ギギィッッ
我が鋼鉄の扇、もう何回ぞ振り回した事か。蔵の外は既に夕日が沈むか否かと言う所にありし。
聞くに耐え難き金属の摩擦音が響き渡る。
かの女、はらわた狩りと呼ばれしその者の体力、やはり見極めていた通り、並々ならぬ物。
すると、先程まで氷柱を作り出し目一杯に女の隙を突きていたる者が
「...ふぁぁ...ごめん、りあ。ぼくもうダメみたい。後はそっちでなんとか出来る?」
「うん、大丈夫よパック。安心して休んでて...後は私達で何とかするから。」
「何かあれば、オドを絞り出してでも呼び出すんだよ。僕は契約に従う...。」
と、眠気を理由に今にも消えんとしていたる事、目に留まりつる故、
「ぱっく殿よ、貴殿にここで去られるはえみりあ、なる貴女を守り切れるか私も図りかねる所故、もう少し辛抱なされよ。」
と、引きとどめようとこの女から一旦距離を取る。
「あらぁ、もう行っちゃうの?残念だわ...。」
と、この女、一言。
「僕も精霊だから、一日中起きていられる訳じゃないしね。コーメイも、りあの事、頼んだよ。」
「承知した。」
と、彼 ぱっくという精霊...初めて実物を見たが、想像の物とはかけ離れている姿の彼を見送り
「...精霊のお腹も切り裂いて見たかったけれど、それはまた今度...。
じゃぁ、貴方のお腹を見せてちょうだい!!」
ダンッッッ
と、床を脅威的な力で踏み込んだ音が聞こえて刹那の事であった。
スッ、と私は2歩程避けきりて、即死の攻撃を見つめながらこの女の範囲外へと移る。
ふぇると、やろむ爺達は未だ店の奥の机台の上で此方をじっと見つめている。
が、やはり痺れを切らしたのか。或いは一人でこの怪物たる女を手取りにしてる事にあはれみを感じた故か。
「うぉぉぉぉ助太刀いたすぞ!!」
ドスッ ドスッ ドスッ ドシャァッッ!
と、巨で老なる身体が一心不乱に突進を始め、この女のいた木製の床を巨大なる棍棒で叩き割れり。
「えみりあ、と言ったか。ここはかのご老体に時間稼ぎを任せて氷柱を少々創造なされよ。」
と、助言いたすと、「わ、わかったわ。」と言いそのとおりに行動し始めり。
が、かの女、この攻撃を予測していたかの如く避けに避け、舞いに舞い、こう一言。
「あら、ダンスの横槍だなんて無粋な真似よ。」
ドガシャァッッ!
そう言う程にも女に強烈なる一叩きが入ろうとするが、難なく飛び跳ねて周りくねりて避けし。
「そんなに踊りたいなら踊らせてやるわぁ!!
そぉれきりきり踊れぃ!!」
ドォンッ ガシャンッッ ガランッッ
次々と店の構造物を破壊していきながら、かのご老体は遂に女を角へと追い詰めた、かの様に見えた。
「そぉれぇ、トドメじゃあ!!」
が、しかしながら
ドゴォォォッ
あの女の角側で立っていた机が破壊されると同時に、埃が舞いて、周囲が瞬時に見渡しの悪い場となる。
が、
バサッッ
と、孔明、扇を一振りすればみるみる内に視界、晴れり。
さして見てみると
「な、なぁんじゃ そりゃぁ!」
「あなたが力持ちだからこんな事も出来るのよ。」
と、あの女は、巨体なろむ爺殿が持つ巨大な棍棒の上に乗っかっていたる。
「さようなら...。」
ヒュンッ
と、ろむ爺殿の首元へと曲がった刀剣を回転させながら投げつける。
「しまった...!」
孔明ですら、その一瞬に焦りを見せたる。
がしかし、更にそこに
「させるかぁぁぁぁ!!」
ブンッ グゥンッ
孔明の頭の横を飛んでいった後方からの謎の刀剣が、今にもご老体の首元へ突き刺さらんとする刀剣を
ガキンッ
と、見事に跳ね返す。
「...! やった!」
と、その主たるふぇると殿が歓喜の声を漏らす。
が、しかし跳ね返った先までは考えが至らなかったやうにある。
その跳ね返りを受けし刀剣は
ザンッッ ドサッッ
と、不気味な音を立てながら、何とご老体の右腕を切断してけり。
「ぬぉぉぉ...ぉ...ぉ......。」
「ッ! ロム爺! ロム爺!!」
ドザザーッ
かのご老体は、ふぇると殿の努力虚しく肩から大量の血液を湯水の如く吐き出しながら地と血に伏した。
これではかのご老体には既に意識がなく、今倒れたまま、死にゆくだろう。
「ッ...許さないんだから!」
ヒュン ヒュンッ
と、後方ではえみりあ、といふ少女によって作り出された大量の氷柱が再び猛攻を開始したる様子。
が、しかし一向に俊敏なる動きに避けられ続けており、
「いつまでも同じような事をされてもつまらないのだけれど?」
ガンッ ガガガンッ
と、彼女を廃そうと首辺りを持ちうる刀剣と投擲した刀剣の2つずつ交互に狙うが、それを孔明は扇で防いでいく。
そして後方からの援護が飛ぶが、簡単に撃ち落とされていく始末。
「...えみりあ殿、使える手があるなら今のうちに使うが宜しいかと。」
「わ、わかってるわよ...でもここで使っちゃったら、貴方達まで吹っ飛ばしちゃうから...。」
ガキンッ
と、目の前の刀剣を振り払いながら
「はっはっはっ!それはお諌め頂きたく御存じまするな。...ふんッ。」
と、一声かけて孔明、強烈な鋼鉄をも切り裂く細い風を縦に横にと一風ずつ扇の薙ぎ払いから生み出す。
ビュンッ ビュゥゥゥッ!
ザシュッ
「ッ...あぁ、痛いわ......最高だわ...この痛み...。」
流石にこの攻撃は予想だにもしていなくありけむか、かの女、足と腕に深き抉り傷を作られる。
「ふっ、ならばさっさと撤退したらどうだ、この妖艶の下衆な女よ。」
ブンッ ブンッッ
と、何度も風による斬撃を繰り返し始める孔明。
それに少々見入るカウンターの裏で震える少女 ふぇると殿。
そうこうしている内に、すっかり日も暮れてしまった。
すると、何やら遠くから...いや、頭上...?
「っ、お下がりください、えみりあ殿、ふぇると殿!」
「えっ?」
「な、なんだよ急に!あの女はどうす...。」
ドォォォォォンッッ
と、私の耳には狂いなし。二方を跳躍しながら俊敏に回収し、この頭上の新たな化け物から遠ざける。
「......これは...、エミリア様 そして御二方には下がらせてしまい申し訳ありません。
それでは、ここからはぼくが相手としましょうか。」
コンッ
と床に散らばっていた盗品蔵の一つ品を足で蹴り上げて手に取り、そう言い放つ男...。
「...あら、あなたは...。」
その立派な赤髪を揺らしながら構える様は、竜の如し。
「その特徴のある刀剣...間違いない、王都を騒がせている はらわた狩り...。
僕も、か弱い女性を傷つける趣味はありません故に、投降をお勧めしますが?」
と、忠告する。
「...えみりあ殿、さぁどうか此方に。ふぇると殿はそこにいてくだされ。」
「え、えっ...あ、はい!」
と、孔明はあの倒れたご老体 ろむ爺の元へとえみりあ嬢の手を引きつつ急ぐことにした。
なぜならばこのご息女、見たところ妖術や魔術を使えるやうに見えた故、あのご老体の重大な危篤状態を救えるやもしれんと踏んだためだ。
もはや異界の土地、前世の後漢時代の常識は当てはまらぬと一向に切り捨てる勢いで彼女を引っ張りて出血の止まらぬご老体の元へと移動させ、治療に専念させる。
それを横目で見届けた赤髪の可憐な服装の男は、再度剣を持ち直し、
「...なるほど、あなた...剣聖 ラインハルトね。」
「...今日は生憎非番なので、そう呼ばれると肩身が狭い思いですが...。
投降、なさらないのですね。」
「......飢えた獣が最高のディナーを前に引くとでも?」
「...仕方ありません、では此方も本気で行かせていくとしましょう。」
と、あの男...ラインハルトとはらわた狩りとの戦が始まった。