実は、小説家になろうというサイトで書かれている物語に、欧我君が出ています。
その作品の名前は「東方鋼鉄雲 ~The Impregnable Fortress In The Air~」で、作者様は「影のビツケンヌ」さんです。
今から書くこの物語は、その
幻想郷を壊滅の危機から救ったことで『英雄』と呼ばれるようになった2人は、互いにそれぞれの道を歩み始める。
正義の道をひたすらに突き進む親友の心を、写真屋は理解できるのだろうか…。
互いに交錯する物語をお楽しみください。
※この物語の小櫃さん視点は「東方無限者×幻想郷文写帳=東方共作録」で読むことができます。
そちらの方もよろしくお願いします。
「…これでよしっと。」
入念にカメラのチェックを行い、異常がないことを確認すると丁寧に首から提げる。
愛用の帽子をかぶり、ゴーグルを目にあてがう。これで準備は万端だ。
よしっ!と気合を入れているところに、後ろから誰かの気配が近づいてきた。
今、文は上からの呼び出しを受けて家を出ているので、この人物…いや妖怪の正体は自ずと絞られる。
この家で一緒に暮らしている、驚かせるのが大好きな妖怪と言えば…そう、あいつだ。
「うらめしや~…あれ?」
驚かされるタイミングを見計らい、文の能力を投影させてその妖怪の背後へ回り込んだ。
案の定、俺の姿が一瞬で消えたことに戸惑っている。今がチャンス。
「わっ!!」
「きゃあああっ!!!」
突然発した大声に不意を突かれ、その妖怪は悲鳴を上げながら飛びあがった。
「えへへ。驚いた?小傘。」
「もぉー、私を驚かさないでよー。」
頬をぷくっと膨らませ、涙目で俺の顔を見上げる。
…ちょっとやりすぎたかな?
でも、いつも驚かされっぱなしは嫌だからたまには小傘にも驚いてもらわないと。
…それよりもそろそろ出発しないと約束の時間に間に合わなくなっちゃう。
「じゃあ、仕事に行ってくる。留守をお願いね。」
「はーい!」
元気に返事を返してくれた助手に笑顔で笑いかけ、青空の中へと飛びあがった。
今から目指す場所は、人間の里の近くに新しく建てられた道場だ。人間の里の南西部に、日当たりのいい空き地に挟まれる形で鎮座するその道場は、あの事件をきっかけに親友になった
そう言えば、文の話によれば天狗達を束ねる頭領・天魔さんから、事前にアポイントを取れば山の一画を借用することのできる権利を与えられたそうだ。
俺が小櫃さんに会うのは事件以来、つまり2カ月ぶりだ。
初めて出会ったのが、2か月前の“幻想郷拡張計画”が起こった時だ。この異変を2人で解決した結果、俺達は『幻想郷を救った英雄』という非常に有難い名を冠された。その結果家に舞い込んでくる写真撮影の依頼が4割増、文からの愛が5割増だ。
…おっと、いけないいけない。コホン。
そんなことを考えていたら、目的の場所が見えてきた。
道場は周りを木製の塀が取り囲み、門のところには仰々しい文字で『実践型無差別格闘術:無限流』と書かれた看板が掲げられている。
門の前に着地し、目の位置にあてがったゴーグルを外した。
親友との2カ月ぶりの再会に躍る心を押さえながら、門をくぐった。
「……体の弱い者の心が強くとも頼りがいがない。強さの基盤とは即ちそういうことだ。」
道場に近づくにつれ、中から小櫃さんの声が聞こえてきた。どうやら生徒を前に話をしているようだ。それ以外の声が聞こえないところから考えると、真剣に耳を傾けているようだね。
「それでは、まずお前達の基礎的戦闘能力を見る。二人一組でペアを作って並び、各自格闘戦を開始しろ。妖怪勢は弾幕と能力の使用は一切禁ずる。エナジーディスチャージャーの装着も忘れるな。」
小櫃さんの指示に、生徒は元気のいい返事で答える。
どうやら生徒は人間だけではなく、妖怪も交じっているようだ。チルノちゃんやリグルちゃん、ルーミアちゃんの姿も見受けられる。
それぞれがペアを組み、思い思いの格闘技で腕を競いあっている。小櫃さんの言葉の中にあったエナジーディスチャージャーというのは、妖怪の手足に付けられたリング状の物のことだろう。そう言えば、パチュリーさんが小櫃さんから妖怪の力を収めるための物の作成を依頼されたという話を聞いたことがある。どうやらこのリングがそうだろう。
生徒たちの行う格闘戦を見学していて、一本背負いやラリアットが見事に決まるたびに目を見開き、その素晴らしさに心を奪われる。そんな中、「こらそこ!絞め技は実用性がないから禁止だと言ったはずだ!」といった怒号が聞こえたと思うと、小櫃さんの愛銃であるアームキャノンが火を噴き、バイオバレットの一撃が一人の少年に叩き込まれた。「あだっ?!」という悲鳴に近い声を上げ、少年は額を押さえる。どうやら、威力はそれほど高くないようだ。
「…責任重大だな。」
息を吐き、独り言のように呟く親友を見て、なんとかして励まそうと口を開いた。
「小櫃さんなら、できますよ。」
「ようやく来たか。そう言ってくれるのはありがたいが。」
しかし、小櫃さんはこちらに振り返ることなくそう応えただけだった。
何というか、2か月前とちっとも変わっていないようで安心したよ。
「少し見学していました。どんな風に授業を行なっているのか知りたくて。」
小櫃さんは小さくうなずくと、格闘を繰り広げている生徒全員に聞こえるくらいの声で指示を出した。
「…総員止まれ。写真屋が来た。連絡した通り撮影を行なうから、西側の壁に沿って一列に並べ。」
その指示に従い、生徒は素早く行動を起こしあっという間に整列を完了する。
今日の仕事内容であり、ここに来た目的は生徒名簿に貼る証明写真を撮るためだ。
小櫃さんは道場の中央にパイプ椅子を設置すると、俺に告げた。
「少し厠に行く。席を外している間、子供達を頼むぞ。」
ええ、お任せください!
その気持ちを込め、しっかりと頷いて見せる。
それに安心したのか、それとも我慢できなかったのか、小櫃さんは便所に向かって歩き出した。
さあ、仕事の時間だ。
三脚を立て、カメラをセット。そしてにとりさんに作ってもらったばかりのフラッシュを焚く装置を設置する。…準備はばっちりかな。
「では、一人ずつ椅子に座ってください。」
「はい!」
元気のいい返事とともに、一番前に並んでいた人間の男の子が椅子に腰を下ろす。そして、太陽も顔負けのまぶしい笑顔を浮かべた。
どうやら、俺が笑顔好きなことを知っていたようだ。だから、俺に満面の笑みを見せてくれたのだろう。
でも、これは証明写真だ。
普段の表情…というか、真顔じゃないといけないだろう。
「可愛い笑顔をありがとう。でも、今はカッコいい表情の方が見たいな。目を開けて、口元を結んで。…いいね!行くよ!」
生徒を誘導し、真顔に近づける。そしてバッチリな表情を浮かべると、カメラのシャッターを切った。
笑顔フェチは、この仕事中は封印しよう。
「よしオッケー!みんな、お疲れ様!」
無事に生徒全員の写真を撮ることができた。みんなカッコいい顔をしてくれたが、やはり笑顔の方が一番だ。友達と話し合い、笑いあう笑顔はどれも輝いている。
生徒たちに、撮影が終わったことを小櫃さんに知らせに行くと伝え、小櫃さんが歩いて行った方に向かった。
小櫃さんが大部屋を出て行ってから22分。おそらくトイレにはいなさそうだから、事務室の方だろうか。事務室の前に立つと、中から家具のきしむ音が聞こえてきた。どうやらここにいるようだ。
「小櫃さん、撮影が終わりました。」
ドアをノックし、中に声をかける。すると、そのすぐ後に「了解した。すぐに向かう。」という声が聞こえた。
そしてドアが開き、中から小櫃さんが出てきた。
「明日には現像できていると思います。」
「わかった。料金とチップだ、受け取れ。」
そう言うと、写真撮影の料金とは別にポケットから1000円を取り出して渡してきた。
「いいんですか?」
「無論だ。色々と世話になったからな。その金で、自分の彼女に何か買ってやればいい。」
俺の問いに、小櫃さんは笑顔で答えてくれた。
では、お言葉に甘えて遠慮なく使わせていただきます。
「ありがとうございます!何がいいかなぁ…。」
文は甘い物に目が無いから、里で有名な甘味屋の団子とかはどうだろう。
でも、団子だけじゃつまらないし、食べてしまったらその時点で終わってしまう。もっと、後世にまで残る形のあるものがいいかな?たとえば何がいいのだろう…。
隣で呆れ返る小櫃さんを尻目に、道場の大部屋へ続く廊下を歩く。
すると、いきなり小櫃さんが立ち止った。
「噂をすれば影が差したな。欧我、少し事務室で休むと良い。奥の冷蔵庫でチルノのお手製アイスキャンディーが冷えているぞ。」
小櫃さんの言葉の真意を理解することができなかったが、どうやら何かがあったようだ。
この状態の時に何を言っても効果はなさそうだし、素直に従う方が良いだろう。
それに、写真撮影に熱中しちゃって疲れている。そして今は残暑厳しい9月。じりじりと照りつける太陽が暑くて汗が出る。
じゃあ、せっかくだし頂こうかな。
小櫃さんと別れ、事務室のドアを開けた。
部屋の中には古い机やロッキングチェア、そして何に使うのかわからない大きな機械が置かれ、どこか統一感に欠けている。でもまあ、そんな部屋もいいだろう。奥の冷蔵庫は…と。
「ん?」
机の引き出しが半開きになっていて、その隙間から中にある資料が顔をのぞかせる。
本当は見てはいけないのだろうが、俺は心にふつふつと湧いてくる好奇心を抑えきれなかった。
引き出しを開け、中の資料を取り出した。
その資料を目にした直後、あまりの衝撃に目を見開いた。
この資料は、全てある一人の妖怪についてまとめたものだ。
その妖怪の名は「
しかし…小櫃さんの正邪に対する評価は最悪なものだった。
正邪を諸悪の権現とみなし、彼女を抹殺しこの世から存在を消すことが使命だと考えている。
その他にも正邪に対して露骨に嫌悪感を抱いており、資料の中の文章からそれを読み取ることができる。
まさか、小櫃さんがこんなものを書いていたなんて…。
言葉にできないような恐怖に襲われ、身体がぶるぶると小刻みに震えだす。9月なのに寒気がする。
資料から目を離したかったが、恐怖によって体が思うように動かない。
指の力が抜け、右手に握っていた資料を残してその他の資料が床に落ちる。
握りしめる資料の表紙には、小櫃さんの直筆であろう筆跡で 『鬼人正邪抹殺計画:プロジェクトジャッジメンツ』と書かれている。
「欧我…」
そんな中、事務室のドアが開いて小櫃さんが入ってきた。
そして、床に散乱した資料とぶるぶると震えている俺を見て動きを止めた。
俺は、小櫃さんの…親友の顔を見ることができなかった。