魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第108話 死の雷

 -地上-

 

「なんて・・・こと・・・」

 雲の合間に漂いながら、精霊”昇りのクト”は、その光景を愕然として眺めていた。

 

 絶対の自信があった。なにせ私が黄泉返らせたのはあの竜の騎士バラン、しかも

最終戦闘形態(マックスバトルフォーム)の竜魔人固定の状態なのだから。

 魔界に味方する者など鎧袖一触で蹴散らし、そのまま魔界に攻め入って、あの邪魔な”柱”を

全て薙ぎ倒し、”魔界を閉じる”計画を完遂させられると疑わなかった・・・

 

 -ドン!バキィツ!ガァン、どむぅっ!!-

 

 その竜の騎士が、竜魔人が、たったひとりの人間に成す術なく殴られ続けているのだ。

バランの爪は空を切り、拳はひらり躱され、蹴りは空気を両断するだけ。

 逆に人間が繰り出すその槍の両端は、まるでバトンのように回転しながら次々と竜魔人を

打ち据える、飛翔呪文で羽虫の様に纏わりつき、絡みつくように円を描きながらバランを翻弄し続ける。

 

「このままでは・・・」

 精霊”天の8行”の中でも物事に動じず、おっとりした性格のクトもさすがにこの光景に

焦りを隠せない。彼が撃滅するべきは幾千幾万の魔界の凶戦士、なのに、ただひとりの人間に

手こずるどころか、押されているなどあってはならない!

 

 クトはすっ!と両手を広げる。目を閉じ、己の真名(マナ)に宿る力を初めて発動させる。

入道雲(プリス・クラド)。」

彼女の白い頭髪がまるで意志を持ったかのように沸き立つと、そこから白い蒸気が立ち込め、

たちまちのうちに周囲に白い霧が湧き上がり、彼女と青空を覆い消す。

 

 

「ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ・・・」

 幾合の空中戦の後、ついに距離を取り対峙するバランとリヴィアス、そして背中のミール。

ここまで一方的に攻撃を当て続けて来たリヴィアスだが、その運動量の多さからくる疲労は

さすがに隠せない。一方のバランは、全身に打撃痕を残しながらも、竜闘気(ドラゴニックオーラ)によるガードで

致命傷は受けていなかった。

 

「フ、フフフフ・・・グハハハハハ!どうやら体力と魔法力が尽きたようだな!」

 ふたりを指差して高笑いするバラン。彼はリヴィアスの3次元殺法を捕らえ切れぬと見るや、

攻撃よりも防御にそのオーラを振り分け、ここまで粘って相手の体力の消耗を待っていたのだ。

 

(ったく!奴の竜闘気(ドラゴニックオーラ)は底無しか!?)

 表情を面には出さず、内心毒づくリヴィアス。彼は地上で過ごしている時に、竜の騎士の

情報を多くの者から集めていた。中でも勇者ダイが超魔生物ザムザと戦った時に、オーラ切れを

起こして窮地に陥った話を聞いて、それを戦略に取り入れる事を思いついていた。

ここまでの一気呵成な攻撃も、敵の身を守る竜闘気を使い果たさせるのが真の狙いだったのだが、

逆にこちらの体力と魔法力の方が先に限界を迎えてしまった。

 

(どこかで刺突のチャンスを・・・狙えるか!?)

 ここまでリヴィアスは刺突槍(コーンランス)を打撃棍として使ってきた。この武器本来の刺突は

外すと次の攻撃に繋げないばかりか、大きな隙を生む致命傷にもなりかねないからだ。現に

先程からも何度か刺突を狙おうとしたが、その瞬間バランの反応は速くなる、こちらの狙いを

明らかに見透かされていた。

 

「人間にしては良く粘った、だが・・・ここまでのようだな!」

びっ!とリヴィアスを指差して睨むバラン。口角を吊り上げ鬼の笑みを見せる。

ここまで好き勝手にしてくれた報いを今こそくれてやるぞ、と言わんばかりに!

 

「なら、仕方ありません。ここで最大奥義を使うとしましょう。」

 そう発したのはミールだ。リヴィアスの背中から顔をひょいと出し、その澄んだ目で

バランを正面から見据える。

「最大奥義・・・だと?」

 ミールの風体が少女であっても、バランには油断も手加減も無い。それが竜魔人形態の

最大の恐ろしさである、もしリヴィアスが敗れれば彼は躊躇なく幼女(ミール)を引き裂くだろう。

 だが、とりあえすこの娘に脅威は感じられない。先程から指示こそ出していたが、攻撃を

繰り出していたわけでは無い。その小さな体に、自分を倒すほどの力があるとも思えなかった

 

 と、ミールはさらに体を乗り出し、リヴィアスの顔の正面にまで体を持って来ると・・・

その口に、唇を重ねた。

「なんの・・・真似だ?」

 顔をしかめて睨みすえるバラン。戦いの最中に舐めた真似をしおって!と毒づきつつも、

そのスキに襲い掛からなかったのは、己の現状での優勢を信じて疑わなかったからだ。

だが、それがバランにとって最大の失敗となる。

 

 

「うっひゃあぁぁっ!」

 付近の森の隅、その光景に目を丸くして驚くチウに、マトリフやラーハルトが呆れた表情で続く。

「戦いの最中に何やっとんじゃアイツ・・・」

「リヴィアス・・・ロリコンなのか?」

 そんな中、後ろに控えるまぞっほとへろへろは、その光景をにやっ、と笑って見ていた。

「出たのう、あのときのきらちゃんと同じじゃ。」

「いや・・・あれよりさらにパワーアップしてるぞ。」

 

 

「・・・ミール、これって。」

 幼女の姿のミールに口づけされて驚いていたリヴィアスが、口内の液体をこくりと飲み干して

その正体に気付く。

 

 -シュワアァァァァァァ-

「なっ!回復・・・だと!?」

 驚くバラン。リヴィアスの全身から、湯気とも光とも区別がつかない緑色の輝きが溢れ出す、

それは回復魔法の時に洩れ輝く癒しのエネルギー、それがリヴィアスを包んで満たしている。

 

「”水竜姫のしずく(アクアエリクサー)”です。体力と魔法力を全回復し、さらに魔法力の底上げ効果を持ちます・・・

生成に時間かけましたから、効果はてきめんのはずですよ。」

「って!また無茶して、力使ったらまた・・・」

「大丈夫です。時間をかけてゆっくりと熟成してきましたから、縮む寿命は半年ほどです。」

「だーかーらー!」

違うそうじゃない、とツッコミたくなるリヴィアスに、ふふっと笑って笑顔で返すミール。

「まずは勝って下さい、お説教ならその後に。」

 

 -ギリギリギリギリ-

 まるで自らの歯をかみ砕かんばかりに歯ぎしりの音を立てるバラン。なんだ、私は

何をやっている?散々耐えてようやく相手の体力が尽きたと思ったら、ここまでの借りを

ようやく返せると思っておったら・・・それが今のアクションで全てご破算になったどころか

今度は逆にこちらのオーラの残量を心配せねばならなくなっているでは無いか!!

リヴィアスに、ミールに、そして己の迂闊さに全身を泡立たせて怒りを沸き立たせる。

 

 再び空中で対峙する両者。と、その時、彼らの周囲を白いモヤが覆い始めた・・・こんな

時間帯に、霧?いや、これは・・・

 

「なんだ?二人の間に急に雲がかかって来たぞ!」

上空を指差してチウが叫ぶ。他の一同もその光景を見て「何事だ?」と首をひねる。

明らかに自然の現象ではない、あれは・・・まさか、天候呪文(ラナリオン)

 

 たちまち二人の姿が濃い白に消え去り、それはまた地上にいる面々をも覆い隠す。

「普通じゃ無ぇな・・・あの精霊の仕業か?」

マトリフが軽く真空呪文を使い視野を確保しようとする、その時!

 

 -バチィッ!-

 強烈な静電気がマトリフの手を弾く。同時にチウの髭がバリッ!と弾け、ラーハルトの

槍先がジジッ!と稲妻を走らせる。へろへろの剣先からも、頬を掻こうとしたまぞっほの

指先からすら電気が走る。

「まずい!雷雲だ・・・それも異常に高濃度な!!」

 ポップが己の両手人差し指を近づけて、その先にプラズマがびりっ!と走ったのを見て

確信する。これは・・・やばいっ!!

 

「クト!貴様の仕業か。」

怒りの矛先を折られたバランが、傍らに飛んできた精霊クトを睨んで吐き捨てる。

「貴方の使命は多い、このような所で手こずっている暇は無い筈です。」

「ぐ・・・」

「それに、向こうも二人がかりです。ならば私が助力するのも貴方の誇りを汚すことは

ないでしょう。」

 しばし瞑目した後、やむをえまい、と手を上にかざすバラン。魔法力を手に集め、竜の騎士の

得意呪文を打ち下ろしにかかる。

 

「いけない!リヴィアスさん、急いで下の海中へ!!」

白い雲に覆われ視界を失ったミールが、この空間の異常さに気付いてそう叫ぶ。

コレは・・・この空間は、危険すぎる!

 

 

瞬間移動呪文(ルーラ)

瞬間移動呪文(ルーラ)っ!!」

 ポップとマトリフが、付近の全員を掻っ攫うかのようにルーラに巻き込み、そのまま雲の圏外まで

全力で避難する。もしあの電気が飽和している空間で、あの呪文を使われたら・・・

 

 視界が失われたまま、バランがその手を下に振り下ろす。この空間にいる自分以外の者に

確実な死を与える、恐怖の電撃を撃ち落とす!!

 

天嵐雷撃呪文(ラグナ・デイン)!!」

 

 瞬間、雲に覆われた空間全体に、野太い金色の折れ線が荒れ狂うように走る!

電気のプラズマが飽和した空間で放つライデインは、その航跡を大河として、支流の電気を

全て巻き込み、飲み込んで超高圧の電撃となって目標に向けて落下する。

 

 飛翔呪文(トベルーラ)で海面へと向かう、リヴィアスとミールを目掛けて。

 

 ぞくり!

 

 リヴィアスもミールも、巨大な濁流となって迫る雷に背筋を凍らせる。追いつかれる前に

なんとしても海中に逃げ、ミールの”純水(アクア・リウム)で電撃をしのぐしかない・・・

 

 だが、水面までもう少しの所で、そのプラズマは二人に追いついて・・・

 

 -カアアアァァッ-

 

 強烈な直撃音が響き渡った。その瞬間、轟音が掻き消えるほどの強烈な光が、周囲一帯を

眩しく照らす。

 

 その中心にいたのは人の形をした黒い影だった。ほんの数瞬前までは人だったそれは、

間違いなくその瞬間から物体と成り果てて、まるでフィラメントのように光を発し続けていた-

 




雷「リア充爆発しろ。」
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