体を休ませて、お互いの傷を癒す。
陽炎につかまれて骨にひびが入った右脚はまだ痛かったが、ほとんどを上空に浮かんでいればそれほど負担がかからないだろう。
それに、左足だけでも十分加速できる。
陽炎の強さは、今までの戦いを通して十分知ることができた。
…でも、陽炎の鬼としての能力や全力については未知数だ。
鬼に、人間がかなうのだろうか。
…あれ?
銀色だった髪は徐々に色が濃くなり、鬼化する前と同じ黒髪に戻った。
頭から飛び出た小さく立派な角も姿を隠し、陽炎から感じる威圧や殺気と言ったものも感じられなくなっていた。
「あれ、鬼は?」
「俺はお前と同じ人間として戦いたいんだ。鬼の力に頼らず、人間としての陽炎で!」
「ありがとう。じゃあ、俺も本気で行かせてもらいます!」
文さんの最高速をイメージし、自分と重ね合わせた。
陽炎は人間としての全力でかかってくる。だから、俺も全力で立ち向かおう。
俺も、あの言葉を使ってみようかな。
文さんのあのセリフ、あこがれていたんだよね。
この場に合うように少しアレンジを加えて…。
「さあ、手加減しないから全力でかかってきてください!!」
決まったぜ!
左足に力を込め、勢い良く大地を蹴りだした。
自分の出せる最高速で陽炎の周りを飛び回る。
ふと陽炎の顔を見ると、笑みを浮かべていた。
「ふっ、付き合うぜ。」
そう言うとものすごいスピードで迫ってきた。
なるほど、陽炎も天狗並みのスピードを出せるのか。
これは面白くなってきた。
陽炎は俺に近づいて拳を叩き込む。
それを左手で振り払い、右手で隙ができた脇腹に拳を突きだす。しかしそれは陽炎の左手で受け止められた。
その右手を軸に身体を回転させ、陽炎の頭めがけて左足を振り下ろすが、右腕でその攻撃を防いだ。
「さすが。」
「お前もな。」
陽炎が繰り出した蹴りを防ぎ、いったん距離をとる。
陽炎は両手から炎を吹き出し、こちらに迫ってきた。
炎には水だ。にとりさんの能力を投影させ、両手に水をグローブのように纏って攻撃を受け止めた。
纏わせた水は灼熱の炎によって一気に蒸発した。水と炎が相殺され、辺りに立ちこめる水蒸気。
水を跡形もなく蒸発させるなんて、ものすごい火力だ。
「炎符『スターフレア』!!」
陽炎はスペルカードを発動させて両腕の炎の火力を高め、辺りに炎の弾幕を展開した。
まるで激しく燃え上がる太陽のような火球が出現し、その熱気はこちらまで届いた。
こんなもの、受け切れるか?
「わわっ!?」
その火球が一斉に迫ってきた。
両手を前後に動かし、両手にまとわせた水を連続で打ち出す。
打ち出された水は拳の形をして突き進み、炎の弾幕とぶつかって次々と相殺していく。
しかし、弾幕量がけた違いで、すべての弾幕を相殺するには両手の攻撃だけでは足りなかった。
目の前に、壁のように迫る炎の弾幕。
俺は目をつむり、技のイメージを固める。
この技はかなり体力を使うが、これを相殺するにはこの技しかない。
「波符『クレッシェンドウェーブ』!!」
両手を前に向け、巨大な津波を打ち出した。
大きな津波はどんどん成長しながら火球を次々と飲み込んでいく。
波が消えた時、陽炎が放った火球は跡形もなく消え去っていた。
「はぁ…はぁ…。」
くそ、体力が一気に持っていかれた。
流石に大きな波を作り出すにはものすごい体力を使うな。
俺の様子を見て、陽炎は不敵な笑みを浮かべ、スペルカードを発動する。
「隙だらけだ!忌砲『ブラッディレイン』!!」
俺を挟むように上下にいくつもの魔方陣が出現し、そこから大量の弾幕が放たれた。さらに、陽炎が掲げた右腕からまるでマシンガンのように鋭利な弾幕が展開された。
くそっ、避けきれない!
上下から迫る弾幕で視界が遮られる。
これじゃあいつ弾幕を食らってもおかしくない。
「こうなったら…。」
弾幕から距離をとり、カメラを構える。
こちらに迫ってくる弾幕がすべて収まるようにズームを調整し、目の前に現れた銀色に光るフレームを調整する。
「撮符『激写封印』!!」
カメラのシャッターを切ると、迫ってきた弾幕は跡形もなく姿を消した。
ふぃ~、成功だ。
「なっ!?だ、弾幕が…消えた…?」
陽炎は驚きを隠せないでいた。
そりゃあそうだろう。弾幕はすべてこの写真に撮りこんだのだからな。
現像した写真には、陽炎の放ったスペルカード忌砲「ブラッディレイン」がくっきりと写し出されていた。
これを陽炎に向けて目を閉じ、意識を集中させる。
「お返しだ!写符『封印解放』!!」
すると陽炎を挟み込むように魔方陣が現れ、そこから大量の弾幕が放たれた。
写真からも鋭利な弾幕が放たれ、それらは全く同じ動き、スピードで陽炎に迫る。
陽炎は自分が放ったのと全く同じ弾幕を見て驚きを隠せないでいた。
「嘘だろ!?返されたのか!?」
驚きと動揺によって一瞬動きが鈍った陽炎は、弾幕を避けることができなかった。
体中に鋭い弾幕が突き刺さり、上下からも大量の光弾に襲われる。
俺から見ても分かるほど、陽炎は大ダメージを受けていた。
よし、止めだ!!
さらに高度を上げ、紫さんの能力を投影した。
能力を発動し、陽炎との間に無数のスキマを作り出す。そのスキマを潜り抜けながら、キックのスピードと威力を高める。
陽炎は俺を睨み、右足に灼熱の炎を纏わせる。
「仮壊『ディメンションキック』!!」
「炎符『劫火滅脚』!!」
2人の蹴りがぶつかり合い、すさまじい爆発に包まれる。
「ああ…。」
くそ、身体が…動かない。
今までの攻撃で受けたダメージに加え、相殺された時の爆発によってダメージを受け、俺の身体は限界を迎えてしまった。
もう、身体に力が入らない。
空中にとどまることもできず、俺の身体は重力につかまり地面へと落ちていった。
かすむ視界の中、陽炎はじっと俺を見下ろしていた。
やっぱり、陽炎はものすごく強い。そんな相手と全力で戦えて、俺はものすごく楽しかった。
「参り…ました…。」
笑顔でそうつぶやく。
次の瞬間、世界は暗闇に包まれた。