「ここ、だな。」
「ああ、間違い無ぇ。」
人狼の少年マルタと魔族の少年ザンが顔を見合わせて頷く。その横でヒムは目を丸くして
その光景に見入っていた。
「な・・・なんだ、ここは一体・・・」
そこは集落の跡。かつては何人かが寄り集まって暮らしていた事を伺わせる家や櫓、土蔵などが
住む者も無く佇んでいた。
だが、異様なのはそこではない。ここにも、あそこにも見える石像。それは魔界の住人の形を
取っており、そしていまにも動き出しそうなほどにリアルだった。まるで誰かが彫ったんじゃ
なくて、生きていた者たちが石に変えられてしまっているかの様に。
「オグマ兄ちゃんの言ってた通りだ、この集落の人達は皆、精霊に石に変えられたんだ!」
マルタのそのセリフに「何だってぇ?」と返すヒム。
「ここは俺らの恩人、オグマさんの集落だよヒム。精霊の襲撃にあって、こうなった皆を
元に戻す為に旅をしてるって話だ。」
マルタとザンの修行の旅、その目的地の一つがここ、オグマの育った集落だ。彼らはオグマに
せめてもの恩返しにと、この集落の仲間が無事に元に戻るまで見守ろうとここに来たのだ。
精霊”天の8行、輝きのシア”の襲撃によって、ここの住人はすべて石に変えられて
しまっていた。唯一オグマだけが、石にする価値無しとみなされて生かされていたのだった。
仲間を元に戻す為に始まったオグマの旅、そして最初に辿り着いた村と、敵対する砦の
小僧だったマルタとザンと出会う。時を同じくして現れた
両者の争いが精霊の仕組んだ罠だったことを暴き、操られていた自分たちを救ってくれたのだ。
-キイィィィ・・・ン-
「な・・・何だ?」
いきなり鳴動を始めたのは、ヒムが装備するショルダーガード、盟友アルビナスの魂を宿した
肩当ての内側部分だ。ここは小さなものを収納できるスキマがある、そしてここには・・・
「そうだ、コイツがあった!」
肩当てかに手を突っ込んで、ひとつの玉を取り出すヒム。マルタとザンも何事だ?と興味津々で
その玉を見る。
-”魔法の玉”じゃ。中には幾人かの魂が入っておる、これを届けて欲しいのじゃ-
-お主の好きな所へ-
そうだ、天界にいた神とかぬかすじいさんに託された魔法の玉。それが反応しているってことは
まさか、この球の中身は・・・
「あのじじい、マジで神かよ・・・俺がコイツらと出会って、ここに来るのまで・・・知ってやがった!」
何を言ってるんだ?といぶかしがるマルタ達の前でヒムは玉を高々と翳して、その魂を開放する。
「デルパっ!!」
-パッシュウゥゥゥゥゥゥ-
ヒムの言葉と共に、無数の白いモヤが次々と玉から飛び出すと、それらは一目散に各々の
石像の中に吸い込まれていく。その迷いの無さが証明していた、コレに詰まっていたのは
この集落の連中の魂だ、間違い無ぇ!
「マ・・・マジかー。」
「本っ当に天界に行って神に会ってたのかよ・・・ヒムって実はスゲー奴?」
マルタとザンも道中でヒムの話は聞いていた。てっきり嘘八百かと思っていたが、ここにきて
それが現実味を帯びて来た。
「けどよぉ、元にゃ戻らねぇな。」
確かに。各々の体である石像に還った魂だが、石化の呪いが解けたわけでは無い。
「で、コイツの出番か・・・ったく、神の筋書き通りかよ!」
都合の良さに呆れながら魔法力を開放し、その呪文を高々と唱えるヒム。
「
言葉と共に手の平から発せられた魔法の光が周囲の石像を照らしだす。そしてその光を受けた
石像が、ぴしっ!と音を立てて、石の体にヒビを走らせる。
-パァン!パパパリィィィ・・・ン-
その時、集落にあった石像全てが薄く割れ、中から獣人が、魔族が、亜人が肉体を持って
現れる、石化が解けたのだ!
「・・・ぉのれえぇぇ・・・うん?」
目の前にいた
目標を失ったかのように「あれ?」という顔をする。他の面々も似たようなものだった、
皆一様に石化が解けた瞬間に覇気を、そして闘志を空振りさせる。どうやら戦いの最中に
石にされてしまったらしい。
ヒム達3人と集落全員が集まってお互いの事情を話し、知っている情報を交換する。
「ほう!オグマがわしらを戻す為に旅に・・・あいつめ!」
「俺達、いくら感謝しても足りないですよ。あの人に何とか知らせたいです。」
集落のリーダー、ダルタレクが己の息子の物語に目を細め、周囲の面々も「あのオグマがなぁ」
と感嘆の域を漏らす。
「そういやあの小娘の仲間に
ヒムが地上で行われた武術会の話をする。黒フードを被っており、はっきり見たわけでは無いが
そんな奴がいた気がするなぁ、と話すと、周囲の面々がその話に俄然興味を示す。
「ち・・・地上?アイツそんな所まで!」
「”魔界を閉じる”って、そんな事になってんのか、今?」
「魔王様の部下ぁ?大出世じゃねぇか・・・」
「オグマさんならありえますよ、ナタルコンもリヴィアスさんもいるし!」
驚く集落の面々に、マルタとザンが嬉しそうに頷く。さっすがオグマさん!
ひとしきり懇談した後、ダルタレクが腰を上げ、皆に切り出す。
「なら、こうしてはおれんな。ワシも出向いて愚息の力になってやらねば。」
「俺も行きますよ、今のオグマに会って見てぇ。」
「ここは俺の出番だろ、精霊に借りを返させろ!」
「回復できる奴いるでしょー、ここはこのガバネ様に任せな。」
オグマの友人たちが次々に名乗りを上げる。結局魔族のミルグとキール、鳥獣人サントに
亜人ガバネが共にオグマを探す旅に出る事になった。
「・・・で、どうやってオグマとやらを探すんだ?」
ヒムの言葉に全員が固まる。魔界だけでも当てもなく探してもどうにもならんのに、
地上の可能性まで考えたらあまりにも無理な旅になる。難題に全員がううむ、と頭を抱える。
-ヒム、近しい人なら私が何とかできますよ-
「アルビナス!本当か?」
己の肩当てに話しかけられ返事を返すヒム。周囲は何言ってんだ?という顔で彼を見る。
-私の
その彼が魔界にいるのならですが、と付け足すアルビナスの思念波。もしそれが出来るなら
オグマとやらの捜索はずっと楽になるだろう。何より今のヒムにとっては全てが修行だ、
やれることがあるならやらない選択肢は無い。
事情を皆に話すヒム。俺の装備はかつての仲間の魂と能力が宿っている、そしてこの肩当ては
ルーラを秘めており、他人の意思を取込んでリリルーラまで使えるのだと。
「マジでスゲェアイテムなんだな・・・ますます欲しくなっちまうよ。」
ザンがしみじみ嘆き、ヒムがやらねぇよ、とジト目で返す。
-では、オグマさんとやらの姿をイメージして、それに魔法力を込めて下さい-
アルビナスが思念波でそうミルグに指示する。魔族ミルグはかつてオグマ一番の親友であり、
集落でも1,2を争う魔法の使い手、リリルーラを合成するのに一番の適任者だ。ヒムの
肩当てに手を添えて、友人の姿を、記憶を思い出す。
「んじゃ、行くぞ、集まれ!」
ヒムの指示に全員が集まる。マルタにザン、ミルグ、キール、サント、ガバネ、そして
父ダルタレク・・・さぁ、息子の頑張りを後押ししてやらねば!
-
ダダダダッ!
「なっ!」
「ここも・・・みんな石に・・・」
到着した瞬間に一同は絶句する。その開けた場所に点在していたのは集落と同じ無数の石像、
そのどれもが戦いの姿勢、もしくは敗れて倒れた状態で固まっており、それがここでも
精霊と魔界の住人との死闘があったことを物語っていた。
「・・・ん?」
周囲をきょろきょろ見渡していたヒムが、少し離れたところに見たような顔の石像がある事に
気付いてそこに駆け出していく・・・
「あ!!てめぇ、小娘えぇぇぇっ!!!」
石像と化したきらりんを見て思わずそう叫ぶ。かつて武術会で天界まで飛ばしてくれた自称
魔王ちゃんが、横たわる人熊に手をかざしたまま固まっている。
叫ぶヒムの声を聴いてそこに集結した一同が、そこに倒れる人熊を見て思わず叫ぶ。
「オグマさん!」
「オグマ・・・っ!やられた、のか!?」
「くっ、くそっ!」
-スーパァスピリット・スキャアァァァァーーーン!!!-
突如、皆の頭に響いた思念波に、何だ!?と振り返る。見ればヒムの冠が光り輝き、そこから
暑苦しいおっさんの声が響き渡る。
-ガハハハハ、大丈夫じゃ。まだ石にされたばかりで魂は離れておらんよ-
ヒムの冠に宿るマキシマムがそう告げる。と、言う事は・・・
「
モノは試しと、範囲を小さく絞って倒れている人熊に魔法をかける。側にいた小娘と人間の女、
そして脇で彼女らを庇うように剣を構える男に魔法の影響が届く。
-ぱりいぃぃぃん-
石化が解け、あれ?と周囲を見回すきらりん、ずるぼん、でろりん。確か精霊の少女に
たかられて石になったはずだが・・・いったい?
「よう小娘、久しぶりじゃねぇか!」
ヒムがにやり笑ってかつて一杯食わされた娘を見やる。だがきらりんの方は、ヒム手に残った
わずかな魔法力が霧散するのを見て事情を悟る。
「ありがとうございます、貴方が直してくれたんですね。」
「お、おう・・・」
頭を下げるきらりんに困惑のリアクションを返すヒム、こいつ俺のこと忘れてんのか?
「助かったのなら続きだよきらちゃん、お礼は後で!」
「う、うん!」
ずるぼんの言葉に応え、目の前の人熊の死体に再び残りの魔法力を絞り尽くす二人。
「
「
懸命にオグマの治療を続ける横で、でろりんがダルタレク一行の相手をする。最初は新手の
敵かとビビりはしたが、話を聞くに彼らはオグマの里の仲間、そして恩を受けた少年たちらしい。
手短にオグマの旅を、物語を、そしてこの地で起こった悲劇を説明するでろりん。
「・・・す、スゲェな。」
「なんだよ、遠くに行っちまいやがって。」
「オグマさん・・・ちゃんとお礼するまで、死なないでくださいよ!」
マルタのその言葉に反応したのは回復を続けるずるぼんだ。彼らの話を横耳で聞いていた
彼女は、それ幸いと彼らに助力を乞う。
「だったら声をかけてやっておくれ!蘇生ってのは
「急いでください・・・ここ数秒が、勝負ですっ!」
続くきらりんの言葉に、一同が弾けるように駆けだし、オグマ達の周りに円陣を組んで叫ぶ。
そうだ、俺らにやれることがある、やらいでか!!
「馬 鹿 者 お っ !!戦えオグマ!それでも我が息子かぁっ!!!」
ダルタレクのカミナリに続いて、皆が心からの呼びかけを放つ!
「そうだ!こんな所でヘコたれてんじゃねぇ!!」
「しっかりしやがれ、まだやる事があんだろうがっ!!」
「立ちゃぁがれ、女はべらせていつまで寝てやがる!」
「お前の頑張りはそんなもんかよ、オラ立てよオグマ!」
回復魔法に、蘇生呪文に、仲間たちの心からの激が籠る。
「オグマさん・・・お願い、戻って来てっ!!」
「アンタしかいねぇんだよ!頼むから生き返って!」
「起きろオグマ!」
「気合入れろ、これからが勝負だろうが!」
「人間の美女に回復されるなんざ羨ましい思いして、生き返らなかったら殺すぞ!」
「魔界の戦士だろうが!ここで起きずにいつ起きるか!」
心臓を一突きにされ、相棒の短剣に裏切られ、長い旅に満足して逝こうとしたその魂が、
その激励に、献身に、そして期待によって引き戻される・・・あと、一押し!
「起 き ろ ! 魔 界 の オ グ マ ! ! ! 」
魔界の豪傑、集落の長、心も体も大きな父親がその最後の一押しを叩きつけた、その瞬間!
-がばあぁぁぁぁっ!!!-
オグマの上半身がが跳ね起きる。心が、そして魂が今、彼らの激励に応えた!!
シグマ&フェンブレン「・・・俺ら、出番ねぇなぁ。」
ブロック「・・・プローム。」