「お母さん、どんな状態?」
倒れているオグマに取りついたきらりんが、傍らで
オグマの容体を聞く。
「心臓を貫かれているんだよ・・・今、それを魔法で直してるけど、意識の方が飛んで逝ってる、
呼び戻して!」
即死状態であったオグマ。その魂はすでに臨死の世界を漂っており、ほどなく天界に召される
だろう。その前に肉体へ引き戻さなければならないのだが、帰って来た所で心臓が動かなければ
意味が無い。肉体の治療と魂の復帰、その両方が求められるのが現状だ。
「うん、分かった!その御名において命の炎尽きたるこの者の身に、魂を蘇らせたまえ・・・」
両手を掲げて呪文を詠唱するきらりん。破邪の洞窟で得たその魔法の為に残りの魔力を
全部つぎ込む!
「
その様を目の前で見たずるぼんが、ふふっと笑みをこぼす。かつてきらりんを生んだ後、
僧侶から賢者へと転職した彼女。とはいえ子を授かった彼女が僧侶を続けられなくなった故に
転職しただけの形だけの賢者でしか無かった。
その愛娘が今、上位の賢者しか使えないというザオラルを使っているのだ。しかも肩書は
魔王なのだから・・・本当にあたしたちには過ぎた娘だよ。
だが、そんなきらりんでも伝説と言われている完全蘇生呪文ザオリクは使えない。職業や
立場の問題ではなく、きらりんはどんなジャンルの呪文でも、その最高位の呪文は
使えなかったのだ。まるで絶大な魔法力を持つ代わりに、ひとつの魔法を極める事が出来ない
制約を課されたかのごとく。
最強の蘇生呪文ザオリクなら、魂の回帰と肉体の完全修復の両方が叶う。現に成功率はほぼ
100%と言われているが、それだけに使い手も伝説の中にしかしかいないのだ。
己の及ばずを理解しながらも、きらりんは全力でオグマにザオラルをかける。今この状況を
覆せるのは彼しかいないと信じて!
「スキありぃっ!」
-ズバァッ!-
「ぐわぁっ!?」
「
-ズッシュウゥゥゥ・・・-
「がっ・・・!」
「押し包めぇぇっ!」
「「うおをををををっ!!」」
-ズザザザザザザザザンッ!-
どどどどどどっ!
クロコダインと対峙する魔界皇ヒュンケルに、背後と言わず左右と言わずに襲い掛かる魔界の
戦士たち。だが力量の差は埋めるべくもなく、彼らはヒュンケルの発した
次々と斬り捨てられていく。ヒュンケル本人はクロコダインの方を見据えて固まっているのに、だ!
(気配だけで周囲の状況を察し、この俺に隙を見せずに周囲の者を・・・なんたる怪物か!)
クロコダインが心の中で呻く。大勢の魔界の猛者たちを見向きもせずに蹴散らしていくその様は
かつて大魔王バーンが戦う価値無しと断じた者を、宝玉へと変えて無力化した光景を思わせる。
その上で、この俺のみが真っ向から対峙するべき”敵”として認められているのだ。なんとも
光栄な話ではないか!
ぐっ、と腰を割り、両手に闘気を集める。腹は決まっている、奴に先手の一刀を打たせてそれを
耐え凌ぎ、その上で相手の体を鷲掴みにして我が秘技”獣王の掌”をぶち込むのみだ。
かつてヒュンケルがバランに仕掛けた”無刀陣”、そしてあの最終決戦でダイとポップが
バーンの”天地魔闘の構え”を破ったその戦法、俺も成して見せようぞ!!
「”後の先”を取る気か、クロコダインよ。」
ヒュンケルがにやり笑ってそう問う。未だ周囲に群がる者どもを蹴散らし、地に死体を量産
しながら、かつ油断なく、十分な気合を向けながら。
「御名答だ・・・どうする、逃げるか?」
挑発じみた口調でそう返す。この戦法は相手から斬りかかってきてくれなければ成立しない。
まず動いてもらわねば、しかもそれが遅くなるほど周囲の被害が増す・・・さぁ、早く来い!
「わが剣を受けて、生きていられると言うのか・・・面白いぞクロコダイン!!」
「この俺を、あの柱などと一緒にせん事だ!来い、魔界皇ヒュンケルっ!!」
対峙する二人から少し離れたところで、魔族が女性魔族に肩を貸して立っていた。ひとりは
サルトバーンの魔術師ネグネグ、もうひとりはケートスのメイドであり、彼ら自警団の
指揮官でもあるヘルヴィーナスのレミーナだ。剣気の余波を受けて片足を失っている彼女だが
それでも戦いに光明を見出すべく隙を伺う。
「いいかい、狙いは激突の瞬間だ!外すんじゃないよ。」
「へへっ・・・レミ姉さん、注文キツいぜ全く。」
そして、ついに魔界皇が動く!
「行くぞ、シュアララァッ!」
地を蹴り、剣を八双に構えたまま突進するヒュンケル。対するクロコダインは全身の筋肉を
限界まで締め、敵の太刀筋を目を見開いて睨み据える、目は瞑らん!その瞬間の為にッ!!」
-
-キュイィィィ-
まるで光の刃のように、光線がクロコダインの体を通り抜けて走る。
-スゥゥゥゥゥ・・・-
覇者の剣の刃が、先の剣気の光に導かれるようにクロコダインの体をすり抜ける。
-ズッパアァァァァァン!-
刹那、遅れてやってきた
体を押し広げる!!
正中線から縦に、真っ二つに両断される獣王クロコダイン。
(甘・・・かった・・・)
クロコダインが心で呟く。あのギガブレイクですら即死しなかった俺の体を、こうも呆気なく
両断するとは・・・これでは、もう・・・
「今だ!行けえぇぇっ!!」
「
レミーナの指示と共に呪文を撃ち出すネグネグ。同時に彼らはヒュンケルの放った
まともに受けて吹き飛び、倒れる。
-ガッキイィィィ・・・ン!-
交錯して放たれたマヒャドが、
両断されたクロコダインの切断面に直撃し、氷の溶接となってクロコダインの左右の体を
繋ぎ止める!
「なん・・・だとぉっ!?」
剣を振り下ろし切ったヒュンケルがその光景に愕然とする。今しがた目の前で真っ二つに
した敵が、斬り口を氷で繋いでアゴを引き、こちらを鬼の形相で睨んでいる!
「あり・・・がたい!」
クロコダインの両腕が、鍛え抜かれた10本の指が、がっしりとヒュンケルの腹に食い込む!
あとは腕に溜めた闘気を全力で放つだけだ!!!
-
魔界の一角に、闘気流による爆風が荒れ狂う。
◇ ◇ ◇
「そうは行きませんよ、魔王きらりん。」
ザオラルをオグマに施し続ける彼女に、上からそう声をかける精霊。
「輝きの・・・シアっ!」
ずるぼんがそう叫ぶ。かつてテランの湖で相対した、オグマとナタルコン因縁の相手。
こっちは回復と蘇生で手一杯だって言うのに・・・こんな時に、狙われるなんて!
「その
そう言ってスッ、と両手を広げる。その背後に無数の光が輝き、大勢の少女の姿に形を変える。
-うふふふふふ-
-クスクスクス-
-にゅふふふっ-
石化の使徒達が笑う。その不気味な存在にもきらりんやずるぼんはオグマの治療から手が離せない。
もし少しでも治療を中断すれば、オグマは二度と蘇ってこられないだろう。
「任せろっ!
ふたりの前に立ちはだかったでろりんが使徒に向かって呪文を放つ。イオラの一撃で
数十人の使徒が消し飛び、爆風が周囲の使途を圧し反らす。だが次の瞬間にでろりんが
見たのは、まさに絶望を景色にしたような光景だった。
両手を開いたまま瞑目する”輝きのシア”の後ろでは、未だ次々と光が輝き、それが
次々と使徒の形を成していく・・・その数、一体いくらだ?数千、いや万にすら達する少女が
聞き取れないほどの笑い声をあげて魔界の空を埋め尽くしていく。
「じょ・・・冗談じゃねぇっ!!」
思わず吐き捨てるでろりん。これ全滅させるのにイオラ何千発が必要なんだ?とても
撃ち切れる数じゃねぇぞ!
「そんな・・・」
「人海戦術かい・・・急ぐよきらちゃん!」
愕然とするきらりんにハッパをかけるずるぼん。あの数じゃとても防ぎ切れない、ならば
その前にせめて・・・何としてもオグマを!
「終わりです。」
シアが手をかざすと同時、万を超える石化の使徒たちがでろりんに、ずるぼんに、きらりんに、
そしてオグマに降り注ぐ。残りの魔法力を全てイオに変えて乱射するでろりんがまず
埋め尽くされ、ずるぼんときらりんも少女の波に飲まれていく・・・。
◇ ◇ ◇
「残念だったな、勇敢な
吹き飛ばされた航跡の先で魔界皇ヒュンケルは不敵に笑う。その腹には根元から切断された
10本の指がぶら下がっており、彼の右手には漆黒のナイフが握られていた。
「懐刀とは、こういう時に使うものなのだよ。」
獣王の掌が炸裂する直前、彼は覇者の剣を捨ててナタルコンを抜くと、そのままクロコダインの
指を根元から切断してのけたのだ。掴む力を失った必殺技はただの激烈掌となり、至近距離の
ヒュンケルを10mほど吹き飛ばすだけに終わってしまった、一瞬の判断が両者の明暗をくっきりと
分ける結果となった。
「む・・・無念・・・だ。」
そのままヒザを付き、前のめりに倒れるクロコダイン。ズズン!という鈍い音と巻き起こる
土煙が、彼を惜しむかのように包み込む。
と、その死体に大量に降り注ぐ少女達。シアの生んだ石化の使徒はクロコダインのみならず
そのエリアに倒れている魔界の住人全てに降り注ぐと、そのまま彼らの体を物言わぬ石に
変えていく。
全ての使徒が消えた時、その場にはシアと魔界皇ヒュンケル、そして無数の石像と化した
魔界の者たちが佇むのみだった。
でろりんも、ずるぼんも、魔王きらりんも・・・そして、オグマも。