-バラン、
「良かろう、望み通りにしてやる。」
空に浮き上がり続けるリヴィアスを見上げてそう言った後、翼をぶわっ!と広げて
飛び上がるバラン。先程は戦闘意欲を無くしていたが、雷撃で殺したフィガロが
天界の敵であるというなら戦闘続行に契約違反は無い、この竜の騎士の最強の超呪文を
打ち破るなどというなら見せて貰おうか、人間!
-ギュイン-
バランの両手の甲にある竜の眼が光を放つ、その両手を噛み合わせ、上下両頭の竜の
真上の敵にかざす。地上から30mほどの高度で停止し、リヴィアス目掛けてその両手を
ゆっくりと開いていく。
-ギュオォン、キィィィィィ・・・ン!-
上下の竜の顎を模した掌が開き、その喉の奥に当たる手の甲の付け根が青い光を灯す、
それは光量と
「マジかっ!アイツ・・・アレを受ける気かよ!!」
見上げるポップが思わず嘆く。フルパワーで撃ち放てば一国をも消し去る威力を持った
あの技を要求したリヴィアスの無謀さに、背筋に寒いものが走る。
「つまんねぇ意地で、命を捨てるんじゃねぇぞ・・・策は、あるんだろうな!」
マトリフもまた、この無謀な挑戦を仕掛けたリヴィアスを見上げて冷や汗を流し、思わず
歯噛みする。
「・・・愚かですね。」
その精霊”昇りのクト”の言葉に全員が反応する。侮辱とも取れるそのセリフだが、
その真意が分からないわけでもない。バランはフィガロを殺した事により一度は戦いを止め
リヴィアスに殺される覚悟すら決めた。もし仇討ちをしたいならそのままバランを
殺せばよかったのだ。なのに彼は教えなくてもいい真実を教え、あろうことか最大の必殺技を
わざわざ要求してきたのだから。
「アイツなりのけじめじゃろう、精霊さんにはわからんかの。」
まぞっほの答えにうむ、とうなずくへろへろ。他の皆より少しだけリヴィアスと付き合いの
長い二人は、リヴィアスの心の奥底にある本音に近づいていた。
20年前のあの日、アルキードの国民の大多数はあのドルオーラによって死んで行った。
生き残った自分もまた、同じ技で最期を迎えたい。そしてその技に抵抗できるだけ
抵抗して、勇敢に挑んで逝きたいと決めているのだろう、己の死に様を。
「違うな。」
ぼそりと嘆いたのはラーハルトだ。かつて槍を交えた彼には、リヴィアスの行動が
単なる自殺行為には見えなかった・・・アイツはどんな不利な状況でも、必ず活路を
見出す思考を持った男だ、と。
「だが・・・一体どうする気だ?ダイすら己の
耐えきることが出来た呪文だ。それを人の身で受ければ助かる術など・・・」
ヒュンケルが見上げてそうこぼす。かつて見たあの呪文の威力は並大抵の防御など
消し炭にするほどの破壊力がある、ましてや鎧すら纏っていないリヴィアスが一体
どうやってアレを・・・?
「なるほど、な。」
直上のリヴィアスに狙いを定めながらそう呟くバラン。奴はこちらを見据えたまま、
止まることなく上昇を続けている。すでに数百メートルは浮かび上がっているか、
あれほど距離を取れば、いかにドルオーラでも発射から着弾までわずかなタイムラグが
あるだろう。そのコンマ何秒かの間に身を躱し、発射直後で竜闘気の減少した自分を
狙う・・・いわば”後の先”を取る気だな!
「ならば、貴様が動いた瞬間、その方向を見極めて撃つまでよ!」
バランも、見守る者達も、それぞれがリヴィアスの戦法、そして決意に思いを馳せる。
そんな中で、最も正解に近い想いを持つ女性が、彼の背中から声をかける。
「行く気ですね、リヴィアス。」
「ああ、絶対に顔や手足を出すなよ、ミール。」
「分かっています、存分に。」
-さぁ、行こう-
すでに1000mは上昇したリヴィアスが、ここで
当然のように自然落下を始めると、その槍を真下に翳し、己とミールの体を槍の鍔の後ろに
隠して、空気をかき分けて加速し落下していく。
「
そこからルーラを発動し、さらに落下速度を上乗せする。光の矢となった
天から地へ、一本の航跡を引いて落下していく!
「「真正面から、だとぉっ!!?」」
地上で見ていた全員が思わず叫ぶ。直上から直下へ、天からバランに向かって真一文字に
突き進むリヴィアスに「んなバカな!」という顔で大口を空けて固まる。アイツ下に
ドルオーラが待ち構えてることを忘れてるのか!?
「正面突破、だとぉっ!?」
当事者のバランだけが、ようやく敵の狙いを正確に悟った。奴の武器の
先端が鋭利に尖った、そしてそこから円錐状に広がっている武器だ。エネルギーの
濁流であるドルオーラに対してもその先端で突破し、その空間を押し広げて突き抜ける
事は・・・可能だ!まして超高速で交錯するなら、ドルオーラの威力に晒されている時間は
一瞬で終わるでは無いか・・・!
だが、もう遅い。今更戦法を変更する暇は無い、押し切るのみ!
「
-ドバッシュウゥゥゥゥゥン!-
超圧縮された竜闘気がバランの掌から撃ち出される。
天に向かって立ち上がる破壊の青い光が、地に落下してきた光の槍を飲み込む、その瞬間!
「
-ッパアァァァァァァァン!-
音速を超えたリヴィアスが、音の壁を突き破って大気を割る。槍から放射状に放たれた
その威力が、ドルオーラの青い光をリング状に蹴散らす、まるで煙草の煙で作った
輪っかのような竜闘気を後ろに残して突破し、そして・・・
ドルオーラが蹴散らされる。竜闘気が粉砕される。そしてバランの両手が描くドラゴンの
頭が、差し込まれた槍先によって真っ二つにされ、両腕が上下に吹き飛ばされる・・・
だが、その刹那の瞬間にバランは見た。なぜか、まるで時が止まったように、ゆっくりと
見つめたのは、その槍を持つ男の背中に映った、彼の背を押す何人もの人物。
背中の少女、人熊、魔剣、黒装束の娘、竜人、竜戦士、少年少女、老魔道鬼、そして
先程黒焦げになった青年、幾人もの人間たち・・・
(ああ、これが、この者の、強さ・・・か)
バランは改めて知る。”人の心”の強さ、かつてダイとポップに知らしめられた、
竜の騎士の3つの力のひとつを。
この男の歩んできた物語の、強さを。
槍先が竜魔人のどてっ腹を貫通する、伝説の騎士の体が”く”の字に折れ曲がり、
直下の地面まで突き進んでいく。
「ダメえぇぇぇ・・・っ!!」
悲痛に叫んだのはミールだ。彼女はドルオーラを突破したその瞬間に、リヴィアスの
本当の真意に気付いていた。彼の心に残る後悔、その最後の棘を抜くその方法と決意を!
-ドォォォォ・・・ン-
両者が地面に激突し、衝撃と土煙が上がった瞬間、見ていた全員が固まった。
「いかん!ポップっ!!」
「ウス!」
マトリフとポップがルーラを発動して、着弾点にかっ飛んで行く。そうだ、どうして
気付かなかった!確かにあの超高速ならドルオーラを突破する事も可能だろうが、
その戦法は代償として”突破した後に止まれない”というリスクが当然のように
あるじゃないか・・・バランは地上から50mと離れて無かった、音速を超えてバランに
激突したリヴィアスが、そのまま地面に落下したらどうなるかなんて火を見るより
明らかじゃないか!いかにドルオーラとバランの体の抵抗で減速していても!!
◇ ◇ ◇
「リヴィアス!リヴィアスっ!返事をしなさいっ!リヴィアーースッ!!」
煙の晴れた着弾点、クレーターの上に横たわるのは槍に貫かれたバラン。その上には
槍を抱えたまま地面に突っ伏すひとりの男。その背中で幼い少女が泣き叫んで
下の男の名を呼んでいた。
「・・・おろ、かな・・・技を、出した後の事も・・・考えぬ、とは・・・」
後ろ半身を潰され、大地を青い血で染めながら、自分に覆い被さる人間を見て
息も絶え絶えにバランがそう呟く。あの速度で体当たりなどすればこうなる事など
分かっていたであろうに・・・
竜魔人のバランの超肉体は、激突の衝撃と腹を貫く槍からも即死だけは免れた。その
バランの体とリヴィアスの体が2重のクッションとなったミールは、奇跡的に無傷であった。
だが、その二人にサンドイッチされた状態で地面に激突したリヴィアスは生身の
人間でしかない、音速に近い速度でバランの固い肉体に激突した彼は全身の骨をバラバラに
粉砕させ、内臓をズタズタに破裂させて・・・事切れていた。
「違う、違う!違うのですっ!」
ミールが涙のしずくを飛ばしながら首を振って叫ぶ。リヴィアスは分かっていて
あえてこうしたのだ、私が背中にいる事すら利用したんだ。
「リヴィアスは・・・かつて、貴方のドルオーラで・・・背中にしょった妹を圧死させて
いるんです・・・だから、今度は・・・今度こそ、自分が潰れて・・・私をっ!」
「な・・・ん、だと・・・?」
バランは知る。リヴィアスという男の苛烈な物語を、その背中の少女が語る言葉から。
生後わずか半年の、当時のディーノと同い年の赤子をクッションにして生き延びてしまった
その少年の歩んできた道を。
誰よりも己の不甲斐なさを憎み、己の悲劇から逃げずに抗い続け、数々の困難を乗り越えて
幾多の仲間に支えられ、ついにここに辿り着いたひとりの
そして、かつての自分が、どれだけ愚かな過ちを犯したのかも。
「私は・・・この、ために、蘇ったの、かも、しれぬ、な・・・」
皮肉なものだ、と思う。ソアラの魂を天に還すために復活した自分が、その役目が
彼の復讐を完結させるためにあったとすれば、運命の歯車のなんと皮肉な、そして
痛快な事よ・・・
彼らの周囲にはすでに仲間達が集い、魔法使いの3人が懸命に回復・蘇生魔法を
施している。だがリヴィアスは地に伏したまま動かない、その顔は死んでいるとは
思えない程穏やかで、やり遂げた男の笑みを湛えていた。
「ちくしょう・・・起きろ、起きやがれっ!」
「てめぇ若ぇクセに!俺みたいなジジイより先に逝くんじゃねぇ!」
「オグマが、きらりんが待っておるぞい!帰ってこいっ!!」
「娘よ・・・手を、出すのだ・・・」
息も絶え絶えに、バランが己の手をミールにかざす。その握られた拳が震え、小指の
下からひとしずくの青い血が、僅かに滴ろうとしている。
「これは・・・?」
落ちるしずくを両手で受け止めてミールが返す。その血が何か力を秘めているのを
感じ取って。
「私の血だ・・・蘇生効果を秘めているが、魔族の青い血では・・・可能性は・・・低いが・・・」
「感謝します。」
そう言って、その血をペロッと舐めとるミール。
「な・・・!?」
目を見開き、大口を開けて驚くバラン。いやお前が飲んでどうする・・・まさかの展開に
愕然として固まり、間抜けな顔で鼻水まで覗かせる竜の騎士。
しばし咀嚼した後、ミールはリヴィアスの顔を起こして、口移しで口の中の液体を
リヴィアスに飲ませる。彼女は水分操作のエキスパート、魔族の薬を人間用に精製するなど
お手の物だった。
「・・・なんと。」
凄いものだな、と心で呟き、首を真上に向けてふふふ、と笑うバラン。まるで私が初めて
ソアラと出会った時、泉の水を飲ませてもらった時のようじゃないか、と。
ならば、これでこの若者が生き延びられぬ筈はあるまい・・・なぁ、ソアラよ。
リヴィアスの物語、ついにここまで行き付きました。