魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第133話 かくして魔界は閉じられた。

 魔界の深部・・・そこにかつて無い程の大勢の者たちが、それも魔界の顔役たちや

地上の王族までもが顔をそろえて居並んでいる・・・ほんの一年前までは来訪者も無い

辺境の地に、である。

 本日は魔界の英雄として戦いの日々を駆け抜けた人熊(ウォーベア)、オグマの葬儀。

先日ダイとレオナの婚儀の最中に現れた機械竜との戦いで地上の民を救い、その存在を

説得して無害と成した彼は、二度と地上に生きて生還する事は無かった。彼の愛刀

ナタルコンが語った彼の最後は多くの者の感銘を呼び、誰もが彼を悼んだ。

 

「このように大勢の者が、我が愚息の為に・・・有難い事だ。」

 式を取り仕切るオグマの父ダルタレクが感慨深くこぼす。なにしろつい最近まで訪れる

者など皆無だったこの辺境の集落に、魔界の大都市サルトバーンのケートス(タイムマスター)

サック要塞の城主アスタロトのアラン、ドロル山脈の覇者ハヌマーンのナスナ、ヌムーンの森の

魔女ラルコ、無法者の大陸アルゴスを纏めつつある虎人(ワータイガー)ロガッツ、いずれ劣らぬ

音に聞こえた魔界の実力者が居並んでいるのだ。

 

 しかも反対側には、なんと地上の国の人間の王たちが多数の衛兵に守られてずらりと

席を並べている。カール女王フローラにパプニカ王女レオナ、ロモス王シナナに

ベンガーナ王クルテマッカⅦ世、リンガイア国王代理のバウスン、そしてテラン王ダイ。

 彼らはこの式の為にわざわざカール王国での世界会議(サミット)を組んで、そこから

こっそり抜け出してこの魔界の深淵までやって来ていたのだ。

 もちろん地上と魔界が通じた事により、その深部まで視察に行くという名目もある。しかし

本心はあの結婚式場で自分たちを守った恩人に対しての礼儀であるというのが本音だろう、

そうして礼を尽くすことにより、魔界に地上の礼儀を示すという狙いもまたある。

 

「当然ですよお父様、オグマさんは今や魔界の出来立てホヤホヤの伝説なのですから。」

 ダルタレクの隣の席にちょこんと座ってそう返したのは魔王きらりんだ。彼女もまた

喪主の1人として大切な仲間を送るべく出席していた・・・その目はもう真っ赤に泣き腫らして

いたが、それでも魔王としてしっかりしないと、と気丈に振舞っている。

 

「とはいえ、やっぱ壮観だよなぁ、こりゃ。」

 きらりんの後ろに立って、手の平をかざして周囲を見渡して言ったのはでろりんだ。

単に王や覇者だけではない、魔界の名工ロン・ベルクや地上の大魔導士マトリフにポップ夫妻、

ヒュンケルにラーハルト、マァムにレイラ、もちろんアバンやノヴァなど王の腹心クラスの

強者も皆揃っている。

 そしてオグマ達に縁のある面々、マグマグマにメンフィス、チウにコロコダイン、

ラバーにラクー、ヒム、マルタ、ザンの3馬鹿トリオなど、まさにこの場に地上と魔界の

オールスターが勢揃いしていると言っていい。

「今回ヴェルザーは来ないのか?」

「さすがに残留思念なんだし、そうそう遠出は出来ないわよ。」

 リヴィアスの問いにずるぼんが答える、前回のケプラス達の時は担ぎ出されてきたが、

さすがに今回は来るには遠すぎた、基本あの場所に縛られている存在なのだから。

 

 オグマの遺体は彼らの中央の舞台に横たえられていた。その傍らには台座に据えられた

ナタルコンが言葉も無く、じっとオグマを見つめている。

「・・・お辛いでしょうね。」

 ミールが水竜(アクアドラゴン)の赤ん坊を抱き抱えてそう呟く。彼女もまたこの動乱で危うく

命を落とす寸前までいった、なのに私は彼らの願いのお陰で完全復活を果たし、その代償と

言うかのように彼は命を散らせた・・・共に戦ってきた魔剣の胸中は察するに余りある。

 

 -キィーン!キィーン!キィィーーーン・・・-

 

 マヌカイトを叩く音が響き渡る。それに反応して全員が一斉に口を閉じ、舞台に注目する。

その余韻が響く中、人熊(ウォーベア)ダルタレクが立ち上がり、大きく息を吸い込んで

訓示を始めた。

「皆、愚息の為に良く来られた!戦士オグマは勇敢に戦い、その物語を駆け抜けた!!

今日は存分に語り、笑い、楽しんで・・・オグマを送ってくれい!!」

 

「「おおおおおっ!!」」

 魔界の参列者たちが、リヴィアス達パーティメイトが、キールやミルグなどの幼馴染が

一斉に声を上げる。そう、魔界の葬式とは騒ぐことなのだ、個人の活躍と人生を称え、

その物語を肴にして大いに楽しむ、いつか自分が主役(故人)になる時に思いを馳せて。

 

「うわぁ・・・もう呑んでるよ。」

「お葬式っってもっとしんみりやるもんじゃないの?」

 ダイもレオナも前回の葬式でこのノリは知っているが、せめてもう少し感慨に浸らせて

ほしかった所なのだが・・・

 

 コップ一杯で倒れる者、樽酒をがぱがぱ開け続けて笑う者、かつてのオグマとの戦いを語る者、

そして新たに繋がった世界の者たちとの邂逅を深める者達、皆がこれから始まる新たな世界と

それを開いた人熊(ウォーベア)を称え、呑み、歌い踊る。

 

 

 そんな中、遺体の横に居たナタルコンだけが、その喧噪の外にいた。

 

 

 -この時の為にこそお前の手にあったのだ、防具として本望だろうよ-

 

 それはかつてオグマが装備していたスケイルアーマーが、その身を焼き尽くして

彼を守った時にナタルコン自身が発した言葉。

(我は・・・一体何をやっているのだ。かつて魔界皇ヒュンケルを、そして今またオグマを・・・)

 今となっては詮無い事だが、あのスケイルアーマーが、そして砕け散ったハンマーヘッド(どたまかなづち)

ヘルメットが羨ましかった。あ奴らは主を守り、主の力となって散っていった。なのに我は

2度も主を見送り、この先も生き永らえていくと言うのか・・・

 

 自責の念に苛まれるナタルコン。彼はヒュンケルとオグマに貰った数々の経験を

心で噛みしめていた。

 

 割れたナタを叩き直しただけの不良品を、己を鍛えるためのお守りとして愛用してくれた。

いつしか意志を持つようになり、我を振るうことで剣技を教えてくれた。そして共に魔界の

頂点まで駆け上がり、懐刀としての誇りを与えてくれた。

 

 長き眠りから覚めた時に出会い、光の闘気と暗黒闘気の相乗効果という戦い方を得た。

学び学ばされ、お互いに高め合い、数々の強敵と相対して来た。誇り共々売り払われそうに

なった時に駆け付けてくれた。あの竜の騎士と真っ向から戦い、己を信頼して命を預けてくれた。

 

 そして、一度は裏切った我を、頼もしいと称して受け入れてくれた、魔界のオグマ。

 

 ナタルコンには水分が無い、金属と宝玉で構成された魔剣ならそれは当たり前のことだ。

かつてあの機械竜に対する切り札となったその体が、涙を流せない自分が、今だけは

恨めしかった。

 

 リヴィアスも、ミールも、きらりんも、でろりん達4人も、そんなナタルコンを見て

声をかけられないでいた。あの一匹と一振りの信頼関係は、同じパーティの彼らに

あってさえ、入っていけないものがあったから。

 

 

 

(ナタルコン、みんな、心配するな。俺は魔界にいるから)

 

 

 

「・・・え?」

 声が聞こえた。懐かしき仲間の声が、確かに彼らの心に響いた。

 

 

 -ゴッフアワアァァァァッ-

 

 その時だった、オグマの寝ていた舞台が真っ二つに割れ、中から猛烈な勢いで赤い

マグマが噴き出して来て、瞬時にオグマを飲み込んだ!

 

 -ボッ!ブオワアァァァァァッ-

 

 驚く間もなく炎に包まれるオグマ。誰もが驚愕の声を上げる中、アバンが見覚えのある

光景に思わず叫んだ。

魔界溶岩火葬(バーニング・クリメイション)!!」

 魔界のマグマは、一たび火がつけば灼熱の火炎を生む。かつて相対したキルバーンが

己の血を火種として放った大火球と同じ、チリも残さず燃やし尽くす魔界の炎!

 

「なっ!?」

「オグマ!」

「オグマ君!」

 火球に包まれて舞い上げられるオグマ。その光景に誰もが驚愕せずにはいられない・・・

一体だれがこんな事を!

 

(みんな、ありがとう。俺は見守り続けるから・・・)

 

 火球に包まれるオグマのその顔は、穏やかに、笑っていた。

「あ・・・」

「おいおい・・・」

「あんの野郎、っ!」

 皆、オグマの笑顔を確かに見た。不思議なことに、オグマの顔が見えない角度に

いた者さえも、彼の最後の笑顔を心で感じ取っていた・・・。

 

 そして彼は火球に溶け込み、その炎と溶岩はそのまま再び地下に還っていった。

誰もが言葉を発せなかった。突然のオグマの退場劇に、誰もが酔いを醒まされたように

目を丸くして固まっていた。

 

 

 その時。

 

 -そんな彼らに、その足元に、黒い影が、くっきりと映し出された-

 

 

「なっ!!」

「う、うわ・・・明るい?」

「って、太陽!?うっそだろ・・・!?」

 

 天の大地の極一部が、まるで焼けるように輝いていた。直接目視する事が困難なほどに

眩しいその光は、魔界の者にとっては馴染みの薄い、地上の者にとってはすっかりお馴染みの

天からの最大の恵み。

「太陽・・・これが、っ!?」

「い、一体どうして?天井は・・・あるじゃねぇか、何で???」

 

 天の大地は確かにあるのに、まるでそこを通り抜けるかのように魔界に降り注ぐ太陽。

魔界の住人にとってそれは、初めて経験する命の光、生命の源ともいえる暖かい輝き。

 

「おいっ!こりゃあ、あの・・・」

 思わずヒムがきらりんに駆け寄ってそう発する。そう、これは確かに・・・」

「うん!あの人、”輝きのシア”の力・・・」

 かつて彼らがシアと戦った時、ヒムの眼をくらます為に使った太陽光透過の術。

それが今止め処なく続き、魔界に天の恵みを届けている。

「私の願いを・・・聞いてくれたの?」

 

「いい風・・・」

「ああ・・・魔界でこんな風が吹くなんて、な。」

 ミールとリヴィアスが、周囲を撫でる風に身を晒して漏らしていた。適度な清涼感を

感じさせる柔らかい風が、太陽の光を一掃心地よいものにしていた。

 

「雲まで出てるよ・・・いつの間に。」

「あれ・・・あの雲、なんか例のトカゲに見えないか?」

 魔界の空にいつの間にか雲がかかっていた。そのひとつを指してでろりんが、かつて

精霊”昇りのクト”が放ったイモリの怪物のような形に見えていた。

「「縁起でもない!」」

へろへろとまぞっほに平手ツッコミを食らって、ぱぁん!という音が響く。

 

 

 そして天から、一粒の小さな小さな氷の結晶が、ひらり、ひらりと舞い落ちてくる。

 

 それはナタルコンの目の前に落ちると、少しためらうように宙を舞った後、台座の

淵に落ちて、溶けて消えた。

(・・・レ、ム・・・そうか、レムなのだな!)

 

 ナタルコンは理解した。彼女もまた自分同様、心と魂を持った生物以外の何かに

姿を変えたのだ。彼女はこの魔界の”雪”となったのか・・・なんと壮大な存在よ。

ならば・・・この太陽は、風は、雲は・・・

 

 頭の霧が晴れるようにナタルコンは知っていった。そうか、あの”天の8行”。奴らは

この魔界の気象(ラナ)へと姿を変え、共に悠久の時を過ごすと言うのだな。そして

彼女らに無かった存在、魔界のマグマ、それに成ったのは・・・そうか、そうなのだな。

 

『魔界のオグマよ、お主は本当に・・・”魔界のオグマ”と成ったのだな。』

 

 

 その日、その時、その瞬間から。

過酷な環境ゆえに生存本能を刺激し、共生意識を高め、戦いに明け暮れて、強者を生み出してきた・・・

 

 

 -”魔界”は、閉じられた-

 




次回、いよいよ最終回。
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