東方共作録   作:戌眞呂☆

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Mr.SI様とのコラボ part.2

 

「ほほう?つまり、こことは違う幻想郷。所謂パラレルワールドから来たってこと?」

 

 

「そうですが……その喋り方って流行ってるんですか?」

 

 

 妖怪の山の参道を歩きながら、隣を歩く章さんに今までの経緯を説明すると、章は得心した様に頷き、颯希さんの口調を物まねして同じ様な事を言う。かなり強い力で引っ張られたためか首が少し痛い。しかしそんなことをお構いなしで上機嫌に隣を行く章さんには呆れるしかなかった。

 気を取り直して食材調達の続きをしよう。俺がいた世界から持ってきたカゴにたくさんの山菜を詰め込み、ほかの食材は無いか道端に目を光らせる。

 

 

「おっ、エノキダケ」

 

 

 樹の下に生えてあるエノキダケを見つけ、採取をして章さんの元に戻る。すると章さんは俺の顔をじっと見つめて首を傾げる。

 

 

「それにしても、今回の宴会をするって言い出したけど、欧我君って料理は出来るの?」

 

 

「はい。こう見えても料理にはかなりの自信がありますよあ――、章さん」

 

 

「……今、文って言いかけたよね?」

 

 

 自信満々に言おうとしたのに、名前を間違えた時点で台無しじゃないか。でも、仕方ないよね。だって文にものすごく似ているんだもん。でも名前を間違える事は人に対して失礼な事なので自分の頬を軽く掻き、素直に謝った。

 

 

「すみません。本当に文に似ているもので…」

 

 

 章さんは自分の事を文と間違える事に対して厳しくは言わず、逆に仕方ないよねと小さく笑う。

 

 

「まっ、私が文に間違われても仕方ないよね。だって私と文は、()()ですもの」

 

 

 え?と俺は驚を隠せなかった。章さんと文が親子?え、じゃあ章さんが文のお母さんってこと!?俺の反応に章さんはあれ?と怪訝そうに首を傾げたが、あぁと納得した様に、ポン、と手を叩いた。

 

 

「そう言えば、名前は名乗ったけど性は名乗ってなかったね。私は射命丸(ふみ)。先ほども言ったし、性で分かると思うけど射命丸文の母親です。宜しくね欧我君」

 

 

 ニコッ、と笑顔で自己紹介をしてくれたが、その自己紹介を聞いても頭の混乱は収まらなかった。

 

 

(俺の世界の文に親が居るって話は聞いてない…。だが、こっちの世界の文には母親がいる…。これがパラレルワールドの神秘なのか…?)

 

 

 冷静に考えて頭の中を整理することで、なんとか章さんの存在を理解できた。それに、この世界に文がいるのに、文と似た顔を持つ者が他にもいるのであるなら、それが親なら納得が付く。ふむふむと腕を組んで考え事をしている俺の顔を覗き込み、章さんは俺に尋ねてきた。

 

 

「そう言えば、欧我君の反応からして、そっちの世界にも文がいるって事になるんだよね?」

 

 

 章さんに聞かれ、自分の世界の文を頭に思い浮かべる。文は甘い物が好きで、仕事熱心で、でも時には家でだらだらと過ごすことがあり、甘えてくるときはものすごく甘えてくる。料理を作る腕は上手とは言い難いが味付けはちょうどよく、特に文の作る玉子焼きは絶品で俺の大好物だ。それに、笑顔が可愛くて。

 

 

「はい。自分の世界にも文は居ます。少し抜けた部分もありますが良い人ですよ」

 

 

 左手の薬指にはめている指輪をなでながら、イキイキと章さんに文のことを話した。知らぬ間に笑顔になっているんだろう。

 

 

「そっか、そっちの世界の文も皆に愛されてるんだな」

 

 

 文の話を聞いた章さんはそう微笑んだ様に呟く。その表情は正に母親が浮かべる微笑みだった。そして、雲一つなく、太陽の光が照る青空を見上げる。

 

 

「別の世界だとしても、射命丸文が元気であるなら、私は嬉しいわ」

 

 

 やっぱり何だかんだ言っても、この人は文の母親なんだな。こことは別の世界に住み、性格が違っているとしても、文を本当の娘の様に大切に思っているあたり、この人の心の器なのだろう。今まで章さんのことを面倒くさがり屋で、怠け者で、不真面目な人だという印象を改め、本当は優しく思いやりがあり、まさにお母さんのような人なんだと感心した。しかし。

 

 

「けどね……こっちの文はひどいんだよ!」

 

 

 突然章さんが涙目で俺の肩を掴んで叫び始めた。

 

 

「今日の朝なんてね、折角弁当を作ってあげたのに『もう!そろそろ子離れしてくださいよ!』って言って弁当を受け取らなかったんだよ!これって反抗期なのかな?ちょっと遅れの反抗期なのかな!?前だって山の中で見かけて声をかけたらガン無視だし!この前だって―――――!」

 

 

 うん、前言撤回。だめだこりゃ。愚痴を零す章さんを見てそう思った。良い母親だと思った矢先のこの愚痴のオンパレード。やっぱり章さんは自由気ままな文の母親なのだった。とすると、文の性格は母譲りと言う事か。親なればこそだね…。

 娘の愚痴を零しまくる章さんに苦笑いを浮かべ、愚痴を止めるためにコホン、と咳払いをする。

 

 

「ま、まぁ……。その話は後で聞くとして、早く食料調達を終わらせましょう」

 

 

「………うん。そうだね……」

 

 

 俺の言葉にやっとで落ち着きを取り戻した章さんは、自分の黒い髪を軽く掻いて、食材を探して山道を行く俺の後を追うように歩き出した。

 

 

 

 その後の収穫はまさに順調だった。今の妖怪の山の時期が良いのか旬の山菜等が多く収穫出来た。昔山に住んでいたので地形等の記憶はあったのだが、この世界の妖怪の山は俺の世界の山と地形が異なっていたため、章さんがくれた情報や案内が無ければ今頃山で迷子になっていただろうし、山菜もこんなに集まらなかっただろう。

 山菜を持参のカゴに積み上げて、ほかの食材が無いか探しながら山道を歩いている。隣を行く章さんの手には、俺が颯希さんからもらった許可証が握られている。章さんが見たいと言ってきかなかったため手渡したのだ。

 

 

「それにしても、これが許可書なんだね、初めて見たよ」

 

 

「え?そうなんですか?」

 

 

「うん。普通は山を自由に徘徊さるってこと事態に前例がなかったから。まぁ、たまに無断で入る人はいるけど」

 

 

 へえ?と相槌をする。その無断で入る者は大体予想は出来る。紅白の巫女や、白黒の魔法使いだろう。この世界の2人はどんな感じなのだろうか。

 章さんは手に持つ許可書にある程度目を落としていくと、顎に手を当ててうーんと唸る。

 

 

「それにしても、颯希ちゃんって達筆だね。あんなお子様体型なのに」

 

 

 その言葉に、俺は苦笑いを浮かべるしかできなかった。絶対あんな感じの人は自分の体にコンプレックスを抱えているだろう。だからここで下手な事を言って、章さんから颯希さんの耳に入ったらどうなるか。後が怖い。

 

 

「じゃあ、章さんってどんな字を書くんですか?」

 

 

 話の内容を変えようと章さんに尋ねると、章さんは、ふふん、と自慢気に胸を張る。

 

 

「聞いて驚け。私の字は颯希ちゃんや文に、『お母さん(章)の字は私でも書けないよ』って言われる程なんだよ」

 

 

 自信満々にそう告げるが、それは絶対に褒めてないってのは直ぐに分かった。イメージでだけど、章さんの字は汚く、字が綺麗な自分には書けないと皮肉を込めて言ったのだろう。それに気づかない章の頭は残念で仕方なかった。俺の思いを他所に再び手に持つ許可書に目を落とす章さんは歩きながら不満な声音で呟く。

 

 

「けど、なんで私が監視役を勤めないといけないのかな……。山の監視だったら白狼天狗の人達がいるし。確か今日は終夜君や椛ちゃんは仕事だって言っていたから、終夜君と椛ちゃんに頼めばいいのに……」

 

 

 ベストタイミングで颯希さんの所に遊びに来たのが運の尽きだった。あの時間に行ってなければ自分にこんな仕事を押し付けられることがなかったのにと、章はブツブツと呟く様に愚痴を零す。

 

 

「おっ、こんな所にノビルが」

 

 

 これで何回目の愚痴なのだろう。もう聞きたくないと受け流し、章さんをそっちのけに山菜の採取を再開する。でも、山菜ばかりじゃ料理のメニューに偏りが出来てしまう。何かしらの肉も欲しいところだが、近くに兎やイノシシはいないのかな…?

 

 

「山うども生えてるのか、こっちの妖怪の山は色々生えてるな………って、あれ?章さんは?」

 

 

 山菜の採取に夢中になっており、気が付くと俺は参道を離れ森の中にいた。辺りを見回しても木々が生い茂っているだけで、開けた道はおろか章さんの姿さえどこにも見えなくなっていた。章さんも愚痴をこぼすことに夢中になっていたからなのか俺と逸れたことに気づいていないだろう。俺が章さんの愚痴を無視して山菜の採集をしていた時間は、だいたい10分と言ったところだろうか。かなりの距離を離れてしまったとしてもおかしくは無いだろう。

 

 

「あっ!許可書を章さんに預けたままだった!」

 

 

 しまった、章さんに預けたままだ。これでは山を自由に徘徊できると証明できないじゃないか。速く章さんを見つけないと大変なことになる。その前に、ここはどこだ!?

 

 

 

 

 

 章さんと逸れて約5分が経過しても、章さんの姿はどこにも見えなかった。それに自分の世界の山と地形が違っているせいもあって、俺は山の中をさまよう事しかできなかった。このまま章さんと合流できず、許可証が無いままだと誰かに見つかった時に弁明が出来ないじゃないか。

 

 

「おいおい。本当に章さんは何処に行ったんだよ……」

 

 

「誰だ!」

 

 

 そう呟き、ガサガサと茂みを抜けようとすると、突然何者かの怒号が響いた。その声の主は1人の白狼天狗だった。腰に帯刀したその天狗は天狗の装束に身を包み、きりっとした鋭い眼光で俺を睨みつけている。

 

 

「げっ、白狼天狗……。嫌なタイミングで出くわしたな」

 

 

 よりにもよってこんな時に山の警備をする白狼天狗に見つかってしまうとは、今日は着いてないな。

 相手の白狼天狗はじっと見据えたまま帯刀していた刀を引き抜く。彼から感じる殺気は鋭いものだ。白狼天狗は山の警備と監視を主な任務としている。排他的な社会を築く天狗にとって、侵入者の排除は当たり前のことなのだ。

 

 

「お前何者だ!山の者じゃないな!」

 

 

 殺気と威圧がこもった声色で、今にも斬りかかろうと言った感じで彼は怒鳴る。

 

 

「ま、待て!俺は天魔から許可を貰った者だ!決して怪しい者じゃない!」

 

 

 許可書は人に預けているけど……と小さく付け加え、必死に釈明する。しかし、彼は怪訝そうに首を傾げる。

 

 

「なら、その許可されたと証明出来る物を出せ。許可書ぐらい貰っているだろ?」

 

 

「うぅ……」

 

 

 彼の言葉に俺は返す言葉が見つからず、口を詰まらしてしまった。やっぱりそう来るよな、と眉根を寄せる。俺は一切嘘を吐いてない、しっかりと天魔の颯希さんから妖怪の山を徘徊出来る様にと許可書を貰っている。だが、今その許可書は、不運にも逸れてしまった章さんの手にある。

 

 

(章さんを早く見つけないと!)

 

 

 目の前の白狼天狗は俺の言葉を聞いて「はいそうですか」と理解して刀を収めてくれるとは考えられない。でもここで一悶着あれば、許可書にも記されていた『妖怪の山に危害を加えるな』と言う条件に反してしまう。どうすればこの状況から逃れられるのか必死に脳を働かせ、弾き出した答え。それはこの場所から逃げる事だった。一刻も早く章さんを捜し出し、許可証を見つけて天魔から許可をもらっていることを証明する。それしか方法は無い。目の前にいる白狼天狗に背を向け、全速力で飛び出した。俺は常に浮かんでいて地面を走ることはできないが、怪しまれてこれ以上ややこしいことにならないように、ギリギリまで高度を落とし、走っている時のように足を動かした。

 

 

「貴様!やっぱり侵入者だな!」

 

 

 素直に許可証を提示せず、目の前から逃げ出した俺を見て彼は俺を侵入者だと決めつけ、排除するために追いかけてきた。このままでは捕まってしまう。速く章さんを見つけて疑いを晴らさないと!

 

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