なので記念に久々に投稿。
「私は・・・死ぬのね。」
水竜の鱗を全身に纏った魔族の女性、ミールは己の体を見回してそう言葉をこぼした。
父ケートスの研究、魔族と他の生物の肉体を合成して
止めて不老不死の生物を作り上げ、あの大魔王バーン様に捧げるために。
でも、結局は成功しなかった。幾人もの犠牲者を出し、自警団や使用人のみんなまで実験台にした。
私も娘として、その父の行為を黙認した立場として、最後に自らを実験の具にと手を挙げた。
結果、私の肉体は確かに時の進行を止めていた。だけど・・・止め過ぎていたのだ。時間に対する
ブレーキのかけ方が大きすぎたせいで、私は時と共に”若返る”体になってしまっていたのだ。
あとほんの20年ほどで幼子となり、胎児となって消滅する運命。
水槽の中、そんな自分の手を見つめて考える。死とはどういうものなのだろう、それは
恐ろしいものなのだろうか、それとも長き人生を生きる魔族にとっては救いなのだろうか。
ひとつ確実なこと。それは私の生が、はっきりとあと20年ほどと決められた事だ。
魔族も、獣人も、亜人も。あらゆる種族、生物たちは自分がいつ死ぬかなどと考えも
しないだろう、実際この体になる前までは私自身考えもしなかった。だが自分の死期は確定し、
刻一刻と近づくその時を数えながら生きる立場になって、私は、どうして・・・。
-こうも平然としていられるのだろう、まるで他人事のように-
父の元に来訪者があった。それは一人の
二人に問い詰められ、この館であった事を淡々と話す父ケートス。ああ、これで父も私も
断罪される、この町の自警団や使用人を犠牲にした私たち親子を町の皆が許すはずも無いだろう。
だけど、それでいい。どうせ私は・・・
「娘を・・・頼みたい。残り余生はわずか20年も無いじゃろう。せめて娘に世界を見せてやってくれ。」
父のその言葉に私は水槽の中でまどろみから覚醒する。そんな!父は、父は自分だけでその
罪を背負おうとしている・・・もうすぐ消滅する私だけを置いて!
「条件がある!領主として己のやったことを、そして大魔王バーンの死を、きちんと民に
伝える事だ!」
いきなり亜人が父の胸倉を掴んでそう叫ぶ。その怒りの声と行動の激しさに思わず動きを
止める。そして、次に放たれた言葉が、私の心に深く深く突き刺さる!
「死に逃げは許さん!!」
彼は人間だった。わずか100年足らずの人生を駆け抜けるように生きていく地上の種族。
死は終わりであり、絶望であり、そして懸命に抗うべきもの。そんな生き方を旨とする彼、
リヴィアスの目指す所を知ったとき、私はその矛盾に愕然とするしか無かった。
-
あの天界の戦士を、魔界の伝説級の災厄を、覇者である冥竜王ヴェルザー様すら倒した
不滅の超戦士に挑み倒す事を、断固たる決意で胸に刻み己を研鑽し続ける・・・脆弱な人間の肉体で!
彼の悲しい過去を知った。わずか7歳の幼子の時に竜の騎士の放った呪文に巻き込まれ、
家族も友人も生活も全て一瞬で失った。吹き飛ばされた時、背中におぶった生後半年の妹を
着地のクッションにして生き延びてしまった、その後悔の象徴である赤く染まったおんぶ紐を
己の首に巻き付けて、自分自身を縛る鎖として、それでも折れずに生きていく!
(なんて強い心の持ち主なんでしょう・・・)
魔力は魔族が、力は竜が秀でている。だけどその心の強さは人間には決して及ばないと
伝え聞いていた。彼の折れない心はまさにその噂を体現していたのだ。
私は旅をする。
リヴィアスに強く惹かれながら-
『我は・・・ずっと思っていました。我は何者なのかと。』
地上で出会った孤独な魂。誰とも触れ合わず、ただ竜の騎士を導く為だけに心と生を与えられた
その竜水晶の言葉もまた私を揺さぶった。私などよりはるかに長き時を生きるその存在は
”使命”という鎖に縛られる己を嘆いた。
『シ!』
その恐るべきブレスを背中に感じた時、私は初めて”死”を実感した。それは恐ろしく、
絶望的で、そして孤独極まる物だった・・・その時脳裏に浮かんだ言葉、そして、その顔。
魔剣にシンパシーを感じ、恐るべき
気にかけてくれる、人間の男性リヴィアス。
私は消滅しなかった。様々な偶然が重なり、あの恐怖のブレス”シ”を受けてなお命を繋いだ。
ううん、偶然じゃない。それは私が今まで紡いできた物語。
水竜とのキメラとなり、時遡の呪いを受け、仲間達と出会い旅をした。皆懸命に生き、戦い、
様々な出会いを繰り返して、私は私の物語を紡いできた。
-”生きる”という言葉の体現を、見て、感じ続けて来た-
「死に逃げたいのなら好きにしろ・・・軟弱者っ!!」
地上で開催された武術会。魔界の運命を決める大事な一戦の最中、リヴィアスは
使おうとする対戦相手ラーハルトにそう言葉を叩きつけた。愕然として呪文を止める相手に、
彼は本当に彼らしく相手を諭す。ああ、どこまでも相変わらずリヴィアスだ、この人は。
『我らの仲間に一人、不治の呪いを受けている者がおる。時と共に若返るなどという、
ふざけた呪いだ。』
・・・え?
『その者を完全に、十全に、完璧に、僅かな誤差も許さずに完璧に呪いを解く、そして真っ当な
人生を歩ませる!それこそが我とオグマの偽らざる総意だ!!』
その魔剣の言葉が胸に焼き付いた。全身が歓喜と感動と、そして受け止めきれないほどの
情の深さ、重さに打ち震えていた。
「総意に俺も入れとけよ」
「はーい、私も私も!」
「俺達も入れとけ!」
ああ、あの時だ。私は
私が居たら絶対に反対するその提案を、みんなでサプライズするために。
「なんて・・・なんて無茶をするんですか、私の・・・私のために?どうしてそんな献身を!
わたしのどこにそんな値打ちがあるというのですか・・・」
しゃくり上げながら、なんとかそう発した私の言葉に、彼はあっさりとこう答えた。
「お前さんはもうちょい自分の値打ちを自覚しろよ。」
実際に戦った魔剣の言葉よりも、その使い手に肩を貸すリヴィアスの言葉の方が良く
聞こえたのは、きっと彼からより強く”生きる”ことの価値を学んでいたからだろうか。
それとも彼に”仲間”以上の感情を持っていたから・・・?
本当に、彼からは貰ってばかりだ、色々の感情を、生きる意味を、そして想いを。
そんな私は彼に何を返せるだろうか。心の芯に”打倒竜の騎士”を抱えたまま、それでも
懸命に生きていく、心に響く言葉を残す彼に、何を-
いよいよ魔界を救う計画が始まる。水脈を探査する私はまさにその計画の要と言っていい、
おそらく飛翔呪文を使うリヴィアスとのペアでの行動になるだろう、その未来に不思議と
心が躍る自分がいた、不謹慎ですね、と。
・・・あ。
見つけた。私が彼に出来る事。過去の傷を癒し、彼に力を与えることのできる言葉と行動。
私がすでに幼子に近い年齢まで若返っているからこそ、託せる”信頼”。
「あなたは同じ失敗を、二度とはしない人です。だったら・・・」
-貴方の背中は、世界でいちばん安全な場所、です。-
ねぇ、知っていますかリヴィアス。私は貴方が好きなんですよ、いっぱい素敵な心をくれて
いつも私を気にかけてくれて、父の自殺を止めてくれて、償いの機会を与えてくれた。
そんな貴方の大きくあたたかい背中が今、震えているのが良く分かります。
嬉しい、感動してくれたんですね、受け止めてくれるんですね、私の”信頼”を。
「いいん・・・だな。」
当たり前です。
竜魔人バランから逃げながら、私たちは二人きりの時間を得た。おそろしいほどに冷静な
自分に驚いているリヴィアスに、私は諭す言葉に感謝の音色を込めて返した。
「あなたはただの復讐鬼では無いのですから。」
誰よりも強く復讐を願いながら、誰よりも生きる事の大切さを失わない
彼は決して狂うことなく慄然と前を向いて進んでいく。己の人生を、そして自分の運命に
決着をつけるために。
ずっと、そう思っていた。彼はもう憎しみに囚われる事も、後悔に身を焼くことも無いのだと。
「アイツは俺達の仲間だ!貴様を仇とする戦士だ!!爪も牙もある立派な狼だ!!!
貴様に同情される程度の男じゃ無い・・・何がウサギだ、無辜の民だ!!知った風な口を
利くなあぁぁぁっ!!」
はじめて、見た。
リヴィアスがずっと心の奥底に仕舞い込んできていた心の闇。かつて妹を背中で圧死させた
その身を焼く憎悪の感情が今、フィガロさんの遺体を目の前にして燃え盛っていた。
そこにいたのは、ミールの知るリヴィアスでは無かった。
「ミール、降りてくれ。」
「嫌です。」
「降りろ!」
「聞こえません。」
「・・・死ぬぞ。」
「私がいなければ、貴方は確実に、死にます。」
そう、こんな時こそ私が彼を救わなければいけない。彼に貰ったものを少しでも返したい。
だからこそ、彼を単なる復讐鬼にしてはいけないんだ!
「死に向かうものは軟弱者である・・・貴方自身がラーハルトさんに言った言葉です。」
それでも、私はまだ知らなかった。彼の心の底にあった、本当の”償い”の方法を。
「ダメえぇぇぇ・・・っ!!」
竜魔人バランの超呪文をぶち抜いて、そのどてっ腹を
背中に抱き着いているせいで彼の魔法力が止まらない事が手に取るようにわかる。猛スピードで
地面に近づいていく時間が私にはなぜか、ゆっくりに感じられた。
「それはお前に力が無かったからだ、飛翔呪文の一つでも使えていたら、その妹は死なずに済んだのだ!」
彼は師匠ロズテナーにそう諭され、以来妹の死の原因を己の不甲斐なさとして心に刻んだ。
その志は伝播する。武術会で相対したラーハルトは、リヴィアスの問いにこう絶叫して返した。
「あの時、何もできなかった俺自身だ!分かり切ったことを・・・言わせるなっ!!」
そう、彼には後悔があった。どうしてあの時彼はトベルーラを使って妹を救わなかったのか。
まだ7歳の少年がそんな呪文を会得しているはずは無い。だったら・・・
-どうして空中で身をひるがえして、自分が下から落ちなかったのか-
それで背中の、生後半年の赤ん坊が命を落とさない保証はない。また生き延びたとしても
身寄りのない赤子が爆発の起こった都市で誰かに拾われることも無いだろう。それでも彼は
そうしなかった事をずっと心の奥底で後悔していたんだ。
妹を犠牲にして、自分は助かったんだ、と。
彼は、禊を果たした。私を救い、自らの体をバランと共に地面にたたきつけて。
「リヴィアス!リヴィアスっ!返事をしなさいっ!リヴィアーースッ!!」
嫌だ、いやだ、いやだいやだいやだ!こんなお別れなんて絶対嫌だ。結局私は彼の事を
何も救ってあげられなかった、彼の心を癒す事も出来ずに、なにも返す事も出来ずに、
ただ彼の心の復讐の具になって私だけ生き延びるなんて、こんなことあっちゃダメだ!
「違う、違う!違うのですっ!」
私はリヴィアスに代わって、バランに彼の心中を明かした。彼なら決して心の奥底に
仕舞い込んで誰にも発しなかったであろう本音を。
「リヴィアスは・・・かつて、貴方のドルオーラで・・・背中にしょった妹を圧死させて
いるんです・・・だから、今度は・・・今度こそ、自分が潰れて・・・私をっ!」
「な・・・ん、だと・・・?」
あの竜魔人が、天界の戦士が、私の話を聞きリヴィアスの物語を知って、ついに心が折れた。
私に竜の血の蘇生役を託し、私はそれを飲み込んで持てる力の全てを注いで人間用の回復薬に
精製し直した。もう寿命なんて気にしない、リヴィアスを救えるのなら、私の残り時間の
全てを注ぎ込んでも構わない-
たのしい、でもかなしいおはなしがきこえる。そのはなしをきかせてくれるひとをみて
うれしくなる。おそらにかえったせりか?のはなしはよくわからないけど、ただそのひとの
こえをきくのはうれしかった。
そのひとにだっこされて、おおくのひとのなかにいた。すこしむこうのひろいところで
きれいなふくをきたひとが、かっこいいふくをきたひととむかいあっていた。
そしておそらから、きんいろのひかりが、ふってきた。
わたしはだっこされたままそこにかけあがった。わたしをかかえたひとがそのひかりと
ふたりのひととはなしていた。
きんいろのひかりが、わたしのまえにとんできて、わらっていた。
-ミールさん、だね。よかった、間に合って-
「え・・・あれ、ここは・・・?」
私は、私だった。
「・・・あ・・・ああ。私、私は・・・」
まどろみの中から目覚めた私は、キメラになる前の魔族の女性の体に戻り、その手には一抱えの
水竜の卵があった。戻った・・・私が、私に!
目の前には光り輝く、翼を持ったスライムが満面の笑顔で、そしてあの勇者ダイと王女レオナが
安堵の笑顔で佇んでいた。
と、私の肩にふわりと何かが掛けられる、心地よい臭いのするその布をかけられた方を見る。
そこにいたのは、私が心から想う人、私に持ち切れないくらいの多くの者をくれた
大切な、そしてもう絶対に放したくない、愛しい人。
「降りるぞー」
バツの悪そうな顔で頬を掻きながらそう勧めるリヴィアス。どうやらここはダイとレオナの
結婚式場のようだ、そんなところに乱入した気まずさからの言葉だと思っていたけど・・・
(顔が赤いですよ、リヴィアス。)
ふふ、と笑みがこぼれる。そういえば今、私は全裸だった、赤子からいきなりもどったのだから
当然なんですけど。それよりも彼が私の体から目を反らして真っ赤になっているのが、
なんとも嬉しかった。私にテレてくれているんですねー。
この機を逃す手はありません、今日はこのままずっと彼に張り付いている事にしましょう。
「お待たせしましたー。」
撮影会場に現れたミールの衣装を見て、リヴィアスが「げっ!?」と引く。アレは地上で言う
踊り子か遊び人の衣装じゃないのか?露出多すぎだろ!
「ん?どうしたリヴィアス。カオ赤いぞ?」
『魔界の女性の正装ではないか、何をそんなに目を背けておるのだ?』
オグマとナタルコンが容赦なくツッコむ。まぁ魔界は多種族世界なために裸がそれほど
恥ずかしいという認識があまりない。獣人などは腰ミノ一丁な者も珍しくはなく、
女性魔族は美しさを見せる為、戦士は肉体を誇示するために肌の露出は多めなのだ。
「うわー、目の毒だなこりゃ。リヴィアスさん頑張ってねー。」
「うー、私もレオタード着て来ればよかった。」
フィガロがリヴィアスをうりうり、と肘グリしてミールにくっつかせる。きらりんは
相変わらずの黒装束で来たことを少し後悔する。レムもいつもの露出多めだし、これじゃ私だけ
地味娘ちゃんだよ、と。
今日は彼らの世界の母体となる物語”ダイの大冒険”。そのアニメーション番組が30年の歳月を
経て、ついに全100話という長き物語を完結させた記念すべき日だ。その二次創作のキャラとして
お祝いのメッセージを送るべくこうして集まったのだ。
「しっかしなぁ、ダイ大のキャラが一人もいねぇってのはどうよ?」
「まぁひねくれた作者らしいでは無いか。」
ケプラスとガノイザーが容赦なく指摘する。普通こういうイベントならダイやポップ、レオナが
いるのが当たり前なのだが・・・来てるのは本作の魔界勢+レム+フィガロという有り様だ。
「魔界編があれば俺達の出番も・・・」
『無いわ!というかこの小説の存在そのものが消し飛ぶから、不吉な発言は止めぬか!!』
オグマの夢見がちな発言にナタルコンが全力で突っ込む。
全員がカーテンコールの舞台のように並ぶ。頭上に看板を掲げて原作に、そしてアニメを
完走させたスタッフに心からの感謝の言葉を贈る。
「せーのっ!」
きらりんの音頭に合わせて全員が大きな声で唱和する。
「「素晴らしい物語を、本当にありがとうございました!!」」
【挿絵表示】