まさかの3100文字ww
目の前に現れた霊夢さんと魔理沙さん。
もちろん、この2人はパペット…つまり写真を基にして作られた操り人形だ。
この技は写真に写された人を分身として実体化させ、俺のイメージで操る。仲間に襲われる恐怖と、仲間を手にかけるショックで精神的にも肉体的にも追いつめるスペルカード。最近習得したばかりだ。
しかし、今の段階ではいくつか欠点がある。
まず一つ目は、実体化させる人数が増える分、それらに集中しないといけないから動きの精度が落ちることだ。この分身は肉弾戦しかできない。そして技を維持するためには集中し続けなければならないから俺は無防備になる。それともう一つ重要なことは、分身は両断されれば消滅することだ。
陽炎の交友関係については知らないが、この2人となら親しい関係を築いているはずだ。
この2人を斬ることができるか?
…まあ、優しさが残っていればの話だけど。
「行け!!」
陽炎をじっと見据えながら、分身に命じた。
霊夢ドールは地上から、魔理沙ドールは空中から陽炎に殴り掛かった。
陽炎は両手を伸ばし、その攻撃を受け止める。
しかし、顔には明らかに動揺とためらいの表情が浮かんでいた。
少し追い打ちをかけるか。
「陽炎、斬れ!」
陽炎に届くように、大声で言った。
2人のドールを一旦陽炎から離し、様子を見る。
陽炎は腰の刀に手を伸ばし、柄を握りしめる。
しかし、手がぶるぶると震えていて刀を引き抜けそうになかった。
ためらっている余裕はないぜ。
2体のドールを操り、再び攻撃を仕掛けた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
ドールの攻撃が当たる直前、陽炎は叫んで刀を引き抜いた。鋭い斬撃に、霊夢ドールと魔理沙ドールは真っ二つに両断された。
「おお、やればできるじゃないか。」
そう呟いた。
陽炎が鬼と化したように、俺の心も鬼になっていた。
人をいたぶるのが、こんなにも楽しいなんて…。
くくく…クセになりそう。
じゃあ次に行こう。剣術には剣術で立ち向かうのがベストかな。
あの子を写した写真は…あった。
2枚目の写真を掲げ、分身を作り出した。
写真から現れたのは、楼観剣を構える妖夢だ。
あれ?
陽炎の様子がおかしい。
紅く輝く眼の光が弱まり、剣を握る両手がかすかに震えている。
…まさか、この2人には特別な関係があるのだろうか。
妖夢ドールに意識を集中させ、陽炎に向かわせた。
1体しか実体化していないから動きに集中できる。さらに、俺は妖夢ちゃんと一度戦っているから戦法なども知っている。
振り下ろす剣を刀で防御する陽炎。
明らかにためらいの色が浮かんでいる。
さあ、お前は妖夢を斬れるか?
楼観剣を翻し、斜めに振り下ろす。
執事服が切り裂かれ、切り口から真っ赤な血液が吹き出す。
陽炎の顔が苦痛にゆがむ。
まだ終わりじゃないぜ。
楼観剣で刀をはじき、次々に斬撃を放つ。
陽炎はそれを刀で防いではいるが、防戦一方になっている。
さっきまでの勢いはどうした?
陽炎は刀を振り上げ、目をつむって縦に思いっきり振り下ろした。
妖夢ドールは真っ二つに両断され、霧散して消滅した。
…気のせいだろうか。
何か、一粒の輝くものが地面に落ちた。
「さあ、どんどん行くぞ。」
次は、陽炎が最も親しい関係を築いている人たちだ。
取り出した写真には、紅魔館のメンバーが写されていた。
大勢操るには体力を使うから、4人にしよう。
写真の中の、レミリアさん、フランちゃん、咲夜さん、美鈴さんに意識を集中させた。
写真から飛び出した4体のドール。
陽炎はその光景に思わず刀を取り落した。
「お前に、主や仲間を斬ることができるかな?」
今、俺の心は完全に鬼になりかけていた。
相手を精神的に追い詰め、その光景を見て楽しんでいる。
十分いたぶった後、止めを刺す。
4体のうち、美鈴ドールとフランドールの動きをイメージし、操って陽炎に向かわせた。
美鈴ドールは陽炎に駆け寄ると拳を握りしめて殴りかかった。
両手でその攻撃を受け止めた陽炎の背中に、フランドールがキックを叩き込む。
陽炎の顔が苦痛にゆがみ、一瞬力が抜ける。
その瞬間をついて美鈴ドールが回し蹴りをくらわせる。
強烈な一撃を食らい、後方に吹き飛ばされた。
フランドールを操って陽炎が落とした刀を拾い上げ、投げる。刀は陽炎の足元の地面に突き刺さった。
陽炎が怯んでいる今のうちにフランドールに集中する。
スペルカードを発動するためには、かなりの集中を必要とする。そのため、その間それ以外のドールの動きは止まる。
陽炎は刀を拾い上げると、まっすぐ俺を目指して駆け出した。
…なるほど、ドールの動きが止まった今のうちに俺を仕留めるつもりか。
あっという間に俺の前に走り寄り、刀を振りかぶる。
でも、ちょっと遅かったね。
振り下ろされた刀は、美鈴ドールを真っ二つに切り裂いた。
…あれ?
陽炎が…泣いている?
目から涙を流し、小さく嗚咽を漏らしている。
その様子を見て、俺の中で何かが変わり始めた。
しかし、俺のイメージを止めることはできなかった。
フランドールで陽炎の襟首をつかみ、上空に投げ飛ばす。
陽炎の目の前には、4体のフランドールの姿があった。間に合った、禁忌「フォーオブアカインド」。
上空で静止した陽炎の周りを高速で飛び回らせ、翻弄する。
3体の時にあれほど動揺したんだ。4体ではどうかな?
辺りをきょろきょろと見回すが、フランドールの動きを掴めないでいた。
吸血鬼は天狗のスピードと鬼のパワーを兼ね備えた妖怪。このスピードをとらえることは不可能だ。
咲夜ドールを動かし、がら空きになった背中に向かってナイフを投げつけた。
ナイフは見事に命中し、上空でバランスを崩す。
その隙を突き、陽炎の腹部にレミリアドールの拳を叩き込んだ。
上空から叩き落され、陽炎は地面に叩きつけられた。
いや、違う!
そんなんじゃないはずだ!!
俺は自分の中で自問自答を繰り返す。
陽炎ほどの腕前があれば、こんな分身などいとも容易く撃破できるはずだ。
それなのに、陽炎にはそれができなかった。
そして、陽炎が泣いていたこと…。
これらの事から考えられるのは、陽炎には仲間を思う優しさが残されているということだ。
鬼と化しても、心までは完全に鬼になってはいない。
それに引き換え、俺は…?
相手をいたぶることを楽しみ、精神的に追い詰め、今まさに止めを刺そうとしている。
俺の方が鬼じゃないか!!
「やめろ!!」
イメージの暴走を止めるために慌てて叫び、スペルカードを解除した。
陽炎の目前まで迫っていたレミリアドールを始め、フランドールと咲夜ドールは消滅した。
「はぁ…はぁ…。」
また出てしまった。記憶を失う前の自分の性格が…。
俺は、なんということを…。
これほどまで痛めつける必要なんてないじゃないか。
「陽炎、大丈夫か!?」
慌てて陽炎のもとに走り寄る。
ものすごいダメージを受け地面に横たわっているが、意識を失ってはいないようだ。
目を開け、俺をじっとにらむ。
その目には、俺に向けられた怒りの炎が燃え上がっていた。
俺は何も言わず、陽炎に向かって手を差し伸べた。
この戦いを通して、俺は陽炎の持つ優しさに気づくことができた。
俺の行動を見て、陽炎は驚きの表情を浮かべる。
「優し過ぎると足下掬われるぞ…お人好し。」
「いいさ。それに、それはお互い様でしょ。」
「ふっ…。手、貸してくれるか…?」
「うん。」
陽炎は俺の手を握りしめ、上体を起こす。
陽炎の腕を引っ張り、反対の腕で支えながら立ち上がらせた。
この時、俺の中にあるのは陽炎を打ちのめすという鬼のような感情ではなかった。
陽炎の持つ優しさを知る事で、強さを認めることができた。
後は、正々堂々と戦うだけだ。
「さあ、続けようか。」
「ああ。」
…ところで、俺たちが戦うことになった原因ってなんだったっけ?
誰か教えてくれませんか。