やはり俺が吸血姫の弟だったのは間違っていない。 作:東雲 那音
なかなかインスピレーションがわかなくて、というか、ハジメがどういう反応をするのかが全く想像つかなくてずっと悩んでいたんですよ。それでウジウジしてる間に日にちがこんなに過ぎてしまいました。
それじゃあ本編へどぞ
「いやぁ〜思ったよりも時間かかりましたねぇ〜」
「レジが混んでたんだから仕方ないわよ」
太陽も沈み、既にあたりは暗くなった帰り道。街灯が道を照らしすなか、雫とシアはスーパーから出て帰路についていた。
手にはお使いで頼まれた物入ったレジ袋やエコバックなどは無く、あるのはアイスキャンデー。二人は美味しそうにそれを食べながら歩いていた。全て“宝物庫”にしまってあるので手ぶらで帰ることができるのだ。人目は?そんなの認識阻害のアーテイファクトでどうとでもなる。
帰り道、来た道を辿って帰る二人が、曲がり角を曲がる。すると目に入る人物。
「あと、あと少しで……っ!と、トイレにぃぃぃ!」
そう、下剤を飲まされた茶髪の女の子である!
脚は内股でキュッ!体は前屈みで目は真っ直ぐに!なんと、未だにトイレを我慢続け、進んでいた。
まるでカタツムリの如く少しづつ進む姿は、必死さを通り越して、もはや不屈の精神を感じさせる。なんという根性か。社会的死を根性一つで耐えていた。
「……」
「……雫さん」
「はぁ〜。仕方ないわね」
見るに見かねて助け舟を出す雫とシア。シュッと、宝物庫から細い針のようなものを取り出して狙いを定めて茶髪の女の子につけてソイッ!
「痛っ!」
針は首元に突き刺さり、スっと消えた。
「あれ、お腹が痛くない?やった!治った!よっしァァァァ!」
雫が打ち込んだのはハジメ特性の解毒薬で即効性があり大抵の毒には効くものだ。それを打ち込まれた茶髪の女の子は腹痛が治り大喜び。嬉しさのあまりどこかに走り去っていった。去り際のテンションがおかしかったのは気の所為である。
「さて、早く帰りましょ」
「はいですぅ!」
二人はたわいない話をしながら再び帰路につく。
▲▼▲▼
雫達が買い出しに行って十分ほど、八幡は愁と菫にこってりと絞られていた。前世を根掘り葉掘り聞き出され、八幡のライフは既にレッドゾーンへと減らされている!
「「ただいま」」
「ただいまなの!」
と、ここで玄関から二人の男女と元気な幼女の声が聞こえた。そして、それは一瞬。いや、刹那に起こった。
「うぉっ!」
八幡は衝撃波と共に何故か吹き飛ばされた!
「「「「おかえりなさい。あ・な・た♡」」」」
「……私にする?」
「それとも妾かえ?」
「ここは私だよね?」
「ユエ一択で」
「なぜじゃぁ!」
「そんなぁ〜!」
「……ふっ。出直してこい。バカオリ」
「ユエは戦争がお望みかな?かな?だったら戦争しようか!」
飛ばされた八幡など目にもくれず、玄関でギャーギャー騒ぐ四人。八幡、哀れである。飛ばされた本人は何が起きたか理解出来ずに目をぱちくり。そして、状況を推理していく。
八幡が飛ばされた理由はその場にいたユエ、香織、ティオが消えたと錯覚するほどの高速移動でその場から去ったのだ。戦いから十数年も退いていたこと、あえてステータスや魔法、技能を封印、または低下させていたことありその動きをギリギリ捉えることこができた八幡。驚愕すると共に、え?動きパなくね?こいつら人間かよ。あ、ユエとティオは違うか。え?じゃあ香織は?人間やめたの?と困惑していた。
八幡は気づいていなかったが三人玄関に着くまでにはとてつもない戦いが起こっていたのだ。それを今説明しよう。
ユエは少女モードからアダルトユエさんへ、そして香織は使徒モードに、ティオは竜人族の竜化の応用で身体能力を爆上げしていた。
先に動いたユエである。ユエの得意は魔法だ。しかし、ここで空間魔法を使う悪手である。空間魔法で落ちるのは確かに速い。だが、それはある程度の距離があった時だ。この家で玄関までは五メートル程、魔法を素早く発動させるのは簡単だ。しかし、香織とシア、ティオには意味が無い。魔法を使う時間に先にハジメのもとにたどり着いてしまう。かと言って身体強化をしても、元々のスペック差で負けてしまう。
なら、やることは一つ。
「ふぎゃっ!」
「あべしっ!」
「そい!」
妨害である。
ティオ、香織に重力魔法で重力を重くした。だが、これで止まる三人ではない。香織にいたっては予測して避けている。
「ぬおぉぉ!」
「ふふんっ!ユエの考えてることなんてお見通しなんだかふべっ!」
ティオは身体能力をもっと爆上げする。そして何故か香織にはタライが落ちてくる!踏み込みで床が壊れないように手加減をしてまた走り出すが衝撃波だけは発生してしまい、八幡を吹き飛ばしてしまった。先に駆け出したユエを追い越そうとスピードをあげた。が……
「ふべら!」
「くぼっ!」
「痛っ!へぶっ!」
何もないのに何かにぶつかった。そう、ユエの仕業である。重力魔法など乗り越えると確信していたユエは空間魔法を空間をずらして固定したのだ。そしてまたもや香織にタライが落ちてくる!これでは前に進めない。だが、ここでティオが動いた!
ティオはハジメに貰った小太刀を懐からだし、香織は大双剣で空間を切り裂く!それと共にまた衝撃波が生まれた八幡を襲う!
壁を乗り越えた先でユエは玄関間際にきていた。ユエに一人勝ちさせるものか!と駆け出し、スザザーっ!と音ともに止まる。どうやら四人同時に到着したようだ。この結果は引き分けとなった。
「……で、なにか申し開きはある?」
「「「「何もありません……」」」」
そして今、三人は八幡に怒られていた。仁王立ちの八幡の前で四人は絶賛正座中である。
「ゆ、ユエが妨害してきたのが悪いと思うな?」
「あ”?」
「な、なんでもないです……」
もうヤクザが出すようなドスの効いた声に香織は冷や汗をかく。八幡は怒っていた。それはもうとても。大きなダメージはなかったが、いきなり吹き飛ばされたのだ。怒るのは当たり前だろう。
「ったく。人をいきなり吹き飛ばすやつがあるか。次から気をつけろよ」
「「「「はい……」」」」
はぁ、とため息をして怒気をおさめる。それにより緊迫感触がとけて脱力し始める四人。
「で、ユエ。この人がハジメか?」
「……ん」
「あ?お前、よく見たら比企谷じゃねぇか」
「え?なんでも俺の事知ってんの?ユエ教えた?」
「……教えてない。ハジメ、知り合い?」
「知り合いというか、同じ趣味を持つ者同士って感じだな」
「いやいや。俺、あんたの事知らないんだけど……」
何故か八幡の事を知っているハジメ。会ったことあったっけ?と頭をフル回転させて思い出そうとするも、こんなイケメン知らねぇなぁと全く出てこない。
「あぁ、そういや見た目が変わってるから分からないよな。母さん、昔の俺の写真ある?」
「あるわよ。……これね」
菫が自分のスマホを素早く操作して画像を見せてくる。そこに写っているのは黒髪に優しそうな見た目でお姉さんタイプに好かれそうな男。
「ん?南雲さんだ。去年、アキバで会った人だな。……………………………………ん?別人じゃね?」
「いや、それ、俺」
いやおかしい。それはおかしいを通り越してありえないだ。写真に写るこの優しそうな男と目の前の目付きが少し悪いイケメンが同一人物だと、誰が思おうか。一年でこんなに変わるとか何があったのだと戦慄する。
「は?……いやいやいやいやいやいやいやいや。南雲さんはこんなに身長高くなかったし、喋り方は優しかったし、一人称は僕だったぞ。間違ってもお前じゃないだろ」
「正真正銘、俺が南雲ハジメだ。ほら、ラスト一個の同人誌を譲り合って結局俺が買わせてもらったし、お礼として飯を奢っただろ?」
「ああ、あったなそんな事、って、え?マジで南雲さん?」
「だからそうだって」
「変わりすぎだろぉぉ!!!!」
八幡の絶叫が南雲家に響き渡る。叫びたくなるほど変わってしまった男は耳を塞ぎ、うるせぇなぁと薄い反応するし訳分からんと八幡は混乱する。
「気はすんだか?」
「まだ叫び足りないけど、まぁ、何とか」
「そうか。というか、なんで比企谷がいるんだ?」
「……私が連れてきた。大切な話があるから」
「大切な話?」
そこから、本題に入ることが出来たユエは八幡との関係を説明し始めた。シア達はディスティニーランドで大まかに聞いているが詳細までは語っていなかった。ユエは自分の生まれから八幡との関係。全てを包み隠さずに話したのだ。
「そうか」
話を聞き沈黙する空気の中、ハジメがそう呟く。
「ユエから弟がいることは前に聞いていたが、まさか比企谷だったとはな。で、比企谷……いや、八幡。お前はユエを封印したことを後悔しているのか?」
真剣な眼差しと声で問わせる。ハジメからは答えなければどうなるか分かるだろ?的なプレッシャーが浴びせられ、思わず息が詰まってしまう。
「俺は……、今まで姉貴を封印したことを後悔してた。必要な事だと分かっていても、家族にそんな最低な事をする罪悪感で押しつぶされそうになったし、早く地上に出せるように頑張ろうと思った」
実の姉を封印すると言う悪行。その事の罪悪感で、何回も思い悩んだことか。八幡は今まで生きてきてそれが消えた事など1度もない。
「でも、結局は出来なくて、死んでしまったんだ。それで転生して、もう関係ない、この世界に姉貴はいない、終わってしまったものは仕方ないんだって、忘れて生きようって思った」
死んでしまい、体をエヒトに取られないように魂魄ごと消滅させたと思っもたら地球にいた。もう、どうしようもなく、別人になり関係ないと思っていた。
「だけどさ、忘れられなかったんだ。
自分で壊してしまった幸福が苦痛となりのしかかる。この苦しみは心の奥底に刻まれ、一生残り続けた。
「姉様を封印して解放もせず、のうのうと生きれる訳がなかったんだ。俺は転生してもずっと後悔してきたよ。でもさ、この地球で姉様と再会できて、思ったんだ」
あの日、あの公園でユエに抱きしめられ、思った事。それは今までの後悔を崩してしまうほどに嬉しかった。
「あぁ、俺と叔父様のした事は姉様の人生を全部不幸にした訳じゃないんだって。最愛の人に出会えて、今、笑って過ごせている。それが分かっただけで少しは気持ちが軽くなったんだ」
八幡はまっすぐにハジメを覚悟の決まっている顔で見る。その表情には揺るがない意思がある。
「それでも、三百年ユエを不幸にしたことは変わりない。これから三百年分、姉様に幸せになれるよう頑張ろうって思ったんだよ。だから今は後悔なんて、してられない。姉様を幸せにするのに忙しいのに後悔なんてする暇はないんだから」
八幡のこれまで抱えてきた苦悩。それはまるで呪いのようで心を雁字搦めに締め付けていた。だが、それを払い除けるように、前に進もうとしていたのだ。
「後悔はしてるけど、それをする暇がないくらい今を生きる、か。お前、大したやつだな」
ハジメは二カッと笑い、八幡に手を差し出す。
「よろしくな、八幡。お前は今日から俺の義弟だ」
「あぁ。よろしく、お義兄様!」
その手を八幡はとったのだった。