東方共作録   作:戌眞呂☆

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booty様、大変長らくお待たせいたしました。

執筆が完了しましたので、投稿いたします。


booty様とのコラボ part.2

 

 人間の里の中心を通る道を、文さんと並んで歩く。なぜ2人で歩いているのかというと、命蓮寺の上空で聖輦船(せいれんせん)とは違う巨大な宝船を見かけたという情報をキャッチした文さんが、「これはネタの予感!」と張り切って飛び出していったからだ。一直線に命蓮寺に飛んだ2人を待ち受けていたのは、宝船の正体がただの鳥という事実と、黒幕のぬえさんの謝罪だった。どうやら軽いイタズラのつもりで鳥に「正体不明の種」を植え付け、人間の反応を楽しもうという魂胆だったようだ。

 文さんに元気が無いのは、俺達が手に入れたのは「謎の宝船発見!!」という大ニュースではなく「軽いイタズラの謝罪」という、到底大ニュースにもならない(文さん談)ネタだったからだ。まあでも、人々の誤解を解くためには新聞で大々的に報道しないといけない。

 

 だが、文さんに元気が無い理由はそれだけではなかった。

 『周りからの目線が冷たい』

 里の人々は道を歩く俺たちを、いや、文さんをじっと睨みつけている。天狗の地位向上、そして山の工業化のために天狗が起こした「永嵐異変」によって収穫前の野菜が流され、そして多くの命が失われた。前代未聞の災害となった異変を起こしたのは山に住む天狗たちであり、被害を受けたのは無関係の人々だ。被害者である人々は、加害者である鴉天狗の文さんに怒りを抱いても不思議ではない。

 

 しかし、ひとつ腑に落ちない点がある。それは、人々から怒りを感じ取れないことだ。普通ならもっと怒りのこもった目で睨んだり、天狗の姿を見ただけで飛びかかってくるだろう。それなのに、こちらを睨んでくる人々の目には怒りが宿っていないのだ。まるで、何者かに怒りの感情のみを奪われたかのように。

 

 

「はぁ…」

 

 

「文さん、元気出しましょうよ」

 

 

 そうだ、文さんはさっきから落ち込んでばかりだった。

 

 

「私たち、本当に取り返しのつかないことを…」

 

 

 人々の視線から逃げるように俯いて歩く文さんの目には涙が溜まり、今にも溢れだしそうだった。その様子を隣で見ていると、胸がキュッと締め付けられるような苦しい気持ちに襲われる。こんな時、彼氏として何ができるのだろうか…。

 

 

「確かに、天狗が起こした異変は許されないことです」

 

 

「欧我…?」

 

 

「多くの作物をダメにし、建物を倒壊させ、そして多くの命を奪った。でも、それでも俺は文さんを信じます。あの時滝の上で人々を助けたいと頷いたこと、そして幻想郷が大好きだという気持ち。それは紛れもなく本物だと信じます」

 

 

 一番聞いてほしい言葉を言うために、少しの間を取った。

 

 

「だから、例えすべての人が敵に回ったとしても、俺は、これからもずっと文さんの隣にいます。そして最後まで、文さんを愛し続けます」

 

 

 この言葉は、俺の本心でもあった。どんなことがあっても、俺は文さんのそばで、ずっと愛し続けていく。誰から何と言われようと、種族の壁があろうと、寿命の壁があろうと…。

 

 

「だから…」

 

 

「欧我ぁ…」

 

 

 ふと文さんの顔を見ると、目からは大量の涙が溢れ、今にも泣きだしそうな…いや、既に泣いてしまっていた。おそらく、涙を我慢して笑顔になってもらおうと思って言った言葉が、逆に堰を切ってしまったようだ。

 人目をはばからず、声を上げて泣き出してしまった文さんを優しく抱きしめ、よしよしと頭をなでる。口をついて飛び出すのは俺への感謝の言葉と、甚大な被害をもたらしてしまった人々への謝罪の言葉だった。まるで体内に溜まった負の感情を一気に吐き出すように、肩に顔をうずめて泣き続ける。文さんがこんなにも泣いているところを見るのは初めてだ。

 

 

 

 

 

「ありがとう、欧我。さっきの言葉は本当に嬉しかったわ」

 

 

 文さんが落ち着きを取り戻したところで、再び2人並んで道を歩く。どうやら泣いたことですべてを吐き出せたのか、すっきりとしたような笑顔を浮かべている。

 

 

「いえ。それよりも、文さんがあんなに泣くなんて驚きですよ」

 

 

「何よ!私だって女の子なのよ」

 

 

 1000年以上生きているのに女の()かよ!というツッコミは必死で飲み込んだ。今の文さんの笑顔を見ていたら、そんなことを言えないからな。

 

 

「はいはい。じゃあ、どこかで甘い物でも食べて帰りましょう。今日はおごります」

 

 

「ホント!?泣いたからかお腹減っちゃった。欧我のおごりだから、いっぱい食べるわよ!」

 

 

 あーうん、やっぱり女の子だ。

 永嵐異変の影響もあってか最近写真撮影の依頼が少ないからお金足りるかな?

 

 

「あ、ねえ、あれはなにかしら?」

 

 

 そんなことを考えながら歩いていると、隣を歩く文さんの歩みが止まった。道の真ん中に立ち止まったまま、この道の先をじっと見つめている。その目線の先を追うと、そこには人だかりができていた。あのような人だかりは、最近どこかで見たことがあるような気が…。どこだっけ?

 

 

「もしかして…」

 

 

 “人形劇”

 真っ先に思い浮かんだのはこれだ。そう言えば以前写真撮影の依頼で命蓮寺を訪れたときも、こんな感じの人だかりを見つけ、その中心にいたのが『正体不明の人形師』とすべてを忘れて惹き込まれる見事な人形劇だった。

 

 

「欧我、何か知っているのですか?」

 

 

 文さんの口調が変わった。これはもう取材する気満々のようだ。

 

 

「最近巷で噂になっているんだ。どこからか姿を現し、見事な人形劇を披露したかと思ったら、まるで最初からいなかったように忽然と姿を消す、『正体不明の人形師』が」

 

 

「正体不明の人形師…。名前は何度か聞いているけど、実際に目にするのは初めてですね」

 

 

 名前は既に知っているんだ。ブン屋の情報網には毎回驚かされる…。

 

 

「俺は、数日前に見たことがある。写真を撮ることはできなかったけど、人形を操る腕前、そして誰にも気づかれることなくあっという間に姿を消す様は素晴らしいとしか言いようがないよ」

 

 

 アリスさんと、どっちが上なんだろう…。心の中にそのような疑問がわいてきた。人形の見た目は酷似しているが、動きが全く違う。さらに正体不明の人形師の方は情報量が少なすぎる。だから、俺のイマジネーションでもこの2人の実力をイメージすることができない。

 

 

「そうですか…。欧我、カメラの準備は万全ですか?」

 

 

「取材ですね、何時でもオッケーですよ」

 

 

 ふと文さんの方を見上げたら、既にメモ帳とペンを取り出している。首から提げたカメラを握りしめ、力強く頷いて見せた。俺だって前回写真を撮りそこなってしまったんだ。今日こそはその気品ある無表情から繰り出される笑顔を写真に収めてやるぞ!そう意気込み、文さんの後について歩き出した。

 

 

 

 

 

「流石ですね…」

 

 

 隣に座る文さんは小さい声で何度もそう呟きながら人形の動きや劇の内容、そして劇を見た感想をメモに書き続けている。そのペンの動きは人形に負けず劣らず滑らかで、まるで生きているかのようだ。

 一方の俺はというと、人形とペンの動きが気になって目線を前へ右へとせわしなく動かしている。ああ、なんか疲れてきた。カメラはスイッチを入れたまま膝の上に置いている。以前はカメラに気づかれて注意されたから、劇が終わった瞬間を狙っていつでも写真が撮れるように準備をしておかないとね。

 

 人形劇の方は前回と同じくらい、いや、それ以上に引き込まれる内容となっていた。今日の劇は『種族を越えた愛』をテーマに、許されない恋をした1人の人間の女性と1人の妖怪の男性の、ラブラブな日常と異種族ゆえの苦悩を描いている。今はクライマックスに差し掛かり、仲間の妖怪にさらわれた最愛の彼女を救うため激しい戦いを繰り広げている。

 その人形の動きはまるで生きているかのように躍動感に溢れていて、どこか人間臭い仕草も交じっている。そして主人公の妖怪が負けそうになると子ども達から「がんばれー!」という声援が沸き起こった。そして主人公が勝利し、彼女を救いだしたシーンで大きな拍手がまきこり、俺も思わずガッツポーズを決めてしまった。2人がしっかりと抱きしめあい、キスを交わしたところで劇は幕引きとなった。

 

 

「欧我、行きますよ」

 

 

 劇の余韻に浸っているところで、不意に文さんに肩を叩かれはっと我に返る。

 そうだ、この後取材するんだ。この前と同じ失敗をするところだった…。文さんに頷き返すと席を立って人形師に近づいて行った。

 

 

「こんにちは!」

 

 

 人形師は、人形たちと共に使った舞台の片づけをしている。挨拶をすると、人形師は腕を止めて俺たちの顔を見上げた。こちらを見つめる淡いサファイアの瞳は、見ていると引き込まれそうになるほど鮮やかに輝いて見える。

 

 

「清く正しい射命丸文です。こちらは助手の葉月欧我」

 

 

 名乗ろうとしたら先に名前を言われてしまったので、自己紹介の言葉を飲み込んでお辞儀をした。

 

 

「見事な辻人形劇を見せるあなたを記事にしたいので、取材をしてもいいですか?」

 

 

「…ええ、いいですよ」

 

 

 取材を引き受けてくれた人形師は、しゃがんで行っていた作業を止めて立ち上がった。しかし、その表情はさっきから少しも変わっていない。まったく変化しない表情に加えてサファイアのような瞳が、妖艶でなぜか不気味な印象を漂わせる。声の感じからすると、快く引き受けてくれたわけではなさそうだ。

 

 

「まずは、貴女の名前から教えてください」

 

 

「私は、はくれ……失礼、千鶴と言います」

 

 

 その人形師、千鶴さんは途中で口籠りながらも自己紹介をしてくれた。容姿に似て美しい名前だが、途中まで言いかけたものは一体何だったんだろう。口籠ってしまったせいで聞き取れなかった。

 文さんも聞き取ることができなかったようで、メモ帳に「千鶴」と書いただけだった。

 

 

「千鶴さんは『正体不明の人形師』という名で有名ですが、人形劇を終えてからどうやって誰にも気づかれることなく姿を消すのでしょうか」

 

 

 確かに俺もそれは気になる。『正体不明の人形師』という名は人形劇を見せた後、まるで最初からいなかったように忽然と姿を消す様から人々の間で呼ばれ始めたものだ。

 

 

「秘密です」

 

 

 少しの間が開いたが、千鶴さんは表情を変えることなくそう答えた。

 

 

「あやや!?で、では、あなたはどこから人里に来ているのですか?」

 

 

「それも…内緒です」

 

 

 その後も文さんは負けじといろいろな質問をしていったが、千鶴さんはそのほとんどを「秘密」と「内緒」しか答えなかった。

 

 

「もー、一つとして答えてないじゃないですかぁ!」

 

 

 とうとう痺れを切らした文さんはそう叫んでしまった。それは俺も同じ気持ちだった。あらかじめ写真を撮る許可は得ているのだが、全く変わらない表情を撮っても何の意味もない。千鶴さんって笑顔にならないのかな?

 

 

「では、どうして千鶴さんは人形劇を始めたのですか?」

 

 

 その質問をした途端、千鶴さんの目つきが変わった。いや、ほんの一瞬の小さな変化だったのだが、かすかに怒りが混じったのを見逃さなかった。

 

 

「貴女がそれを問いますか……」

 

 

「はい?」

 

 

 少し言葉を強めて放ったその一言にも怒りが混じっていた。文さんの顔から笑顔が消え、お互いに何も言わずにじっと向かい合っている。険悪。この言葉がピッタリと当てはまる場面はこれ以外に無いと思う。

 この険悪なムードを何とかしなければ、取材どころではなくなってしまうだろう。ここは俺が何とかしないと。

 

 

「あの、千鶴さん!」

 

 

「…はい?」

 

 

 顔に満面の笑みを浮かべ、千鶴さんの名前を呼んだ。千鶴さんの視線が文さんから俺に移ったところで、次の言葉を繋いだ。

 

 

「千鶴さんの人形劇ってとても素晴らしいですね!」

 

 

「えっ」

 

 

「まるで生きているかのように見せる人形さばきは見事で、つい見惚れてしまいました!」

 

 

「そ、そうでしょうか…ありがとうございます」

 

 

 千鶴さんは人差し指で頬を掻きながら目線をそらす。

 お、これはいけるんじゃないか?褒められて嬉しくない人間なんている訳無いからな。相手を褒めて、ペースをこちらに引き込む。これが、文さんが得意としている取材術の一つ「褒め倒し」だ。実際にやるのはこれが初めてだけど、あとは勢いに任せて突っ走ろう。

 

 

「それに、よく練られた劇のストーリーには引き込まれました。まさかあそこであんな展開になるなんて…」

 

 

 その後、俺は勢いに任せて千鶴さんを、そして人形劇をひたすら褒めちぎった。人形を操る技術や劇の内容だけではなく、千鶴さんの妖艶な容姿や魅力的な瞳まで多少オーバーに、文さんが蚊帳の外になるほどに、ただひたすらに褒め続けた。

 

 

「も、申し訳ありませんが今日のところはこれにて失礼させていただきます!!」

 

 

 褒められるのに慣れていなかったのか、千鶴さんは逃げるように荷物を抱えて空に飛びあがった。空が飛べるということは、これはもう只者じゃないと言う証拠だ。

 文さんの方を向いてぐっと親指を突きだした。文さんは若干呆気にとられたような顔をしていたが、苦笑いを浮かべながら頷いてくれた。後は、千鶴さんを追いかければ…。

 

 

「文さん、俺は千鶴さんを追いかけます!」

 

 

「気をつけてね。私はもう少し情報を集めてみるわ」

 

 

「うん、行ってくる」

 

 

 文さんと頷き合い、千鶴さんが飛び去った方向へと飛びあがった。

 

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