魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第128話 最後のお仕事

 天界、神々の合議所(ラグナ・サイロ)

 

「やれやれ・・・何とか送り出すことに成功したか。」

「我々の力でも、あの”神の涙”を調整するのには骨が折れたねぇ。」

 現在の天界8神が円座になって集う中、竜の神(ネスカトル)海獣の神(リマ・シィン)が思わずため息を漏らす。

「お前さんら若輩者では骨が折れるじゃろう、偉大なる始祖神(アテラス)の生み出した神の涙の

復活と再構築はな。」

魔族の神(アグレシル)の言葉にうむ、と頷く虫の神(クローツェル)植物の神(ポメイル)。彼ら3神はこの世界創造の直後にこの天界に

訪れた、いわば古株の神だ。そしてそれ以前から存在していた始祖神(アテラス)こそが神々以前に存在し、

この天地魔界や全ての魔法、呪法まで創造した神の中の神といえる存在なのだ。

 

 始祖神(アテラス)は”神の涙”を生み出したのを最後に消滅した。後継となる者たちが天界に

集ってきたのを見て、世界を彼らに託して眠りについたのだ。

 その後”神の涙”は、その魂の輪廻を、下の世界で使った力に応じて天界で時間をかけて

復活させ、再び地上や魔界に落としてきた。そうして数々の奇跡を生み出し、力尽きたらまたこの

天界で充電してきたのだ。

 

 だが今回は事情が違った。あの世界を救った勇者ダイに対して神々は、彼の次の願いを

先に叶えた状態で地上に降臨させることにしたのだ。彼の友であるゴールデンメタルスライムの

記憶と姿を最初から引き継いだままで。それは神々の彼に対する感謝と、そして神の戦士としての

戦いの輪廻から外れた竜の騎士に対するプレゼントともいえた。

 が、つい先日の事。ダイは次の”神の涙”に対する願いを変更してしまったから大変だ。

降臨間近にそんな事態になったものだから、神々も大慌てで神の涙にさらなる力を

付け足して、なんとか今日の日に間に合わせたのだ。

 

「ですが、これで神の涙も、もう最後になりますね。」

 そうこぼしたのは人間の神(イヴノウン)だ。ダイが彼に願うそれは、少なからず神の涙自身にも

影響を与えるだろう・・・そうなればもはや次は無い事を確信していた。

「まぁ、地上も魔界もこれから良くなりそうだし、良いのではないか?」

 8神の中で一番の若輩者、獣の神(ガルドリオン)がへたりこんだままそう話す。今までは

圧倒的な悪の力に困窮した弱者を救う為に在った神の涙だが、これからはその必要性も

ぐっと下がる世界になるだろう。

 

「さ、結界を閉じるぞ。今この瞬間に何者かが天界に上がってきたら、また神が増えてしまうでな。」

海獣の神(リマ・シィン)が皆をそう催促する。神の涙を下ろすために結界が解除された今の天界は、

単に空を登り続けるだけで到達できてしまう。そこで強力な魔法を身につけた者たちこそが

彼ら神々なのだ。答えてやれやれ、どっこいしょ、と身を起こし、再び力を合わせる8神。

 

「!?」

 その時だった、何者かが天地の境を超えた気配が全ての神々に伝わる・・・これは誰かが

天界に来たのではない、天界にいた”何者か”が、結界の切れたそのスキを突いて天界を脱出し、

地上へ向けて飛び出したのだ・・・これは一体!?

 

 

「・・・遅かった。」

 呆然とそう絞り出したのは精霊、天の8行”流れのシル”だ。彼女はこの最悪のタイミングで

神々が結界を解こうとしているのを察し、それを止めに来たはいいが、儀式の最中に

神々の合議所(ラグナ・サイロ)に立ち入ることが出来なかったのが災いしてしまった。

 

「世界が・・・終わる・・・」

 

 

     ◇           ◇           ◇    

 

 

 地上。結婚式の舞台に上がったリヴィアスと、彼が抱えている幼子に会場中の注目が

集まる。本来関係者と王族以外立ち入ってはならないその舞台に彼が上がっても、誰も

非難を飛ばす者はいなかった。

 世界中の人々が注視していたあのロモス武術会、そこで魔界の者たちは確かにダイに勝ち、

神の涙の次の使用権を確かに得ていた。その対象となる魔族と水竜のキメラの娘を抱いて

いたのなら、彼の乱入に誰も苦言を吐けないでいた。

 

 だが、ダイもレオナも、他のゴメを知る面々も、すぐに彼に対して約束を果たせないでいた。

もしゴメに今、神の涙としての使命を果たさせたら、もうゴメとはそれっきりになって

しまうのでは、という不安が決断をためらわせる。せっかく9年ぶりに再会できたのに・・・

 

「大丈夫だよダイ、僕はこの人の願いを叶えても、ちゃんとこの姿でダイの友達でいるから。」

「え・・・そうなの?」

 思わぬゴメの言葉に全員が注目する。思えばこのゴメはどこか話が違っていた。

ゴールデンメタルスライムの姿は、ダイが友達になって欲しいと願ったゆえの姿であり、

本来の神の涙の姿というわけでは無い。また、復活して同じ願いを願ったとしても、ダイの事を

覚えてはいないというのが、別れの際に聞いた話だったから。

 

「神様がいろいろサービスしてくれたんだ、ボクの体がこんなに大きいのも

そのせいなんだよ。」

 ゴメが語る。神々がダイの成した功績を称えて、この神の涙の次の転生を前回と同じ

ダイの友人として、しかも記憶を持ったままで再生させたことを。そしてその上で

もうひとつ叶えなければいけない願い事が出来たことで、その力をより大きく溜め込んで

そのせいでこんな大きなサイズになってしまった事を。

 

「なんとまぁ、さっすが神様!気が利くねぇ~」

 壇上の際のポップが皆の心情を代弁する。これはまさに神からの大いなるサプライズ、

他のゴメを知る面々もひとまずほっ、と胸をなでおろす。

 が、次のゴメの台詞に、彼らは等しく愕然として固まることになる。

 

「でも、神の涙の奇跡は、これが最後になるよ。」

 

 絶句する一同にゴメは返事をせずに、そのままリヴィアスの前のミールの目の前に

飛んで行く。赤子同然のミールはそんなゴメを見て、きゃっきゃっ、と手を伸ばす。

「君がミールだね・・・うん、やっぱ僕と同じだ。」

「「同じ?」」

 リヴィアス含む壇上の大勢の声がハモる。神の力を得た輝くスライムと、呪いで

キメラとなった少女が・・・どこが?

 

「力を使うごとに小さくなり、やがては消滅する。ボクの”使命”と、キミの”呪い”は

別系統だけど同じなんだよ。」

 

 -!!!-

 全員がはっ!と息を飲み、同時に納得する。確かにそうだ、ゴメはかつてパーティの

仲間の願いを少しづつ叶えるたびに小さくなっていき、やがて最後の願いで世界を救って

消滅していった。

 ミールもまた、その水竜の力を使い皆の危機を救うたびに幼くなり、間もなく胎児となって

一生を終えてしまう・・・そんな彼女の呪いは確かに神の涙と似たものと言えた。

 

「ボクの叶えた願いは、ボク自身にも作用するんだ。だからミールの呪いを解くことは

ボク自身の使命からも解放される事を意味する。つまり・・・」

一度言葉を区切って、ゴメは改めて宣言する。

「彼女の呪いを解いた時、ボク自身も神の涙では無くなる、本当にただの”ゴールデン

メタルスライム”になっちゃうんだ。」

 

 かつて死の大地で、ゴメがチウ達と共に親衛騎団のフェンブレンに襲われた時、

チウはフェンブレンのように強い体が欲しいと思った。その願いを知らず知らずのうちに

叶えたゴメは、彼自身の体もオリハルコン兵士をひしゃげさせるまでに強化された。

願いを叶える強い力は、同時に神の涙自身にも強い影響を与えてしまうのだ。

 

「な・・・んだと!?」

 呆然とするリヴィアス。このミールの呪いを解けば、太古より続いている”神の涙”が

消え去って、もう二度と奇跡を起こせなくなると言うのか・・・それでは、あまりにも・・・

 

「全然問題無いよ、ゴメちゃんはゴメちゃんだよ!」

 朗らかな笑顔でそう答えたのはダイだ。思わず「ええっ!?」という顔をするリヴィアス。

「うんうん、使命なんてめんどくさいだけだし。ずっと地上でまったり暮らしましょうよ。」

「妥当なセンだな、もうゴメには貰うモン貰いすぎてるし。」

「そうよ!大事なのはあなた自身で、神の涙としての使命じゃないわ。」

 レオナが、ポップが、そしてマァムがそう続く。その言葉に、神の涙が失われる事実に

「それがどうした!」という強い意志を込めて。

 

「その通りですよ、むしろあなたが復活してくれたことそのものが神の奇跡なのですから。」

アバンの言葉に各国の王たちも続いて後押しにかかる。

「むしろ今後悪人に使われる心配が無いのじゃから、それを喜ぶべきじゃろう。」

「ダイ殿はすでに強力な力の持ち主じゃ、これで奇跡まで起こされてはワシら立つ瀬が

ないわい、うわっはっはっは!」

 ロモス王とベンガーナ王が、らしい言葉でその未来に賛成する、今や世界は大きく

変わりつつある、それを導くのは神の奇跡では無く、地上と魔界に生きる者の努力によって

成されるべきである、と。

 

 そんな皆の反応を見回した後、ゴメはやれやれ、と笑顔を作って、ミールに改めて対峙する。

「じゃ、行くよ。」

 会場が水を打ったように、しん、と静まる。かつて見たあの神の涙の奇跡を、まさか今

この場でお目にかかれるとは思っていなかった、全員が壇上を食い入るように凝視する。

 

 ゴメが目を閉じ、ぱあぁぁぁ、と黄金色の光を発する。それは一気に強くなり、壇上の

リヴィアスとミールを光の中に溶け込ませる。思わずおおおお・・・と唸る会場中。

 

 そして、その光が収まった時、壇上にいたのはゴメとリヴィアス、そして・・・

 

 一人の美しい魔族の女性が、ひとかかえほどのタマゴを抱えて立っていた。

 

「え・・・あれ、ここは・・・?」

 その女性は周囲をきょろきょろと見渡して、やがて傍らにいるリヴィアスに気付く。

「・・・あ・・・ああ。私、私は・・・」

 タマゴをぎゅっ!と抱きしめ、俯いて嗚咽を出す魔族、タイムマスターの女性、ミール。

まさかこの日、この時が本当に来るなんて・・・私が、元の姿に戻れる日が・・・

 

「いやっほおぉぉう!」

 客席から歓喜したのはサルトバーンの武器屋のドガさんだ。隣では父親のケートスが

滝のように涙を流して壇上を凝視していた。かつての我の過ちで我が娘に課した呪いが

今ここに完全に消え去ってくれたのだ・・・

 

 ほどなく大歓声に包まれる会場。神の涙の奇跡を見たのもそうだが、何よりダイが、

地上の人間側にいる彼が、あの武術会にて交わした約束をたがえずに成した事実が、人間たちに

誇らしい気持ちを抱かせて歓喜する。

 

 万雷の拍手の中、リヴィアスは自分の上着を脱いでミールにかぶせ、やや目を反らして

「降りるぞー」と囁く。

(ヤバ・・・裸で出てくるんだもんな。つかキレイすぎるだろミールって。)

 水色の魔族の肌やとがった耳などを差し引いても、至近距離で見た彼女のあらわな姿は

美しい意外に表現のしようが無かった、なるほど、サルトバーンのマドンナなワケだ。

 

 -ピシッ!-

「「え!?」」

 至近距離からのひび割れ音に、思わずリヴィアスとミールの声がハモる。音源は何と

彼女の抱えている卵だ!

 -パリイィィン-

 まるで背伸びをするようにしてカラを突き破ったのは、その中にいた水竜(アクアドラゴン)のヒナだ。

そのつぶらな瞳でミールを、そして隣にいるリヴィアスを見て、キュピィー、と嘶く。

「うふふ、可愛いですね。」

「あー、まぁ、そうだな。」

笑顔でヒナをあやすミール、一方隣のリヴィアスはうかつに彼女たちの方を見れないでいた。

羽織り物一枚の彼女の体はどうも刺激が強すぎる・・・いかんいかん。

「ほら、貴方にも懐いてますよ、リヴィアス。」

 彼が目を反らしているのを見てヒナが寂しそうにいなないている。目を反らしたまま

手だけを差し出すと、その手に首をすりすりしてくる・・・可愛いな。

 

「あ、刷り込まれたな・・・」

 大太鼓のある高台で見ていたクロコダインがそう呟く。卵からかえった生き物は基本

最初に見た者を親として認識する。生まれたこの新たな命にとって、寄り添って立つ

ミールとリヴィアスは間違いなく両親と認識されたであろう。

 

 壇上から降り、改めてダイ達に、そして本来の大きさに戻ったゴメに深々と一礼する

リヴィアスとミール。思えばゴメは結婚式のキスシーンに乱入してきたのだ、そこからの

流れで長々と中断させてしまったことにむしろ申し訳なさすら感じて、そそくさと

自分の席に戻るリヴィアス。

 

 ただ、そんな彼に終始ぴったりと寄り添っているミールに周囲の視線が痛い。

なんかとびっきりの笑顔で腕とか絡めて来てるし・・・服着てくれ頼むから。

 

 そんな様を壇上からニヤニヤしながら眺めていたダイとレオナだったが・・・

「で、では改めて、誓いのキス(ベーゼ)を。」

 その神父の言葉に思わずぼふっ!と赤面する二人。さっきまでは式の流れで意識せずに

キスできていたはずなのに、間を置いた上にリヴィアス達の寄り添いを見せられて

いきなり思いっきり照れ臭さ爆発になってしまった・・・この公衆の面前でキスするの!?

 

 さっきの神秘的な両者はどこへやら、まるで純情な少年少女のように向き合う二人。

顔を真っ赤にして頭から湯気すら出ている二人を見て、逆に会場は大いに盛り上がってしまう。

さっきのよりこっちのが絶対微笑ましくて初々しい、地上の勇者と王国の敏腕王女の

初恋のようなたどたどしさに笑顔が止まらない・・・

 

 そんな二人の赤面に呼応したかのように、茜色の光が二人を照らし出す。

「あ・・・雲が・・・晴れている!」

 その誰かの一言で全ての者が一斉に空を見上げる。さっきまで曇天に曇っていた空が、

今は青空と、東西の地平線には茜色の夕日と、黄金色の満月が青い輝きを称えている。

 

 さぁ、全てのセッティングは整った。あとは二人が一生の誓いをするだけだ。

夕日を背負って紅に染まる勇者、満月を背に美しい金髪をたなびかせる王女。

 

 

 -二人は抱き合い、生涯離れないとの誓いを立てる。その唇をしっかりと重ねて-

 

 

「これこれ、コレを見るためにこのトシまで長生きしてたんだよ、俺ぁ。」

 拍手と口笛に包まれる会場で、マトリフは満足そうな笑顔でその光景を眺めていた。

もうこれで思い残すことは無ぇ、109歳まで生きて本当にいいものを見れた、ロカの奴に

いい土産話が出来そうだぜ・・・なぁ。

 そう呟いて隣にいるまぞっほに向き直る、じじい同士そんな感情を共有しようじゃねぇか、

という気持ちだったのだが・・・

 

「まぞっほ・・・どうしたい?」

 彼の弟弟子の視線は未だに上空に釘付けになっていた。その表情は青ざめて震え、

とてもこの場に相応しい状態では無かった、これは一体?

 

「オグマ!ナタルコン!あいつら・・・どこに?」

 客席に戻ったリヴィアスとミールは、彼らの隣にいたはずの人熊と魔剣の姿が無い事に

動揺していた。おりしもさっきまで曇っていた空が晴れている事がますます危機感を

掻き立てる。

 

「なぁ・・・コレって・・・」

「え、縁起でもない・・・偶然に決まってるじゃないかい!」

 やはり空を見上げているでろりんとずるぼんが冷や汗をかきながらそう話す。その間に

挟まれたきらりんは声も無く、自分の心臓の鼓動が早鐘を撃ち続けるのを抑えられ

なかった。

(そんな・・・まさか・・・うそ、でしょ?)

 

 雲が、あれだけの雲が瞬時に晴れた。それは神がゴメのついでに(ダイ)らに与えた祝福で

あると誰もが感じていた・・・魔界の彼らパーティを除いて。

 

 彼らは知っていた、経験していたのだ。雲、つまり水蒸気。それは・・・水分。

 

 

 -それを消し去る力を持つ、恐るべき竜の存在を-

 

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