魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第119話 導かれる答え

 -8年前、天界-

 

「精霊シア、参りました。」

 神々の合議所(ラグナ・サイロ)と呼ばれる神殿に呼び出されたシアが、緊張の面持ちで頭を下げる。

なにしろ今、目の前には天界の全ての神々が集まっているのだから。人間の神(イヴノウン)魔族の神(アグレシル)

竜の神(ネスカトル)獣の神(ガルドリオン)虫の神(クローツェル)鳥の神(アルバ)海獣の神(リマ・シィン)、そして植物の神(ポメイル)・・・

これだけ揃うのは天界でも滅多に無い事だ。

 

 シアには要件のあたりはついていた。なにせつい先日まで天界はあの大魔王バーンの地上破壊、

そしてその後にあるであろう天界侵攻に戦々恐々としていたのだから。

もはや神々の力をもってしても魔界から湧き出る悪を制裁できなくなってしまっていた。

ならばバーンが滅んだ今こそが魔界に対して手を打つべき時なのだろう。精霊の中でも特に

長きを生きて来た彼女にとって、今まさに天地魔界の歴史が転換期に来ている事を実感していた。

 

「さて、精霊シアよ。我らは”魔界を閉じる”ことを決定した。」

 その魔族の神(アグレシル)の言葉に、平伏したまま(やはり・・・)と心で頷く。それをあえて魔界出身の

アグレシルが告げる事が、神々の総意である事を証明している。

 

「今の魔界は、まさに強者の苗床と化しています。今後もバーンやヴェルザーのような強大な

悪が芽吹き、やがてはこの天界までその手を伸ばす事でしょう。」

 シアの主神である人間の神(イヴノウン)がそう続ける。そう、その通りだ。もう神の戦士である

(ドラゴン)の騎士であっても悪を制裁できない、抑止力を失った天界が魔界を抑えるには

もう魔界そのものを封じてしまうしか方法は無いだろう。

 

「その任をシアよ、お主に命ずる。この者たちと共に成すがよい。」

竜の神(ネスカトル)の言葉と共に、神々の御手から魂の光が離れ、それは無数の精霊の形をとる。

シアの周囲に具現化した7人の精霊は、彼女に向き合って名を告げる。

 

魔族の神(アグレシル)様を主とする”瞬きのサナ”、こちらは”満欠のネル”です。」

竜の神(ネスカトル)様の使い、”轟のニカ”だ、こっちは”落ちのイタ”、よろしくな!」

鳥の神(アルバ)様に仕える”流れのシル”。長き時を生きるシア様にお目にかかれて光栄ですわ。」

海獣の神(リマ・シィン)様の手足となります”昇りのクト”。共に頑張りましょう。」

「私は・・・獣の神(ガルドリオン)様によって生み出されました”降りのレム”です。」

 

 そう紹介する彼女らの名を聞いてシアは思わず呟く。

「瞬き、満欠、轟、落ち、流れ・・・もしや、天候(ラナ)の名を授かったのですか?」

 その言葉に「あったりー。」と笑顔でニカが返す。彼女は自分の指先に小さな稲妻を走らせて

神から与えられた聖名の力を持つことを示して見せる。

 

「シアよ、そなたには彼女らを統括する者として、新たに”輝き”の名を与えます。」

 その名が意味するのは太陽。名を授かったシアは新たにその力をも身に宿し、他の7人を

統括するにふさわしい存在となった。

 

「そなた達はこれより、天が地上に与える8つの恵みを持つ者、”天の8行”を名乗るがよい。」

 

 その後は8人による計画の草案が論じられる。長き時を精霊として生きてきたシアは、地上と

魔界の構造を、その脆さ儚さをよく知っていた。そしてそれを操作するならば水脈を生かして

行うのが一番である事を。

 そして計画には水の使い手、雨を意味する”落ちのイタ”がいる。同じネスカトル様が

生み出したニカは強力な雷撃を備えている・・・ならばやはり神々の意思は、地上を魔界に落とす

事なのだろう。イタが水脈を操って地上を落とし、ニカをその護衛に当てる意図なのだ、と。

 

 シアは草案をまとめ、神々に計画の発動を申し出た。対する神々は是とも非とも言わずに

彼女らに決断を委ねる。それはかつて神々が好き勝手に天地魔界を操作し、その結果起きた

悲劇から、自分たちが地上や魔界を操作する事を決してしない事をシアは知っていた。

 

 大切なのは魔界にも、そして地上の人間たちにもその事を気付かせない事だ。各々の

能力を考えた上で配置担当を決め、その為に必要な力を自分たちの主神から授かっていく。

 

 そして作戦の発動の日、神々にその旨を伝えた時、人間の神(イヴノウン)はシアにこう告げた。

 

 -魔界は過酷、なればこそ強者を生むのです。地獄こそが革命を成す土壌、それを

忘れぬように-

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

(そう、神々は言われた。この過酷な魔界こそが害悪なのだ。なればこそ神は数多くの命を

奪ってでも、魔界を閉じる決断をなされたのです!)

 眼下で痴話喧嘩?をする魔王(きらりん)神に拝謁した魔族(ヒム)を見下ろし、シアは今己の使命を

果たさんと両手をかざし、再び大量の光の玉を生み出す。

「あなた方は、危険です。」

 そして光が次々と少女の姿を成していく。魔界の空が少女達と笑い声の大合唱にたちまち

包まれていく!

 

 -あははは、ウフフ、きゃははははっ、クスクスクス、ケタケタケタ、んふふふふふふっ-

 

「また出た!しかもとんでもない数だぜありゃあ!!」

「ああ、さっきも数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど生み出したねぇ・・・ったく。」

 ザンの嘆きにずるぼんが答える。さっきの柱の所でもそうだったが、上空を追い尽くす

シアの使徒の数は数百はおろか数千でもきかないほどだ。

「やっべぇな!あの数で来られたら撃ち切れねぇぜ・・・どうする?」

 でろりんがマルタの前に立ちかばって天を睨む。アレに一斉に来られたら一巻の終わりだ、

ましてやヒムがもし石にされたらもう元に戻せる奴がいない・・・つまり、詰む!

 

「本体叩くしか無ぇな!飛べる奴いるか!?」

 ヒムが(フェンブレン)を抜いてそう確認を取る。彼の魔法力はもう無いに等しいが、それでも

アルビナスの三角翼(スクェアウイング)を使えば飛ぶことは出来る。だが単身突っ込んでもあの精霊に

(たか)られて石になるのが関の山だ、だれか露払いがいないと・・・

「私なら飛べますけど、あなたで大丈夫なんですか?」

 きらりんが紫竜の杖をかざして答える。この杖に宿る”翼化(ウイングス)の能力なら魔法力無しで

自在に空を舞う事が出来る、魔法を攻撃に使ってシアまでの道を作るのは不可能ではない。

 

「誰に言ってやがる!オメーこそヘマすんじゃねぇぞ!!」

「あなたを信じてロクな目にあった試しが無いでしょう!!」

 悪態をつきながらもヒムときらりんは拳をゴツ!と合わせ、手持ちのアイテムで空中に

舞い上がる、狙うはあの精霊シアの本体のみ!

 

「させません!」

 シアの号令一下、1万に達するかという数の精霊呪文がヒム達目掛けて襲い掛かる。おそらく

これが最後の攻防になるだろう。

「んじゃ、援護頼むぜ、魔王ちゃんよ!」

「待ーちーなーさいっ!突撃するしか能が無いんですかっ!!」

そう言ってシアに突っ込もうとするヒムを空中で抱き止めるきらりん。

「って、待ってても意味ねーだろが!」

「飛行能力を溜めててください、あの呪いの人形みたいなの、一気に蹴散らします!

ササササササササササササササササササササササササササササササササササササササ・・・」

 

 突然「サ」を連呼し出したきらりんに、ヒムが「んなっ?」という顔で抗議する。その間にも

少女の形をした石化呪文が二人を取り囲み、一斉に襲いかからんとしている。

「サササササ、詠唱増幅呪文(サム、マギア)!!」

 詠唱を終えたきらりんが、改めて息を吸い直して次の呪文を放つ。「サ」を言った数だけ

今から唱える呪文を生み出すという出鱈目な呪文を!

真空呪文(バギ)!」

 

 まさに紙一重だった。ヒムときらりんに抱き着く寸前の呪文たちは、周囲に発動した

100以上のバギが巻き起こす烈風に吹き飛ばされて、まるで霧のように薙ぎ倒されて

吹き飛んでいく。

「だあぁぁぁっ!何つー呪文だよ!」

「飛行に集中して!、一気に突っ込みます!!」

 風に巻かれて吹き飛びながら抗議の声を上げるヒムに抱き着いたきらりんが、紫竜の翼を

広げてシアを見上げる。今なら風のお陰でシアまでを遮る呪文は居ない!

「そういう事かよ、やるじゃねぇかあっ!行けアルビナス!!」

「紫竜の翼!行きなさいっ!」

 

 -ドッシュウゥゥゥ-

 

 遥か上空のシアに向かって、きらりんとヒムは一つになって突っ込んでいく。ヒムが掲げた

剣が真っすぐに精霊の本体に狙いを定める!

 

「「行っけえぇぇぇぇぇぇっ!!」」

 地上からでろりんが、ずるぼんが、ザンが、マルタが声を張り上げる。彼らは無数の精霊に

たかられて、もう体のほとんどが石になっていた。最後の希望を二人の共同作業に託す!

 

 

 その時、魔界に強烈な光が輝いた。

 

「ぐあっ!な、何だ!?」

 まるでシアの背後から差した後光のようなまばゆい光に目を焼かれ、刺突の姿勢を乱す

ヒム。きらりんもまた眩しさに目を背けざるを得ない・・・そして、次の瞬間。

 

石化呪文(ストーニング)!!」

 シアが目の前のヒムに両手をあてがい、その呪文を唱えたその時!ヒムの体が、そして

親衛騎団のオリハルコンの装備が、瞬時にして石と化す。

「ヒムさんっ!?」

 彼に抱き着いていたきらりんが、瞬時に無機物になった相棒の感触を悟って思わず

そう叫ぶ。重くなって動きを止めた彼の体を抱えたまま、重さに負けて下に落下する

きらりん。

 

 彼女が地面に降りた時、抱き着いていたヒムも、でろりんとずるぼんも、マルタとザンも

ついに物言わぬ石になってしまっていた。

 

「みんな・・・そんな・・・」

周囲を見回して愕然とするきらりん。特にヒムが石になってしまったことで、もう彼らを戻す

術が無い・・・

「い、今一体、何をやったんですか!」

 天を仰いでシアに叫ぶ。彼女自身が石化呪文を使えるのも意外だったが、突如襲ったあの光は

一体何だったのか・・・

 

 シアは上空でふぅ、と息をつく。これでようやくこの場の決着がつきそうで安堵していた。

そのせいで生まれた余裕が、きらりんの質問に答えるゆとりを生む。

 

「太陽の光を透過させて魔界に届けました。これが私の”輝き”の能力。」

「なん・・・ですって?」

 信じられないと言った表情で辛うじて返すきらりん。まさかあの地上の分厚い地層を

すり抜けさせて太陽の光を魔界に届けたというの?目くらましの為だけに・・・

 

「石化の使途を生み出す私が石化呪文を使えるのは当然の事です。かつて私は私の姉妹と共に

あのヴェルザーを封じ・・・」

「だったら!だったら・・・!!」

 シアの語りは、きらりんの怒りを込めた声によって止められる。

 

「だったら、どうしてその力で!魔界に太陽の光を送ってくれないんですかっ!!」

 彼女も魔界に来て、魔界の住民と触れ合って知っている。彼らが太陽の光をどれほど

欲しているかを。その恵みをどれだけ渇望し、憧れているのかも。

「魔界に酷い事ばっかりして!魔界のみんなを幸せにする事なんか・・・考えもしないで!!」

 

「浅はかな考えですね。」

 シアはさらりとそう返す。魔界を閉じる私が魔界の為になる事をするはずなど無いが、

それ以上にきらりんの言い分が的を外している事を含めて、こう続ける。

「魔界は元々マグマと地熱のせいで温かいのです、そこに太陽の光熱など引き込んだら

ここは灼熱地獄と化しますよ。そうしてもいいのですが、地下が高温になると地上にも

悪影響が出るので行わないのですよ。」

 

 その正論にうぐ、と引くきらりん。確かにこの魔界は常に熱を持ち温暖で、しかも

閉鎖空間なせいで空気も淀んでいる、ここに陽が照ったりすればたちまち生物の

生きられない状況になるだろう。

 

「単に太陽の光があるだけではいけません。地上のように風が()()、雲が立ち()

気流を生み、雨を()とし雪を()らせ、月の()()でエネルギーに緩急をつけ、

それでも飽和する力を雷で()かせて拡散させる、そんな世界を星の()きで癒す・・・

それが成ってこそ、地上のような豊穣の世界が・・・」

 

 完全に言い負かされたきらりんが俯いたまま悔しさに震えている。だが彼女はほどなく

上から聞こえていた声が話の途中で止まっている事に気付いて、再び天を見上げる。

 

 そこには、焦燥と絶望に顔を真っ青にした、冷静さの欠片も無く狼狽して震えている

一人の精霊の姿があった。

 

 

 

 -魔界は過酷(・・)、なればこそ強者を生むのです-

 

 

「そんな、そんな・・・まさか、まさか・・・神々の望んだ”魔界を閉じる”というのは・・・」

 

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