東方共作録   作:戌眞呂☆

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影のビツケンヌ様とのコラボ part.4

 

小櫃さんを背負い、まっすぐ空を飛んで行く。何かあった時のためにと鞄の中に常備していた救急道具を用いて最低限の手当てを行ったが、医学知識を持ち合わせていない俺には絆創膏を貼りつける程度しかできなかった。それよりも…

 

 

「うっ!!」

 

 

俺の方が重症なのかもな。

ちょっと動いただけで脇腹にズキッという激痛が走る。脇腹にアームキャノンの一撃を食らっただけではなく、膝蹴りで上空に打ち上げられ、その後地面に叩き落とされた。絶対にどこかで内出血を起こしている。普通なら痛みで動けなくなるほどの重傷を負っていることは、医学の知識を持ち合わせていなくても分かる。

 

でも、今は気を失っているわけにはいかない。早く小櫃さんを永遠亭に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…。」

 

 

「目が覚めましたか?」

 

 

目の前が霞んでよく見えない。

よく見えないが、優しい笑顔で俺を覗き込む髪の長い少女。その少女の頭に生えたよれよれのウサ耳を見て、俺は今どこにいるのかを理解できた。

どうやら、永遠亭にたどり着いたようだ。

…でも、どうして?途中から記憶が途切れている。それに、いつの間に体に包帯が巻かれている。痛みも感じない。どうやら気を失っている間に手当てをしてくれたようだ。

 

 

「それにしても、永遠亭の前で小櫃を背負ったまま倒れている貴方を見た時は驚きましたよ。一体何があったのですか?」

 

 

鈴仙さんの発言を聞いて、謎が解明されたような気がした。

気力で飛び続け、永遠亭の前で力尽きたというわけか。人間の精神力はものすごいな。

 

 

「ああ、実はね…。」

 

 

今まであったことを鈴仙さんに離した。

小櫃さんが正邪を抹殺しようとしていたこと、それを止めるために戦ったこと、そして勝負の結果小櫃さんが意識を失ったこと…。

俺の話を聞いて、鈴仙さんは驚愕の表情を浮かべる。確かに驚くのも無理はない。

 

それよりも小櫃さんは無事なのだろうか?

 

 

「鈴仙さん、小櫃さんは大丈夫ですか?」

 

 

「はい。未だに気を失ったままでいますが、それ以外に異常は見られませんでした。」

 

 

「そうですか、よかった…。あの、小櫃さんのいる部屋に案内してくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小櫃さんは布団に包まれたまま目を閉じていた。枕元に腰を下ろし、じっと目が覚めるのを待つ。小櫃さんの顔を見つめながら、先ほど全力でぶつかり合った戦いを思い返していた。正邪さんを抹殺することに執着する小櫃さんを止めるために戦い、意識を奪うことで何とか止めることができた。

 

…でも、その戦いの中で、妙に強く心に響いた言葉がある。

 

「齢6で人を殺した!俺にその言葉を言うか!!」

 

小櫃さんは俺のイマジネーションをフル回転させてもイメージできないような、つらく苦しい経験をしてきたのだろう。幻想の地でのほほんと暮らしている一介の写真屋には絶対に理解できないような、壮絶な人生を歩んできた。そう考えてみると、小櫃さんはとても強い。

 

 

「小櫃!!」

 

 

鈴仙さんの驚きと喜びに満ちた声が、俺を一人だけの世界から呼び戻した。

見ると、小櫃さんが目を覚ましたようだ。鈴仙さんは感極まったのか飛びついてしっかりと抱きしめた。

 

 

「…鈴仙。」

 

 

「バカッ!心配させないで!」

 

 

鈴仙さんは小櫃さんが目を覚ましたことがよほど嬉しかったのか、顔面に自分の大きな胸をぎゅうぎゅうと押し付けていることに気づいていない。

…もし気を失ったのが俺だったら、文は同じことをするのだろうか。

…別に羨ましいというわけではないぞ。

 

「…あまり締め付けると、今度こそ窒息死するぞ」という小櫃さんの声に驚いて、慌てて離れて俺の隣に正座する鈴仙さん。

若干顔が赤く染まっているけど、まあ気にしないでおこう。

小櫃さんは今までの事を思い返し、「…負けた、か。」という声を漏らした。悲しみに覆われた彼の声を聞いて、俺は何度目かの質問をした。どうして彼が正邪抹殺に…いや、正義を貫くことに拘るのか。その理由が知りたかったからだ。

 

 

「小櫃さん…どうしてそんなに彼女の抹殺に拘るんですか?」

 

 

俺の質問を聞き、小櫃さんは口を開いた。

6歳の時に経験した、哀しくも壮絶な出来事を…

 

 

11年前の夏、無論俺のいた2129年から11年前という意味だが、俺はまだ日本の埼玉は八潮に住んでいた。

当時5歳だった俺が、一人で近所の公園から帰ってきた時に、その惨劇が始まった。

帰宅した俺を待ち受けていたのは、家族の死体と無数の血溜まり。そして、血の滴る包丁を持った男だった。その男のバイオエナジーの流動から感じたのは、俺のようなインフィニタスに対する嫌悪と悪意。俺を殺すつもりはなかったらしく、網戸を破って去って行った。

俺は、肺結核で親を失った親友と一緒に孤児院に入り、1年後、同じ里親に引き取られることになった。親友は大層喜んでいたが、その男は、俺の家族を全滅させた張本人だった。一人でテレビを見ている親友を、男は背後から拳銃で射殺しようとした。

自分の家族を殺されたことについては、数ヶ月程度で整理がつき、何とも思っていなかった。だが、男の目的が、俺の周りの人間を次々殺して苦しめることだと分かって、俺は激しい怒りを覚えた。俺を苦しめることにではない。さらに多くの人間を殺すつもりでいることに、である。

俺が間に割り込んだところで、男は構わず親友を殺すだろう。親友を連れて遠い交番まで逃げられる程の体力はない。男を気絶させるだけの技術もない。

「男を殺すしかない。」俺はそう判断した。

初めて人の命に手をかけるのだ。その時はさすがに緊張し躊躇した。だが殺らねば親友が殺られる。俺は意を決し、男を蹴り倒して、パン切り包丁で喉を掻き裂いた。

一度殺してしまえば、後は為すべきことを為した得意と、親友を、そして今後殺される可能性のあった人々を守れた安堵が残るばかりだ。しかし親友は、およそ次のような趣旨のことを言った。

「許されると思っているのか。お前は人を殺したんだぞ」

その言葉は、俺の心に深々と突き刺さった。

親友は家を飛び出した。男がインフィニタスを差別していたということをニュースで知ったのは、警察に捕まり孤児院に逆戻りした後だった。

 

その後の説明は、2ヶ月前に紅魔館のベランダで小櫃さんから聞いたことと同じだった。ただ、「親友と再会し撚りを戻した後も、あの時の彼の言葉が俺を苦しめ続けた」と語った時の小櫃の顔を覆う悲痛な表情を忘れることはできないだろう。

 

小櫃さんがバウンティハンターとなった理由は、単に悪を許せなかっただけではなかった。自己の正義を実現にさせることによって、あの時その男を殺すという選択が最良で、かつ正しい行為であったと証明したい。その気持ちが最大の理由だったのだ。

今回の正邪抹殺も、自分の正義を証明するための行動だった。鬼人正邪の天邪鬼という種族、過去の行ない、性格…。それらは彼女を人類の不倶戴天の敵と位置づけし、自己の正義が絶対であると誇示できる、まさに格好の材料だった。

 

 

「鈴仙、欧我…俺は…あの時の俺の判断は、間違っていたのか?どうすれば良かった?あれ以外にどうやって彼を救えた?何が正義なんだ?何故悪を滅ぼして悪と見なされなければならない?」

 

 

歯を食いしばり、ドンと畳に拳を打ち付けて肩を震わせる。そんな小櫃さんを見て、俺は言葉を失った。

 

 

 

「話は聞かせて頂きました。」

 

 

その時、突然部屋の障子が開き、部屋の中に緑髪の女が入ってきた。

 

 

「貴方が、四島小櫃ですね」

 

 

この人は確か…

 

 

「四季、映姫…。」

 

 

 

 

そうそう、四季映姫さん…って!?

この人は幻想郷の者を裁く閻魔じゃないか!!

彼岸にいるはずの閻魔様がどうしてここに!?

 

 

「知っているのなら話は早い。今回の件を境界の妖怪から相談されたのです。貴方の迷いを断ち、白黒はっきりつけて欲しいと。」

 

 

「…紫から?」

 

 

そっか、紫さんに頼まれてきたんだ。

たしかに『白黒はっきりつける程度の能力』を持つ映姫さんなら、小櫃さんの心の影を断ち切ってくれるかもしれない。

 

それにしても、閻魔が目の前にいるというのは緊張する。

彼女から発せられるオーラみたいなものに圧倒されたのか、自然と背筋が伸びてしまう。

 

 

「今回、貴方が正邪を抹殺しようとした件については、誰の目から見ても黒…貴方が賞金稼ぎになった動機についても、ある意味では黒です。」

 

 

映姫さんの言葉に静かに耳を傾けていた小櫃さんの目に怒りが燃え上がったことが目に留まった。何かを言いたそうに映姫さんを睨んでいるが、それを必死に抑え込んでいる。

 

 

「そう、貴方は融通が利かな過ぎる。正義の名の下、傍若無人に自分のエゴを押し通しているだけ。貴方は心のどこかで、この世を自分の管理する盆栽か何かのように考えているのです。気に入らない部分を無理に矯正し、或いは切り捨て、最良の部分だけを残そうとする。貴方が作ろうとしていたのは、悪意を持って行動する者が不自然に切り取られただけの歪な世界です。」

 

 

そう言うと映姫さんはふぅっと息を吐いた。

小櫃さんは怒りの眼差しで睨んだまま全く動かない。

 

 

「…ですが、あえて言いましょう。貴方が齢6で人を殺したことについては、」

 

 

辺りが沈黙に包まれる。緊張がピークに達し、思わず唾を飲み込む。

 

 

「――白であると」

 

 

白…?と言う事は…!

 

 

「貴方は親友を、そして殺されるかも知れなかった多くの人の命を救う為、自分にできる事をした。ただそれだけです。その時の貴方の心は決してエゴなどではない、純粋で高潔な正義感。貴方が心を入れ替えて、当時と同じような志を持って正義を振るったならば、貴方の死後の安寧は盤石なものとなるでしょう。」

 

 

そう、映姫さんは小櫃さんの行動を肯定したのだ。

もしあの時男を殺さなかったら、親友はおろか多くの人々が殺されていた。

その男を殺すことは、小櫃さんが取れる最良の行動だったのかもしれない。

 

 

「小櫃さん」

 

 

映姫さんの言葉によって心の闇が晴れたのか、小櫃さんは目に涙をたたえ、今にも泣きだしそうだった。

そんな彼のもとに近づき、肩にそっと手を置いた。

 

 

「貴方は強い。だから、過去に囚われるのは止めましょう。それが、死んでしまった貴方の家族への手向けとなるはずです。」

 

 

俺の言葉を聞いた途端、せきを切ったように涙が溢れだした。目に溜まった涙が氾濫を起こし、鉄砲水となって流れ出す。

 

 

「うっ、ぐぅっ、…うわぁああああああああああああああああああああ!!」

 

 

心の中に巣食う過去の傷や迷い、苦しみをすべて吐き出すように、感情に任せて泣き続ける。そんな小櫃さんを慰めるかのように、優しく背中を撫で続けた。

今日、俺は親友の苦しみを理解することができた。それを分かち合い苦しみから解放されたことで、もっと小櫃さんに近づけた…そんな気がする。

 

 

 

 

 

映姫さんが帰った後、小櫃さんは泣き疲れたのかぐっすりと眠ってしまった。

その寝顔は、全ての苦しみや悲しみから解放されたかのような安らかなものであった。

 

小櫃さんの寝顔を見て、鈴仙さんが「可愛い!」を連発していた。

その光景に苦笑いを浮かべながら、俺はカメラのシャッターを切った。

 

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