皆さんこんにちは、作者の戌眞呂☆です。
今回のコラボのお相手は、「遥か東方に生きる」でおなじみのbooty様です。
booty様の魅力的なキャラクターや世界観をうまく表現できるかわかりませんが、精一杯頑張ります。
この物語の千鶴さん視点は「雄飛する鳥は世界線を渡る」で読むことができます。
そちらもぜひご覧ください。
時系列は「幻想郷文写帳」の永嵐異変と地霊温泉の取材の間です。
それでは、欧我と千鶴さんの織り成す物語をお楽しみください。
じりじりと照りつける太陽の光は一向に収まる気配がない。家の周りでセミが騒音コンサートを開く中、俺は文さんの家で写真の整理をしていた。幻想郷に来て大体3ヶ月くらいしか経っていないが、その間に忘れられない出来事がたくさんあった。たくさんの妖怪と出会い、友達になり、助手を得て、今は大好きな恋人がいる。
アルバムから大好きな人の写真を取り出した。その写真はところどころ焼け焦げて穴が開いているが、俺の大好きな文さんの笑顔が写っている。
この写真は永嵐異変の直前に撮ったものだ。永嵐異変で文さんのために命をかけて戦ったことで、文さんへの愛に気づくことができた。あの異変が無かったら、今の2人はどうなっていたのかな。時が経つのは速いもので、あの異変から一カ月弱が経過していた。
「あれ、そう言えば小傘ちゃんはどこに?」
部屋の中を見渡したが、小傘ちゃんの姿が見当たらない。いつもなら写真撮影の依頼が無いときは隣にいて、カメラや写真の撮り方についていろいろ聞きに来るんだけど、最近はカメラを携えてどこかに出かけていくことが多くなった。すぐに帰ってくる日があったり、逆に何日も帰ってこない日があったりと、家を飛び出す期間はまばらで、一体どこに出かけているのか全く見当がつかない。
まあ、写真屋の助手としてどこかで写真の腕を磨いているのなら特に咎めたりはしないけどね。心配だけど。
「ただいまー」
「あれ、お帰り」
噂をすれば何とやら…。どうやら小傘ちゃんが帰ってきたようだ。でも、声にいつもの元気がない。一体どうしたというのだろう。
部屋に入ってきた彼女は、ひどく落ち込んでいた。首から提げたカメラを握りしめ、いつもの可愛い笑顔を浮かべてはいなかった。そのまま俺の目の前まで来ると、崩れるように畳に座り込んだ。まさか身体の調子が悪いの?
「どうしたの?」
「実は…」
その後、小傘ちゃんは何があったのかを教えてくれた。
「カメラが壊れた?」
「うん」
なんと、写真を撮る直前にカメラが突然故障してしまったというのだ。その後すぐにカメラは直ったらしいのだが、その時には狙っていた物は既に消えてしまったらしい。
まったく、心配して損したよ。
「いい?写真屋たるもの、常にカメラのチェックは欠かさないこと。素敵な一瞬を逃さず切り取ることが写真屋の使命なんだから」
「ごめんなさい」
説教(あまりきつく言ったつもりはないが)を受け、小傘ちゃんは涙目で頭を下げた。なんか言い過ぎた気がしたので、項垂れている小傘ちゃんの頭を撫でながら優しく「お帰り」と伝えた。小傘ちゃんは目から溢れそうな涙を拭って「うん」と頷いた。
でも、小傘ちゃんがこれほどまで拘るものって一体何だろう。さっきの話を聞いていたら、ほとんどこのためだけに家を飛び出して行ったことが理解できる。執着と言ってもいいほどに。もしかして、どうしても写真に収めたいものがあるというのだろうか。
「ところで、何を撮りたかったの?」
小傘ちゃんが落ち着いたところで、俺はそう聞いてみた。
「子ども達の笑顔」
子ども達の笑顔ね。でも、消えていたっていうのはどういう意味なんだろう。普通に考えると、突然何か哀しいことがあって笑顔が消えたという事だろうか。
「どんな時の笑顔?」
「人形劇を見ているときの笑顔」
「…人形劇?もしかして、あの『正体不明の人形師』?」
正体不明の人形師・・・
最近人間の里で有名になっている名前だ。どこからともなく現れ、見事な技術で人形を操って子ども達を笑顔にしたと思ったら、あっという間に姿を消す。去った後には一切の情報を残さない。そこから巷では『正体不明の人形師』と呼ばれている。唯一分かっていることは、艶のある美しい黒髪を持つが、無表情な女性と言う事だけ。
「もしかして小傘ちゃんが狙っている笑顔って…」
「うん、この人形劇を見ているときの子ども達は、みんなとてもきれいな笑顔をしているの。私はこの笑顔が好きだから写真に収めようと思ってずっと探していたのよ」
「それで、やっと見つけたけどカメラが壊れてしまったと…」
なるほど、小傘ちゃんがちょくちょく家を飛び出していたのはこのためか。何日も帰ってこなかったのも、その間里を捜しまわっていたと言う事なんだね。どこ行っていたのかちょっと心配していたけど、小傘ちゃんなりに写真屋として頑張っていたんだね。
「さあ、疲れたでしょ?何か作ってあげるよ」
「本当!?」
何か作るという言葉を聞いた途端、小傘ちゃんの声に元気が戻った。そして目をキラキラと輝かせて、喜びと嬉しさの混じったような眼で俺をじっと見つめている。…あ、よだれ出てるよ。
「うん、もちろん」
「やったー!」
その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいるところを見ると、まだまだ子供なんだなと実感してしまう。まあそれもいいか。それが小傘ちゃんの可愛いところなんだよね。
小傘ちゃんに背を向け、台所へと足を進める。その直後…
「おどろけー!!」
「うわぁぁ!?」
小傘ちゃんに驚かされてしまった。小傘ちゃんが心を食べる妖怪だと言う事を忘れていたよ。
「はぁ~」
頬に手を当てて至福の表情を浮かべている小傘ちゃんを見ていると、なんか湧き上がった怒りがどんどん引いて行くような気がする。こんな顔を見せられたら、怒るものも怒れないよ。
「小傘ちゃん、お味はいかが?」
とりあえず聞いてみよう。
「はぁ~」
…応答なし。まあいいや、その表情を見れば大方予想ができる。
「よし、そろそろ3時だから甘い物でも作ろうかな。記事を書き続けている文さんにも何か持っていこう」
おやつのメニューを考えながら、台所に向かった。
あれから数日後。俺は写真撮影の依頼を受けて命蓮寺に来ていた。
「はい、皆さん笑顔で!」
依頼の内容は「集合写真を撮ってください」ということだ。大きな額縁を手に入れたので、みんなで撮った写真を飾りたいという白蓮さんからの伝言を受けたナズーリンちゃんが、宝塔探しのついでに妖怪の山に来て伝えてくれたのだ。…あれから宝塔は見つかったのだろうか。
みんなにカメラのレンズを向けるが…
「雲山さん、もう少し小さくなれませんか?上半分がはみ出しています」
「だってさ。ほら、小さく小さく」
「儂はこれが限界なんじゃが…よっこらせっと」
「ぬえ、駄目でしょ?せっかくの写真なんですから」
「むー、分かったよ聖」
なかなかみんなの笑顔が揃わない。
この中で積極的に眩しい笑顔を見せてくれているのは、響子ちゃんにナズーリンちゃん、星さんにムラサさんくらいだろうか。…あれ、何時の間に芳香ちゃんも?まあいいや、一緒に撮ろう。
「はーい、皆さん!レンズに注目してください!」
少し時間がかかってしまったが、何とかみんなの笑顔がそろった。その笑顔を永遠の物に…。
「はい、チーズ!」
パシャッ!
「これで撮影は終了です。明日になれば、現像ができているでしょう」
「わかりました、お待ちしております」
命蓮寺の門の前で、命蓮寺のみんなと向かい合っている。無事に撮影を終え、あとは今撮った写真を現像するだけ。大きな額縁にぴったりと収まる写真は手持ちの機械では現像できないため、にとりさんにお願いして現像してもらう必要がある。
「はい。では、これで失礼します!」
命蓮寺のみんなに向かって深々と頭を下げると、人間の里の中心地を目指して参道を歩いて行った。
人間の里は、相変わらずものすごい賑わいを見せていた。大通りを行きかう人ごみの中を、両手を頭の後ろに組んで歩いて行く。永嵐異変から1ヶ月半ぐらい経っただろうか。その短い期間に、こうも復興できるなんて。人間の力は計り知れないよ。
命蓮寺で写真撮影の依頼を終え、何か文々。新聞のネタになりそうなものは無いか散歩を兼ねて大通りをまっすぐ歩いている。
「にしても、農作物には影響が出てしまったか…」
八百屋の店先には野菜が1つも並んでいなかった。先日、文さんから氾濫した川によって畑を洗い流され、実っていたナスやトマトといった野菜が根こそぎさらわれていったという話を聞いた。さらに、先ほど寄った茶屋の主人から面白い話を聞いた。その話というのは、最近人間の里に出没する侍が率先して行った治水事業によって嵐で氾濫した水による被害は食い止められたというものだ。その話を聞いて納得した。命蓮寺へ向かう途中に見えた、いつの間にかできていた巨大な水路はその侍が率先して作ったものだ。しかもその侍に従って里の多くの男たちが協力したというだから、侍の持つ人望や統率力は計り知れない。
今度その侍に会って写真を撮りたいな。どんな笑顔をするんだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、向こうの方に人だかりができているのを見つけた。子どもの割合が多いけど、大人もちらほらと見受けられる。
「ネタの予感…」
自然とその言葉が漏れる。あそこで何をやっているのかは分からないが、人が集まるところには必ずネタが転がっている。そう文さんが教えてくれた。カメラのチェックを行い、人だかりを目指して駆け出した。
「紳士淑女の皆々様、本日は私めの拙い人形劇にお集まりいただき誠に有難うございます」
人だかりに近づくと、女性の声が聞こえた。人形劇と言う事は、あの『正体不明の人形師』が?
会場の整理をしていた人形に促されるまま隅の方に開いていた客席に座り、人形師の姿を確認する。噂に聞く通りの美しい黒髪で、無表情ながらも気品ある魅力に溢れている。
「短い時間ではありますが、どうかごゆるりとご観覧ください」
そう深々と頭を下げると、客席からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。この拍手から、彼女がどれだけ有名なのかが分かる。おそらく、永嵐異変によって傷ついた人々を笑顔にするためにこのような人形劇をやっているのだろう。
自然とカメラを握る腕に力が入る。カメラのレンズを人形師に向け、ズームを合わせる。
タイミングを見計らい、カメラのシャッターを切った。しかし、写っていたのは人形師ではなく先ほど俺を案内してくれた人形だった。まさか気づかれた!?
「申し訳ありませんが、許可のない撮影はお控えください」
「ご、ごめんなさい」
やはり気づかれていたか。まあ仕方ない、諦めよう。カメラのスイッチを切り、膝の上に乗せた。
その後、その人形師による人形劇が始まった。彼女が操る人形は作りものとは思えない人間らしい動きを見せ、それに合わせて客席から子供の笑い声や大人たちの歓声、そして拍手が沸き起こる。
俺もその劇に魅了され、写真の事を忘れて人形が織りなす世界へ引き込まれてしまった。そして気が付いた時には、人形師の姿はどこにも見られなかった。
「これが、正体不明の人形師…」
どこからかふらりと現れた人形師は見事な辻人形劇を開いたかと思ったら、いつの間にか手品の様に消えていた…。ふふっ、名前の通りだね。次こそは、笑顔を写真に収めてやる。
人形劇の余韻に浸りながら家路を急ぐ。この時は、まさかあんな事件に発展するなんて思いもしなかった。