「もうすぐだよ、この森を抜けたら指定の場所だ。」
オグマと共に山林を登りながらメンフィスはそう語る。獣人の彼らにとって山登りはそうキツい
ものではないが、別種の緊張感から汗がにじみ出てくる。
「アイツ、マグマグマとか言ったな、強いのか?」
「ああ、アギンロッドと
獣人たちの集落に現れた魔族たちが崖の上から姿を見せる、総勢で5人。
その数の少なさに獣人たちは伏兵の存在を警戒するが、彼らの中心にいた首領、
サタンジェネラルのマグマグマが大声で獣人達にこう告げてきた。
「獣人どもよ!お前たちに1対1の決闘を受ける意志があるか!?」
その言葉に目を丸くする獣人たち。それもそのはず、これまでの奴等との小競り合いは
乱戦や奇襲は当たり前、女子供すら容赦なく手にかける今までの抗争を考えたら、それは
あまりにもかけ離れた提案だからだ。
「やりたいなら受けてやるよ!どんな卑怯な手を使って来るか見物だがねぇ!!」
メンフィスが皮肉たっぷりに返す。獲物のドギーハンマーをどんっ!と地面に打ち付けて。
が、マグマグマはふん!と鼻息一つ鳴らすと、彼らを見下ろしながら話を続ける。
「今まではお互い犠牲が無駄に大きすぎた。そこでだ、お互い最強の戦士を出して決闘し、
勝った方の陣営を勝者とし、負けた方は無条件で勝者に従う、どうだ!?」
しばしの思案の末、メンフィスはその提案を受け入れた。それはあらゆる意味で彼女たち側に
好都合な提案だったからだ。
まず女子供など非戦闘員を危険に晒さずに済む事、村の家や畑などを荒らされないので
争いで失うものが少ない事、何よりいつまで続くかもしれないこの争いが手っ取り早く
終わるとなれば望むところである。
そして何より今、こちらには強力な助っ人がいる。
1対1の対決で後れを取ることはまずあるまい。
もしその決闘が罠だったとしても、最悪彼だけを犠牲にすればこちらは元々の戦力の損失は無い。
後はそれらをふまえた上で、オグマがそれを了承してくれるかどうかだったが・・・
「俺は・・・強くならなきゃならない。任せてくれるなら望むところだ!」
その決意と共に決闘を受けて立つオグマ。短剣ナタルコンもまた、そんな使い手に同意する。
『魔族に手こずるようなら、あの精霊にはとても届くまい。挑むが良し!』
こうして両者の雌雄を決める決闘が成立した。立会人は双方一名、無論手出しは厳禁。
場所は東の山の中腹にある原野に決まった。
そして今、オグマと立会人のメンフィスが野原に到着、ほぼ同時に反対側の森から
ふたつの影が現れる。ひとりは先刻目にしたサタンジェネラル・マグマグマだ。もうひとりは
彼より頭一つ背の低いやや華奢な人物、おそらく立会人なのだろう。
マグマグマは腕を組んだまま、斜面の上側からオグマ達を見下ろし、その周囲を吟味する。
「ふん!約束通り2人で来たようだな、群れるしか能のない獣にしては上出来だ!」
「そっちこそ!いつもと違って伏兵は無しかい!どういう風の吹き回しかねぇ!」
獣人のメンフィスやオグマは鼻が利く。斜面の下側にいる彼らにとって、拭き下ろしてくる風は
敵の臭いをはっきりと届けてくれる、間違いなくあの二人だけだ。
「ふん、勝てると分かっている勝負に小細工はいらんよ、覚悟するんだなメンフィス!」
胸を張って見下すマグマグマの言葉に、メンフィスはにやぁっ、と笑う。
「じゃあ始めるかい、ウチの代表はこの
なに!?という顔をするマグマグマと、してやったりという表情のメンフィス。先程のセリフからも
相手はメンフィスが出て来ると思っていたのだろう。だが今や獣人側の最強は彼女では無かった。
が、マグマグマは意外そうな顔はしたが、すぐにクックック、と笑って余裕の表情に戻る。
「気が合うな、こちらの戦士も俺じゃない、コイツだ!」
マグマグマが手をかざすと同時に、隣にいた男が被っていたフードを脱ぐ。その姿を見て
メンフィスが、オグマが、そしてナタルコンが思わず硬直する。
「あ・・・あの肌の色、まさか、精霊!?」
『いや、精霊は女性の体を取っているはず・・・だとすれば、まさか・・・人間か!?』
その見た目に驚くオグマとナタルコン。その隣ではメンフィスが愕然とした表情で冷や汗を流す。
「人間・・・
その反応ににたり、と口元を歪ませるマグマグマ。
「そうだ、こいつがあの
メンフィスは、なんてこと・・・と顔を強張らせる。最近この辺りで流布している戦士の噂。
西の丘の牛魔獣を仕留め、闇の谷の百足竜を打ち取り、大魔王第三宮殿跡の魔物たちを全滅させた
恐るべき戦士。コーンランスを使い、首元に赤い布をたなびかせる、黄色い肌の、人間の名。
くっ、と臍を噛むと、メンフィスはオグマを見る。謝罪か撤退か、いずれにせよ申し訳なさを
心に抱いて見た彼の目は、顔は・・・
希望と期待に、らんらんと輝いていた。
「人間!こんな所で会えるとはな、願っても無い。」
『瓢箪から駒、というヤツだな、思わぬ所から道が開いたものよ!』
彼らの目的。それは天界に行く事、その道中で辿り着く必要がある地上の住人、人間の存在は
彼らにとってこの上ない手がかりになるだろう。彼がどうやってこの魔界に来たかを聞き出せれば
一気に進む道が見えると言うものだ。
意気揚々と一歩踏み出し、リヴィアスに正対してナタルコンを抜く。それを天に掲げて
宣言するオグマ。
「我は人熊《ウォーベア》オグマ!この魔剣ナタルコンと共に天界を目指す者だ!」
そして上にかざした短剣をすっ、と相手に向ける。
それを受け、真っ向から視線を返してランスの先をオグマにすぃっ、と向ける人間の戦士。
「俺の名はリヴィアス。オグマとやら、貴様の全ての力を見せてみろ!」
メンフィスはそんなオグマの態度に感じ入っていた。彼はリヴィアスの事を
知らないのだろうが、サタンジェネラルのマグマグマを差し置いて代表を務める
その男に不気味さを感じないはずは無い。
だがオグマは全く憶する様子も見せず、命がけの戦いに前かがみで睨みつける、
若さゆえの無謀とはいえなんという度胸、胆力か。
マグマグマのほうは余裕の表情を崩さない。それはこの人間が噂倒れではないことを、
その身をもって知っているからだ。
彼が砦に現れた後、マグマグマはその噂の真実を確かめたいと思い、彼に腕試しを挑む。
もし自分相手に5分戦えたら、彼が持ってきた
くれてやる!と条件を付けて。
果たして5分の間に実に7回、そのコーンランスを喉元に、急所に突きつけられた、避けようの
無い状態で。
5分の時間を満たすために7回殺されたマグマグマは、負けを認めると同時に彼に
ある依頼をする。
最近この砦に魔獣どもが出没し撃退に手を焼いている。その手助けを頼めないか、と。
実際、砦にいた魔族の女性や子供たちは多くが殺され、ほぼ戦士だけになってしまっていた。
その為、食糧確保や負傷の手当ての人員がおらず、このまま長期戦になればやがて我らは
魔獣どもに全滅させられてしまうだろう。
唯一生き残った少年、マグマグマの年の離れた弟ザンは、魔物の襲撃に際して目の前で
仲間を殺され、すっかり臆病風に吹かれるようになってしまった、今では魔獣の遠吠えを
聞いただけで震えて頭を抱えるまでに。
魔族としては恥ずかしいザンの存在だが、逆にその態度がリヴィアスに助っ人を了承させた。
「子供を泣かす奴は許せない性分で・・・な。」
人間にある”情”という感情が、彼に助っ人を引き受けさせ、なおかつ決闘による決着という案を
出させるに至ったのだ。
「この杖が地面に落ちた時から開始だ!準備はいいか!?」
マグマグマが愛用のアギンロッドをかざす。オグマもリヴィアスもうむ、と頷いてから
視線を決闘相手に戻し、短剣を、槍を構える。
投げ上げられた杖が空中で幾回転し、地上めがけて落下してくる、緊張の瞬間!
-どずっ!!-
オグマが、リヴィアスが動く。ナタルコンが囁き、コーンランスが唸りを上げて突進する。
2人の戦士の戦いが始まった!