魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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さぁいよいよ10章!クライマックスの戦いをご堪能下さい!


第10章 リヴィアスの戦い、オグマの戦い。
第101話 俺は今、おそろしく冷静だ!


「オグマさあぁぁぁぁぁんっ!!!」

 

 きらりんの絶叫が魔界に響き渡る。

 

 あまりに驚愕の光景。あの光の人熊(ウォーベア)が、相棒だった筈の暗黒の短剣(ナタルコン)に心臓を貫かれ、

地に倒れ伏すその様に硬直した魔界の一同が、その言葉で我に返り、動き出す。

 

「きっ、貴様っ!!」

「オグマ!返事をしろ・・・無事かっ!?」

「何だ?なんで、ナタルコンが・・・」

 仁王立ちする赤毛の魔族に、地に倒れたオグマに、宙に浮かぶ精霊に、そして魔族の手に

握られた短剣に浴びせられる驚愕の声。果たして敵が誰なのか、それすらも把握が難しい状況だ。

 

「待て!きらりん、どこへ行くつもりだ!!」

 オグマのほうに駆け寄ろうとしたきらりんの肩を掴んで止める父でろりん。

「オグマさんが・・・オグマさんがっ!早く回復呪文(ホイミ)をかけないとっ!!」

 涙を浮かべてオグマに駆け寄ろうとするが、父はそれを許さない。

「柱をどうするんだ!今お前が魔力を外したら、もう二度とアレは建てられないぞっ!」

 その叱咤にはっ!とするきらりん。そうだ、今も大魔王の破壊柱(ピラァ・オブ・バーン)はきらりんの浮遊呪文(ウクルーラ)

空中を漂い、所定の位置に収まるのを待っている状態だ。ここで彼女がオグマに向かえば

魔力を失った柱は横倒しになり、最悪折れたり粉砕してしまう可能性すらある。

 

「アタシに任せなっ!」

 困惑する父娘に(ずるぼん)が助け舟を出す。でろりんとアイコンタクトしてオグマに駆け寄り、

回復魔法をかけて彼を救わんとする。

 精霊も魔族も無視してオグマに取りつき、ベホイミを発動しようと手をかざすずるぼん。

が、その時、傍らにいた赤毛の魔族が、その手の短剣(ナタルコン)をすっ、と彼女に向け・・・

 

「獣王激烈掌!!」

 その瞬間、魔族はクロコダインが放った闘気流に巻かれる。修羅場慣れしている彼にとって、

オグマを刺したその瞬間からその魔族は明確な敵だった、例えナタルコンが奴の側に

ついたとしても、だ。

 

 -ズザザザザザァーーーッ!-

 

 激烈掌に飛ばされながらも、その魔族の両足は地から浮かない。踏ん張る足が2本のレールを

引いて行き、やがてザッ!と止まる。

(不意打ちで当ててなお、踏みとどまるか・・・)

 心で唸るクロコダイン。その実力を推し量って背筋が凍る、あの当て方で姿勢も崩さず、

表情すら変えないとは・・・こ奴、バラン(クラス)の強さがあるっ!

 

 刹那の後、ふたりの戦士が赤毛の魔族に突進する!クロコダインが作った隙を逃してなるかと

サルトバーン自警団の肉体派、マヌガンとクラックがスレッジハンマーとニードルスリングを

敵に撃ち込・・・

 -するっ-

 まるで通り抜けるように、ふたりの攻撃をスルーする魔族。次の瞬間マヌガンとクラックは

胸から盛大に血を吹き出して、絶叫を上げる事すら叶わずにその場に倒れ込む。

 

「なかなかやるな、鰐人(リザードマン)よ。」

 短剣(ナタルコン)をクロコダインに向けて涼し気にそう語る赤毛魔族。今しがた斬り捨てた

2人の戦士など眼中にないと言わんばかりに。

 

(つ・・・強いっ!!)

 その場の戦士たちが同時に同じ認識をする。目の前にいるこの魔族・・・化け物だ!

 

 一歩、二歩、クロコダインに歩みを進める魔族の横に、輝きのシアがすいっ、と飛んできて

声をかける。

「魔界皇ヒュンケル、言ったはずです。貴方が優先すべきは・・・」

その言葉が周囲の戦士たちの背中をざわっ、と撫でる。あの・・・伝説の、剣豪?

「分かっている、シア。お前こそ約束の物を。」

 手を出す赤毛に、シアは頷いて両手を胸に合わせる。と、胸に一筋の光が灯り、それは一本の

剣となって具現化する。抱きしめたそれを、惜しむかのように赤毛に渡すシア。

「うむ、これもを手にするのも久しい、”覇者の剣”よ。」

そう言ってナタルコンを懐に仕舞い、剣を掲げて満足そうにそうこぼす赤毛の戦士。

 

「では、注文に応えるとするかな。」

 そう言ってヒュン!と剣を一振りすると、彼はオグマでもなく、きらりんでもなく、

未だ宙に浮く大魔王の破壊柱(ピラァ・オブ・バーン)の方に歩みを進める。

 

 一同がその男の所作に固唾を飲んで見守る中、柱の目の前まで進んだ奴は、覇者の剣を

大上段に構え、にやりと笑って腰を落とし、そこから一気に大ジャンプする。

 

(まさか、剣で柱を斬る気か・・・?)

 誰もがあり得ないだろうと思いつつも、その姿から目を離せない。あの伝説の剣豪なら、

あるいは、まさか、本当に・・・?

 

三界一刃斬(トライ・エッジ)!!」

 大きく体を反らし、渾身の縦降りの一刀を放つ赤毛の男、その剣の光跡がピラァを突き抜けて

遥か向こうの魔界の空を、山を、大地を照らす!

 

 -するり-

 まるでキュウリを縦に両断したように、真ん中から左右に分かれる大魔王の破壊柱(ピラァ・オブ・バーン)

それはゆっくりと開いていき、逆ハの字を描いて傾いていく。誰もが大口を開いて言葉を

発せないまま、両断された柱は左右に綺麗に倒れ、轟音と振動と、そして土煙を巻き上げる。

 

 -ごおぉぉぉぉぉぉ・・・ン!!-

 

 その瞬間、魔界に6本の柱を建てて”魔界を閉じる”計画を阻止する彼らの試みは、最後の柱の

倒壊と共に・・・潰えた。

 

     ◇           ◇           ◇    

 

「りゅ・・・竜魔人、かよ!」

 ポップがかつての魔獣の姿を目にして冷や汗を流し一歩後ずさる。ダイの親父であるバランが

この場に居る事も勿論驚きだが、その姿は理性を失った破壊獣のスイッチが入っている証拠だ。

もし今、少しでも奴に刺激を与えたら・・・

 

「バラン様!」

 かつての部下であり、義理の息子ともいえるラーハルトが緊張した面持ちのまま駆け、バランの

眼前に跪いてそう声をかける。懐かしい理解者であるはずの義父だが、そのあまりに異様な

登場の仕方に戦慄を隠せない。

「・・・ラーハルト、か。」

「ははっ!!」

 バランの声に安堵し、感激の声を上げるラーハルト。自分の事を覚えている、ならばこの方は

間違いなく敬愛すべきバラン様だ!

「・・・殺せ。」

「・・・え?」

感情なくそう言うバランに、ラーハルトは間抜けな返ししか出来なかった・・・聞き違い、なのか?

 

「魔界に味方する、この人間(ゴミ)共を、殺せと命令したのだ。」

 高揚の無い声でそう告げるバラン。そのどこか人間を卑下したトーンを感じさせる声に、

ラーハルトは今のバランがやはりまともでない事を知り、切なさに胸を詰まらせる。

「お言葉ですが・・・バラン様、こいつらは敵ではありません!」

 深々と頭を垂れ、祈るような気持ちで告げるラーハルト。例え精霊に利用されているとしても、

バラン様なら俺が誠心誠意説得すれば、目を覚ましてくれるはずだ、と。

しばしの沈黙・・・そして、アクション。

 

 -バッキイィィィィッ!!-

 

「愚か者があアァァァァァァッ!!」

 跪くラーハルトの横っ面を裏拳でぶん殴るバラン。目を赤く染め、牙を剥いて吠える。

横殴りを無抵抗で受けたラーハルトは吹き飛び、そのまま砂浜を転がっていく。その最中に

彼が感じていたのは・・・肉体の痛みでは無かった。

(バラン・・・様。)

 尊敬する義父の変わり果てた姿、それは破壊と憎悪の塊。それを今、自分にすら向けてなお

怒りを撒き散らすその姿に心を痛める。

「ラーハルト君!」

 チウが駆け寄って声をかける。うつ伏せに倒れたラーハルトは肩を小さく震わせていた・・・。

 

「あれがダイのクソ親父かい・・・!」

 ビュウゥゥゥン、とその手に魔法力を灯したマトリフが、バランを睨んでそう吐き捨てる。

「だ、駄目だ師匠っ!今あいつに攻撃したら・・・」

「止めろマトリフ老!ポップの言う通りだ、爆弾に火をつけるような物だぞ!」

 ポップとヒュンケルが思わず叫ぶ。あの状態のバランに攻撃すれば、あれは理性を失って

周囲にいる者たちを容赦なく皆殺しにするだろう、うかつな行動は命取りだ・・・

 

「ビビってんじゃねぇ!冷静(クール)と臆病は同じじゃ無ぇぞ!!」

 左手にも同じ魔法力を灯すマトリフ。爆裂呪文が両手から半円を描いて稲妻を撒き散らす、

極大爆裂呪文(イオナズン)!魔法のついでに宙に浮かぶクトを横目で見て悪態をつくマトリフ。

「ったく、天界ってのは何でもアリだなぁ精霊さんよ!どうせならロカの奴を生き返らせて

みせろってんだ!」

 

 発射寸前の極大呪文と対峙したバランは、その使い手マトリフを細目で睨む。

「死にたいらしいな・・・老いぼれが!」

 -ぞわっ!!-

魔獣がその身を震わせて一歩踏み出すと同時、ポップとヒュンケルに戦慄が走る・・・マズい!

 

「えっ!?」

「何?」

「はぁ?」

 

 次の瞬間、3人は眼に映る光景に目を丸くして呆けた声を出す。

 

 バランの背後、音もなく降りて来たリヴィアスが、刺突槍(コーンランス)をおもいっきり振りかぶって

構えていたからだ。

 

 -ガツーーーーーン!!-

 

 刺突槍(コーンランス)のフルスイングがバランの側頭部に直撃する!予想もしない方向から強打を

受けたバランはもんどりうって吹き飛ばされ、そのまま浅瀬の海にザバババッ!と転がり落ちた。

 

 -!!-

 

 全員の時間が止まる。ポップはやっちまったよ、と驚愕の表情。マトリフは逆にナイスだ!と

拳を握って笑顔を見せる。

 そして・・・ヒュンケルとラーハルトは、その瞬間に思い出していた。今この場でバランと

最も戦うべき人物の存在、バランと出会ったなら、一も二も無くバランに負けぬ魔獣と

化すであろう男の存在を!

 

 そしてバランが全身を濡らしたままゆっくりと起き上がる。それはまるで破裂する寸前の

風船のような、導火線が燃え尽きた爆弾のような、まさに怒りを煮えたぎらせた爆発寸前の

飽和状態であった。

 

「俺の好敵手(ダチ)に何してくれてんだよ、オッサン。」

 コーンランスをバランに指し向けてそう告げたのは誰あろうリヴィアスだ。背中に

ミールを背負ったまま、意気らず、気負わず、自然体で立ち構える。

「・・・え?」

「な・・・」

 ヒュンケルが、ラーハルトが思わずこぼす。かつて故郷を、家族を、幼い妹を背中で

死なせた男が、その不倶戴天の敵と邂逅しているというのに・・・

 

 そこにいたのは、怒り狂うバランとは真逆の、凛として堂々とした槍戦士(ランサー)だった。

 

「ゴミがあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 海の水を蹴散らして一直線にリヴィアスに向かうバラン。だがそれもリヴィアスにとって

織り込み済みの行動だ。

瞬間移動呪文(ルーラ)!」

 バランの爪にかかる直前、リヴィアスはルーラを発動させて天高く舞い上がり、そのまま北西の

方向にすっ飛んでいく。

「逃がすかあアァァァァァ!!」

すかさず魔法力を纏い、ルーラで追撃をかけるバラン、瞬時にその場での戦闘は終わりを告げた。

 

「リヴィアス・・・あいつ。」

 立ち尽くしてそう嘆くラーハルト。あのバラン様を殴りつけたのは、他ならぬ俺が殴られた事に

対しての”お返し”だと言うのか?

 ヒュンケルもポップも、そしてチウも、リヴィアスのあの冷静な態度が不思議だった。

ただひとり、マトリフだけはその様に感心しきりだった、戦いの最中は冷静(クール)でなくっちゃ

いけねぇ、戦士やらしとくには惜しいタマだぜ!と。

 

 

 ルーラで飛びながら、リヴィアスは背中のミールに声をかける。

「どうやら俺の背中は今、”世界一危険な場所”になっちまったぜ・・・降りるか?」

さもありなん。怒り狂う(ドラゴン)の騎士の標的にされたとなればそこは死に最も

近い場所であろう。だが、ミールは笑顔で首を横に振る。

「いいえ、ここは変わらず”世界一安全な場所”です、今の貴方なら。」

 

 ミールはバランが姿を現したあの時から、リヴィアスの体温が高くなるのを、そして

血液や筋肉が今までに無い程高ぶっているのを、背中から直接感じていた。この興奮状態は

危険だと、冷静さを失っているのでは・・・と。

 だがリヴィアスの頭は至って冷静だった。あの憎むべき仇に激高するでもなく、冷静に

一撃を加えて挑発し、あの場の皆からバランを引き離した。そして、このルーラで向かっている

方向が、今のリヴィアスが誰よりも頼もしい”戦士”であることを証明していた。

 

「なぁ、ミール。」

 飛びながら瞑目して話すリヴィアスに、こくり頷いて言葉を待つミール。

「俺さ、もしアイツと出会ったら、もっと取り乱すと思っていた。怒りに狂って激昂して

暴れると思っていた・・・正直自分でもびっくりしているよ。」

「あなたが冷静なのは当然ですよ、あなたはただの復讐鬼では無いのですから。」

 

 ミールは言葉を紡ぐ。それは彼女が聞き及んだ、そして同じ時間を過ごして知った、

リヴィアスという戦士の物語。

「師匠ロズテナーさんの言葉を聞き、オグマという好敵手と出会い、ナタルコンという

復讐のシンパシーを感じる武器と出会って・・・」

 気恥ずかしそうに頬を掻くリヴィアスに、さらに物語を語る。

「きらりん様の頑張りを見て、フィガロさんの心に救われて、ラーハルトさんと戦い通じて、

様々な精霊たちと相対して、今あなたはここにいます。」

 

「そして、俺に背中を許した・・・俺の過去のトラウマを洗い流してくれたお前も、な。」

「はいっ。」

 

 顔を見合わせて笑い合い、そして進むべき目的地を見据える。俺がバランと決着をつける

場所、それはあそこしかあり得ないのだから。

 

 力が漲る、心が開ける、頭が冴え渡る、ついにあの竜の騎士、バランとの対決を迎えて・・・

 

 -俺は今、おそろしく冷静だ!-

 




今回のタイトルは、作者の好きな漫画からの引用でもあります。
このくらいなら規約に引っかからない・・・よね?
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