お待たせいたしました。
この話で、とうとうビツケンヌ様とのコラボが終わります。
最後までお楽しみください。
「美味い…。」
一口食べた途端小櫃さんが声を漏らした。
その表情を見れば、食べなくてもどれだけ美味しいのかが分かる。
「これが鮪…感動した…!」
「うーん、海産物なんて久し振りだ…美味しい…」
「食べる前に写真を撮っておいて正解だったわ、記事にしましょう!」
「ま、まあまあ良いんじゃない?」
今俺達は5人で人間の里の蕎麦屋に来ている。ここは小櫃さんが幻想入りして初めて外食したところであるらしい。何度も里に来たことがあるのに、こんな店があるなんて知らなかった。
しかも、蕎麦屋なのにメニューに生の海産物を使った料理があるなんて驚きだ。今5人で美味しそうに頬張っている鉄火丼がそれだ。…いや、美味しそうにじゃなくて美味しいんだ。内陸部に結界によって隔離された幻想郷には、もちろん海が無い。だから、久しぶりに食べる海の魚の味は筆舌に尽くし難い。
海が無いのに海の魚がこの店で…いや幻想郷で食べられているのかというと、紫さんが外の世界から仕入れた魚を、チルノちゃんの運営する冷凍保存業者『チルド連』が冷凍保存することによって海産物を生で食べることができるようになったのだ。ただ、人々の間では魚を生で食べることに馴染みが薄いので未だに里に浸透しきっていないけどね。
それよりも、まさかチルノちゃんが冷凍保存業者を運営していたとは…。
今度写真を撮りに行ってみようかな。
5人で楽しく鉄火丼を頬張っていると、店の主人が奥から出てきた。
「おいブン屋さん、下手に客を増やしたら需要に供給が追い付かないぜ。」
「なら今のうちに入荷量を増やしておけばいいさ。万が一客が増えずに腐らせても知らんがな。」
「何をぅ?!」
そう店主をからかってけたけたと笑っているのは、小櫃さんが抹殺しようとしていた鬼人正邪さん。小櫃さんに斬り落とされた左腕は未だに再生しきっておらず、永琳さんから処方された薬で治療を続けているらしい。早く治るといいね。
それにしても、やっぱり鮪は美味い。
しかもこの山葵と相性がいいな。鼻に来るツーンとした辛みで何とも爽快な気分を味わえる。
山葵というのは、日本を代表する最高の薬味である。辛い物が大好きな俺はそう断言できる。だから、ついつい食べ過ぎちゃうわけで…
「すみません!山葵追加してください!」
「お前まだ食うのか!?」
店主の驚きに溢れた声が聞こえた。
え?まだ4回目ですけど?
「本当に欧我さんは辛い物が好きですよね。」
「そうそう、家でもよく七味唐辛子を真っ赤に染まるまで使いますね。」
苦笑いを浮かべながら鈴仙さんと文が言った。
「欧我って、おかしな奴だな。」
「酷い!正邪さんまで?」
すごくショックなんだけど…。
だから、その俺を蔑むような眼でけたけたと笑わないでよ。
正邪さんの種族である天邪鬼は、人が嫌がることを好む性格をしている。もし天邪鬼について何も知らない人だったらすぐ怒鳴ったりするだろうが、今回の件で天邪鬼について(最低限の)知識を得た俺からしたら、さっきのセリフも蔑む眼も自分の快楽のためだと言う事を理解している。笑顔というのにはちょっと程遠いけど、この顔が正邪さんなりの笑顔だとしたらこの笑顔を護っていきたい。
それにしても、山葵遅いなぁ…。
「欧我。」
「ん?」
隣に座った文の声で、一人で思考の世界から呼び戻された。文の方を見ると、笑顔を浮かべながら箸を俺の方に差し出していた。
「はい、あーん。」
「あー…ってこれ山葵だけじゃないか!」
「お惚気は他所でやってくんな。」
「「すみません。」」
いつの間にか真後ろに大量の山葵を持って店主が立っていた。
ふう、危ない危ない。
「そういえば、道場のサバイバル訓練は明日からだったわね?」
と、鈴仙さんが思い出したかのように小櫃さんに尋ねる。
「ん、…ああ、そうだ。永琳に伝えておいてくれ。今夜は準備で忙しくて帰れそうにない。」
1人で考え事をしていたのか鈴仙さんの言葉に鈍く反応し、そして重要なことを伝えた。
なんでも、生徒を運ぶためににとりさんに製作を依頼したものを里まで移動させなくてはいけないらしい。そう説明しながら、アームキャノンに付属しているカメラで撮った動画を見せてくれた。
そこには、6本の脚であらゆる地形を走破する巨大な戦車が写っていた。
「何だっけあれ…高機動多脚戦車?運転できるんですか?」
「さあな。大抵の軽トラックとランドクルーザーなら運転経験はあるが。でもOSの進歩と操作系の簡略化でマニュアル覚えたてのペーパードライバーでも楽々運転できるようになったらしい。」
この戦車は、2か月前の幻想郷拡張計画で利用された機動兵器の技術を流用したものだ。
詳しいことは理解できなかったが、とにかくすごいらしい。
それよりも驚いたこと、それは…
「…え?17歳なのに車を運転!?」
「コーカサスで免許を取得していた。ランドクルーザーは依頼遂行中に拝借しただけだ。」
小櫃さんが車を運転できることだった。
確か外の世界では満18歳以上でないと免許をとれなかったはず。でも、小櫃さんが以前暮らしていたコーカサスというところでは、法律も変わっているだろう。その世界の人々からしたら普通の事なんだろうな。
「ふふふっ、蕎麦屋の鉄火丼に河童の新兵器にサバイバル訓練…最近の私はネタに恵まれているようです!」
そう嬉々とした表情でメモ帳にすらすらとペンを走らせながら喜びを口にする。
そのキラキラと輝く笑顔をじっと見つ…
「ひったくりよー!こら待ちなさーい!」
「誰が待つもんか〜!」
ひったくり!?
その言葉に反応して立ち上がった。
幻想郷全土を巻き込んだ幻想郷拡張計画と比べたら、何とも平和で小さな事件だ。
「鈴仙、文、正邪。席は確保しておいてくれ。欧我、協力を頼めるか?」
「勿論です!禁忌『フォーオブアカインド』!!」
スペルカードを発動し、3体の分身を作り出す。
現れた分身はひったくり犯の後を追って颯爽と店を飛び出していく。
その後を追って小櫃さんと共に走り出そうとしたら、「小櫃。」と鈴仙さんに呼び止められた。
小櫃さんが鈴仙さんと向き合った瞬間、
「ん?…!」
小櫃さんと鈴仙さんの唇が重なり合った。そのキスは軽く触れあっただけの一瞬の物であった。
「頑張ってね。」
「…言われるまでもないさ。」
写真屋としてキスの瞬間を捉えられなかったのが悔しいが、お互いに向き合い、笑顔で笑いあう2人にカメラを向けてシャッターを切った。
それにしても目の前でキスを見るなんて。
ふと文の方を見ると、俺に向かってにっこりと笑いながら4回口を動かした。その動きを読み取って脳内で言葉に変換した。「後でね。」
蕎麦屋を飛び出し、先に飛び出していった分身を追いかける。
今回小櫃さんとはいろいろあったけど、そのおかげで二人の間はぐっと縮まったように感じられる。
隣を走る小櫃さんを見ると、目があい小さく頷いてくれた。本人は気づいていないだろうが、うっすらと顔が赤く染まったままだ。
目線を前に向ける。
おそらくひったくり犯は文のスピードを真似た俺の分身によってとっくにつかまっているだろう。
小櫃さんほどではないが、俺はこの幻想郷の平和を、そしてみんなの笑顔を護る!
「天狗のスピードを甘く見るなよ!!」
いかがでしたでしょうか。
ビツケンヌ様の世界観を残しつつ欧我君視点に書き換えることができたのか不安です。
ですが、書いていて「こんな世界観があってもいいんだ。」と勉強になることもありました。
わずか5話という短い間でしたが、得た物は多くあったと思います。
最後に、今回俺とコラボをしていただいたビツケンヌ様に、そしてここまで読んでいただいた読者の皆様にお礼の言葉を言いたいと思います。
本当に、ありがとうございました。