魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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連休が・・・終わる(絶望)


第130話 世界が・・・終わる。

 -ドドドドド-

 

 ブレスによって割られた海が閉じていく。その手前の森の木々の枝が次々と落ち、

斜めに生えている木は根元から折れ砕けて倒れ、砂となっていく。

 

「な・・・ゲホ、ゲホォッ!」

「王、お気を確かに・・・ゲフッ、ゲフ・・・」

「どうなって・・・ガハッ!」

 

 その白き竜が吐いたと思われるブレスの航跡に残る物を見て、誰もが驚愕の声を

上げようとして、口を開けた途端に口内の粘膜の水分を奪われてせき込む。

 

「まずい・・・ですね。あれは水分を奪っている、そして今、この場さえも!

皆さん、目を閉じてください!開けていると失明しますよ!!」

 壇上の一角、アバンが手を口に当ててそう叫ぶ。そう、眼鏡をかけている彼でさえ

強烈にドライアイが進行しているのが分かる・・・このままでは!

 

「んなろぉっ!」

 そう言って上空の白い竜を見上げたのはポップだ。目が、口が強烈に乾くのを感じつつも

両手に魔法力を灯す、あの竜さえ倒せばなんとかなるはず、ならば極大消滅呪文(メドローア)

消し去ってやらぁ!

 

 ゴオォォォ・・・

(んなっ・・・?)

 魔法力を発動した瞬間、左手のメラがいつもより遥かに激しく燃え盛る!反して右手の

ヒャドは魔法力に反して威力に欠けている・・・

(空気が、乾燥しまくってるからか!くっそおぉぉぉっ!)

 左右の魔法が安定しないこの状況ではメドローアを生み出すことがまず至難だ。まして狙いを

定めて発射するには相手を正対して見なければならない・・・

 

 覚悟を決め、左手を焦がしながらも魔法を合成、消滅の矢を生み出して狙いを定めた

ポップが見たのは・・・その白き竜の足に捕まれた人熊(ウォーベア)の姿!

「なんて・・・こ、ゲホゲホォッ!」

 今撃てばメドローアはオグマとナタルコンをももろともに消し去ってしまうだろう。

無論犠牲の数を考えれば、一刻も早くあの竜を消し去るべきなのだが、ポップという人間に

その判断を下すことは困難だった。たまらずヒザをつき、両手の魔法が霧散する。

 

 ダイも、ラーハルトも、ヒュンケルも、マァムも、誰もが己と近しい者の命を繋ぎ止めるのが

精一杯の状況だ・・・ダイもレオナを抱きしめたまま竜闘気で包んで、渇きに耐えるのが

やっとの状態である。

 それはリヴィアス達も同じだった。頼みの綱のミールはついさっき、水を生成する力を

失ってしまって、ただの魔族になってしまっていた、今この場に”渇き”をどうにか出来る

者は誰も居なかった。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)っ!」

 この場から緊急離脱したものがいる・・・今のは壇上にいた若者、あれは、ノヴァか!

 

 それを見たマトリフが、大きく手を振ってアピールし、全身に魔法力を灯す。

(ルーラを使える奴、奴に続けっ!)

そう言って彼もまたその場からすっ飛んでいく。それに応えてアバンがフローラを、ポップが

マァムとベンガーナ王を、フォブスターがロモス王を掻っ攫ってその場を後にする。

(みんな・・・逃げ、たの?)

 レオナを抱えたまま彼らを見送り、ダイが心でそうこぼす。ここには王族だけじゃなく

大勢の一般人もいるんだ・・・なのに、なのに自分たちと王様だけ・・・?

 

 そのダイの際にリヴィアスがルーラで飛んでくる、彼は乾ききった口を動かし、かすれた

声でこう怒鳴る。

「この場・・・離れる・・・だ!まともな空間・・・反撃・・・ぞ!」

 その声でダイも気付いた。そう、今この場に止まっていても全滅するだけだ。だが

戦える者がこの渇きの空間から脱出すれば、そこから再度アタックする事が出来る!

瞬間移動呪文(ルーラ)!」

 

 大聖堂から3kmほど離れた所に集結する戦士たち。きらりんもまた両親やミールを抱えて

この場に避難していた。

 集っているのはノヴァ、きらりん、偽勇者一行、ミール、リヴィアス、そしてアバンと

その使徒ダイ、ポップ、ヒュンケル、マァム、レオナ。先行していたノヴァが井戸の水を

くみ上げ、皆にぶっかけるように振舞う。

 

 事態は一刻の猶予も無い、時間をかければかけるほどあの場に残された者たちの命が

危うくなる・・・戦力は十分、ここから反撃開始だ!

 

 その意思は、そして方法は、次の瞬間に失われることになる。

 

 

 

『オグマ!しっかりしろ、オグマっ!!』

ナタルコンの呼びかけにもオグマは頭を垂れて答えない、彼が吐いた血が蒸発し、赤い

塊だけが彼の胸に残る。

 オグマはもう限界だったのだ。ここまでの数々の死闘による負傷、そしてナタルコンとの

光と暗黒の闘気の干渉が彼の体を蝕んでいた、生身の体に課し続けた闘気のドーピングは、

反動となってオグマの肉体をボロボロにしていたのだ。あのサルトバーンの名医、

テラージ・ギドが匙を投げざるを得ないほどまでに。

 そこにきてこの渇きの空間、呼吸すれば水分が失われ、息を止めれば酸素が得られない、

その環境は今のオグマに耐えられるものでは無かった。

 

『ふ、何人か離脱したようだな・・・正しい判断、だが無駄だ。』

 白き竜が、ルーラで飛び去って行く面々を見てそう呟く。これから我が行う行為を考えれば、

むしろこの場から決死で向かってこられた方がまだ不都合だった・・・だが彼らが去ったことで

もはや白き竜を止める方法は完全に失われていた。

 

 その時、敵である竜の声が、魔界の戦士に意識を、そして闘志を灯す!

「なにを・・・する気だ!」

白き竜を見上げ、かすれる声でそう返すオグマ。ナタルコンもその反応を見てひとまず安堵する、

生きていてくれたか!と。

 

『我の敵は・・・この世界そのもの、ならば!』

 左右の翼を大きく広げる竜。その翼の下部、翼のヒレの下部6か所に炎が灯る。それは

瞬時に出力を増し、轟音を伴ってその体を浮き上がらせる。オグマとナタルコンを掴んだまま!

 

 -ドドドドドド・・・-

 猛烈な噴射と共に、空に舞い上がっていく白き竜。

 

 

「しまったあぁぁぁぁぁっ!!」

 天に向けて上昇を始めた白い竜を見てそう絶叫したのはマトリフだ。周囲の面々が

えっ!?という顔で続きを待つ。

「奴はこの世界が敵だと言っていた、だったらあの水を消し去るブレスを、手の届かない

遥か上空から撃ちまくられたら・・・!」

 

 言葉が終わると同時、リヴィアスが、ダイが、ポップが、そしてノヴァがルーラで

すっ飛んで白き竜を追う。そうだ、この世界そのものを滅ぼすなら奴には個人を

相手にする必要は無いのだ・・・万が一いま見失ったら、その無差別爆撃で世界は・・・終わる!

 

 -ゴオォォォォォ・・・-

 

 火炎噴射を上げて上昇を続ける機械竜。やや進路を西に取りつつ、暮れなずむ夕日に

向けて高度を上げ続ける、その上昇は止む気配を見せない。

『いかぬ、真空檻(バギ・カプス)!』

 ナタルコンが呪文を発動させ、オグマの周囲3mほどに真空の壁を球状に展開し、

その内部に空気を保存する。上昇の度に空気は希薄になっていき、気圧変化による

オグマの体へのダメージを少しでも軽減するために空気のカプセルを作ったのだ。

 

 茜色の空が、太陽に追いつく度に青く、蒼く・・・そして暗くなっていく。青から漆黒に

景色が変化していく時、その先に星が瞬き始める。

 

 地上から、宇宙へ。

 

 

「ダメだ・・・これ以上、ルーラで、追えねぇ・・・」

 ポップ達が、小さくなっていく白き竜の航跡を見上げて佇んでいた。すでにまともに

呼吸が出来る高度では無く、それでもぐんぐん離されていく竜をこれ以上追いかけるのは

不可能になってしまった・・・もう、ダメだ。

 

「オグマーっ!ナタルコンーっ!!頼む、何とかしてくれえぇぇぇぇっ!!」

「どうしてえぇぇぇーーっ!どうしてなんだよ、竜水晶さあぁぁぁぁぁんっ!!」

 

 リヴィアスとダイの絶叫が、空しく虚空に響き渡る。

 

 

 

 上昇を続ける機械竜。彼女はひたすら太陽を見据え、そこに向かって飛び続ける。

オグマとナタルコンもまた竜の足に捕まれたまま、それでも機械竜を睨み上げていた、

最後の最後、反撃の一撃をどこかで決めるために・・・

 

 だらり。

 

 ナタルコンを握っていたオグマの右手が力なく下がる。もう彼の体は、なけなしの

闘志にすら答える力を失っていた。薄くなる酸素、強烈になっていく宇宙線、己の身に

かかり続ける上昇G、その全てがオグマの時間を容赦なく奪っていった。

 

『オグマよ・・・』

 ナタルコンが悲しそうにそう呟いた。今、この状況にあってもオグマの眼は

らんらんと輝いて、頭上の機械竜を見ていたのだから。

 

 -プシュウゥゥ・・・-

 

 竜の翼がようやく噴射を止める。その漆黒の空間で身をひるがえし、地上に向き直る

機械竜。

 オグマが、動かない体をそれでも動かそうと、ナタルコンを握っている右手にわずかな

力を込める。だがそれはもはや赤子ですら転がすことが敵わないほどに弱々しかった。

 

『さぁ、終わらせよう、この忌まわしい世界を・・・我を不要と断じた、天地魔界を!』

竜の口に”死”が灯る。憎むべき地を睨むその顔は、清々しくも、悲しみを感じさせた。

 あるいは機械竜は、そんな悲しみを知るがゆえにオグマとナタルコンをここまで連れて来た

のかも知れない。世界が滅び、己が孤独になる直前まで、誰かと在りたいという、

ささやかな我儘。

 

 オグマは、ナタルコンは、機械竜を見上げたまま、少しの間の時間経過を感じていた。

機械竜が灯した”死”は消え、そこにはただ地上を見下ろす竜の、表情の無い貌がただ、あった。

 

『なんと・・・なんと美しい・・・これが・・・』

 

 彼女の眼下に移っていたのは、とてつもなく大きく、心を射抜かんばかりに青く輝く球体。

月よりも美しく、太陽よりも心に染みて、星よりも荘厳な、蒼い青い、天体-

 

 

『これが・・・天地魔界の、姿・・・』

 

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