魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第120話 とある魔剣の幸せ

 -シュィンッ-

 

「え・・・えええ!行っちゃうんですかーーー!?」

 空中でなにやら青い顔をしていた精霊シアが、いきなりルーラでその場を離脱したのを見て

思わず声を上げるきらりん。仮にも戦いの最中だし、太陽云々の話の途中だったにも関わらず

あっさりいなくなってしまい、その場にひとり取り残される。

 

 突然の戦闘の終わりに「はぁ。」と息をつく。生き延びたとはいえ父も母も、魔界の少年

3人も石に変えられてしまった。特にあの元マネキンのヒムさん、彼が石化した事でもう皆を

元に戻すことが出来なくなってしまっていた・・・

「そうだ、いけないっ!」

 そう、石にされた者たちは程なくその魂が抜けて昇天してしまう。それを阻止する為には

ヒムの持っていた”魔法の玉”で魂を保存しておかなければならない。

「え・・・どこ?どこにあるの??」

 慌ててヒムの体を探るきらりんだが、最初に出した肩当ての裏は勿論、体のどこを調べても

あの玉が出てこない。

 

 -スッ-

 そうこうしている内に、でろりんやずるぼん、マルタにザン、そしてヒムの体から光る魂が

浮き上がって、すすす、と体から離れていく。

「ちょ、ちょっと待って・・・ダメーっ!!」

 魂を手づかみしようとするもすり抜ける、抱き抱えても背中からスルーする・・・ダメ、駄目っ!

 

 -ズドドドドォン!!-

 と、きらりんの周囲に無数の光の矢が突き刺さる。これは・・・ルーラで誰か来た!

「おお、きらりん様ご無事で!」

 最初に声をかけた魔族をきらりんは知っていた。サルトバーンの魔法使いで、パパオや

ネグネグと並ぶルーラの使い手のマイヤさん!

 

 その隣にいた人熊が、石にされたヒムを目ざとく見つけて思わずごちる。

「おい小僧!あれほど言ったのに石にされておるか・・・タワケものが!」

「あ・・・オグマさんのお父さん!って、それどころじゃない、玉を、あの玉を探さないと!」

きょろきょろと周囲を探すきらりんを見て、ダルタレクは周囲の皆と顔を見合わせる。

 

「・・・これかの?」

「そっ、それぇっ!それですっ!!」

 ダルタレクに駆け寄り、魔法の玉をふんだくるように受け取ると、そのまま紫竜の翼で

飛び上がり、昇天していく5つの魂に追いつく。

「イルイルっ!!」

 シュウゥゥゥ、と玉に吸い込まれる魂。よかった、これで最悪の事態だけは回避できた。

なんとかあのヒムさんだけでも蘇らせるか、石化解除の呪文を調べて会得すればまだ

みんなを元に戻せる可能性はある。

 

 すとっ、と地面に降りたきらりんが、タイミングの良すぎる助っ人たちの顔を見て問う。

「みなさん、どうして、ここに?」

「俺達サルトバーンで今後の対策チーム編成してたんですけど、なんか天の大地が

ヤバそうなんで、計画繰り上げて動いたんです。最後の柱に行ったら彼らがいたんで

一緒に合流呪文(リリルーラ)できらりん様のトコに来たんですよ!」

 息を切らせてそう答えたマイヤが、息をついできらりんに叫ぶ。

「一体・・・・何があったんですか!!」

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

 -ガラガラガラ・・・ズズズン!-

「うぁ・・・城が・・・」

 テラン王国、城の中にいた全員が庭園に避難してほどなく、その城は脆くも崩れ落ちた。

元々古城であったことに加えて、9年前のダイとバランの死闘の際にかなりのダメージを

受けていたのもあって、次第に強さを増す地震に遂に耐えきれなかった。

 

「さすが国王ダイ殿じゃ、避難の判断見事である。」

 前王のフォルケン老にそう褒められてえへへ、と頭をかくダイだが、次の瞬間には真顔になって

兵士たちに国の皆の避難誘導を指示する。幸い貧しい国であるテランは平屋が多く、地震には

強い建築構造になっている、今ならまだ被害を最小限に食い止められるだろう。

 

「けど・・・止まりませんね、この地震!」

 震度こそそう大きくないが、それはまだ現段階でのことだ。弱まる気配無く続く地響きは

その事態の深刻さを予感させずにはいられない。

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

「アバン宰相!あれを!!」

 城の付近の丘に国民を避難させながら、騎士団長のエルキンスが北の方角を指して絶叫する。

それを見たアバンも、フローラも、そしてカールの民もその光景に愕然とする。

「死の大地が・・・沈んでいく!」

 かつて大魔王バーンの”黒の核晶”で主だった山は吹き飛び、ほぼ平地になっていた死の大地。

それが今、海を波立たせながら海中に没していく・・・これは、単なる地殻変動ではない。

もっとヤバい”何か”が起こりつつあるのだ!

 

「いけませんね・・・これは・・・大地そのものが・・・」

 アバンはその続きを発せないでいた。言ってしまえばそれが現実となり、そしてもう取り返しの

つかない事態に発展する、それを確信していたから。

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 天界。神々の神殿に向けてシアが走る、その表情を不安で曇らせて。

(神々よ・・・あなた方は、魔界を閉じるのを・・・ならば何故、私たちの計画を・・・)

 彼女はその長い人生の中で、これまでにないほどに焦燥に駆られていた。かつて魔界皇

ヒュンケルを刺殺し、近年ではヴェルザーを姉たちと共に封じていた。その姉たちがヴェルザーの

憎悪に当てられて消滅して以来、彼女は天界で最も長く生きる精霊となっていた。

 

 そして彼女の果たしてきた使命は、ほぼ全て反魔界の使命だったのだ。だから今回の

”魔界を閉じる”も、魔界を滅ぼす使命だと信じて疑わなかった。

 だが、その事業に際し神々が与えた8人の精霊の聖名、そして人間の神(イヴノウン)様の言葉を

考えれば、神々が私たち精霊に何を期待していたのかはもう明らかだ。

 だからこそシアは、神々が自分たちの計画をなぜ否定しなかったのか、どうして私たちに

神々の望みを・・・魔界を豊かにすることを示唆しなかったのか。

 

 そうすれば、我ら精霊が本来忌み嫌う、戦いによる負の感情に晒されることも無かったろうに。

彼女は精霊として存在して初めて、神に対する不信感を芽生えさせていた。

 

 

 今や天地魔界、その全てが崩壊する地上に関心を寄せ、その先に不安を募らせていた。

 

 

 ただ、二人と一振りを除いて。

 

 

 

「うぉぉぉぉぉーーーっ!」

 -ガッキィィィン!-

「せぇやあぁぁぁっ!!」

 -ズッシュウゥゥゥ-

 

 世界樹の切り株の上、頭上から降り注ぐ岩石の間を縫って戦い続ける二人。古の伝説剣士

ヒュンケルと斬り結ぶは現代の獣人戦士オグマと、かつてのヒュンケルの懐刀である

魔剣ナタルコン!

 

『(こ奴・・・本当に全てを忘れて相手に集中しておる!)』

 ナタルコンがオグマの戦いと心理を読み取って思わず唸る。今まさに滅亡の危機にある

魔界の事も、きらりんやでろりん、ずるぼん、マルタやザンの事も意識から消し去り、

目の前の敵、魔界皇ヒュンケルに全ての意識を注いでいる。上から降ってくる岩石すらも

完全に無視して・・・

 

(左から右袈裟、そして剣気、次は上から・・・ここで突きが来る!)

 オグマはひたすらヒュンケルの動きを目と心で追って対応していた。その見事な完成度を

味わい、学び、盗んで己の武器とするために。

 無論技量で劣るオグマが一刀ごとに傷を負ってはいる、だが彼の今まで積み重ねて来た

技と、ナタルコンによる適切な指示と、そして相手を決して侮らぬ、その相手に食らいつく

精神で辛うじて致命傷を免れていた。

 

 オグマはナタルコンに『戦い意外忘れろ』と言われて以来、他の心配をする事を捨てた。

それは仲間たちに対する信頼の証、この魔界はきっときらりん様がなんとかしてくれる、

地上はリヴィアスとミールが行っているのだ、任せるのみだと己の思考を目の前の

恐るべし剣士との戦いに全振りしていた。

 

 -魔界に、戦いに生きるという事。その心得はむしろ憎しみとは縁遠いもの-

 -敵と戦うという事は、敵の研鑽を知り、己の努力をぶつける事だ。己の力を過信し、

  敵が己に倒されるだけの存在だという考えに飲み込まれてはならん-

 -敵を知れ、尊敬しろ、学べ。敵の強さを褒めよ-

 

 ああ、何と言う尊い言葉を俺に教えてくれたのだろうか、わが父ダルタレクよ。

 

 あの沼竜と戦った時も、竜人(キングリザード)ケプラスとの死闘も、クロコダインとの激闘も、

そしてあの勇者ダイとの熾烈極まる戦いも、常に俺の心の支えとなっていた宝物のような言葉。

 今、それは自分の全てを支えて、あの伝説の剣士との激闘を演じさせてくれているのだ。

己を知り、敵を感じ、手にした武器(ナタルコン)の声を聴いて、この最悪の状況の中、最強の敵に

真っ向から相対している・・・この俺がだ!

 

 

三界断裂(トライ・スラッシュ)!」

 次々と必殺の一刀を繰り出しながら、そしてそれを辛うじて凌ぎ、反撃に転じる人熊と

魔剣を見て、ヒュンケルは口端がつり上がるのを抑えきれないでいた。

(いいぞ・・・楽しい、楽しいぞナタルコン!そしてオグマとやらよ!!)

 

 思えば生前、あの覇者の装備を手に入れて以来、こんな楽しい戦いは経験しなかった。

既にボリクスを下していた自分にとって、残った敵に対し手にした覇者の装備は明らかに

オーバースペックであったのだ。

 天地魔界に敵なしというのはなんとつまらないのだろう。不幸にも時の(ドラゴン)の騎士は

その時まだ幼子であり、もはや魔界に自分に牙を剥く存在は潰え、ただただ玉座で過ごす日々。

 だからあの魔族の少女、精霊シアが自分を殺しに来た時は歓迎すらしたものだ。もし彼女が

手強き存在だったなら天界に攻め入るのも一興である、と。

 

 だがその結末は実に興ざめなものであった。何のことは無い、神の涙として具現化した

覇者の装備はシアと共謀してあっさりとわが命を奪ってしまった・・・戦い続けた自分の最後が

なんとつまらない終わり方をするのかと・・・

 

 

(感謝するぞオグマ、ナタルコン!そしてこの体の元となった竜戦士(バルデバラン)!シアもな!

よくぞこの俺にこんな楽しい戦いの場を、死に対するリターンマッチを用意してくれた!!)

 

 彼にはよく分かっていた。相手の人熊が己に対して全てをぶつけてきてくれている事を。

かつて己の手にあった懐刀が、最高の相棒と共に本気で己を仕留めようとしている事を!

 

 何手も先を読み、斬撃を振るい剣気を飛ばす。地を駆け、飛び、敵の一挙手一投足に意識を

めり込ませんばかりに集中させ、再びこの世に蘇った歓喜を爆発させる。

 

 そう、これが”生”だ!!

 

三界蹂躙(トライ・スワップ)!」

 ナタルコンの鞘が開き、ターンが暗黒闘気側に移った一瞬を見逃さずに、半身からの

上段斬りを繰り出すヒュンケル、今なら光の闘気のガードも効くまい、貰ったぞ!

 

 -ガガン!ザシュッ!-

 一刀で3斬撃を持つヒュンケルの剣技を、ナタルコンの暗黒闘気と真空の刃が2つまで

受け止める。が、残りの衝撃波は止められずにオグマの肌を鮮やかに切断・・・

(ぬっ!?誘われたか!!)

 刃を身に食い込ませながらもオグマは、その頭に光のどたまかなづちを浮かび上がらせる。

あえて先手を取らせ、相手を懐に呼び込んでの反撃、肉を切らせて骨を砕く!

 

闘気激砕槌(オーラ・グラヴィトン)っ!!」

「だあぁりゃああっ!」

 -ドッガアァァァァッ!-

 なんとオグマの頭槌に頭突きを合わせるヒュンケル。だが確かに躱しようのない状態では

最善の抵抗方法といえるだろう。だが魔族の強靭な肉体を持ってしても、こと膂力ならば獣人の

オグマに分がある、まして光の闘気を込めた頭突きの一撃、優劣は明らかだ!

 

 どんっ、ゴロ、ゴロゴロゴロッ!

 

 吹き飛ばされ、地面を転がっていくヒュンケル。それでも彼は転がりながらオグマに闘気の刃を

無数に飛ばして追撃をさせない。ガガン!とそれをナタルコンで受けるオグマ。

 

 ゴロゴロゴロ・・・ザッ!

 転がり終わると同時に跳ね起きるヒュンケル。額を割り青い血を流しながらも、その表情は

歓喜と闘志で満ち溢れていた、致命傷とはいかなかったようだ。

 オグマもまた、皮を割かれて肉が見えるほどの切り傷を負ったが、そこまで深手ではない。

先の一刀はこちらのスキをついた、素早さに振った一撃だったようで、その衝撃波だけで

骨を断つ事は叶わなかったようだ。

 

「ふ、ふはははははは!吹き飛ばされるなどいつ以来か!ハハハハハハハハッ!!」

「・・・重厚にしてスキが無い、油断もせずに集中力も抜群・・・さすがは魔界の伝説だ!」

 両者を称えて笑みを見せる二人の戦士。オグマの手にあるナタルコンはその時、不思議な

感動を覚えていた。

 

『我を生んだ主と、我が導いた弟子が今、最高の戦いを演じている・・・』

 

 -なんという・・・幸せか-

 

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