カール王国。
-ズ・ズズズズズ・・・ゴゴゴゴォッ!!-
「な、なんだ、地震か?」
突然に訪れたその揺れは、瞬く間に強烈な振動となってカール王城をシェイクする!
「いけません!大きいです、皆さん、早急に非難を!」
「城から出た者から国民の避難誘導!見晴らしのいい平地に集合させてください、急いで!」
宰相のアバンに続き、フローラ女王が城勤めの皆に指示を出す。被災の被害回避は初動が
なにより重要だ、後手に回った秒数はそのまま犠牲者の数になる、急がないと!
彼らの知る由も無いのだが、震源は死の大地、魔界の世界樹の柱の真上なのだ。そこを支える
魔界の柱が斬り倒されたことで、そこにほど近いカールは真っ先に影響を受けていた。
そして、地上の国々の中で、真っ先に魔界に落ちていくのが、この国だという事も・・・
ベンガーナ、デパート。
「落ち着いて下さい、落ち着いて避難をお願いします。階段は一列に並んでゆっくりと。」
デパートの従業員がメガホン片手に客の非難を誘導する。幸いここでは揺れはまだ
それほどでもないが、それでも人の密集するこの場所は二次災害の危険が高い。
「おいおいコネ!いいかげんにしてさっさと避難しろ!!」
警備員にどやしつけられた武器屋ベンベン店主コネ・ルートは、それでも店の高額商品を
風呂敷に詰めるのを止めようとはしない。
「やかましい!商売人が商品を投げ出して避難できるかあぁぁぁっ!」
数本のどたまかなづちをロープで束にしながら悲鳴に近い返事を返す。その様に
周囲の面々はやれやれ、という顔で避難していく、商売人の鏡だなぁ、と。
テラン王国。
「あれ・・・地震、かな?」
玉座に暇そうに座っていたダイが、かすかな揺れを感じて周囲をきょうろきょろ見回す。
「この程度の地震ならよくあるでしょう、それよりこちらの書類にお目をお通しください。」
衛士長のカナルに出された書類の束を見てげんなりしたダイは、一転真剣な顔になって
さも最もらしい正論を吐く。
「いや!何かあってからでは遅いよ、このさい避難訓練を兼ねて国民を集めよう!」
「・・・まぁ、いいでしょう。」
ダイが執務に飽き飽きして、半ば気分転換でそう提案したのは分かっているが、それでも
万が一を懸念してそれもアリかな、としぶしぶ同意するカナル。
後に彼は、それが万金の価値があった判断だと思い知ることになる。
アルキード王国跡。
「まずい・・・俺が行かなきゃ・・・ぐあぁぁぁっいたたたたっ!!」
小屋の中、無理に体を起こそうとしたリヴィアスが悲鳴を上げる。彼はこの地震が魔界に
建てた柱に何らかの異変があったことを確信し、出張らねばと思ってはバラン戦で受けた
体を覆う大ダメージにのたうち回らざるを得ない。
「今のお前さんが行ってもなんの役にもたたんよ、寝てろ!」
へろへろにばっさり言われ、ぐむぅ、と唸るリヴィアス。魔界に柱を建てた者として、それが
原因で地上を危機に陥れたとあれば寝てるワケにもいかないのだが・・・
小屋の外ではマトリフとポップ、そして薬草探しから戻って来たチウが空を見上げて
事態の深刻さに冷や汗を流す。この地震は・・・ヤバい!!
「まるで・・・世界が震えている、みたいだ。」
シッポをふるふるさせながらチウがそうこぼす。その見解はまさに的中であった。
今、地上は魔界に向かって、崩落の第一歩を踏み出してしまったのだ。
魔界、サルトバーンシティ。
「な、なんだ!岩が落ちて来たぞ・・・。」
「天の大地が鳴動してやがる、こいつぁヤバイぜ!!」
領主ケートスの館、集まっていた面々が事態の悪化を察して色めき立つ。この振動は
明らかに天の大地を支える柱に異変があったとしか思えない。
「急ぐとしよう、座して死を待つのは何よりの愚行じゃ!」
ケートスの一言に全員が「おうっ!」と答える。オグマ達が戦いに出向いた後、彼らは
石にされた仲間の救出と、他の柱に対する備えの準備を進めて来た。だがこうも事態が
切迫したなら、もう見切り発車で行動を起こすしかない!
天竜山。
-天界め、神めが、いよいよ魔界を・・・-
ヴェルザーの残留思念がそう嘆く。今のこの事態は、かつて大魔王バーンが目指した
地上破壊計画にどこか似たものがあった。違うのは地上を消し去るのではなく魔界に落とす事。
それは彼の部下であるキルが常々望んでいた事でもあった。
『地上が消えてなくなり、人間も魔族も竜も魔界に堕ちていく。そして破壊と殺戮を喜びと
する者のみが生き残る世界・・・』
この崩壊の仕方であれば、地上の人間も魔界の住民も、いくらかは生き残るだろう。そして
その後にあるのは生存のための熾烈で、そして凄惨な争い・・・そこには正義も美学もなく、
衰退と滅びに向かうだけの愚かな行進でしかない。我が支配したいのは決してそのような
やせ細って枯れた世界などではない!
-おのれ・・・よもやそれが、あの魔界皇ヒュンケルによって・・・-
◇ ◇ ◇
「ったく、冗談じゃねぇぜ!」
「同感だ、イカれてるぜ、あの剣士はよぉ!」
カジャン大陸の端までルーラで避難してきたヒム一行ときらりん一行、ヒムに続いて
でろりんが思わずそう吐き捨てる。あのヒュンケルは戦いに対して周囲全てを巻き込んでくる、
もし自分たちがあの場にとどまっていたら、あの男はためらわずに自分たちを利用するだろう、
人質やオグマ達の足枷になるなど真っ平ごめんである。
ここまで来れば天から落ちてくるガレキはほぼ無く、落下物に直撃されて命を落とす心配は
なさそうだ。今はまだ、ではあるが。
「で、これからどーすんだよ!」
そのザンの言葉に誰もが沈黙する。あの場に戻っても足手まといになる上にガレキに
潰される可能性も大きい。だからといって何もせずこの場にいてもしオグマ達が敗れれば
いよいよ魔界は、そして世界は終わる。
-何もする必要はありません-
全員が声のした方、上空を見上げる。そこに浮いていたのは先程からヒュンケルと行動を
共にしていた銀髪の精霊!確か”シア”とか言ったか・・・
「さっきの石化の奴・・・おいお前!あんな物騒な剣士連れて何やらかしてんだよ、このままじゃ
地上まで巻き添えじゃねぇか!」
でろりんが声を張り上げて抗議する。仮にも地上の人間たちは天界を崇拝し、かつてバーンの
魔の手から守ってやったってのに、その礼がこれかい!
「そうですよ!このままだと地上の人達が何人死ぬと思ってるんですかっ!」
「そんなにしてまで魔界を潰したいのかい?魔界イコール悪の考えに凝り固まっちゃってさぁ!」
きらりんとずるぼんもそれに続く。確かに今の事態はきらりん達が天の大地を柱で
支え始めたのも原因の一環だ。だがその柱を斬り倒した挙句の結末が地上すら巻き込むなら
その前に天界側が”魔界を閉じる”のを諦めるという選択肢は無かったのか・・・
「”魔界を閉じる”事業は神々の決定。私たち使徒はそれを粛々と成すのみです。」
まぁ予想できた答えがシアから返って来る。人間でも信仰の深みにハマった者ほど融通が
効かなくなるものだ。ましてや神の使徒である精霊に、魔界の者の声に耳を傾けろと言う方が
無理なのかもしれないが。
「あなた方に思わぬ抵抗を受けたのは、私たち”天の8行”の不徳。ですがそれで神々が
決定を覆すならば、とうに私たちに天命が下っているはず。すなわち・・・」
そう言って両手を左右に広げるシア、その背後に無数の光が輝き始める・・・来る!
「このまま計画を続行する事が、神の意志なのです!」
無数の光の玉が子供の姿に変化する。石化の魔法を人型にした、笑う少女達に。
「な・・・なんだ、あの子たちは!?」
「うっわー、あんだけ同じ顔がうじゃうじゃいると気持ち悪いな。」
シアを知らないマルタとザンが見上げながらそうこぼす。と、二人の間から一歩踏み出した
ヒムが彼女らに向かって、思わぬ言葉を返す。
「そいつは信じられねぇな!あんた本当に神の使いか?あの神がこんな事態を望んだとは
思えないがな・・・あのじーさん得体は知れねぇが、悪い奴じゃ無かったはずだぜ!」
その言葉にシアは不思議そうな顔をする。まるであの魔族の少年は神に対面した事が
あるかのようなその物言いに。
「戯言はお止めなさい!」
シアが手を振り下ろし、石化の使徒たちが一斉に彼らに襲い掛かる。だがきらりん達に
とってはその攻撃は周知のものだ。一体一体は強くない、取りつかせさえしなければ・・・
「
「
「
でろりん一家が呪文を放ち、襲い来る少女たちを吹き飛ばす。それを見たヒム達3人も
呪文で、そして拳で呪文を粉砕していく・・・
「って、なんだぁっ!?僕の右手が・・・石に?」
マルタが己の右手、使徒にパンチをくらわせたその手が石になっているのを見て驚きの
声を上げる、彼は呪文を使わない素手専門の少年戦士、シア相手には相性が悪すぎた。
「なるほどな・・・さっきのトコでもこうやってみんな石にされてたのか。」
ヒムとザンがふむふむ、とマルタの右手を眺めて言う。
「納得してないでさっさと直して!ほら、もう第二陣が生み出されて来てるよっ!」
確かに上空ではシアが再度、大量の光の玉を生み出している。先程から使徒を生み出す
その数が無尽蔵なのを経験したでろりん達は「またかよ・・・」と臍を噛む。
が、ヒムはそれを見上げてもあわてず騒がず、逆にシアを見てにかっ、と笑い・・・
「
マルタの手にかざしていた手のひらから呪文を発すると、その手が石から肉体へと
瞬時に直っていった。
「な・・・っ!?・・・?????」
愕然と固まるシア。そのせいか生み出されかけていた使徒の光の玉がまるで霧のように
霧散していき、残らず消え失せてしまっていた。
「どうよ、天界にいたまほうじじいに貰った呪文だぜ。」
満面のドヤ顔でシアを見上げるヒム。一方上空のシアは、まるで魂が抜けたように呆然と
その光景を見下ろし、その言葉を理解しようとしていた。
(まほうじじい・・・まさか、
天界固有の魔法・・・そんな、ありえない!あんな子供が、しかも魔族が、天界に
来ていたなんて・・・)
「あのじーさんは何でもお見通しなとこがあったぜ、神が本当に関わっているんなら
こうなる事も予想できたハズだ!そんであのじーさんは無駄に殺しをするような奴じゃねぇ!
さぁ、答えて貰おうか!これが本当に神とやらの意思なのかをな!」
びしぃっ!と決めポーズを取り、シアに言葉を叩きつけるヒム。が、その裏には
込み入った事情があった。先程の魔界皇ヒュンケルとの戦闘と、オーガニールの
魔力の消費もあり、そろそろ魔法力が底を付きかけているのだ。できればあの精霊を
なんとか退散させたいというのが本音でこんな虚勢を張っているのだ・・・が。
「すごいすごいっ!お兄さん本当に天界に?尊敬します、かっこいいです、ヒーローですっ!」
きらりんが目をキラキラさせてヒムを見つめる。なまじ変に決めポーズなどとったから
なおさら受けが良かったようだ、そのまま恋する乙女の目でヒムに詰め寄るきらりんには、
その後ろでぐぬぬ顔をしている
「一体どうやって天界に行ったんですか?是非教えてください、そうすれば神々と交渉も・・・」
ヒムの手を握りしめてぐいぐい押すきらりん。その言葉と態度に思わず呆れ顔になるヒム。
やがて、どはぁーっ、と溜め息をつくと、一気呵成に反論に出る。
「阿呆かっ!オメーが天界まで舞い上げてくれたんじゃねぇか!おかげでこっちは
えらい苦労させられたってーの!!」
「・・・はい?」
目を丸くして固まるきらりん。え?私が舞い上げた・・・って、いつ?
その後ろでずるぼんが「あぁ!」という顔で手を叩く。確かにこの魔族の子供の顔、
あの武術会できらちゃんが空に飛ばしたカエル泳ぎの選手まんまだわー、と。
隣りからどうした?と聞くでろりんに(ホラ、あの武術会で飛んでった金属人間よ)と
小声で囁く・・・が、それはきらりんの耳にもしっかり届いてしまっていた。
「・・・あ”っ。」
目の前のかっこいいお兄さんが、あの破邪の洞窟で無茶苦茶をやり、武術会で自分が
かっ飛ばしたマネキンさんであるという事実を認識し、かつ心でそれを否定したい思いが
葛藤を続ける。
恋心と苦手意識のせめぎ合いが、可憐な美少女の表情を両親譲りの見事な変顔に変えていく
・・・鼻水付きで。