-じゃあリヴィアス、ルミナを見ていてね-
懐かしい母の言葉が優しく響く。目の前で寝ているのはほんの半年前に生まれたばかりの
可愛い妹。母にうん、と頷いて、自分の人差し指で妹の頬をちょん、とつつく。
-きゅっ-
その指を、幼い手のひらがしっかりと握りしめる。赤子はまんまるの目を見開いて掴んだ
指を嬉しそうに見つめて、笑う。
儚い命、その温かさにリヴィアスは思わず笑って、涙する-
◇ ◇ ◇
(夢・・・か。)
指先の感覚を残したままおぼろげに目を覚ますリヴィアス。ああ、懐かしい夢を見た。
あの温かい手のひらの感触は、いまだに忘れる事が・・・
「・・・え?」
目を開けて驚く。自分の人差し指はあの時の様に小さな手のひらに包まれている、その
懐かしい暖かさと共に。
そこでリヴィアスは初めて気づいた。自分がベッドに横になっていて、そこから伸ばした
指を隣に寝ている少女に握られている事に。そして、その少女が自分の知っている姿より
さらに幼くなっている事に・・・
「って、ミール!」
-ずきいぃぃぃっ!-
「ぐおぉぉぉ・・・っ!!」
起き上がろうとした瞬間、全身を走りまくる激痛に思わず悶え、そのままベッドに
倒れ込む。腕が、足が、腹が、張り裂けそうに痛む、痛すぎる・・・うがぁぁぁっ。
「ほっほっほ、生き返ったとはいえ痛みは失せないもんじゃよ、寝ておれ。」
「ったく、心配させたバツだ、しばらくの間くたばってな。」
まぞっほとへろへろの声にも反応できず、ベッドでしばし激痛と戦うリヴィアス。
体を極力動かさないようにして、なんとか激痛が収まるのを待つ・・・少しマシになると
顔だけ動かして周囲を見回す・・・それだけでも全身を痺れるような痛みが駆け回るが。
どうやらここは小屋の中のようだ。周囲にはまぞっほ達の他にヒュンケルとラーハルトの
姿も確認できた。だが、この状況は一体・・・
「そうだ!奴は、バランは・・・ぐはあぁぁぁ痛っ!」
死闘の最中に意識を失ったことを思い出し、体が戦闘体制を取った瞬間に再度激痛で
のたうつリヴィアス。アドレナリンが巡っている戦闘中ならともかく、寝入ってしまっていた
今の彼が急に跳ね起きようとすればそりゃこうなる。
再度痛みが治まるのを待って、その後の顛末を皆から聞くリヴィアス。その間も
彼の右人差し指は、隣で寝ているミールに握られっぱなしだった。
バランは最後に己の血をミールに託し、それを彼女がリヴィアスに飲ませてなんとか
蘇生できた事、その後ほどなくバランは死に、その魂は傍らにいた精霊クトによって
今度こそ天に還された事。
「私の行動と、神々の意思は別の過程を経て、同じ所に行きついた気がします。」
それがクトの最後の台詞だった。彼女は天界の戦士としてバランを復活させたが、
それはバランがかつて滅ぼした国の生き残りに仇を撃たせるために蘇らせたのでは
なかったのかと、自分自身に対しての嘲笑を込めて。
「・・・結局俺の復讐も、神々の掌の上、というわけか。」
そう自虐的に呟いた後、改めて自分の指を握る小さな手のひらと、その少女を見る。
「それも、いいかな。」
もう全てが終わった。例えそれが神の悪戯だとしても、俺はもう一度その指を
握ってくれる存在に出会えたのだ・・・有難いことだ。
「ミールには感謝しろよ、全員が総掛かりで止めるまでお前にホイミをかけ続けて
いたんだからな。」
「おかげでこの若さまで来てしまったよ・・・神の涙は間に合うかのう。」
ヒュンケルに続いてまぞっほがやれやれ、と嘆く。ミールはついに2歳ほどまで
若返ってしまっていた、このままでは元に戻る前に寿命が尽きかねない。その献身に思わず
嘆くリヴィアス。
「全く・・・無茶しやがって。」
「「お前が言うな!!」」
全員のツッコミがリヴィアスに刺さる。そりゃそうだ、と笑って再び激痛にのたうち回る、
忙しい男だ。
「よう、お目覚めかい。」
ドアを開けて入ってきたのはマトリフだ。その後ろから続いたポップが神妙な顔で
リヴィアスに告げる。
「フィガロと、あの
「・・・
「ああ。バランが事切れてすぐ、その死体は元の姿に戻ったのさ・・・聞いた話じゃアンタの
お仲間なんだろ?」
天界の魔法、
元の姿に戻る、バランの魂に引っ張られて竜魔人化した彼は、バランの昇天と同時に、
元のモンスターの姿に戻っていた。
「そうか・・・感謝する。」
魔界屈指の戦士であった彼を、故郷である魔界にて葬ってやりたい。それは多分
自分だけでなく、オグマも、ナタルコンも、そしてミールもそう思うだろう。
そしてフィガロはやはりこの地に、仲間と共に弔ってやりたい。やがて俺もまたここに
眠ることになるだろうから。
近くの森の中、チウは薬草を探し集めていた。鼻の利く彼にとって薬草探しはお手の物だ、
すでにいくつかの痛み止めや化膿止めの草を手にしており、そろそろ小屋に帰ろうかと
思っていたその時・・・
-ぞぞぞぞぞっ!-
背筋が凍り付く、全身を悪寒が駆け巡る。
その彼の本能が告げる、良くないことが間もなく起こる、それも天災レベルで!!
「なななななんだ何だ!?一体何が・・・?」
ズズン!
地面が揺れる、大地が震動する、大気が震え、水が波立つ。
世界が滅ぶ、その始まりの振動。
◇ ◇ ◇
-魔界-
「さて、んじゃ俺らは行くか、マルタ、ザン。」
最後の柱を建てようとした地点で、ヒムはにやっ、と笑って相方たちにそう告げる。
「って、お前がここ離れてどうするんだよ、みんなの魂は・・・」
「あー、熊のオッサン、コレ預かっててくれ。」
ザンの言葉に反応して、ヒムは手持ちの”魔法の玉”をダルタレクに投げ渡す。
「どこに行くのだ?」
ダルタレクの問いに、ヒムはふふん、と鼻息を鳴らして返す。
「決まってんだろ!剣士とやらを追うのさ、俺は別にあの人熊の言う事を聞く必要は
無いからな!」
先程オグマに「石にされた皆を頼む」と依頼されたのは、あくまでダルタレク達同郷の面々だ。
流れ者のヒムが何も律義に付き合う必要は無い、それよりもこの場の全員を斬り倒し、
あのクロコダインまで仕留めた戦士が相手となれば、出向いて挑むしか無いじゃないか、
強くなるのにこんなチャンスは滅多に無いぜ!と意気を上げ、拳を合わせる。
「おいおい、お前ら子供がどうこうできるかよ、相手はあの伝説の魔界皇ヒュンケルだぜ!」
キールの言葉に周囲の皆も同意する。何よりヒム達の見姿はまだ子供だ、彼らが挑んでも
3人まとめて真っ二つにされるのが関の山としか思えない。
が、マルタもザンも、そしてヒムも引く気はない。
「オグマさんには返しても返し切れない借りがあるんです!」
「俺も同じでね、ここで何もしなかったら
「ヒュンケル、っていう名に拘りがあってね、その名を名乗る奴が俺の目標の一つなのさ!」
頑として聞き入れそうにない3人を見て、ダルタレクはやれやれ、と息を吐く。
「仕方ないな、燃え上がる血潮こそが若さだ。ただひとつ約束しろ、ヒムとか言ったな、
お前は絶対に死ぬな!石になった皆を直せるのはお前だけなのだからな!」
この場には100人以上の魔界の住人が石にされている、彼らを元に戻すのにヒムの
決まってしまう、なんとしても生き延びて貰わねば。
「・・・分かった。約束するぜ。」
ヒムは不思議な心地よさを覚えていた。今まで自分の戦いはあくまで駒として、戦士として
死ぬことすら本望として戦ってきた。だがここにきて戦いの後に自分が必要とされている状況に
妙な嬉しさと、そしてムクムクと沸き上がるやる気を感じていた。
「ンなコト言って、あの女の子にいいカッコしたいんだろ。」
「なっ!?ちっ、ちげーーーよ!何言ってるんだお前はっ!!」
ザンの冷やかしにシリアスを抜かれ、間抜け顔で反論するヒム。それを見てマルタが
くすくす笑う、ヒムの纏う親衛騎団の装備と一緒に。
「あーもうお前ら!さっさと行くぞ、アルビナス、頼む!」
(はいはい、せいぜいいい所をお見せなさい。)
「違うっつってんだろうが!!」
自分の肩当てにまでツッコミを入れながら、トベルーラの魔法力がヒム達を包む。そのまま
光の矢となり、空の彼方にかっ飛んで逝くヒム達。
目指すは世界樹の切り株、敵が狙いをつけた2本目の柱が立つ大地。
-そして、魔界伝説の覇王-