「
「な!」
「にっ・・・?」
その声を聴いたメンフィスとマグマグマが目を丸くして固まる。確かにリヴィアスは強い、
しかしこの魔界でも広く伝説になっている竜の騎士を倒そうなどとは・・・それが出来るなら、
この魔界の支配すら可能な存在という事では無いか。
「わが師に聞いた。竜の騎士は”
人間の身でそれを突破するなら、大きな力が一点集中するのこの武器が必要と読んだのだ。」
円錐状のコーンランス、突くことに特化したその形状は、武器の全重量と使い手の瞬発力を
すべて一点に乗せることが出来る。その全力が集中すればどんな防御壁だろうと突破する事が
叶うだろう。
オグマもナタルコンも、心に納得の感情がストンと落ち込むのを感じた。
あの大仰な武器は、それ以上に巨大な力を持つ相手を倒すために選んだものだったのだ。
『いいな・・・その意気や良し。』
竜の騎士と同じ神々の遺産”神の涙”を怨敵とするナタルコンが、その志の高さに
感じでそう呟いた。
いいではないか。不可能に挑む事こそ己を育て、使う武器をもまた鍛える、
そんな武器と使い手の関係。
自分とオグマに負けぬ絆を持ったその
「それで
オグマのその問いに、リヴィアスは手で撫でていた赤い首巻きの端をぎゅっ!と握って
目を少しだけ潤ませながら、こう返した。
「俺は・・・大切な人を竜の騎士に殺された。だがもしその時、俺が
救うことが出来た、出来たんだ。」
彼が7歳の時、わずか生後半年だった彼の妹は彼の背中で絶命した。その身を
クッションに変えて兄を死から救い、自らを肉塊に変えて。
その時から始まった彼の復讐の日々。己の仇が竜の騎士であることを知り、己を鍛え、
偶然も手伝ってこの”力こそが正義”の魔界に降りて来た。
そして彼は師匠となる魔族と出会う、彼に己の無念をぶちまけた時、師は平然とこう返した。
「それはお前に力が無かったからだ、飛翔呪文の一つでも使えていたら、その妹は死なずに済んだのだ!」
その日から彼は
近隣の刀匠に己の身に余る大槍を作ってくれと依頼した。
本来なら魔界の住人にとって嫉妬と嫌悪の対象であるはずの人間、そんな彼に力を貸し、
戦いを教えたのは、誰もが持ちえぬ彼の志の高さ故だった。
-
あの魔界を二分した支配者、冥竜王ウェルザーをも屠った神の戦士、竜の力と魔族の魔力、
そして人の心を併せ持つ絶対の存在。
そんな存在を倒すなどと軽々しく口にすれば、嘲笑と軽蔑の的になるだけだろう。
だが彼は本気だった、その志を忘れぬために彼は、妹の血に染まったおんぶ紐を首に巻き、
師の下で研鑽を続け、めきめきとその腕を伸ばしていった。
やがて実戦を積む為に旅立ったのはほんの1年前の事。牛魔獣を仕留め、百足の竜を貫き、
魔界宮殿に群がる魔物を一掃する頃、魔界に噂が立ち始めた。人間の身でありながら、
その大きな槍を振るってあまたの敵を屠る存在。
復讐鬼、
オグマはその話を聞き終わると、しばし考え込んだ後、己の左手にある竜の牙の手甲を外し
右手の手甲に2段重ねする。その右手をリヴィアスの方に高々とかざし、先程のナタルコンの
竜巻で圧縮されていた己の光の闘気を全開にする。
キィィィィ・・・ン!
光を発しながら2段重ねの手甲を上に向け、それに光の闘気を防御壁として覆い重ねる。
「来い!レッドネックっ!!」
それは相手の一点突破の刺突を真っ向から跳ね返すというオグマの挑戦だった。
彼は尊敬する父から常に「戦う相手の事を知れ、尊敬せよ。」と教わって来た。
そして今相対しているこの敵は、自分よりはるかに強大な敵を真っ向から貫き倒すことを
使命としている。
ならばその刺突を打ち破ることが、この男に勝つ方法だと信じて!
だが当のリヴィアスも、下で見ているメンフィスもマグマグマも、それが挑発では無いかと
疑う。寸前で身を躱し、逆を取るつもりでは無いか、と疑念を抱く。
それを否定したのはオグマの相棒、意志を持つ短剣。
『案ずるなリヴィアスとやら、このオグマは逃げも躱しもせん、全力で来るがよい!』
鞘の中から眼だけをギョロリと輝かせ、そう教えるナタルコン。そうだコイツはどこか
馬鹿正直で真っすぐな所がある。だからこそ光の闘気を身に纏うことが出来るのだ、
我が闇の闘気と相乗効果でお互いを高めるなどという、あの剣豪ヒュンケルさえも
考えなかった戦法を成し得たのだ。
「・・・良かろう。ならば行くぞオグマっ!!」
そう叫ぶとリヴィアスは
魔界の天井である天の大地まで到達すると、豆粒くらいまで小さくなったオグマに槍先を向ける。
「あの高さから・・・飛翔呪文に落下速度を上乗せして突撃する気か!」
「正気かい!?万一的を外したら自分がぺしゃんこだよ!」
マグマグマもメンフィスも天を仰ぎながら、その特攻の様な決死の戦法に思わず漏らす。
もはや二人とも、これが自分たちの代理決闘であることすら忘れていた。
リヴィアスは狙いを定めながら、スッと自分の首元を撫でる。それは自分の原点、幼い妹を
その背中で死なせた自分が目指すべき事、あの神の使徒ともいえる竜の騎士に挑む、そして倒す。
いかに強敵とはいえ、人熊を倒せぬ者がどうして竜の騎士を倒せるのか!
師に教わった精神集中、槍先と貫くべき相手に一本の糸をイメージする。その二点に
心を走らせ、そして周囲の状況が遅れるように視界に入ってくる、最高の心理状況だ、
これならいける!
竜の騎士を倒すために磨いてきたその必殺技を、今ここで試すっ!
飛翔呪文を解き、ふっ、と自然落下を始める。そのリヴィアスにわずかなノイズが走った。
「何だ!?」
彼が見たのは遅れて視界に写る周囲の状況、はるか遠くでまるで火花の様な輝きが目に
映ったのだ。飛翔呪文で落下を止め、そちらの方角に目をやるリヴィアス。
続いて目に入ったのは、そこから一気に立ち昇る黒煙だった・・・これは、爆発か!?
「あの方角、獣人たちの村の方じゃないのか?」
そうリヴィアスが発した次の瞬間、空気を震わせる爆発音が彼らに届く。
ゴゴゴォゥ・・・ン
「なっ・・・何だって!?」
メンフィスが思わず叫び、手近な木に駆け上がって自分の村の方を見る。確かにそこから
黒煙が上がり、さらにキラキラッと光りが輝き、黒煙が上がる。遅れて爆音も届く。
「そういう事かい、マグマグマ!!」
木の上からサタンジェネラルを睨み据える。そうだ、コイツはれっきとした敵の大将、
そんな男と居並んで決闘を見物していた自分に腹が立った。
決闘でケリをつけよう!と油断させておいて別動隊で村に襲撃をかけたに違いない。
考えるよりも早く木から駆け下り、猛スピードで村めがけて走り去るグルバレイダ・メンフィス。
そんな彼女には、今のマグマグマの顔は見えていなかった。目を見開き、予想もしていない
展開に愕然とする彼の顔は。
スタッ!と空から降りて来たリヴィアスが、マグマグマに槍を突きつけ問いただす。
「どういうことだ、俺を信じて任せたからこその決闘では無かったのか?」
オグマもまた、疑念と嫌悪を混ぜた表情でマグマグマを見る、コイツは卑劣にも俺達の
決闘を隠れ蓑にして村を奇襲したのか、女子供もいるあの村を!
そんな彼らにマグマグマは返す。疑念と憤りに満ちた顔で。
「俺は・・・獣どもこそその手を使うと疑っていた・・・だから残りの者には砦の防御を固めろ、
そう指示していたはずなのだ・・・何故だっ!!」