「ハァッ、ハァッ、ハァ・・・ふしゅうぅぅぅっ。」
「ゼェハー、ゼェハー、ゼェハー、ごふっ!」
もう何度目か分からない鍔迫り合いから分かれた2人が呼吸を荒げて対峙する。
ヒュンケルのほうは最初にナタルコンが仕掛けた希薄酸素空間での消耗があり、やや息切れ
している感じがある。
だが、オグマのほうはもっと深刻だ。相手の一太刀で3重の斬撃を生む刀法”
相殺し損ねる度に切り傷を負い、今や全身血まみれ状態である。獣人特有のタフさで
なんとか食らい付けてはいるが、もはや指一つ動かすにも激痛が走る有り様だ・・・
加えて周囲には次々と天の大地から岩石が落下し続けている、いつ彼らを直撃して
死に至らしめるかもわからぬルーレット状態での死闘は、もはや長引かないであろうことを
予感せざるを得ない。
「
『
ヒュンケルが飛ばした多数の闘気の刃を、ナタルコンが起こした乱流が蹴散らす。この剣気を
無効化できるだけでもオグマにとっては大きな大きなアドバンテージだ。もしこれが
無ければとっくにオグマは
だが無論、達人ヒュンケルが、ただ蹴散らされると分かっていて剣気を撃つはずもない!
「すおぉぉらあぁぁっ!!」
すべるようにオグマに接近すると、そこから次々と撫でるように斬りつける。速さに振った
その斬撃は3重の効果こそ無いが、それでも伝説の覇者の剣の閃光が次々とオグマの皮を、
肉を斬り抜いていく。
「ガルウゥァァッ!」
光のどたまかなづちを振り回して抵抗するオグマ。ナタルコンと共に高め合う光と暗黒の
闘気の相互成長は、逆に1ターンごとにどちらかが無力になるというリスクがある。
それを見抜いたからこそヒュンケルは最初に剣気を発し、ナタルコンに真空呪文を使わせて
魔剣のターンを終了させたのだ。オグマの光の闘気のターンに変わる瞬間に攻勢をかければ
敵の攻撃はあのハンマーヘッドに限定させられる。仮に光の鞘で攻撃を仕掛けても、刃の入って
いない鞘での一撃など、覇者の剣の一刀なら必ず叩き割れるだろう。
そう、ナタルコンのターン=攻撃、オグマのターン=防御、という大方のスタイルを見抜いた
ヒュンケルは、ここにきて戦いを
オグマにしても守勢に回っている時にナタルコンにターンを渡すことは出来ない。もし
光の闘気が尽きた時に一撃を食らえば、オグマの体はハムのように輪切りにされてしまうだろう。
『ぶち当たれい!』
ナタルコンの激と共に、刃を返したヒュンケルに体当たりをかますオグマ。針の穴ほどの
攻撃の隙間をついて体当たりで間合いを離せたのは、ヒュンケルをよく知るナタルコン
ならではのアドバイスの為せる技だ。
『
後退した敵に追い打ちをかけるナタルコン。姿勢を乱したヒュンケルは特に動揺もせず、
バギクロスを覇者の剣で受け止めると、その威力に押されて後退し、そしていなす。
攻防ごとにオグマにの終わりが近づいている。なにせ斬り結ぶたびにダメージを負うオグマに
対し、ヒュンケルは先程の
だが皮肉にも、短期決戦を望んで柱を壊したヒュンケルは、その優位を捨てざるを得なくなる。
-バッシャァァァァァ・・・-
天の大地から多量の水が落下してくる。それは2本、3本、4本と数を増やし、岩に交じって
地面に落ちて飛沫を上げる。
「ふむ、地上の”海”とやらの水だな。いよいよ地上魔界の結界が壊れたか・・・」
オグマから意識を切らずに天を仰いだヒュンケルがそうこぼす。天を支える柱を斬った事により
地上はこの場所から魔界に向かって陥没を始めている・・・魔界でいの一番に埋められるのは
間違いなくこの場所になるだろう。
「どうだ?生き埋めになるなど興冷めだ、次の一刀で決着をつけよう!」
絶体絶命の窮地にあってなお笑みを浮かべるヒュンケル。剣をオグマに向け、この戦いの
幕を引くべく身構える。
「望む・・・ところだ!」
オグマはナタルコンを両手で持ち、口でタスキに賭けたベルトからひとつのカプセルを
噛み砕いて発動させる。その牙に電撃が走り、それでナタルコンを咥えて電撃を鞘に移す!
オグマとナタルコンの奥の手。高め合った光と闇の闘気を刃と鞘に込め、その三又の剣先に
電撃呪文を通わせてぶち込む”
最後の切り札としてしか使えないこの技だが、その最後の舞台を相手が指定してきたのだ、
ここで使わぬ道理があるか!
グゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
その時だった。いやな音と共に天の大地がなんと歪み始めたのは!
天の大地は針山が下に伸びているものの基本平坦だ。その天の大地がまるで鍋の底のように
ふくらみはじめ、巨大な逆ドームのように半球体を描いていく。それはそのまま風船のように
膨らみ続け、そこからみじん切りをしたように無数の岩辺に割れて、その隙間から海水が猛烈に
シャワーとなって吹きだしてきた!
「天の大地が今、落ちる!行くぞオグマあぁぁぁぁっ!!ナタルコォォォォンッ!!!」
地を蹴り、まっすぐにオグマ達に突進してくる魔界皇ヒュンケル。その手に、剣に、
己の全てを込めて!
『最後だオグマ、全て使うぞっ!』
「おおおおっ!!」
ナタルコンの声に阿吽の呼吸で答えたオグマは、そのまま剣を真っすぐ敵に向ける。
『
ナタルコンは残りの魔法力のありったけを注いで、バギクロスの3重掛けの斬撃を放つ。
残る暗黒闘気を刃につぎ込んで、最後の刺突に行くべく指示を出す。
『追いかけろ!追いつけえぇぇぇ!!』
ナタルコンが見出したたったひとつの可能性。それは3重斬撃のヒュンケルの一刀を
エグゼドクロスで相殺し、そのスキにこちらの全力を打ち込むという作戦だ。
むろん相手も返しの一刀を振って来るだろう、わずかでもスキを与えればこちらが
斬り伏せられる、その直前の隙間を狙うべくオグマが真一文字に呪文を追い、敵を目指す!
迫る真空呪文を見たヒュンケルは目を見開いてにやぁっ、と笑う。上段に構えていた剣を
下段の地面すれすれに構え直すと、迫り来るバギに下から上に払うように斬り上げる!
「
-パパパアァァァァ・・・ン!-
3重の轟音を上げて消し飛ばされるエグゼド・クロス。天高く剣を掲げたヒュンケルは、
そのまま手首を返して瞬時に大上段に構える。目前に迫るオグマに狙いを定めて!
ナタルコンの狙いはあっけなく崩された。こうなれば残りの一刀、どちらが上回るかの
勝負だ。
「見事!ならば最後はこれだあぁっ!」
暗黒闘気の刃、光の闘気の上下鞘、そしてそれを走る
ぶち込むオグマ。
-
「すぅうおぉぉぉぉぉらあぁぁぁぁぁっ!!」
大上段から最下段へ、渾身の斬撃を繰り出すヒュンケル。間違いなく我が人生最高の一刀!
-
小さな魔剣の先端と、伝説の剛剣の刃芯が、吸い込まれるように・・・重なる。
-キイィィィィィ-
わずかコンマ数ミクロンの刃の先が、
-ィィィィィィィィィィィ・・・ン-
激突の際に響いた音が、地震も落盤も落水の音も掻き消すかのように、澄んだ音色を魔界に響かせる。
(ぬうぅぅぅぅぅああぁぁぁぁぁ・・・)
(グルウゥゥゥゥゥアアァァァァァッ!)
筋力を、闘気を、己の志すらを総動員して渾身の力で押し合う両者。もはやこうなっては
引く選択肢など無い、押し切った方こそが勝者たるであろう。
ギ、ギギギ・・・ギリギリギリギリ・・・
ゴギギ・・・ギリュグググググ・・・
両者の歯ぎしりの音だけが響く、今、彼らの耳を心ごと支配するのは目の前の敵の鼓動、
そして軋み擦れる牙の二重奏、それだけが世界の音であった、それで充分だ!
勝つのは、どっちだ・・・
ヒュンケルか、オグマか-
覇者の剣か、ナタルコンか-
その鍔迫り合いは一瞬だったのか、それとも日を跨ぐほど長く続いたのか、それは彼らには
伺い知れない。
ただひとつ言える事は、今この時も多数の落盤が上から降り注いでいるが、それは全て
2人を避けるように地面に刺さっていることだ。それはまるでこの戦いの決着を彼ら以外には
何者であろうと何物であろうと決めさせはしないという運命の意思であった。
そして訪れる、決着を知らせる、新たな音。
-パッキイィィン-
雷を纏った、ロン・ベルク作の二股の鞘が砕け、地面に落ちる。そして・・・
-ピシィッ-
ナタルコンの刃に、亀裂が走る。