さぁ、いよいよこの話!クライマックスご一緒に!!
夜明け前のパプニカ王国、バルジ海峡の砂浜にて。
「ぷはぁっ!」
「どうでしたか?クロコダインさん。」
まるで地引網のようにクロコダインを引き上げたチウの問いに、そこにいる全員が注目する。
「うむ、やはりきらりんの言った通りだ。海底は以前とは全く違っておるな。深く亀裂が入り、
そこから遥か底に向かって水が流れ落ちておる、明らかに自然の渦ではない!」
あれから1か月、地上に戻ったきらりんはこちらの仲間に事情を説明して協力を要請していた。
”転移の円”が使えなくなってしまった事、そしてバルジの大渦のすぐ下に、魔界まで届く水脈が
通じている事。なのでそこの空間を確保し、地上と魔界の結界を破って柱を直接送り込めないか、と。
難関は海底の調査だった。なにしろそこは荒れ狂う大渦の中、そんな所に潜って海底調査など
よほど泳ぎ達者なモンスターでもなければ不可能だろう。
で、クロコダインの出番というわけだ。
であるし、かつてこの海で修業をし、必殺の”獣王激烈掌”を習得した経験もある。
その彼が潜った結果、魔界側の仮説が正しい事が証明されたのだ。
「よっしゃ、だったら早速やるか!」
「「おーーーーっ!!」」
マトリフの激に応えてきらりん、まぞっほ、へろへろの魔界勢に加え、協力者のポップに
チウ、クロコダインが声を上げ、ヒュンケルとラーハルトもやれやれ、といった笑顔で
手だけを上げる。
作戦は至ってシンプルなものだ。
地上と魔界の境にある結界を海底ごと抜こうという、何とも力技極まるものである。
「精霊は人の心を誘導したり、周囲に根回をすることが多いからのう。」
「やるなら一気呵成の方が成功率は上がるだろうな。」
作戦の立案者は実はへろへろとまぞっほの二人だったりする。彼らもこれまでの経験から、
小細工抜きのイケイケ作戦の方がむしろ成功率は高いと睨んでいたのだ。精霊に察知されるのを
警戒してこれまで下見を控え、当日ぶっつけ本番で挑む事となった。
加えるなら今日は満月、大潮の日だ。月と太陽が東西に分かれる夜明けは一番潮が引く
時間帯、水位が下がって海底が近づくこの薄暗い早朝こそ、作戦に最適なタイミングなのだ。
「んじゃ、パパッとやっちまうか。」
「調子こいてヘマすんじゃねぇぞ。」
ポップとマトリフの師弟がいつもの調子でコンタクトする。地上で表立っての協力者は
多くないが、その中にメドローアを撃てるのが二人もいるのはなんとも贅沢な話だ。彼らは
トベルーラで渦の真上に位置し、遅れてヒュンケルが鳥のモンスター、ガルーダに肩を掴ませて
同じ高度まで舞い上がる。きらりんは少し離れた
ように魔法力を高めてスタンバる。クロコダインは再び海に入って現場状況の把握に備え、
彼の命綱である鎖を掴んだチウが気合を入れる。残りの面子はバルジの塔に上り、事態の推移と
精霊の襲撃に備えて見張りにつく。
マトリフが、ポップが、空中で魔法を発動させる。左手にメラ、右手にヒャドを灯し、
まずマトリフが光の弓矢を作って引き絞り、直下の大渦の中心を狙う!
「
-ズバッシュワアァァァァ-
光の矢が海水を抉り、その先の海底にひび割れる裂け目に大穴を空ける。まるでそんな
チマチマした隙間から落としてんじゃねぇ、と言わんばかりに空間を広げる。
そしてその魔法が、海底の一点でバシュン!と弾かれる。全てを消滅させるメドローアをも
止める結界!
「次は俺だ・・・
ガルーダに吊り下げられたヒュンケルが闘気砲を放つ。かつてのバーンパレスの心臓部と同じ
魔法力を吸収する性質のある結界は、強力な闘気エネルギーをぶつける事により粉砕できると
睨んでの一撃!
「
追随して呪文を撃ち出すポップ。きらりんの情報によれば、闘気で貫いた先にまた、
魔法でないと突破できない類の壁があるそうだ。言うなればバーンパレスの魔力炉の壁と
キルバーンの”ダイヤの9”が重ね掛けされているようなものだ。ならばと闘気と魔法の
波状攻撃で一気に結界を破りにかかる二人。
-ズドドドドドドドドォォォン-
海が十字に割れ、轟音と振動が一帯に響く。グランドクルスとメドローアが海底深くに
吸い込まれて行ったと同時に海が閉じ、その圧の勢いで高々と水柱が上がる。
やがて轟音が収まり、振動が止まり、海は再びゆっくりと渦を巻き始める。
「ど、どうなった・・・?」
「通った、のか?」
「クロコダイン、確認を頼む!」
皆を見上げてこくりと頷き、海に入っていくクロコダイン。
彼は確認のために黙々と潜り続ける。潜る度に水圧が増して体を圧迫するが、彼にとって
耐えられない程のものではない、この水中で動けるのは俺だけなのだ!と己を鼓舞して潜り、
ついに地魔の境界に達する。
(これは・・・網目状の結界か、まだあったのか!)
そこにはまるで金網のような結界が張り巡らされていた。隙間はあるが人が一人通れるか
どうか程度のものだ。これをどうにかしないと、あの柱を落とす事は叶うまい。
(グフフフフ、面白い。ワシにも出番があったか。)
そう言うや否や、彼はその網目状の結界を鷲掴みにする。それを拒むように電撃がビリビリッと
彼の指を傷めるが、その程度でどうこうなるようなヤワな男ではない。両手で結界を握りしめ、
腕に闘気を通し、螺旋に巻いて指先に送り込む!
「獣王の
-ブチブチブチブチィッ!-
結界を掴んだまま獣王激烈掌を放つクロコダイン。当然のように結界は闘気流に巻かれて
まるで蜘蛛の巣を引きちぎる様に一帯の結界を吹き飛ばす!
「ぬぁ・・・し、しまったぁっ!」
地上と魔界の堺が無くなったことで、当然のように魔界の方へ吸い込まれていくクロコダイン。
いかに泳ぎ達者とはいえ下方に流れる水流に逆らって泳げるはずもなく、また命綱の鎖も
引き込まれる力の凄まじさにあっけなく切れてしまう。
「うわぁっ!ク・・・クロコダインさんっ!」
チウが手ごたえの無くなった鎖のせいで尻もちをつき、残りの面々も心配げに海面を見つめる。
果たして、魔界への道は繋がったのか・・・?
「何か落っこちて来たぞ!!」
魔界。トリアン大陸のギレネスの森近く、オグマ達が最後の柱を建てるべく集結していた
その地に落ちる水の中、何かピンク色の物体が紛れていたのを見つけた作業員がそう叫んだ。
先日リヴィアスがぶち抜いた水脈は、今やこの地に大きな湖を作るに至っていた。幸い
ミールが水脈を読んで職人たちに指示し、別の水路に水を流すことに成功していたので
この辺一帯の水没は免れていたのだが。
「ぶはぁっ・・・いやぁ失敗失敗。」
水から上がり、がっはっはと笑うその
「クロコダインさん!」
「おう、オグマか。と、いうことは・・・ここが魔界か。」
かつて地上、ロモスの城の前で相対し、お互いを認め合った獣人同士が久しぶりの再会をする。
両者も、そして彼を知るナタルコンやリヴィアス、ミールも確信する。これで地上と魔界が
繋がった!
その旨を皆に説明すると一同大いに盛り上がった。これであとはきらりん様が柱を持って
来るだけだ、建てる準備は万全だ、精霊対策もバッチリしている、さぁ、いつでも来い。
「っていうか、地上に”魔界まで抜けた”って、どうやって伝えるんだ?コレ。」
「「・・・あ!」」
リヴィアスの言葉に一同がフリーズする。考えてみれば確認のために海に潜ったクロコダインが
落っこちてしまったために、地上の皆が魔界まで繋がったことを知る術がない・・・これでは
向こうも柱を落としていいのか分からないじゃないか!
う~ん、と悩む一同。ただ度々おんぶしているリヴィアスの肩を叩いて「私、私!」と
アピールするミールは皆が見ていない事にする。
「無・視・しないで・くださいっ!」
後ろからリヴィアスの頬をぎゅーっ、とつねって伸ばすミール。思わぬリヴィアスの変顔に
たまらず笑いこける一同、無視する作戦はあえなく失敗した。
「行けるのか?ミール殿。」
「落ちる水の一部を逆流させれば簡単ですよ、任せて下さい!」
クロコダインの問いに両手をぎゅっと握って笑顔で返すミール。水竜と魔族の
彼女なら、あの落下する水を滝登りするのも不可能ではないかもしれない。だが・・・
「却下。」
「大丈夫です、リヴィアスさんのトベルーラと併用すれば、使う寿命はほんの3月ほど・・・」
『せっかく先の大会で”神の涙”を使う権利を得たのだ、それまで生き延びて貰わねば。』
「ですがきらりん様が吉報を待っているはずです、時間をかければ精霊にも気付かれるかも。」
喧々囂々の魔界勢。ミールは能力を使うごとに寿命を縮め、幼くなっていく体質の持ち主。
出会った時は成人女性だった彼女は、今や5歳児ほどにまで若返ってしまっている。そんな
彼女を救わんとして、あの勇者ダイとの戦いで彼女の救済を約束させたのだ。神の涙の復活まで
何としても寿命を延ばしてもらわねば、と能力の使用を認めなかった。
だが他に地上に知らせる方法が無いのも事実だ。現時点で地上と魔界を行き来できるのは
きらりんしかいない、その彼女が地上で待っている以上、誰かが境界を超えて報告に行かねば
ならないのだ。
しかも時間的猶予も無い。せっかく地上で速攻の作戦を立てたのに、ここでグズグズしては
何が起こるか分からない、今この場では時間こそ何より貴重だ。
結局、妙案は出ずに、ミールに頼らざるを得なくなった。
「すまぬ・・・俺の不覚だ。事が済んだら”凍れる時の秘法”とやらをアバン殿に模索して貰おう。」
頭を下げるクロコダインに、気にしないでくださいと笑顔を向けるミール。
「私は元々、父と同じ大罪人です、その私が魔界を救うのに何の躊躇がありましょう。」
-どっぱあぁぁぁぁ・・・ん!-
地上。大渦のど真ん中から豪快に飛び上がるリヴィアスと、その背中におんぶされたミール。
「な・・・リヴィアスか!」
「ってことは、魔界に通じたのか?」
ヒュンケル達に親指を立てて頷き、作戦続行を伝えるべくきらりんのいる柱に飛ぶ二人。
渦の周辺の面々は皆「いよっしゃ!」とガッツポーズを作り、思わず白い歯を見せる。
「きらりん、OKだ。あとは柱を運ぶだけだ!」
「これが最後です、きらりん様!魔界をお救い下さい!!」
リヴィアスとミールの言葉に、きらりんがありったけの魔法力を柱に注ぎながら、力強く頷く。
「うんっ!」
「
きらりんがそう唱えた瞬間、柱がズズズ・・・と音を立てて浮き上がる。地面に刺さった部分が
露出し、完全に宙に浮いた柱が、まるで気球のようにゆっくりと横移動を始める。
少しづつ、少しづつバルジの大渦に近づいていく
固唾を飲んで待ち構える。
そして、ついに柱が渦の真上で停止する・・・その時!
「精霊だ!来たぞーーーっ!!」
バルジの塔の上から絶叫したのはラーハルトだ!彼の見上げる方向、西の上空から一人の
成人女性の姿をした者が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「させるかよ!」
マトリフが、ポップが、リヴィアスが、
立ちはだかる。リヴィアスの背中のミールが、大声できらりんに皆の意見を代弁する
「ここは私たちに任せて、柱を魔界へ!!」
「現れた・・・か!!」
魔界。オグマ達の前に一体の精霊が姿を現す、もう間もなく柱が来るであろうこの場に。
『輝きのシア!ここで貴様が来るか!!』
ナタルコンが空気を震わせて言葉を叩きつける。その先に居るのはオグマ達にとって最も
因縁の深い相手、精霊”天の8行、輝きのシア”。
-プッシャアァァァ・・・ズ・・・ズズズズズズ-
その時だった。天から降り注ぐ水が突然に爆ぜ、そこから一本の柱が水をかき分けて現れた。
落水のドレスを纏って降りてくるその柱を見て一同はガッツポーズを見せ、シアに向かって叫ぶ。
「もう遅いぜ!俺達の勝ちだ!!」
「帰りな精霊!およびじゃ無ぇ!」
「いい加減諦めろ・・・さもないと・・・!」
やがて頂上まで姿を現す柱。その頂上のテラス部分に立っていたきらりんがシアの姿を見て、
思わず声を出す。
「精霊・・・こっちにも!」
ふわりと飛び降り、オグマの後ろに降り立つきらりん。
「大丈夫だ、柱に集中してくれ!」
『因縁の相手故、我らで何とかしてみせる!!』
オグマとナタルコンが、でろりんとずるぼんが、サルトバーンの精鋭たちが立ちはだかり
きらりんの仕事を邪魔させまいとシアを睨む。その彼女もまた、スッ、と地面に降りたつ。
と、その時。彼女の傍らに一匹の大きな黒い影が、寄り添うように現れる。
地上。既に柱を下に届け終わったその場で、一同が精霊と対峙する。白い髪の毛をまるで
雲のようにカールさせた、どこかおっとりとした雰囲気のその女性は、彼らを見て微笑むと
こう声を発した。
「初めまして、魔界に加担する愚かな皆さん。私は精霊、天の8行”昇りのクト”です。」
喋りながらも高度を下げ続け、そのままチウのいる砂浜まで降りてくる精霊クト。彼女を
追ってダダダッ!と降りてきた一同が取り囲む。
「喧嘩売ってんのなら容赦しねぇぜ、お嬢さんよ。」
そんなマトリフの言葉にも動揺を見せずに、クトはこう続けた。
「あなた方を制裁する、新たな天界の戦士を紹介しましょう。」
その時だった、砂浜からいきなり一匹の黒いトカゲがズサッ!と這い出てくる。
それはクトの際に寄り添うようにうごめいて止まる。
「「
地上でリヴィアスが、ミールが叫ぶ。
同時に魔界でオグマが、ナタルコンが、そしてきらりんが叫ぶ。
喰った相手の能力を取込み、無尽蔵に成長する恐るべき怪物!
―クケェヤアァァァァ・・・-
地上と魔界、同時だった。その怪物はいきなり直立すると、その姿を変形させ始めたのだ!
イモリのような姿から、人間や獣人に近い手足、頭部、そして顔まで変化していく。
血を吹き出し、骨を砕き、皮膚を千切り破りながら変形を繰り返す怪物。そしてその成り代わる
先の姿に、彼らは驚愕と衝撃を心の芯に走らせる。
「ケ・・・ケプラーーースっ!!」
地上でリヴィアスが絶叫する。かつてオグマと死闘を演じた
背中のミールも目を潤ませ、かつての頼もしい仲間の成れの果てに悲しみと、そして怒りを
滲ませる。
「ガノイザアァァァァーーーッ!!」
魔界でオグマが叫び声を上げる。無敵の体術を誇った頼もしい
彼らの目の前に立っていた。
「ガノイザーさん・・・」
きらりんが顔に手を当ててこぼす。かつて自分に味方してくれた頼もしいあの人が、今は
魔物に取り込まれて天界の傀儡になっている事に悲しみを滲ませる。
「それ以上動くな!」
地上。ラーハルトが
奪ってくれよう、との怒気を込めて。
だが、クトは穏やかな笑みを絶やさぬままに、こう彼に返した。
「いいのですか?”これ”を見てもそう思いますか?」
そう言って両手で何かを抱えるポーズを見せる。と、その手の中に青い光がぽっ、と灯る。
「・・・え?」
何か心当たりがあったわけでは無い。だがラーハルトはその光を見て動きを止めた、何だ?
俺は・・・あの光を、知っている?
音もなく手を差し出すクト。その手にあった光が、ケプラスに変化した融合の顎に向かい、
スゥッ、と体内に同化していく。
「魔界のオグマ、魔界皇ヒュンケルの懐刀ナタルコン・・・あなた方に相応しい戦士を
用意しました。」
魔界。シアがそう言って手に生み出した光をスッ、とガノイザーの肉体に投げつける。それは
触れた途端に同化し、その体を光に包む。
「「
地上でクトが、魔界でシアが同時に、同じ呪文を唱える。
その瞬間ケプラスが、ガノイザーが、その体を震わせ、再び体を変態させていく!
”魂”に合わせて”肉体”を作り替える、天界固有のその呪文によって。
「グ・・・グオオォオオォッォォォッ!」
地上。ケプラスの体は圧縮され、その巨体は人間ほどの体躯に縮められて行く。背中の翼は
よりコンパクトな、まるでコウモリのように黒い物になり、黄土色だった体は赤黒く変色する。
両手の甲には、まるで竜の顎のような膨らみが生まれ。背中から生えた爪が脇腹を鎧のように
覆う。顔は完全に人のそれになり、黒い髪の毛と口髭を備え、人ならぬ牙を剥き出しにして
魔獣のように吠える!
ポップは、ヒュンケルは、そしてラーハルトは彼を知っていた。その赤い魔獣の姿を、
そしてその額に輝く、青い竜の顔の紋章を!!
「な・・・なんで、っ!?」
「バカな・・・ありえんっ!!」
驚くポップ、吐き出すヒュンケルに続いて、ラーハルトが震えながら、ようやく声を絞り出す。
「・・・バラン・・・様。」
「グ・・・フシュウゥゥゥゥゥ・・・」
魔界。ガノイザーの体は、まるで痙攣をおこしたように何度も跳ね、その度に体格を少しづつ
変化させていく。竜の耳は失われ、筋肉質だった肉体はそのままに、やや上半身の方が
より強靭に作り替えられていく。青かった肌は白みを帯び、存在しなかった頭髪が生み出される。
燃えるような真紅の髪と瞳を持った男の姿に変態した、ガノイザー”だった”男は変形を終えて
フシュー、と息をつくと、シアをかばうように立ちはだかり、オグマを不敵に睨んで対峙する。
「貴様が、天界の戦士か!」
ナタルコンを向けて構えるオグマ。が、その赤毛の戦士はまるで動じず、平然とオグマに
歩を進める。
「来るか・・・えっ?」
-カタカタ・・・-
その時オグマは違和感に気付いた。いつもならナタルコンが暗黒闘気を発し、それにより自分の
光の闘気を圧縮して高めるはずだ。だけど今はそのナタルコンが闘気を発しない・・・
それどころか小さく震えている・・・俺が?いや、ナタルコンが、だ!
ばっきぃぃん!
「んなっ!?」
突然、ナタルコンが爆ぜた。正確にはあのロン・ベルクに作ってもらったミミックの鞘が
弾け飛んだのだ。それが他からの力ではなく、ナタルコン自身がやった事だけはオグマには
よく理解できた。
(ナタルコン・・・一体?)
赤毛の戦士が、オグマの眼前で右手を伸ばす。
「久しいな、
・・・え?
パチッ!
ナタルコンが暗黒闘気の火花を散らしてオグマの手を振りほどき、赤毛の戦士の目の前に
ゆっくりと飛んでいく。
『お、おおお・・・お会いしとう御座いました・・・我が主、
何だって?今、ナタルコンは、何を言った・・・?
戦士のその手が、ナタルコンの柄をぎゅっ、と握る。その時のナタルコンの瞳の宝玉は
今まで誰も見たことが無い色をしていた。
-まるで恋焦がれていた恋人にようやく会えた少年のような、嬉しさを隠さない瞳-
◇ ◇ ◇
天竜山。
-魔界皇ヒュンケル・・・まさか、まさか奴が、天界の狗に・・・-
ヴェルザーの残留思念が、遠くの地での出来事を察知して驚愕する。かつて自分が若き頃に
魔界を牛耳り、あの雷龍ボリクスをも従えた無敵の剣豪。
先日感じた、天界に封じられた我の魂が感じた、あの場から持ち出された魂が、まさか
あのヒュンケルの物だったとは・・・!
◇ ◇ ◇
-ピュンッ-
ナタルコンは歓喜していた。かつての主そのままの、その静かに空気を切り裂く
鮮やかで優雅な手さばき体捌きで、己を突き出すその懐かしい剣撃に。
-とすっ-
ナタルコンは感動に打ち震えていた。敵の皮膚をまるで紙のようにすり抜けて、相手の
心臓に己を突き立てる、遥か太古より変わらぬその主の底知れぬ技量に。
-さくっ-
ナタルコンは充実の極みにあった。敵を斬ることを使命として生まれたナイフとして
鮮やかに敵の心臓を両断してのける、その快感に。そしてそれを成す使い手と共にある事に。
-ドサッ!-
ナタルコンは幸福感に包まれていた。今、確かに我は主ヒュンケルと共にある、その事実に。
もう何千年もの昔、あの悲劇より二度と叶わぬと思い、それでも渇望し続けて来た。
その瞬間が今、ここにあった。
嗚呼、我が主、魔界皇ヒュンケル様、よもや貴方と再び共に在る、そのような時が来ようとは。
貴方の手にあり、貴方に振るわれ、貴方と共に戦う。それこそが我の望みであり、全て・・・
ナタルコンの至福の時間、それは自分が刺し貫いた
弟子であり相棒でもあった死体を見ても、そこから花咲く血だまりを認めても・・・終わる事は
無かった。
-オグマさあぁぁぁぁぁんっ!!!-
惨劇が、始まる。
80話のアンケートクイズ”裏切者は誰だ?”の正解はナタルコンでした。
当てた方お見事。