。」

 

そう言って紅茶を口に含み目を閉じる。

 

「そうです。オートで発動するのが恨めしい。」

 

目を合わせてしまえばこの個性は勝手に発動する。自分が拒もうとも、その人の二十四時間が勝手に再生される。

 

「その力、わたくしのために使っていただけませんか?」

 

「ッ!」

 

その言葉は佐々木の琴線に触れる。

 

「お前に!お前に何が分かる!この力に僕がどれくらい苦しんできたのか!どんな思いでこの力を受け入れようとしていたのか!そもそもお前は、僕の力を知らないくせに、よくもまあぬけぬけと!!」

 

睨みつけるように言い放つが、その目は閉じられている。しかしその目は急に開かれた。慌てて目をそらす。

 

「わたくしの個性はIQ。紅茶を飲んで目を閉じればIQが数倍にもなります。さて、そんなわたくしが、あなたの個性が予測できないとお思いですか。」

 

立ち上がり、顔を佐々木の前に近づける。視線が絡み合う。

 

「視線を合わせることで発動する個性。内容は、未来視か、はたまた過去視か。多分後者ですわね。犯罪者に対して強烈な抑止力となる優秀な個性です。」

 

「違う、違う違う!これは、ヒーローを危険に晒す個性だ!呪われた力なんだよっ!」

 

「違いません。わたくしの妹の目が間違っているはずがありませんもの。わたくしと同じで優秀でしたからね。」

 

「優秀、でした…?」

 

こいつは、この人はもう自分の妹が起き上がらないと諦めているのか。僕はまだ諦めきれてないというのに。家族の癖にこいつはこんなにも簡単に割り切っている。

 

「妹の覚悟を、意思をわたくしは継ぐ。継がなくてはならない。わたくしのたった一人の姉妹なのですから。」

 

もう目の前の女が何を言っているかなど聞こえているはずなのに意味のある言葉として受け取ることを脳が拒否していた。

 

「すいません、お見舞いに来るのは結構ですが、ここは病院ですので、お静かにしていただけませんか。」

 

喧噪を聞き、看護師がやってくる。

 

「ッ!」

 

ヒーローを志す者は碌な奴がいない。みんな薄情者だ。許せない。ヒーローは紛い物だ。こんな職業は少なくとも市民から称えられるような地位を確立する職業なわけがない。こんな職業はなくなってしまった方が良い。

 

「論外です。僕は、僕は二度とヒーローを目指しません。」

 

印照才子にそう吐き捨てて病室をでた。その瞳はひどく濁っている。

 

 

 

「佐々木過渡君だね。」

 

帰宅途中、声をかけられる。顔を上げてみると、異様としか形容できないような顔の男が立っている。

 

「誰ですか、あなたは。」

 

顔と呼ぶべき場所に口以外の器官がついていないような男はこの個性が浸透した社会でも珍しい。おまけに名前を知られているとなれば、警戒してしかるべきだが、佐々木はその容姿に感動していた。

 

「僕は、死殻木…いや、オールフォーワン(AFO)と言った方が良いかな。ヒーロー社会の天敵さ。」

 

この人は目がついていない。過去視が絶対に発動しない。

 

「こんなところ現れて、()()に通報されても知りませんよ。」

 

気がふれた人間の世迷い事とそう思わせないカリスマがその人からはあふれていた。

 

「君は通報しない、その確信が欲しかったんだ。」

 

「で、何の用ですか。」

 

大悪党を前にしてこうも冷静に返せるのは、佐々木に自身の人生の意味が見いだせなくなっているからかもしれない。

 

「君の力を貸して欲しいんだ。」

 

「何のために?」

 

「ヒーロー社会を壊すために、かな。協力してくれるなら、何か一つ僕が願いを叶えてあげよう。僕のできる範囲内でね。」

 

「…」

 

「不満かな。僕は結構優秀な部類なんだけど。」

 

「それはそうでしょうね。」

 

見れば、相対すればこの人がただ者でないことなんてすぐに分かる。

 

「先払いなら受けてあげます。僕の個性を無力化してください。」

 

「それはできない。その個性を使って働いてもらわなければならないのだから。」

 

「じゃあ、ステイン及びムーンフィッシュに会わせてください。」

 

「ふむ、それじゃあ、君が初の仕事をこなしたら叶えてあげよう。お互い、そこが妥協点じゃないかな。」

 

その言葉を聞いた佐々木は右手をAFOに差し出す。

 

「で、僕は何をすればいいんですか?」

 

「雄英に潜入して内通者として動いてもらいたいんだ。来年の四月からで学科は問わない。言っている意味は大丈夫かな。」

 

「ええ。僕の初仕事は雄英合格。軽く終わらせます。」




わたくしを変換すると私になっちゃうので差別化のために印照才子の一人称はひらがなわたくしで行きます。印照妹の一人称ははわたしと書いて私でした。
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