そしてそれがあの話とは!最高でしたよ。その熱に当てられて一気に書きました!
(貰ったぁぁっ!)
ヒュンケルがにやぁっ、と笑みを見せる。その手元に伝わる、金属を切り裂いていく
手ごたえを感じて。
覇者の剣の刃が今、ナタルコンの剣先に割れ目を入れ、数ミリ程食い込んでいく。そして
その先、剣の付け根に向けて2センチほどの亀裂が走る。ピシッ!という音を立てて。
(ぐおぉぉぉぉっ!!)
己の身を切り裂かれ始めたことを悟ったナタルコンが、なけなしの暗黒闘気を絞り出して
己の刀身を割られまいと縛り上げ、絞り込む・・・だが一度亀裂の入った金属にとって、それは
もはや空しい抵抗でしかない。
『オグマあぁっ!押せえぇぇぇぇぇ!』
絶叫するナタルコン。今まさに割られながらもそう叫ぶ愛刀に、オグマは彼の覚悟を知る。
「ぬうぅぅぅんっ!」
オグマは腰を落としてヒザを付く事でナタルコンを目の前の高さまで持って来る。
そして彼もまた、なけなしの光の闘気をそのヘルメットに注ぎ込む。残量の少ない光の闘気では
強度を増す程度は出来た。そしてそこから頭を振りかぶると・・・
「
ガコォン!
なんとヘルメットで目の前のナタルコンの
釘を叩き込むように!
-ビシィッ!-
その一押しでさらに覇者の剣が食い込み、ナタルコンの刃の中ほどまで亀裂を走らせる。
まるで割り箸を割っていくかの如く縦に唐竹割りされていく。それでもナタルコンは自らを
暗黒闘気で縛り上げて両断を食い止めつつ、さらに叫びをあげる。
『まだだ!もっとだ・・・押しまくれぃ!!』
ナタルコンの覚悟がオグマには痛いほど分かる。なればこそ再度頭を振りかぶり、その額を
ナタルコンに叩きつける!
「
-ガッツゥン-
-ビキイィィィ!!-
さらなる叩き込みに、ついにナタルコンの刃全てが縦に亀裂を走らせる。剣全体が単一金属で
構成されるナタルコンにとって、今やグリップと鍔だけでなんとか割られずに済んでいる
状態だ。それでも宝玉の眼を真っ赤に血走らせ、暗黒闘気で自らを縛り上げて耐えに耐え抜く。
だがもう限界は目の前だった。後少しでも力が加わればナタルコンは真っ二つに割られ、
その勢いで斬り進んだ覇者の剣はオグマの指を、手を、そして頭から全身を縦に二等分
するだろう。
ナタルコンは覇者の剣に敗れ、オグマは魔界皇ヒュンケルに殺される。その時はもう
間近に迫っている。
『止まるなあぁぁぁぁぁ・・・撃てえぇぇぇぇぇィッ!!!』
ナタルコンの最後の激が響く。彼もまた魔界の戦士であり、最後まで前に向かって
挑み続けるというその矜持を、相棒である
「
相棒と共に、前に進む。目前に迫る覇者の剣の刃に、怯むことなく己の頭を叩きつける。
その先にあるものを信じて!
-パッキイィィィィ・・・ン-
覇者の剣によって、使い手のオグマの打ち込みによって、まさに割り箸の如く真っ二つに
割れるナタルコン。
そしてそのまま覇者の剣は、ナタルコンを握るオグマの指を斬り飛ばし、添えていた左手首を
斬り落として、その先にあるオグマのヘルメットに食い込む。
-バカァッ!-
二つに割れて地面に落ちるヘルメット。サルトバーンで武器屋のドガさんに勧められた
どたまかなづちが今、その使命を終える。
そして、覇者の剣は、オグマの額に食い込んで・・・止まっていた。
「がはぁっ・・・ゲホッ!」
ヒュンケルが血を吐いてせき込む。
そのヒュンケルの
覇者の剣に割られることを確信したナタルコンは、自らが半身になっても相手の心臓を
貫くことを決意した。割られれば覇者の剣はオグマに届くだろうが、それで交錯すれば
己の刃もヒュンケルに届き得るのだ。ましてや相手は斬撃だがこちらは刺突、急所を抉る
動きはこちらが先んじるはずなのだ。
なればこそナタルコンは割られそうな己を暗黒闘気で縛り、足掻いているように見せたのだ。
我が主ヒュンケルならば我が半分になろうとも刺し貫くことを見抜いたかもしれない。だが
自分が割られることを拒んだならば、その先の意図を隠すことができるだろうと。
オグマもそれに応えた。己の指も手も叩き斬られることを覚悟で、かろうじでナタルコンを
挟んでいた手のひらを突き出して、見事にヒュンケルの心臓を貫いて見せたのだ。
「やって・・・くれたな・・・ナタル、コン・・・」
吐血しながらもナタルコンを見下ろすヒュンケル。半分に割られたナタルコンだが、
その宝玉の眼はオグマが握っている側に丸々残っており、そちらにこそ彼の意思が
宿っている事を察して、続ける。
「だが・・・まだだ!まだ・・・」
魔族には種によって心臓が二つ以上ある者もいる。ヒュンケルもその手の種族であり、
左の心臓を貫かれても、右にある予備心臓で命を繋ぐことが出来る・・・ならば残りの力を
総動員して、ここからオグマを叩き斬って・・・我が勝つ!
が、ナタルコンが次に発した言葉に、ヒュンケルは気付く。
『主よ・・・我らの、勝ちだ!』
もう決着が、ついている事に。
-
体内に差し込まれた剣先から発した真空呪文が、ヒュンケルの
かき回して切断する。
体を痙攣させ、声にならない声を上げ、口から、鼻から、耳から血を噴き上げるヒュンケル。
だらり、と血の塊を口からこぼした彼は、改めてナタルコンを見下ろすと、静かにこう言った。
「やられ、たよ・・・」
ぱきん!
刺さっていたナタルコンが刃の根元からへし折れる。ナタルコンの刃の一部が主である
ヒュンケルの体内に還り、つっかいを失ったヒュンケルとオグマはそのまま、どさっ、と
寄りかかる。まるで漢字の”人”の文字のように。
「オグマ・・・だったな、楽し、かった・・・よ。」
「ゼェッ、ゼェッ・・・つくづく・・・凄い。男だ、あんたは・・・」
この状況でなおそう言える魔界の伝説に、オグマは心からの尊敬の念を送る。内臓を
かき回され、絶命が確定している状況で、この言葉を発せられるものが果たして居るだろうか。
「生き返って・・・良かった。あんな、くだらぬ、死に方で・・・終わるのは、御免だった・・・から」
それはかつて精霊”輝きのシア”が化けた魔族の少女に害された時の死に様。神の涙によって
授けられた天界のアイテムは、天の使者の精霊と共謀して、単に己の命だけをいとも呆気なく
奪ってしまった。
戦いに生きた彼にとって、やはり最後は死力を尽くした戦いで幕を引きたかった。だが最強の
装備を手に入れた最強の男に、それは何より手に入れる事が困難だったのだ。
それが、まさか蘇った先で、かつての己の懐刀と、同志であった
贈られようなどとは・・・なんという・・・幸せか。
「礼を・・・言うぞ、オグマ、ナタルコン・・・ありが・・・」
-カラァン-
覇者の剣が地に落ちて乾いた音を立てる。ヒュンケルの両手がだらりと下がり、やがて
オグマにもたれた状態から、地に崩れ落ちていく。
-ドサァッ-
その時だった。オグマとナタルコンの耳に、鳴動が鳴り響いたのは。
-ドドドドドドドド・・・-
(ああ、そうだ・・・魔界が・・・崩壊していたんだったな・・・)
もはや体を動かすことも困難だったオグマは、そのまま両ひざをついて瞑目する。最後に
こんな素晴らしい戦いを勝ち抜くことが出来た、その満足感と共に。
(我が主ヒュンケルよ・・・我も、また、そちらに・・・)
全体の四分の一にまでなったナタルコンもまた、このまま魔界に埋まる己を自覚していた。
だがこれで良い・・・我の生きて来た長き時に相応しい、最高の幕引きでは無いか・・・
一匹と一振りは、世界崩壊のその鳴動がまるで懐かしい仲間たちの、そして世界の歓喜の声に
聞こえた気がした。それはこの世界からの、彼らに対する贈り物に思えてならなかった・・・
-オグマさぁーーん!ナタルコンさーーんっ!!-
-やりゃあがったぜアイツ!あの魔界皇ヒュンケルを倒しやがったあぁぁぁー
-勝ったんだぜ、下向くんじゃ無ぇ、顔上げろ顔を!-
-この馬鹿者が!簡単に親を超えるんじゃないっ!-
-助かった、助かったんだ、いやったぁーーーっ-
鳴動の正体。それは”死と破滅の音”ではなく、”生と歓喜の唄”。