魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第10話 人狼の母子

 うっそうと茂る森の中、無数のモンスター達が散り散りに、しかし統率された動きで

陣形を取る。

その先にいる標的は一匹の人熊(ウォーベア)。その小柄な体格と、首からまとっている嘘汚れた

マントが貧弱なイメージを想像させる。

 が、モンスター達は油断なく相手との距離を詰める。彼らには敵対する勢力があり、

目の前の人熊がその先兵である可能性に脅威を感じて。

 

「魔獣系のやつらだな・・・ずいぶん殺気立ってる。」

『ならお前と同類だろう。どうする、戦うか?』

 その人熊(ウォーベア)オグマが、手にしている短剣ナタルコンと言葉を交わす。

旅立ちの日から1か月、彼らはあちこちを彷徨いながら、多数の野良モンスター達と戦ってきた。

修行にこそなったものの、ここまで知性のあるモンスターや魔族とは出会えず、当然目的である

地上や天界への手掛かりは得られなかった。

 

 いや、とナタルコンを鞘に納め、一歩進んでオグマは目の前の気配に向かってこう叫ぶ。

「俺は人熊オグマだ!お前たちは何者か!?姿を見せろ!!」

 

 それに反応して周囲の気配がざわっ、と動く。仲間内で何か相談するような囁きのあと、一匹の

モンスターが正面からスッ、と現れる。

 それは青いたてがみを纏った狼系のモンスター”グルバレイダ”に似ていた。そいつは右手を

上に挙げ、それをブン!と振り下ろす。

 それを合図に、周囲のモンスター達が一斉に姿を現し、襲い掛かってくる、総勢で20体ほどか。

多くは人狼系のモンスターだが、中にはキャットリベリオやアバランチャー等、他の獣人も混じっている。

 

「問答無用か!」

 オグマはナタルコンを抜き、静かにそれを振り回す。周囲のモンスター達はその小さな剣を

届きもしない所で振るう相手の行動に、嘲笑しながら突撃する。

 

「グワァッ!?」

「グハッ!」

「ぎゃん!キャンキャンッ」

 

 ナタルコンが放った真空呪文(バギ)の直撃を受け、数体のモンスターがもんどりうって倒れこみ

のたうち回る。

「真空呪文だねぇ、あんた達、迂闊に近づくんじゃないよ!」

 そう発したのはリーダー格のグルバレイダだ。それに応えてモンスター達は遠巻きに

オグマを包囲する。

が、それは戦いを知るナタルコンと、その弟子であるオグマにとっては愚策でしか無かった。

 

「なっ・・・!?」

 オグマは素早く近くの木に、まるで駆け上がるように昇っていく。しまった!と臍を噛む

グルバレイダ。

だが獣たちは敵が逃げたと思って一斉に木の根元まで群がる、へへっ!臆病者め!と。

 

 そんな彼らに真空呪文の雨が降る。人狼系の山賊ウルフは無論だが、体重のある

キャットリベリオやアバランチャー達も木登りには向いていない。そんな彼らが

木の根元に集まっても登った相手を追撃できるはずもなく、ただナタルコンの放つ

飛び道具の的になるだけだった。

幾多のモンスターが悲鳴と共に倒れ込み、ほうほうの体で木から離れる。

 

「卑怯者!降りてこい!!」

「臆病者め、やりゃあがったなぁ!」

 

 口々に叫ぶモンスター達。そんな彼らにオグマとナタルコンは呆れたように返した。

「名乗りもあげずに襲い掛かってきて何を言うか!」

『多数で囲んでおきながら呆れたものだ、自分に有利な位置取りをするのは当然だ、獣どもよ。』

 

 ぐぅの音も出ずに木の上の彼らを見上げるモンスター達。そんな中、リーダー格の

グルバレイダが木の真下まで来て、手を腰に当ててこう返してくる。

 

「あたしはこの群れの首領メンフィス!オグマとか言ったねぇ坊や。いいだろう、

あたしが一対一で相手になってやるさ!」

 そういって周囲のモンスター達を下がらせるグルバレイダ・メンフィス。

 

「女性か。言葉も通じるようだし、出来れば殺し合いたくは無いが・・・」

『普通のグルバレイダではないな、魔族との混血のようだ。』

 小声で会話するオグマ達。確かに普通のグレイバルダは4足歩行の魔獣だが、

彼女は直立しており、前足も獣人の手に近く、上半身も魔族のそれに近い。

群れを統率している所を見ても話せる余地はありそうだ。

 

「どうしたい、さっさと降りてきな!」

 そのメンフィスの言葉にオグマはナタルコンの目を見て、こくりと頷く。彼を鞘に納め、

両拳を握って己の闘気を開放する。

 

 そして木から、ふっ、と飛び降りる。

 

 ずどぉっこおぉぉぉ・・・ん!

 

 オグマは己の光の闘気を全開にし、落下の勢いも利用して思い切り地面を殴りつけた。

衝撃で木の根が浮き上がり、土中の石が弾け飛ぶ。殴った一点から輪のように広がっていく

その衝撃がメンフィスの、そしてモンスター達の足の裏を地震となって通り過ぎていく。

 

 地を揺らすその一撃に、モンスターたち全員が悟る、悟らざるを得ない。

こんな化け物に勝ち目はない、と。

 

「・・・分かった、あたいらの負けだ、勘弁してくれ。」

 メンフィスが両手を広げて降参の意思を示す。それは仲間に無用の犠牲を強いない意図と、

この人熊が”ヤツラ”の仲間でない事を確信したが故の言葉だった。

 

「俺達にしても敵意は無い、旅をしているんだが寝床と情報を探している、よかったらあなた方の

集落に案内してくれないか?」

 オグマはそう言ってバッグから数枚の円盤を取り出す。金緑色に輝くそれは魔界の住人にとって

大変価値のある物。

 

「ドラゴンのウロコじゃないか・・・こりゃ上等だよ!」

「マジっすか姉さん!」

「俺初めて見たわ・・・っていうかアンタが狩ったのか?」

 

 ああ、まぁね、と言ってマントを取り、ドラゴンのスケイルアーマーと竜牙の手甲を見せる。

それを見たモンスターたちは、げっ!と声を上げて一歩引く。今の一撃の威力に加えてこの装備、

もしコイツと戦い続ければどうなっていたか・・・想像して冷や汗を流す。

 

 だが、本当に脅威なのはその鞘に納められた短剣なのだが、オグマはあえてそっちを彼らには

見せなかった。手の内を全て晒すのは愚か者のする事、というのもナタルコンの教えだったからだ。

 

「宿くらい用意するよ、是非ウチの村に来ておくれ、強い奴は大歓迎だよ。」

 

 

 先の戦闘でケガした者たちを担ぎながら、一行は柵に囲まれた村に到着した。

それを出迎えたのは獣人の女子供たちだった。手際よく怪我人を奥に運び、回復呪文で傷を癒す。

 

 そんな中、ひとりの人狼の少年がメンフィスのもとに駆け寄り、彼女に抱き着いてこう言った。

「お帰り母ちゃん!大丈夫だった?」

「こらマルタ、お客さんの前だよ、甘えんじゃないの!」

 先程のナタルコンの言葉通り、彼女の一族はかなりの異種交配を繰り返してきたのだろう。

母親のメンフィスにはまだグルバレイダの面影が強かったが、その息子の外見はむしろ普通の

人狼の血が色濃く感じられた。

 

 獣人の村に受け入れられ歓迎されるオグマ。彼も人熊であったこともだが、何より強さを

示した事と、希少なドラゴンのウロコなどを持っていたことがより打ち解ける材料となった。

一緒に食事をしつつ、借りた砥石でナタルコンを研ぎながら事情を話すオグマ。

「そっか・・・地上へねぇ。」

 残念ながら彼らの中にも地上への手がかりを知る者はいなかった。というより今の彼女たちは

別の一団と抗争状態にあり、それどころではないというのが村全体の意見だ。

 

 東の方の砦に魔族を中心とした一団が居座り、度々ここに襲撃をかけてきているそうだ。

両陣営の戦力は拮抗し、一気にカタを付けることも出来ずに犠牲が増える一方だとか。

 彼らが最初、オグマに問答無用で襲いかかってきたのも、オグマを敵側の斥候と懸念しての

行動だったらしい。

 

「ねぇ熊のお兄ちゃん、母ちゃんに力を貸してよ、あいつらやっつけてよ!」

 メンフィスの子、マルタがそう懇願する。まだ年端も行かぬ少年のその人狼は、不安に

涙を溜めて震えながらそう訴える。その感情は恐怖、そして臆病に支配されていた。なんとか

一刻も早くその恐怖から解放されたい、と。

 

「マルタ!みっともない事言ってんじゃないよ!!」

メンフィスが息子を叱りつける。マルタは「でも~」と嘆きつつ、それ以上叱られるのを恐れて

他の女に連れられて、自らの小屋に引っ込んでいった。

 

「すまないね、みっともない所を見せちゃってさ。」

 その彼女の言葉にオグマは心から同意する。魔界に生きる以上、己を守るのは己自身しかない。

今のマルタの態度は臆病なだけでなくどこか他人任せで、己の力で困難を切り開く意志の強さを

全く感じさせなかった。あれではもし絶体絶命の境地に立った時、後悔しない死に様で散る事すら

出来ないだろう。

 

「あの子にはトラウマがあるのさ。最初の魔族の襲撃の時、アイツの友達はみんな殺されちゃって

それを隠れながら目の前で見てたらしいんだよ。それ以来すっかり自分に自信を無くしたみたいで、さ。」

「そう・・・ですか。」

 オグマは思いを馳せる。己の集落に残してきた仲のいい友人たち、ミルグにキール、

ベリーラやトッコ。彼らは石となり、自分だけが生き延びた。戦う事すら出来ないままに。

 自分と似た後悔を抱えるあの少年に、オグマは共感(シンパシー)を感じずにはいられなかった。

 

「俺にも・・・手伝わせてくれませんか!」

 オグマの言葉に、周囲にいる獣人たちが一瞬沈黙し・・・そして歓喜に沸く。

「ありがてぇ!これで奴等ぶっちめられるぜ!」

「ヒャッホーッ、目にもの見せてやるぜ魔族ども。」

 喜ぶ仲間たちの中心で、メンフィスはオグマに頭を下げる。すまない、よろしく頼む、と。

 

 刃の研ぎが終わり、鞘の中でその会話を聞いていたナタルコン。彼だけはその目を赤く染め、

不快な感情に身を焼いていた。

 

 と、カーン!カーン!と石を叩く音が鳴り響く。その音を受けて宴会をしていた獣人たちが

一斉に立ち上がり各々の武器を手に取る。女子供は戦士に薬草を手渡し、家の中に下がる。

 

 -ヤツラだ!北東の方角、来たぞーーーっ!!-

 

 

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