魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第116話 少年と短剣

 -もう、どれほどかも分からない、遥か昔の話-

 

「お前も選べ、ヒュンケル。」

「う・・・うん。」

 魔界のとある集落、魔族や獣人族で成る村の元に、大規模な武器商人集団が訪れていた。

近隣の竜族との抗争が間近の今、商人たちはいわゆる「勝ち払い」で彼らに武器を

提供に来ていたのだ。なにせこの戦に勝利すれば価値のあるドラゴンのウロコや牙、肉が

大量に入手できる、そうなればたとえ後払いでも大儲けは間違いないと、その未来を見越して

集落の戦士に賭けたというわけだ。

 

 並べられた数々の武器。商人たちが言うにはそのどれもがいわゆる”ドラゴンスレイヤー(キラー)”に

なり得る逸品だと言う。だがそれだけにどの武器も武骨で大きく、まだ少年のヒュンケルに

手に負えそうな武器はなかなか見当たらない。

 

 と、ヒュンケルは片隅にあった一本の青黒い短剣に目を止める。刃が途中で角度を変えている

その武骨なナイフは、どこか力強さを感じさせるものがあり、なおかつ短剣なので

自分でも扱うことが出来そうだ。

「これにする!」

 ぐっ!と短剣を握りしめ、満足そうに笑みを見せる少年ヒュンケル。まだ幼い彼は未だに

戦いの経験は無いが、その彼をして初陣を迎えざるを得ないほど事態は切迫している。

我々が勝つか、竜共が勝つか、その時はもう間近なのだ。

 

 

 集落を炎が嘗め尽くしていた。炎に照らされて勝どきを上げるのは幾頭ものドラゴンの群れ。

その足元に倒れ伏しているのは、数えきれないほどの魔族や獣人族の・・・戦士たち。

 その一角に少年ヒュンケルもいた。彼はドラゴンの尻尾の一撃で全身の骨を

粉々に砕かれ、手にした短剣を振るう事もなく、激痛にのたうちながら、父が、兄が、

そして仲間が燃やされ踏み潰されるのを見ているしか出来なかった。

 

(あれ・・・アイツ?)

 巨大な竜に乗る竜騎士(ドラゴンライダー)の中に見知った顔があった・・・アレは確か、俺達に

武器を持ってきた武器商人のひとり・・・?

 ふと、そいつと目が合う。そいつはドラゴンを降りると、にやけた顔をしながらヒュンケルに

近づいてきた。

 

「いよう小僧、大人がマヌケだと子供も苦労するよなぁ、ケケケケケっ!」

 しゃがみ込んで、倒れているヒュンケルを覗き込むように嘲笑する。

「お前の仲間に売った武器な、ガワだけキレイにしたナマクラばっかりなんだよ、

この戦でせいぜい戦力ダウンしてもらう為になぁ、ヒャッヒャッヒャッ!!」

(なん・・・だと!?)

「ああ、お前のそのナイフもよ、折れたナタを適当に叩き直しただけのしろもんだよ。

ドラゴンどころか、スライムも切れやしねぇよ、そんなオモチャじゃなぁ。」

「じゃ、じゃあ・・・あんたらは・・・」

 最悪のシナリオに愕然としながら問うヒュンケルに、その商人は彼の頭をゴリッと

踏んで高らかに笑い、言い放つ!

「そうよ、俺達ゃ敵側なんだよ、まんまと引っかかったなぁ、ギャハハハハハ!!」

 

 

 敵が去った後、ヒュンケルはその短剣を高々と天に掲げ・・・地に叩きつけ、なかった。

自分が選んだ剣じゃないか、何を剣のせいにしてるんだ!

 そのままその剣で自分の喉を掻っ捌いた・・・だけど、ノドには小さな切り傷が出来ただけで、

致命傷すら与えることは出来なかった、自殺するだけの切れ味すらなかったのだ。

「お前・・・本当に斬れないよな。」

 

 それから彼は近くの支配者の元に赴き、砦や建物を作る労働者として働きながら自らを鍛え、

暇を見つけては剣の練習を積んでいた。そのナタから出来た切れないナイフでも敵に

勝てるだけの技量を身につけるために。

 そして彼は気付いた。このナイフ、刃の曲がった一点で、ある角度で指し込んだ時のみ

鉄をも切断する切れ味を秘めている事を。正確に言えばそれは、彼が刃物と言う武器の

正しい扱い方に気付いた瞬間でもあったのだ。刃の形状や作りに合わせて斬り方は

千変万化する、そんな剣技の基本にして奥義を、このナマクラの短剣が教えてくれたのだ。

 

 やがて魔界にある少年剣士の噂が立ち始めた。使う剣は様々だが、まるで舞うように静かに

そして鮮やかに敵の体にするりと剣を突き立てる、不思議な技を持った戦士の噂が。

 

 

「・・・まっ、待ってくれ!俺はもう竜騎士(ドラゴンライダー)は止めたんだ。」

 あの時の武器商人を突き止め、その仲間を全滅させた後、彼は懐からナマクラの

短剣を出してこう告げた。

「この剣を、まともに斬れる剣に叩き直せ、出来たら生かしておいてやる。」

 

 見事に叩き直されたそのナイフは、以前とは違う鋭い切れ味を得ていた。彼はそれを

自分を鍛えてくれた縁起のいいアイテムとして、お守り代わりに懐に収める。

 己の愛用の剣が折れる度に、奥の手として振るう”懐刀”として。

 

 

「お前さんが噂の剣士ヒュンケルか、なるほど、良い立ち姿だ。」

 姿勢を見るだけで敵の強さを見抜いたのは、身の丈6mほどもある巨大人熊だ。

自分とは真逆の、とてつもなくデカい戦斧を愛用するそのガルドという男は、ヒュンケルと

何度も戦いながら、お互い高め合う間柄となっていった。

 

 

 そして当時の魔界最強を決める戦い。

「おおおおおおっ!!」

「ブオォォォルワアァァァ!!」

 ヒュンケルが猛る、雷竜ボリクスが吼える。ガルドを見届け人として始まった戦いは

いつ果てるとも知れず続いていた。ボリクスは雷を呼び、牙から電撃を放ち、その強固な

皮膚で大いに魔界剣豪ヒュンケルを苦しめた。

 敵の手持ちの長剣を全て叩き折り勝利を確信したボリクスの頭上で、ヒュンケルは、

その懐から一本のナイフを取り出す。もはやこいつが最後の刃、己がお守りとして

愛用してきた、自分の始まりの剣・・・その時!

 

『我が主よ・・・勝利を!』

 

 空気を震わせてそう叫んだ・・・誰が?そう、コイツだ、俺の懐刀!宝玉にまるで

瞳のような輝きを浮かび上がらせて!!

「お前・・・意志を持ったのか!」

 雷竜ボリクスの強固な頭蓋骨の、まさにここしか無いという一点をすり抜け、その刃は

見事に死闘を終わらせた・・・周囲で見ていたボリクス配下の竜たちは一様に、ヒュンケルの

まさかの”奥の手”に、意志を持ち、刺し抜く位置を見抜いたそのナイフに、驚愕せずには

いられなかった・・・当時まだ幼かったヴェルザーもまた、その短剣を記憶に刻んだ。

 

「今のお前は、まさにオリハルコンの武器以上の価値がある。」

我が懐刀よ、ナタより生まれし、オリハルコンより価値のある、俺の始まりの短剣よ・・・

 

 -お前を”ナタルコン”と名付けよう-

 

 意志を持って以来、その短剣は主の戦いを記憶に刻んだ。その主は闘気と、刃そのものの

斬撃と、そしてそれに追随する衝撃波(カマイタチ)によっていかなる敵も野菜の様に切り刻んでいく。

 それを見る内に、短剣は真空呪文(バギ)と暗黒闘気を備えるようになる。主の強さを

トレースするかのように身につけたそれが、実戦で使えるレベルになるのは、もっとはるか後の

話ではあるが・・・

 

 

 覇者の剣で己の胸を貫かれたヒュンケルが己の愚かさを振り返る。そうだ、いつもはここに

ナタルコンがあった・・・俺の始まりの剣が、大切なお守りが・・・なんだ、バカだな俺は。

思えば俺が強くなったのはあのナマクラのお陰じゃないか・・・己を支えて来たものを手放して

こうなるのはむしろ当然では無いか・・・

 

 だが、まぁいいか。もう俺は成り上がった。あとはただ老いるまで退屈な頂点に居続ける

だけの存在、ならばここで果てても・・・何が魔界皇だ、くだら・・・ない、な・・・

 

(ガルドよ・・・ナタルコンを・・・頼むぞ・・・)

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

『来るぞオグマよ!構えろっ!!』

「おうっ!!」

 

 相対する魔界皇ヒュンケルとオグマ&ナタルコン。ヒュンケルはその顔に笑みをたたえたまま

覇者の剣を大上段に構える、まさにこれから天地斬りを繰り出すと雄弁に語る姿勢から

息を吐き、気を吐きながら必殺の一刀を繰り出す!

三界覇剣刃(トライ・ヒュンケル)!!」

 

 -ズバッシュウゥゥゥゥ-

 天から地へ振り下ろされた刃から、衝撃波が真一文字にオグマ達に向かう、もはや躱すなど

不可能だ!

 

真空極限斬撃(バギ・エグゼド・クロス)うぅぅぅぅっ!!!』

 ナタルコンの剣先から、最強の真空呪文(バギクロス)を3つ重ねた呪文が撃ち出される!

 

 -バババァァンッ!!-

 

 激突した両者の技が、同時に3度の相殺音を鳴り響かせて弾け飛ぶ。空気が轟き、

割れんばかりに音と光のプラズマが弾け舞う!!

 

「エグゼド・クロスが・・・全て相殺されただと!?」

『我が主の斬撃は、一振りで3重の切断力を持つ、よく覚え置けよオグマ!』

 ナタルコンの返しに、オグマはぶるっ!と武者震いを起こす。確かに今目の前にいる男は

魔界最強の男に相違ないだろう、そんな男と、魔界の運命を決する戦いに臨めるとは!

 

「ふっははははははは、あははははははははは・・・」

 突然笑い出したのはヒュンケルの方だ。彼は剣を振り抜いたままの姿勢で笑いながら

オグマとナタルコンを見据えて、歓喜の言葉を吐き出す。

 

「よくぞ!よくぞここまでに成ったナタルコン!良かったぞ、生き返って本当に俺は

幸せだ!お前がまさかそこまで強くなって、我が前に立ちはだかるとは!!

こんな日が来ようとは、思いもしなかったぞおぉぉぉぉっ!!」

 

 再び剣を八双に構え直したヒュンケル。あまりに堂に入った構えで、未だうっすらと

笑顔を浮かべながら、格上として先に名乗りを上げる。

 

「我は剣士ヒュンケル!かつて魔界の覇者と呼ばれた男だ!!」

 

「俺は人熊(ウォーベア)オグマ!魔剣ナタルコンと共に高め合う戦士だっ!!」

 




うーんこの戦いバカ共。
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