やはり俺が吸血姫の弟だったのは間違っていない。 作:東雲 那音
『お願い叔父様、エイト。置いてかないで!』
『ごめんなさい姉様……』
『エイト…いや、いや!』
『ごめんなさい、姉様。こうするしか……っ!』
『これで神代魔法も4つめ……。そろそろ、か』
『エヒト様に反逆する駒よ、喜びなさい』
『っ!?神の使徒っ!』
『貴方はあの神子より質は落ちますが、エヒト様の器としての資格があります。さぁ、エヒト様がお呼びですよ』
『クソっ、あと一歩、あと少しで!』
『私をここまで追い込むとは……!だが残念だったな、神殺しなど夢のまた夢だ!』
『はぁ、はぁ……。結局、神殺しは成せなかったか。……姉様、どうか貴方に幸せがあらんことを……』
「はっ……!!!!」
勢いよく目覚めと共に布団から飛び起きた少年、比企谷八幡は自分が荒い息を吐きながらここが夢ではなく現実であることを理解していく。寝巻きは汗でぐっしょりと濡れ、自分がどれだけうなされていたかが分かる。
「ごめんなさい、姉様……。」
つぅっ、と頬を流れる涙。
彼女をああする以外に助ける方法はなかった。そうしなければ、最悪の不幸になっていたから。自分が強くなり、神殺しを成したら封印を解き
姉様を解放したかった。自分が姉様にした事は許されないだろう。でも、それでもいい。合わせる顔なんて封印した時点でない。それに会うことなんて許されない。ただ、姉様には笑って幸せに過ごして欲しかった。
でも、結局はそんなこと叶わずに神殺しはあと一歩のところで終わりを告げた。
それなのに。
なぜか、八幡の心には埋めることなど出来はしない穴がぽっかりと空き、安否も不明な姉の事を思い続けていた。
▲▼▲▼
総武高校に通う比企谷八幡には、誰にも打ち明けていない秘密がある。
彼は転生者なのだ。トータスと呼ばれる世界で死に、この異世界“地球”に前世の姿と能力を持ったまま転生していた。
物心着く頃には、自然と、元々あったかのように違和感なく前世の事を思い出していた。その頃からだろか、姉であるアレーティアの事を思い浮かべる度に締め付けられるように胸は痛み、それを忘れようと色々と頑張った。
妹の小町が生まれてから、姉を守れなかった自分は今度こそ守ろうと思い、小町を溺愛しながら必死に危険が近づかないようにした。地球では魔法は無いとされていて、八幡は自分の力をひた隠しにしたり、運動では絶対に本気を出さないように手を抜いた。
この世界は八幡にとって、トータスより住みづらい。友達を作ろうとし失敗すれば笑い者になり、一時の気の迷いで好きだと勘違いして告白すれば振られ、次の日にはクラス全体に広まりまた笑い者。心の穴を忘れるどころか逆に傷ついていく。
人と人との関係はほとんどが偽物。上辺だけを見て中身を知ろうともしない。人に流されやすく芯がない。個に力はなく数がものを言う。大が楽しむために小が苦しめられる。そんな住みにくい世界でも、狂った神が居ないだけましだった。
こんな世界で今まで八幡は生きてきた。
「ヒッキー、ぼーっとしてどうしたの?」
ペラ……ペラ……と、ページをめくる音とスマホをタップする音が響くこの特別棟にある教室。奉仕部と呼ばれる、部長曰く、『飢えた人間に魚を与えるのでは無く、魚の取り方を教える』部活動だそうだ。ここは部室であり、最近心地よく感じる八幡の見つけ居場所。
いつも感じる心の穴に意識がいっていて、どうやらぼーっとしていたらしい八幡は由比ヶ浜の声で我に返った。心配そうに見つめてくる目は純粋で悪意の欠片もなく、他人から感じたことない視線に少したじろいでしまう。
「あ…や、…なんでもない」
「……比企谷くんもどうやら疲れているみたいだし、今日はここまでににしましょう」
雪ノ下が珍しく優しく声をかけてくる。それだけ、今の八幡を心配していたのだろうか。八幡は少し胸が暖かくなるのを感じた。
「なんか、悪いな」
「気にしなくていいわ。それと、何か悩みがあるなら相談しなさい。奉仕部の部長として手助けしてあげるわ」
「私も私も!」
「お前ら……、ありがとな。もし何かあったら相談するわ」
ここに入っていくつか依頼をこなしてきた。初めにこなしたのが由比ヶ浜のクッキーの依頼。別名、木炭事件。そんな冗談はさておき、それからテニスの依頼やチェーンメールの依頼だ。
そろそろ夏休みというのこの時期、最近は依頼もなく部室で本を読んだり勉強したり、たまに由比ヶ浜と雪ノ下のゆるゆりな会話で話を振られて返したりする時間だけが流れている。
「鍵は私が返しておくわ」
「あっ、私も一緒にいく!」
「じゃ、俺は帰るわ」
「じゃあね、ヒッキー」
「……また」
「おう」
鞄を肩にかけ、学校を後にする。空は赤い夕陽が照らしており、建物の影が多く浮かび上がっている。自転車を漕いで漕いで、穴を忘れるようにガムシャラに漕いだ。
「……」
息一つがらない身体に、自分の異常性を改めて感じる。
「もし、あいつらが俺の秘密を知ったら……」
ーー怖がるだろうか?
ふと、そんな疑問が湧いてきた。
関係が壊れてしまうだろうか?
独りになってしまうだろうか?
人として、見てもらえるだろうか?
分からない。八幡の答えはこれだった。
もし、偽物の関係、クラスメイトや同世代の人達が築いているような薄っぺらいものなら簡単に壊れてしまうだろう。でも、もし、アイツらとの関係が本物だとするなら……。
俺を受け入れてくれるだろうか?
「……俺は、本物が欲しい」
この、心の穴を忘れさせてくれるような本物が欲しい。あんかも分からないそんなものがどうでも欲しかった。
「ただいまー」
「おかえりー」
家に着くと、珍しく小町が八幡よりも早くご帰宅していた。
「?……お兄ちゃん、何か悩みある?」
小町は人の顔を見るなりそんなことを聞いてくる。八幡は今日はなんか皆が俺に優しい気がする、と考えてしまう。
「……別に何が」
「ぅーん……。お兄ちゃんさ、たまになんか思い詰めたような顔してるよ?」
「えっ、そうか?」
「うん。……何かあったら小町が相談に乗ったげる。あ、今の小町的にポイント高い!」
「ハイハイ高い高い。というか、そのポイント貯めたらなんかあんの?」
「何も無いよ?」
「ないのかよ……」
妹の意味の無いポイント制度に呆れてしまう。でも、そんな妹はあざとくて可愛い最愛の妹。八幡はワシワシも頭を撫でて自室に着替えに行く。後ろから髪が乱れたー!と叫んでいる声が聞こえたがそれはとりあえずスルーした。
「そういえばさ」
「なんだ?」
「集団神隠し事件あったでしょ?ほら、神隠しにあった人達帰って来たけど、思ったよりニュースにならなかったよね」
「あー、たしかに」
両親は社畜な為に小町と八幡2人での食事中のこと、小町との何気ない会話。話題は急に戻って来た集団神隠しにあった生徒たちの事だ。
八幡が、まさかあのクソエヒトがさらったんじゃないか?とドンピシャで正解を予想で当てていた、隣町で起きた事件。2週間ほど前に一年の時を得て突如として帰ってきたのだ。だと言うのにニュースには全く乗らないし、あったとしても、行方不明になっていた生徒たち無事帰還!くらいだった。
「うーん、どうしてだろね?」
「さあな。俺らにはわからんことがあったんだろ」
なぜ、こんなにもニュースにならないのか。権力者が圧をかけたのかなんなのか知らないが、分からないものは分からない。八幡は別に気にもならないのでよく考えていなかった。
「ご馳走様。さて、食後のマッ缶だ」
千葉の魂の飲み物、ソウルドリンクことマッ缶を求めて冷蔵庫を開くと中にあるのはカルピスにコーラにお酒……。
「マッ缶がない!!」
なんとマッ缶がなかった。
「お兄ちゃん、今日の朝飲んだのが最後だったじゃん」
軽く絶望していると、小町からそんな一言。そういばそうだったと思い出し、今日のマッ缶は諦めるか?と思考する。
「よし、買いに行くか」
「なら小町プリンが食べたい」
「サラッと要求してくんな」
八幡は財布を持ち、マッ缶とプリンを買うために家を出たのだった。
「……プリンが食べたい」
夜の南雲家、ユエの一言で場の空気が凍りついた。家にはユエ、シア、レミア、ミュウ、ティオだけ。ハジメと両親は仕事にかりでている。
「たしかに食べたくなってきましたね」
「ミュウもなの!」
「でも、冷蔵庫にはいってないですよ?」
「確か、コンビニに売ってあったはずじゃな」
サッと、ミュウを除き4人の視線が重なる。
「「「「ジャンケン……ポン!」」」」
「……ま、負けた……」
「やりました〜!」
「あらあら、勝っちゃいました」
「ユエの負けじゃの」
「「「ということで、行ってらっしゃい」」」
「ユエお姉ちゃん、行ってらっしゃいなの!」
南雲家は今日も平和だった。
「……あそこでグーを出さなければっ」
負けてしまったため、仕方なくコンビニに向かうユエ。ここから近くのコンビニに行って見たが売り切れ。そこから近くのコンビニも売り切れ。なんと南雲家のある町のコンビニは全て売り切れていた。
「……プリン、なんでないの」
仕方なく、隣町のコンビニに向かったユエは夜の散歩を楽しみながらプリンを探し続けた。
「さて、マッ缶とプリンも買ったし帰るか」
ユエは夜の町に目立つコンビニを見つけ、中に入ろうとした時に懐かしい声を聴いた。
300年前、自分と親しかった彼の声。自分に幸せをくれた声。自分を辛い顔をして閉じ込めた声。幸せになれと言ってくれた声。たった1人の腹違いの弟の声。姉様姉様と後ろを着いてきて、一緒に笑いあった声。
昔の彼の記憶と声がわっと蘇り、懐かしさに愛おしさを込めて……
ユエは名前を呼んだ。
「……エイト!」
「あぁ?……………………姉、様?」
「……エイト、なの?本当にエイト?なんで、ハジメの故郷に……生きて……!」
死んだはずの弟との再会。髪の色も目の色も違う。でも、彼は姉様と呼んだ。正真正銘エイトであると、ユエは直感した。
300年ぶりの再会に涙目になるユエ。なんでハジメの故郷である地球にいるのかや、どうしてあの時に守ろうとしてくれたことに対する感謝を言いたかったりとたくさんの感情が湧き出てくる。
「いえ、人違いです。では」
「……へ?」
まさかの返事に涙も引っ込んでしまうユエ。
「……まって、そんなこと言わないで。さっき姉様って言った」
「いや、聞き間違いです。あれだよアレ……そう、千葉の方言でちっこいって意味だ。うん」
どうやら彼もパニクっているようで、トータスで愛子と再会した時と同じような事を言っている。
「……そのネタはハジメが先生と再会した時にもう使ってる」
「いや誰だよハジメって……」
「……私は誤魔化せない。小さい時もそうだったでしょ?」
「……はぁ、久しぶりだな。アレーティア」
観念したのか彼、エイトはようやくユエと顔をハッキリと合わせたのだった。
「ほれ、アレーティア」
場所を変え近くの公園。ユエにエイトは黄色い缶を手渡して横に座った。
「……ありがとう。それと、私の名前はユエ。ハジメがつけてくれた大切な名前なの」
「ハジメってのは知らんけど、いい名前だな。確か、中国語で月を意味するんだっけ?髪と目を見てると本当にピッタリな名前だな」
「……ハジメも髪と目が月みたいだからってつけてくれた。エイトはこの世界に詳しい?」
「まぁな、死んだと思ったらこの世界に転生してたからな。それと、俺の名前はエイトじゃなくて八幡だ。比企谷八幡」
「……八幡、八幡」
頭の中に刻むように数回八幡の名を呼ぶユエ。八幡はそんなユエを見て頬が緩む。
「まさか、ユエに会えるとはな……」
「……私も驚いた。あと、前みたいに姉様って呼んで」
「むり、恥ずかしい」
「……ふふっ、可愛い」
久々の前世での兄弟の会話に八幡は胸に空いた穴が埋まっていくのを感じる。
「俺には、ユエに会う資格なんてないと思ってたんだけどな」
「……そんなことはない。八幡は私の大切な弟。……あのとき、私を守ろうとしてくれてありがとう」
「……お礼なんて、されても。俺の、俺と叔父様のした事はっ!」
許されるはずがない。そう言おうとした八幡をユエは優しく抱きしめた。
「……許す。八幡と叔父様のしたことは私のためだった。それなのに恨むなんて出来ない。私のために頑張ってくれたのに資格がないなんて言わないで」
「でも、でもっ!」
「……八幡は、昔から自己犠牲したり、独りで抱え込みすぎる。それに自分に厳しい」
八幡の頭を撫でるてが優しく暖かい。ゆっくりと優しく、何十年も感じていなかったあの気持ちよさが蘇ってくる。
「……だから、その分。私が甘やかす。嫌だと言っても、やる。八幡は私の大切なたった1人の弟なんだから」
星が煌めく夏の夜空。公園には泣く少年とそれを優しく抱きしめる少女の姿があった。
面白かったら感想!
今後の展開は……お楽しみ!