-ドッゴォアァァァァン!-
-バリバリバリバリ・・・-
-ドカッ、ガッ、バリッ、ドッ、ドドッ-
強烈な炸裂音が、空気すらも焼く熱波が、圧倒的な破壊力をもって荒れ狂う。周囲にあった
木が、石が、集落の一部だった破片が八方に吹き飛ばされ、遥か向こうに転がりながら
飛んでいく。
極大呪文の競演。
まるで地面に極小の太陽を生み出したかのようなエネルギーを発生させていた。
倒れ伏したメンフィスとマグマグマも押し寄せる熱波に思わず顔を伏せる。自分達と
逆側に放った呪文でこの余波、爆心地に居る者は誰であれ一瞬で燃え尽きるだろう。彼らは
自分たちが巻き込んだ者たちの死に懺悔の言葉をこぼす。
「すまん・・・オグマ。えらいコトに巻き込んじまって。」
「あの
赤く染まる世界の中、ただ二人立っている人物、マルタとザンが彼らを一瞥してこう告げる。
「大丈夫、すぐに会えるよ、天界でね。」
「と言っても魂だけだから、ちゃんと認識できるかどうかは知らないけどね。」
あどけないその顔で語る言葉が『次はお前たちの番だ』と雄弁に語っていた。その視線と
言葉を受け、へたりこんでいたガッフォーがひぃっ、と後ずさりする。
「人間さんも殺しちゃったけど、まぁしょうがないよね。」
「
そう言って彼らはガッフォーに手をかざす。倒れ伏しているメンフィスやマグマグマより、
まだ動けるガッフォーから始末すべく、呪文を発動・・・
『・・・なるほど、”
「「なっ!?」」
マルタとザンが驚愕の表情で、その声の発せられた方向に目をやる。未だ紅蓮の炎が渦巻く
その空間に。
-バッシュウゥゥゥッ!-
燃え盛る炎が瞬時にかき消える。その中心にいたのは、一人の
浮いている一本の魔剣。
それに目をやったマグマグマが、メンフィスが、予想もしないその光景に声を上げる。
「お、おおお・・・」
「あの炎に、耐えた・・・なんてヤツだい全く!」
炸裂の瞬間、オグマは素早く
盾として使った。外側の竜の鱗は、衝撃に対して相当の耐久力と、ウロコの目に沿って受け流す
効力を兼ね備えている。
また内布に使っていたのはあの沼竜の口からはぎ取った皮だ、ドラゴンが吐くブレスの熱波に
耐えるその皮の耐熱力もまた並では無かった。
その優秀なヨロイに己の光の闘気を流し込み、
熱波を食い止めて見せたのだ。
また、ナタルコンはオグマが光の闘気を使う直前に
真空が炎の勢いを殺すことを知っていた彼は、まずそれで敵の呪文の威力を削ぎ、オグマが懸命に
防いでいるスキに自ら鞘から抜け出し、オグマの光の闘気と干渉しないように少し下がって
高めた暗黒闘気で真空の渦を作り、今、炎を消し飛ばしたのだ。
「ったく、短い付き合いだったなスケイルアーマー・・・ありがとよ。」
ウロコが残らず剥げ落ち、ボロ雑巾のようになった竜鱗の鎧を見て、感慨深く呟くオグマ。
『この時の為にこそお前の手にあったのだ、防具として本望だろうよ。』
ナタルコンがそう鎧を称える。そうだ、主の為に散ってこその武具ではないか、と。
「リヴィアスがいない・・・ヤツは、殺られたのか?」
ガッフォーが思わずそううめく。そこにあの
その事実にマグマグマもメンフィスも目を伏せる。無理もない、オグマとナタルコンが
生きているだけでも奇跡のような状況なのだ。
が、その奇跡すら間もなく無意味なものにさせられようとしていた。改めてオグマ達に
向き直った精霊憑きの少年たちの手で。
「でも、次はもうないよ。もうその鎧も使えないだろ?」
「熊のお兄ちゃん、最初から大怪我してたでしょ、無理しなくてもいいのにね。」
先の一騎打ちでリヴィアスの槍に何度も突かれ、オグマの体には無数の刺し傷があった。
血も多く失われており、ここに来た時点ですでに彼のタメージはかなり深かった。
精霊に対する闘志で身を奮い立たせてきたが、さすがにそれも限界が近かった。
「・・・やはり、お前たちとは考えが合わんな!」
オグマは苦しそうな表情をしながらも、精霊憑きの少年たちを睨み返し、こう続ける。
「死に瀕した今だからこそ、戦わずにどうするかっ!!」
父の教え。力こそが正義の魔界、だからこそ命の狭間では闘え!さすれば負けようとも
己の生涯を誇れるものに出来るだろう、と!
彼らのはるか上空、魔界の天井である天の大地に、ひとりの青年が取り付いていた。
その手に大きなコーンランスを抱えて。
リヴィアスはオグマが呪文を受け止めている間、
上や左右に飛べばあの精霊に見られてしまう、だが後ろに行く事で、敵にその行動を知られずに
戦線離脱が出来た、後は燃え上がる黒煙に身を隠し、彼らのはるか上空にまで舞い上がっていた。
彼だけの技、つい先ほどの決闘でオグマに仕掛けるはずだった高速の一撃!それを
決めるために。
「ぐっ・・・」
折れたアバラが痛む、魔法力ももう残り僅かだろう。だが自分がここで踏ん張らねば、
あの呪文を正面から受け止めたオグマの頑張りが無駄になる。仮にも一対一の決闘をした相手に、
自分が遅れを取るわけにはいかないのだ、そんな男が、あの遥かに高い目的を成すなど
できようか!
飛翔呪文を解除し、天の大地を蹴ってその身を自然落下に任せる。同時に円錐状の
コーンランスを自らの頭の上にかざし、空気をかき分けて抵抗を極小にする。
「
直下の軌道に乗った所で飛翔呪文を再発動させ、さらに加速を続けながら地面めがける。もし
タイミングを少しでも誤れば、猛烈な勢いで墜落死したマヌケが一人できあがる。
それでも彼は大地を見据え、そのタイミングを計る事に全神経を集中する。
「ここだ!」
飛翔呪文のベクトルを下から横に変化し、頭の上に突き出していたコーンランスを地面と
水平に持っていく。落下していた彼は弧を描き、地面に水平に、猛スピードで移動する。
オグマと敵のいるその場所に、さらに速度を上乗せしながら!
「あ”?」
最初に気付いたのはガッフォーだった。間を置かずにマグマグマもメンフィスも、精霊憑きの
少年たちもそれに目を向ける。地面すれすれを猛スピードでこちらに突っ込んでくる槍の
ロケットに。
瞬間、オグマは両手で耳を塞ぐ。そしてその刹那の後、リヴィアスが彼の際を、マルタとザンの
真横を突き抜けていく!
-ッパアァァァァァンッ!!!!-
その瞬間だった。飛んでいたリヴィアスがまるで何もない空間の壁を突き破ったかのような
強烈な衝撃と、耳を切り裂くような轟音を炸裂させる。
「がッ!?」
「・・・ぁ!」
声にならない声を上げ、糸の切れた人形のようにその場に倒れ込むマルタとザン。
破壊する事により起こる炸裂現象。
リヴィアスは彼の師からその原理を学んでいたのだ。そしてそれを戦いの手段として応用する
術を試行錯誤していた。
事により、天から地までの距離を使ってギリギリでその速度に達する事に成功していたのだ。
この衝撃波を至近距離で受ければ、まずその音の圧により耳から脳にダメージを届かせられる。
強者であっても平衡感覚を狂わせることが出来、弱者であれば脳震盪を引き起こし、気絶させる
ことも十分可能であった。
そしてこの状況、マルタとザンに憑いている精霊を引きはがすため、彼らを気絶させる
手段としてこの一手が大きく生きた。敵の呪文の爆風を利用し身を隠して戦線離脱、そこから
一気に加速をつけ、対応の暇なく彼らの意識を奪う絶妙の一撃!
地に付したマルタとザンの上、立っていた時そのままのポーズで、二人の少女が佇んでいた。
蒼い髪と薄い金色の髪をした、体と同じ色のローブを羽織った華奢な少女が。
信じられない、といった表情で。
『なるほどな。オグマ、分かるか?』
「ああ・・・村に来た”輝きのシア”の使徒と同じだ、奴らも呪文だな!」
ナタルコンの問いにオグマが応える。呪文に禁呪法である”無生物に命を与える”魔法を
組み合わせた、生きている魔法。
シアの使徒は石化の呪文だった。ならこいつらは”他人に憑依し操る”類の呪文なのだろう。
宿主を失った彼女らは、その場でおろおろしながら動かない。
『能力が高い分、憑りついていないと大した力は無いようだな。だが暗黒闘気が効かないのは
変わらないだろう・・・だとすれば。』
その言葉にうむ、と頷くオグマ。と、状況を察したか、その精霊たちはスゥッと浮かび上がると
そのまま天の大地に向かおうとする。
『逃がさぬよ。』
ナタルコンが真空呪文を発動する。彼の起こした風が使徒たちを包み、空中で自由を奪い、
動きを止める。
暗黒闘気こそ通用しないが、その闘気が起こしたささやかな風にさえ使徒たちは逆らえない。
人を操り、心を操作し、周囲の者まで迷わせるほどの心の能力の高さ。それは代償として
誰かに憑りつけなければ単体での戦力をほとんど有しないという欠点を持っていた。
逃がすわけにはいかない。もし逃がせば奴らはまたどこかで何者かに憑き、無用の争いを
強いる事になるだろうから。
「ナタルコン、少し時間をくれ。」
オグマはそう言って歩き出す。正直体のダメージは大きいが、そんな体にムチを入れて
倒れ伏しているメンフィスの所まで辿り着く。
「な・・・何やってんだい、さっさと殺っちまいな!」
我が子を、我が村を弄んだ憎き敵に対して容赦は無かった。1秒でも早くアイツをこの世から
消し去りたかったから。そしてそれを後回しにするオグマに、焦りと怒りの感情を向ける。
オグマはそんなメンフィスの手を取り、その掌を包んで拳を握らせると、右手でゴツンと
己の右拳を合わせる。
「あ・・・」
その意図を察するメンフィス。オグマは隣に倒れるマグマグマに向き直る。彼もまた察して
オグマに向かってその拳を突き上げる。コツン!と左拳を合わせるオグマ。
「はあぁぁぁぁっ!」
精霊の使徒に向き直ると、残りの光の闘気全てを開放して、その両の拳に集中させる。
多くの者を殺し、愛情や信頼を利用して騙し、無用の殺し合いをさせた愚か者どもに・・・
彼らの想いを乗せた鉄拳で、鉄槌を下すために!
オグマが助走をつけ、飛ぶ。未だナタルコンの風に囚われ、動けない使徒に向かって。
その両拳が彼女らを貫いた時、この集落で起こっていた争いの元凶は今、音もなく潰えた。