この話で、Mr.SI様とのコラボも最終話となりました。
是非、最後まで楽しんでください。
では、どうぞ!
「ん・・・?」
あれ、縁側で寝てしまったようだ。今は何時だろう。太陽が山から少し顔を出しているから、明け方、しかも早い時間か。宴会会場の中は散らかった皿や徳利、料理がそのまま残されている。天狗のみんなはと言うと、未だにお酒を飲みながら残っている料理を口に運んだり、散らかった料理や皿を片付けてくれたりしてくれている。しかし、ほとんどはぐっすりと夢の中だ。まあ、幽々子様の朝食を作る必要が無いから、俺ももう少し寝るとするか…。
ゴンッ!
「いてっ!」
再び目を閉じた直後、強烈な一撃が頭に叩き込まれ、驚いて飛び上がった。一体何があったんだ?まあいいや、もう一眠り…
ドガッ!
「ぶっ!」
横になろうとした直後背中に叩き込まれた強烈な一撃。その勢いに押され、前のめりに倒れ込んで顔面を縁側に叩きつけてしまった。直にぶつけた鼻がヒリヒリと痛むが、鼻血は出ていないみたいだ。良かった。
「あーもー目が覚めちゃった。やったのは一体誰が……こいつか」
俺の頭と背中に打撃を叩き込んだ犯人をじっと見つめる。そいつは縁側でぐっすりと眠っている終夜だった。縁側一杯に四肢を投げ出し、大の字で眠る終夜の姿。それを見ていると、ふつふつと怒りが込み上げてきた。俺の眠りを妨げておきながら、自分はぐっすりと夢の中。こいつは山菜集めだけではなく安眠まで邪魔するのか…。
「椛…。尻尾振っちゃって……むふふふ……」
むかつく。夢の中で恋人と何をしているんだ。
「こいつめ…」
許可証を章さんに預けてしまった自分が悪いものの、俺の話をちっとも話を聞かずに襲い掛かられ、せっかく集めた山菜を台無しにされただけではなく、殴られ蹴られ安眠を妨害された。それに加えて文に甘えることができない俺の目の前で、夢の中とはいえ彼女とイチャイチャ…。
あー、なんか知らないけどこの寝顔見てるとイライラしてくる。こうなったら絶対に仕返ししてやるんだからね!料理人らしい嫌がらせは…。そうだ!あれで行こう!縁側で一人ニッシッシと笑うと、宴会会場の中にいるある人を探した。良かった、どうやら目を覚ましたようだ。縁側から腰を上げ、その人の元へと向かった。
「おーい椛さん!ちょっと聞きたいことがるんだけど…」
それから時は過ぎ、とうとう元の次元に帰る時間がやってきた。屋敷の前に立ち、終夜や椛さん、文に章さん、颯希さんと向かい合う。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうようで、もうお別れの時間だ。
「それでは、自分はこれでお暇させてもらいます。皆さん、昨日はどうもありがとうございました」
自分の次元から持ってきた道具をしまったリュックサックを背負い、腕にお土産の入った手提げ袋を提げている。名残惜しいけど、別れの時間は必ず訪れる。今までの感謝の気持ちを込め、終夜達にお別れの挨拶をして頭を下げる。まだ日が浅いため他の天狗たちはぐっすりと眠っていて、外にいるのは俺達しかいなかった。終夜も起きたばかりなのか大きな欠伸をし、そして言葉を返してくれた。
「まぁ、俺も久々に天狗で宴会が出来たし、思った以上に楽しかったよ。ありがとうな、欧我」
そしてふっ、とお互いに顔を見合わせて小さく笑い合う。
「俺も楽しかったよ、終夜さん。あ、これお土産。よかったら後で食べてください」
そう言って、腕に下げる手提げ袋を差し出した。このお土産が嫌がらせの手段なのだが、それを悟られないようにニヤニヤを必死でこらえた。そのせいで無表情に近くなっちゃったけど、怪しまれていないよね?
「ん?なんだこれ?」
良かった、怪しんでいないようだ。終夜はその手提げ袋を受け取ると、すぐに仲を確認する。手提げ袋の中には箱が入っていて、その中にはとある料理が満タンに詰め込まれている。俺の気持ちを込めた作りたての料理だ。オマケに手紙付き。
終夜は一旦手提げ袋から目線を外し、俺の方へと視線を戻す。
「わざわざ異世界から来たのに、料理も作って、お土産も渡すなんて、ホント、お前はお人好しだな」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ」
お人よし…か。あながち間違ってはいないのかもな。心の中でそう呟きながら、終夜の隣に立つ椛さんへと視線を移す。
「椛さん。お酒は控えましょうね?」
「あうぅ……」
俺の一言で椛さんの顔は一気にトマトの様に赤くなり、それを隠そうと両手で顔を覆うが全く隠せていなかった。ひと眠りしたことで身体から酒が抜けて正常に戻った椛さんが宴会での自分の武勇伝を聞かされた時、今以上に顔を真っ赤に染め上げていたからな。でも、これに懲りてお酒の量を減らそうと思ってくれただろう。
椛さんの反応を楽しんだ後、次に文の方へと顔を向け、小さく俯いた。
「文さん、元気で」
「あれ?それだけ?」
文に言いたいことはそれだけだった。いや、本当のことを言うともっと色々と言いたかったのだが、自分の次元の文と瓜二つで性格も酷似していたから気を抜いたら甘えてしまいそうだった。そうならないために、あえてこの一言だけにした。どうやら文は少しだけ不満そうだ。
今度は章さんと颯希さんの方に顔を向け、小さく頭を下げる。
「颯希さん、自分のワガママを聞いてくれてありがとうございました。章さんも、山の案内ありがとうございました」
「いいよ、お礼なんて。私も異世界交流楽しいと思ったから許可を出したんだよ。今後、お互いに関係を深めよう」
「私も、十分に楽しめたから良かったよ。また来てね、後―――」
章さんは途中で言葉を止めると歩み寄ってきた。そして俺の耳元で言い聞かせるように呟く。
「あっちの世界の文ちゃんによろしくね、文の旦那さん」
「―――――え!?な、なんでそれを!?」
息がかかる程の距離で囁かれた予想外の言葉に、思わず顔を紅潮させながら章さんから一気に距離を空けるように飛び退いた。な、なんで章さんがそのことを知っているの!?確かに自分の次元に文がいることは話したが、自分と文の関係を話していない。なのに、何故章さんがそのことを知っているのか、あまりの衝撃に俺は驚きを隠せなかった。
一方、章さんは俺の反応が面白かったのか、クスクスと悪戯っぽく微笑んでいる。
「気づいてないと思った?ふふっ、欧我君は文に対してだけ少しよそよそしかったから、もしかしたらと思って、ね?」
「も、もしかして、半分以上は鎌をかけたんですか!?」
剥き出す程に目を見開いて章さんに叫ぶが、章さんは悪戯っぽく笑うだけで解決には至らなかった。くそっ、章さんの言動や思考は全く読み取れない。こういう人に限って強い場合があるからな。うん。
諦めた様に肩を落とし、迎えが来るのを待つ。すると、背後に一本の線が宙に現れる。その途端、宙に出来た線が横にがばっと開き、スキマが口を広げた。
「迎えが来たようですね……」
そう呟いて、スキマからみんなの方に視線を戻した。お互いに何も語らず、沈黙が辺りを覆い包む。そんな中、その空気を壊すように終夜が口を開いた。
「もう、行くんだな……」
なんだろう、少ししか話していないのにものすごく名残惜しく感じてしまう。そのせいで何も言う事が出来ず立ち尽くしていると、終夜はさらに言葉をつづけた。
「お前との時間、思った以上に楽しかったよ。今度、お前の世界の方にも招待してくれや」
「…………ふっ。あぁ、今度はこっちが盛大に歓迎をしてやるよ」
そう、俺自慢のレストランでね。お互いに小さく笑い合い、みんなに別れと感謝の気持ちを込め、大きく手を振った。みんなも笑顔で手を振りかえしてくれたのだが、終夜は頷いただけで手を振ってはくれなかった。そのままプレゼントした
不思議な空間に飛び込んだ直後、俺が入ってきた隙間が閉じた。あっという間の2日間だったけど、その間に得たものは大きかった。心なしかリュックが重く感じられるけど、これは思い出の重さなのか、それともただ単に疲れているだけか…。
「お疲れ様、欧我」
「あ、紫さん。ただいま帰りました」
さっきまでいなかったのに、いつの間にか目の前に紫さんの姿があった。その神出鬼没な行動に毎回驚かされるのだが、今回は疲れと眠気の方が勝ってちっとも驚かなかった。そんなことより、今は一刻も早く家族の元へ帰りたい。文に甘えたり、小傘に驚かされたり、心華と一緒に眠ったりしたい。特に、目の前にいるにもかかわらず甘えられなかった文には思う存分甘えたい。
「早く家族に会いたい。紫さん、白玉楼へ続くスキマを開けてください」
家族に会いたいという一心で紫さんに懇願したが、首を縦には振ってくれなかった。
「欧我、私はあなたを旅行先へ送ったわけではないわ。向こうの次元はどうだったか報告をしてくれないかしら?」
「あ、そうでした」
紫さんに指摘され、今回次元をまたいだ目的を思い出した。今まで失念していたことに気づき、えへへと頭を掻きながら謝ると、紫さんは呆れたように「はぁ」とため息をついた。でも忘れていたからと言って妖怪の山で見聞きしたことを忘れていたわけではない。頭に残っている範囲で紫さんに向かって話し始めた。
妖怪の山では部隊が分けられ、それぞれが決められた箇所で哨戒任務を行っていること。
天魔が最高権力者として山を支配していること。
妖怪の山には数多くの天狗が住んでいること。
自分が住んでいたころの山に比べて上下関係が厳しく定められ、しっかりとした統率が組まれていること。
そして…。
「向こうの次元にも、俺と同じ特異点がいました」
そう言うと、紫さんの眉が少しだけピクッと動いた。
「それは誰?」
「はい、椛さんの部下でありながら天狗以上の力を秘めていた白狼天狗の白崎終夜。小さい体ながらも抜群の統率力を持ち人望も厚い天魔の天神颯希さん。そして、これには俺も驚いたのですが…。文の母親である射命丸章さんの3人です」
「そう、わかったわ。これからこの特異点達がどんな運命をたどり、どんな影響を与えていくのか楽しみね。」
扇子を取り出し、口元を隠しながらうふふと楽しそうに笑う紫さん。いったい何が楽しいのか分からないが、俺も終夜たちがどんな人生を歩んでいくのか楽しみではあるからな。
「ところで、別の次元に行ってみてどうだったかしら?もう二度と行きたくない?」
「いえ、新しい出会いや発見なんかがありとっても楽しかったです。また依頼されれば行ってみたいですね」
「うふふ、考えておくわね」
紫さんはそれだけ言って右手をかざすと、目の前にスキマが口を広げた。
「今日はもういいわ、お疲れ様。文が待っているから早く会ってあげなさい」
「分かりました、ではまた!」
そう言い残し、スキマの中に飛び込んだ。
スキマを潜り抜けて飛び降りた先は白玉楼の中庭だった。別次元へ旅立つ前の風景と全く変わらない。まあ当たり前か、向こうの次元で生活した時間はわずか1日。変化があった方が逆におかしいよな。うんうんと頷いて、改めて辺りを見回した。中庭を取り囲む縁側には誰の姿も見あたらない。もしかしてみんな部屋にいるのかな。自分の部屋に戻ってみるか。
「おっ、いるいる」
部屋の前に来ると、中から文たちの声が聞こえる。とうとうみんなと会える。そう思っただけで幸せが心の中に溢れ返って零れ落ちてしまいそうだ。障子に手をかけ、勢いよく開け放った。
「ただいま!」
いかがでしたでしょうか。
SI様とコラボした物語は終わってしまいますが、自分は書いてて非常に楽しかったです。
Mr.SI様、本当にありがとうございました!
次回からは普通の物語に戻ります。
完成間近のレストランが遂に完成します。ようやくかと言った感じですが、その前に家族でのんびりする話も書きたいなと思っています。
では次回もよろしくお願いいたします!