さっきの一撃を見ただけで分かった。
陽炎は、ものすごく強い。
カーラームブラストが、押されていた。
それに、あんな小さな光弾に相殺されたんだ。
それを作り出すとは…。
それに、あの表情。
紅く輝く鋭い目つきで、じっとこちらを睨んでくる。
怒りの中に、まるで獲物をいたぶるかのような、嬉々とした表情が垣間見える。
頬を嫌な汗が流れ落ちる。
今まで、こんな雰囲気を醸し出す相手と相対したことはない。
これほどまでの恐怖を感じたのは初めてだ。
女性といえども侮れない。
ここは、全力で行こう!
「ウォォォォォ!!」
陽炎は雄叫びを上げると、右腕を振り上げて猛スピードでこっちに迫ってきた。
頭を左右に激しく振り、恐怖と威圧、殺気を追い払う。
そして目を閉じ、文さんのスピードを自分に投影させた。
拳が当たる直前、俺は高速で動いて陽炎の拳をかわす。
「っ!?」
さっきまで俺がいたところには、陽炎を中心としたクレーターが出来上がっていた。
たかがパンチ一発でこれほどまで。もし、もろに喰らっていたら…。
何なんだよ一体!!
陽炎は俺の姿を見失い、辺りをきょろきょろと見渡している。
気付かれていない今のうちに攻撃を!
屠自古さんの能力を投影させ、右足に雷を集中させた。
圧縮された雷はバチバチと唸り声を上げる。
そして、文さんのスピードでキックを繰り出した。
「仮剣『ライトニングブラスト』!!」
「そこか。」
キックが当たる直前、陽炎はそう呟いた。
そして、がしっと右手で右脚のすねを掴む。
その光景に、俺は言葉を失った。
まさか、このキックが受け止められるなんて。
それに…雷は陽炎の体に流れ込んでいるはず。
それなのになぜ効いていないんだ!?
雷を物ともせず、陽炎は不気味な笑みを浮かべ、右腕に力を込めた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」
右脚を襲う激痛に、思わず悲鳴を上げる。
ものすごい力で握りしめられ、その度に激痛に襲われる。
血液の流れは遮られ、筋肉は切断され、骨にひびが入る。
何とかここを抜け出さないと!!
右脚に意識を集中させ、最大威力の雷を陽炎の右腕で一気に放電させた。
次の瞬間、陽炎の右腕が粉々に砕け散った。
その隙をついて陽炎と距離をとる。
解放されたことによって血液は流れ出し、右足の先がじんじんする。
裾をめくってみると、そこには握りしめられた跡が真っ赤になっていた。
「くそ…。くそっ…。」
陽炎は吹き飛ばされた右腕の切断面をじっと見つめている。
その表情は、苦痛にゆがんでなどいなかった。喜びを感じているというか…。やけに楽しそうな表情を浮かべ、俺の方を睨んだ。
そして再び俺を襲う恐怖、威圧、殺気…。
足がぶるぶると震えているのが分かる。
「…なに!?」
次の瞬間、目の前で信じられないことが起こった。
砕け散った右腕の破片が集まりだし、切断面とくっついて右腕が元通りに修復された。
まさか、不死身!?
「フフフ…今度はこっちの番だ。」
そう言うと陽炎は腰に差した刀に手を伸ばし、ゆっくりと引き抜いた。
全体的に黒色をした巨大な刀で、刀身には「ARES」というアルファベットが刻まれている。
「行くぞ…。」
剣を上段に構え、こちらに向かって走り出す。
ソードとサーベルの写真を取り出して実体化させ、目の前で交差させる。
陽炎が振り下ろした刀を、両手に持つソードとサーベルで受け止めた。
「くっ!」
何という怪力だ…。
受け止めた時の衝撃はすさまじく、顔がゆがむ。
剣を振り上げ、今度は真横から剣を叩き込んだ。
その後も様々な角度から剣を叩きこまれ、それらをガードすることで精一杯だ。
剣のスピードと威力がものすごく、ガードしても衝撃が両腕を襲う。
陽炎のすきを突いてこちらから斬りかかっても、まるで俺の動きが分かるかのように剣や左腕で防がれる。
斬撃を受けて左腕から出血しても、全く痛がるそぶりは見せない。
ガキィン!!
耳を突く音が響き、ソードとサーベルが真っ二つに両断された。
慌てて後ろに飛んで、ギリギリ陽炎の斬撃をよけたが、よく見ると服に斬られた後がついていた。
反応が遅れていたら…。
そう考えると体が震えだした。
はたから見ても分かるほど、俺の体はぶるぶると震えていた。
両手に持つソードとサーベルがカチャカチャと音を立てる。
「そろそろか…。」
陽炎はそう言うと刀を仕舞い、スペルカードを発動した。
「禁忌『狂乱』。」
「あれ?」
目が、かすんできた。
周りがだんだんと暗くなり、真っ暗な闇に包まれた。
「ここは?…ああっ!!」
辺りをきょろきょろと見回すと、目の前に広がる光景に目を見開いた。
陽炎が…沢山いる。
頭から2本の角を生やし、右手に真っ赤な大剣を纏わせた陽炎の大軍が、まるで津波のように押し寄せてきた。
「来るな!来るなぁ!!」
逃げようにも、あまりの恐怖で腰が抜けてしまい、思うように動けない。
そうこうしている間にも陽炎の大軍が目の前に迫ってきて、右腕にまとわせた真っ赤な大剣を振りかぶる。
そして、それを振り下ろした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
両手で頭を押さえ、目をつむった。
すると、目を閉じているはずなのに陽炎の大軍が見えた。
目を開けると、陽炎が振り下ろした大剣が目前に迫る。目を閉じたら、陽炎が大剣を振り上げる。
そのあまりにも強い恐怖に襲われ、俺は何度も悲鳴を上げる。
頭を押さえ、足をばたつかせ、身を悶える。
精一杯の大声で叫んだが陽炎の大軍は消滅しなかった。
「あああああアアアアア!!!!!!!」
もう、だめだ…。
諦めかけたその時…。
「欧我…。」
「欧我!」
俺の耳に、小さいけどはっきりと届いた声。
俺の大好きな人、文さんの声だ。
恐る恐る目を開けると陽炎の大軍はなく、そこにはかわいい笑顔を見せる文さんの姿があった。
「文さん!」
文さんに駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。
その直後、俺の体に流れ込んできた温もり、優しさ、そして幸せ。
それらは、俺の中で激しく渦を巻く陽炎に対する恐怖を吹き飛ばしてくれた。
闇が晴れ、周りが見えてきた。
「文さ…ん?」
「よかった、気が付いた!かなりうなされていたわね。」
俺は、文さんの腕に包まれていた。
俺はいったい何を…?
「師匠、立てる!?」
「小傘ちゃん?」
ふと小傘ちゃんの方を見ると、目が赤く輝く陽炎に向かって閉じた傘を構えていた。
「なんだ、もう少しだったのに。」
陽炎は悔しそうな表情を浮かべる。
…そうだ、戦いはまだ終わってはいない。
「文さん、小傘ちゃん、ありがとう。」
「「欧我!」」
「俺はもう大丈夫。危ないから下がっていて。」
文さんの腕から解放され、立ち上がって陽炎と向き合った。
もう、陽炎に対する恐怖は感じてはいなかった。
あるのは、陽炎に勝つ!その気迫だけだった。
「さぁ、反撃開始だ!!」