魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第102話 人生

 -バシュゥン!-

 リヴィアスと背中のミールがルーラでの目的地に到着、そのまま下には降りずにトベルーラで

追撃してくる光の矢を待つ。

 -ビシュゥン!-

 間を置かず彼らの目前に到達するルーラの光。その輝きが霧散した時、中にいた魔物が

鬼の笑みを浮かべて瘴気のような言葉を吐く。

「グハハハハ・・・逃げられるとでも思ったのか?」

 追撃の時間があったからだろうか、先刻は問答無用で躍りかかって来た竜魔人バランは

悪態をつく余裕があった・・・それもわずかな間だけではあろうが。

 

「逃げていたんじゃ無ぇよ、ご招待したのさ。()()()にな。」

「・・・何、だと?」

 バランにそう告げたリヴィアスは、そこからすっ、と下に降りる。それに反応して降りる

リヴィアスの先の、眼下の光景を見る。

 それは異様な光景だった。国、というわりに、そこには森の中にぽっかりと湖があるばかりで

街並みも、城も、人もいない。ただ湖のふちに何か小さいものがずらりと並んでいるのみだ。

 泉の淵に降り立ったリヴィアスは、そこにある棒きれを手に取り、巻き付いている布を広げて

未だ宙にいるバランに向けてばっ!と広げる。

 

 -中央に三日月、左翼に竜の翼、右翼に鳳凰の羽をあしらった、今は無き国の旗-

 

「竜鳳月!ここは・・・まさか、まさかっ!!」

 ワナワナと身震いするバラン。かつて愛した女性と出会った思い出の地、ひと時の安らぎを

体験し、蜜月の時間を過ごした国。

 人間の醜さを思い知らされ、絶望して去り、それでも愛する妻と子のために処刑されるために

舞い戻った国。

 最愛の人を失い、その怒りと悲しみと絶望を叩きつけて消し去った。我が娘を恥さらしと断じた

国王、己を邪悪なモンスターなどと吹聴して迫害した城の大臣共、かのヴェルザーから

守ってやった恩を仇で返した人間どもの縮図だった、その国。

「・・・アルキード!!」

 

 さまざまな感情が胸中で渦巻き、怒りが、悲しみが、憎しみが、屈辱が、そして後悔が

バランの心を駆け巡る。

 

 だが、眼前にある光景は、彼の知るアルキード王国では無かった。そこにあるのは無数の墓、

つまり自分があの時、怒りに任せてこの国に落とした竜闘気呪文(ドルオーラ)によって、その死すら

認識できずにこの世を去った無辜の民衆の跡だったのだ。

 そして、その無数の墓の中心で、竜鳳月の旗を掲げているあの青年、この場にご招待したと

ほざくあの槍使いの真意はもう言わずとも明白だった。敵討ちをしようと言うのか・・・

人間風情が!

 

「大人しく隠れて暮らしておれば良いものを!この竜の騎士に何か出来るとでも思ったかあぁぁァ!!」

 竜闘気を全開にして吠えるバラン。烈風が彼を中心にして巻き起こり、十数m下の湖すら

波立たせる。その威圧感は、あらゆる生物に恐怖を与えるに十分なものであった。

 

 ただ一人、目の前の戦士を除いて。

 

「我が名はリヴィアス!アルキード王国に生を受け、魔界にて鍛え上げられた槍戦士(ランサー)!」

 刺突槍(コーンランス)を掲げて高らかにそう名乗りを上げると、その槍をバランに向け、高らかに

(うた)い上げる!

 

「我が故郷アルキード王国!、敬愛する両親、数多くの友人、そして我が背中で息絶えた

妹ルミナよ!今、皆の魂の安息と、失われた未来と、死して尚、強大な力に屈しない

我らの誇りの為、そして我が同志、その体を奪われた戦士ケプラスの名誉のために!」

 

 かっ!と目を見開き、魔獣を圧倒する眼光と共に、その意思を叩きつける!

あの日からずっと温めて来たその想いを、ついにリヴィアスは言葉にする!!

 

「今こそ!竜の騎士バラン、()()()()()!!!」

 

 

 

「ほざくな!人間(ゴミ)めがぁーーっ!!」

 魔獣の咆哮を上げ、手を天にかざして振り下ろす。瞬時に生まれた雷雲から一本の雷が

リヴィアスの頭上に襲来する!

 -バリイィィィ・・・ッ!-

 雷は高々と翳されたコーンランスに直撃し、そのまま電撃エネルギーを穂先に纏う。

地上の刀匠ノヴァによってこの槍は魔法力を内包し、使いこなす”魔法槍”へと昇華して

いたのだ。その性質を持ってライデインを受け止め、ブンッ!と一閃して雷を振りほどく。

 

「こんな程度か?」

 地上からスススッ、と浮かび上がってバランと同じ高度に位置し、そう返す。

「”轟のニカ”の雷撃はこんなものじゃなかったですよ、竜の騎士。」

 背中のミールも感想を述べる。確かに彼女がリヴィアス達と出会ってすぐ、ニカに受けた

電撃は超電撃呪文(ギガデイン)だった。それに比してのこの雷は、リヴィアスを討ち取るに

足りる物では無い。

 

「ほざくなァ・・・消え失せろーーーっ!!」

 絶叫と共にバランの頭の紋章が青く輝き、そこから瞬時にレーザーが撃ち出される。

竜の騎士の必殺技の一つ、紋章閃がリヴィアスに向けて航跡を引く!

 -ピッシャアァァァ・・・ン-

 それを眉一つ動かさずにランスで弾きいなすリヴィアス。このランスは制作者のドガ・カーン

によって鏡面仕上げが成されており、光熱閃の類を反射する効力がある、いかに紋章閃と言えど

浅い角度でカスらせればその方向を変えることも可能なのだ。

 

「・・・何、だと?」

 電撃呪文(ライデイン)、紋章閃。いずれも(ドラゴン)の騎士の必殺技をいともあっけなく止められて

思わず驚愕の声を漏らすバラン。

 

「それだけか。なら、今度はこちらから行くぞ・・・閃熱呪文(ギラ)っ!」

 -ヴンッ-

 ランスの先端に熱灯が灯る。閃熱槍(ヒートランス)となったそれをクルリと回して構えると、全身に

魔法力を纏って体を縮め、そして弾き出されるように突撃する!ランスの先端がバランの脇腹を

掠めて抜け、そのまま体ごと通過すると、すかさず動きのベクトルを変化させ、バランの下方から

槍を突き出す!

 

「舐めるなあアァァァァァっ!」

 鬼の形相で拳を、蹴りを、クローを繰り出してリヴィアスを引き裂こうとするバラン。

一撃で勝負を決める威力を持ったその竜の攻撃は、リヴィアス得意の三次元殺法の前に次々と

空を切るのみだ。

 

「はぁっ!カッ!てえぇぇぇいっ!!」

 かたやリヴィアスは次々とバランに槍を叩きつけていた。敵の体を覆う竜闘気(ドラゴニックオーラ)

よってガードされてはいるが、それでも重量級のコーンランスの一撃は踏ん張りの利かない

空中において、一発ごとにバランの体を叩き、ズラし、衝撃を与える!

 -ガン!ビシィッ、ドン!どこぉっ!!-

 焼けた穂先を打ち込み、反動で逆回転させてサナイェンの石突きをぶちかます。ノヴァによって

円運動攻撃を得たランスと、上下の概念を捨て去ったリヴィアスの飛翔呪文(トベルーラ)による三次元殺法が、

バランの持つ”戦いの遺伝子”を凌駕して圧倒する!

 

 

「バラン様が・・・そんな、ばかな!」

 バランを追って、ポップとマトリフのルーラでこの地まで来たラーハルトが、まさかの光景に

言葉を漏らす。隣で見ているポップも、チウも、その光景に言葉も出ない。あの竜の騎士が、

無敵の竜魔人が、翼を持つ魔獣が、あろうことか空中で圧倒されているのだから。

 

「・・・ラーハルトよ、かつてミストバーンとヒムの戦いの最中に言った言葉を、覚えているか?」

 戦いから目を離さずにそうこぼしたのはヒュンケルだ。彼もまた目にした光景を信じられない

思いで見つめながら。

「戦いの相性、という奴か!」

こくり、と頷いて目を離さずに続きを絞り出すヒュンケル。

 

「リヴィアスの戦い方・・・それが対バランにぴたりハマっている。重量級の槍、変幻自在の

飛翔呪文(トベルーラ)、呪文を捨てて体術一本に絞る戦術、そして紋章閃やライデインを

撃つ余地を与えない、相手に纏わりつく攻撃・・・全てが、対バランに特化した攻撃だ!」

ポップが冷や汗をかきながら、その言葉に応える。

「た、確かに。あんな変な戦い方なんざ、戦いの遺伝子とやらも知らねぇだろう、竜の騎士の

素性を考えたら、な。」

 

 (ドラゴン)の騎士。3属の神が生み出した、巨大な悪を制裁するための戦士。彼らは代々

その時代時代の最強の悪と戦い、その度に戦いの記憶を紋章に蓄えて来た。その蓄積こそが

彼らの戦闘センスとなって、さらなる強さを次代に受け継がせてきた。

 だが、このリヴィアスのような相手と戦う機会が果たしてあっただろうか。彼は戦士とは言え

人間である事に違いはない、そんな彼が工夫と修練で編み出してきた、対”竜の騎士”戦法など

時代時代の強大な悪が備えている訳は無いのだ、そんなチマチマとした戦法など。

 

 

「グルアァァァァッ!!」

 吠えるバランのクローを掻い潜り、素早くその背中側に身を躍らせる。小回りを極めた

トベルーラは、バランの翼を使った空中戦すら上回り、それどころかその翼の裏側の死角すら

生かして潜り込み、次々と一撃を加えていく。

「左手!呪文、来ます!」

 背中のミールの言葉と同時、バランが真空呪文(バギ)を撃ち出す。だが事前に知らされた

攻撃を食らう程リヴィアスはトロくはない、空中で前転して躱すと、そのまま大上段から

槍の一撃をバランの脳天に叩きつける!

 -ドッコオォォォン!!-

 

「す・・・すげぇ。あのバランを・・・」

「ミールのアドバイスも効いているな・・・彼女の洞察力、二人分の目と頭脳、判断力・・・」

ポップとヒュンケルに続いて、ラーハルトが複雑な思いで解説を入れる。

「バラン様に、もし真魔剛竜剣があれば、こうはいかなかった・・・ハズだ。」

確かに。今のバランの攻撃は爪や拳、蹴りなどのいわゆる”点”の攻撃だ。剣を使って縦横に薙ぐ

”線”の攻撃ならリヴィアスを捕らえる事も可能だろう。

 

「解っちゃいねぇな、お前ら。」

 そう言ったのはマトリフだ。彼だけは目の前の戦いを誓う視点からとらえていた。

 

「ありゃあな、戦いじゃねぇ、リヴィアスの奴の”人生”そのものさ。」

 

 

 7歳のあの日、リヴィアスの生き方は、たったひとつの目的に固められた。

(ドラゴン)の騎士を倒す”

彼のそれからの人生はすべて、その方向にベクトルが向けられていたのだ。

 

 体を鍛えた。魔界へ行き、知識人ロズテナーに弟子入りした。飛翔呪文(トベルーラ)を学び、それを

いかに竜の騎士に対して使うかを模索してきた。竜闘気(ドラゴニックオーラ)をぶち破るために

重量級の刺突槍(コーンランス)を獲物とした。修行に出て百足の竜と、牛魔獣と、宮殿の魔物と

戦う時も、戦った後も、これがもし竜の騎士とならどうだったか、と思いを巡らせた。

 

 人熊(ウォーベア)の戦士と出会い、魔剣と語り合い、自分と同じように勇者を超えたいと願う少女と

知り合った。類稀なる体術を持つ竜戦士(バルデバラン)ガノイザーと戦い、バランを知るヴェルザーに

暇を見つけては何度も会いに行き、奴の戦いを聞き出した。

 武術会でオグマと戦う竜の騎士ダイの姿を目に焼き付けた。その必殺技を、戦いのセンスを、

竜闘気の威力を肌で感じ、己のイメージを修正した。

 

 懐かしき弟分、フィガロと再会し、改めてバランを許せない自分を認めた。

かつて妹を死なせたその背中に、自らの命を託してくれたミール。彼女をおぶったこの

数か月は、自分にとってどれだけ嬉しい日々であっただろうか。

 

 救われた、勇気をくれた、素晴らしい仲間と出会ってきた。そして自分は今、ここにいる。

かつての自分のスタート地点で、守るべきものを背中に背負いながら、過去の弱かった自分を

超えるために、不甲斐なかった自分を懺悔して、禊を果たすために・・・

 

 

 あの、初めて空を飛んだ日から20年。己の人生そのものを抱いて、リヴィアスは今、宙を駆ける。

 

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