魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第17話 魔界、一筋縄ではいきません!

 -天界-

 

 もの鬱げな一人の少女・・・精霊が、丘の上にある神殿に向かって歩いている、足取りも重く。

頭を垂れているせいで、その神殿の入り口から出てくる者にすら気付いていないようだ。

「どうしました、”満欠(つき)のネル”。やけに深刻な顔をして・・・。」

同じ精霊、天の8行のシアが、すれ違いざまにそう声をかける。

「あ・・・輝き(かがやき)のシア。これから神々に懺悔に参る所です。」

 

 彼女たち”天の8行”と言われる8人の精霊たちには、神から授かった使命があった。

 -魔界を閉じる-

その大事業に際し、彼女らは神々から新たな力を授かっていた。シアは石化の能力を、そして

ネルは心と意思を持つ”争いのたね”の力を。

 魔界の住人たちに、魔界を閉じる事を気付かせない事、阻止する勢力が現れるのを防ぎ、

神の事業を無事に遂行させるため、魔界に混沌を招く為に。

 

 彼女たちが得た能力は、その効力によって制約が課せられている。石化の使徒を

生み出すとは言え、自ら敵に相対しなければならないシアの能力には、ほぼ制約はつかない。

 だが自らが関わらず、なおかつ勝手に魔界で争いが起きるように誘導するネルの力は、

強力すぎるがゆえに様々な制約が課せられていた。

 その力は幼い者にしか憑りつけない事、憑りついていない時は無力な事、そして何より

魔界に放った1000を超える”争いのたね”の、ひとつでも消滅してしまえば全てが同時に

消滅してしまうこと。

 

 それでもネルには自信があった。幼き者にしか取り付けないがゆえに、力こそ正義の魔界では

警戒されないだろう。そしてどんな凶暴な生物であっても、己の子には皆、甘いものだ。

 彼女の力で魔界は大小のいさかいが耐えなくなり、魔界が閉じている事など誰も

気づかないだろう。最後の時まで、と。

 

 だが彼女の”争いのたね”は、ロクな成果も成さぬままに消え失せてしまった。

彼女自身が望んだその力が失われたことを神々に報告に行かねばならない、彼女の落胆は

当然のことだった。

 

 ネルを見送って、シアは遠く魔界に思いを馳せた。英雄ガルドの末裔ダルタレクは、

その仲間と共に石化し、魂を天界に回収することができた。

 しかし、”昇りのクト”の放った”融合の(あぎと)”の力の一つが先日失われたのに

続いて、ネルの能力は根こそぎ全滅してしまった。

 

 -やはり、今の魔界は、一筋縄ではいかないのかもしれません-

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

 目を開けると、そこにあったのは、天井。身を委ねているのは、小さなベッド。

「ん・・・寝てたのか、俺は。」

 目覚めたオグマは、周囲の状況を確認しようと身を起こし・・・

「ぐ・・・んん・・・っ!!」

体中を貫く痛みに、そのまま悶え転がった。

 

『ははは、無理するな。傷は塞がったとはいえ痛みは抜けぬものだ。』

 聞き慣れた魔剣の声に、オグマは自分が置かれていた状況を思い出す。そうだ、

子供に憑りついた精霊を薙ぎ倒して・・・その後の事を覚えていなかった。

状況を把握しようと、ナタルコンの声のした方に目をやる。

 

 そこにいたのは、愛用の魔剣と、その際のイスに座る人間の姿だった。

「よ、お目覚めか。」

「リヴィアス・・・お前もいたか。そうだ、皆はどうなった?メンフィスやマルタは・・・」

 オグマは現状が全く把握できないでいた。獣人の集落は燃え盛っていたはずだが、今ここは

普通に家の中だ。燃え残った家があったとも思えないのだが・・・

 あと、自分の傷が塞がっている。ということは回復呪文(ホイミ)をかけてくれた者が

いるという事になる。

 リヴィアスも胸の部分に包帯をぐるぐる巻きにして座っている、果たして誰に手当てを

施してもらったのだろうか。

 

 と、天井の一角がバン!と音を立てて開き、そこから魔族がひょこっ!と顔を出す。

彼、ベレスのガッフォーはオグマと目を合わせると「おお!気が付いたか」と笑顔を見せ、

そのまま振り向いて皆に発する。

「おおーい、英雄サマのお目覚めだぁーっ!!」

 

 

 オグマが2体の精霊呪文を叩き潰し、その直後にばったりと倒れた時、焼け落ちた家の

地下室から幾人もの獣人たちが歓喜の声と共にわらわらと沸いて出て来た、この村の女達だった。

そして後に続いて出てきたのは、何と魔族の女性たちであった。

 

 彼女たちは傷付き倒れた自分たちの仲間の戦士を、次々と回復呪文(ホイミ)で治療して回った。

落命寸前であったマグマグマも、重傷を負っていたメンフィスも、辛うじてそれで命を拾う

事が出来た。

「ったく、男どもは戦う事しか考えてないんだから!」

 マグマグマに回復呪文(ベホイミ)をかけながらそう言ったのは魔族の女性だった。

魔族の彼女たちは早くからザンの異常に気付いて、密かに獣人の村の女達とコンタクトを

取り合っていたのだ。

 獣人側の女性たちにしても、忠告されてみれば確かにマルタの変わりようは明らかだった。

血の気の多いメンフィスは打倒魔族に気がはやって息子の変化に気付きもしない、

ここは私たちが、と思って魔族の女性たちと連絡を取り合い、有事に備えて家の地下室を

カラにしておいたのだ。

 魔族の方も、ザンが豹変して自分たちを攻撃するのは織り込み済みで、うまいこと死んだ

フリをして砦から離れ、ちゃっかりこの地下室に居候していた。

 

 オグマとリヴィアスがそれぞれの拠点に現れ、一騎打ちの話が出た時から彼女たちは

いよいよマルタとザンに憑いている者が動くと予感し、いち早く皆で地下室に避難しつつ

状況の推移を見守っていたのだ。

 

 とはいえ彼女達だけでは状況を覆すことは出来なかっただろう。だが、両集落に現れた

ふたりの戦士と一振りの魔剣がこの状況を見事にひっくり返してくれた。

彼女たちはそんな彼らに、倒れた戦士に、集落のリーダーに次々と手当てを施していった。

 

 全滅したと思われた両集落は、その全員が精霊の策略を逃れて生き延びたのだ。

 

 

『なんとも痛快な話であったわ。精霊どもの手の平で踊らされてると思いきや、村の女たちの

手の平で踊っていたのは精霊のほうだったというのだからな!』

 そう言って笑うナタルコン。魔剣が暗黒闘気を放ちながら、宝玉の眼をギラつかせて朗らかに

笑う様は実にシュールな絵面だ。

「その風体で笑うなよ、怖いから。」

 そう言ってリヴィアスも笑う。彼は衝撃波(ソニックバリア)で少年二人を気絶させた後減速に入ったが、

魔法力が底をついて転倒し、そのまま数十メートルも転がって倒れた。

 いち早く駆け付けたガッフォーに担がれて村に運ばれ、しっかりと回復呪文をかけられたお陰で

オグマより早くベッドから起き出すことが出来た。

 

 オグマが気絶している間、リヴィアスはナタルコンと話し込んでいた。”神の涙”と”竜の騎士”

という神々の遺産を共に敵と抱く存在、そしてオグマもまた石化された家族や仲間の為に、

わずかな希望にすがって精霊を倒すことを志している事。

 

 それはリヴィアスが出来なかったこと。彼は無力であったがゆえに竜の騎士に家族を国ごと

消し去られた。幼かったなど言い訳にもならない。己の手からこぼれ落ちた、やり直せない過去-

 

 自分には敵わなかった願い、仲間を救うこと。そんなオグマの願いを叶えてやりたいと思っていた。

 

 

「そうだ!リヴィアス、実は君に頼みたいことが・・・」

「分かっている。ナタルコンから聞いたよ、地上に行きたいんだろう、協力するよ。」

「・・・いいのか?」

「まぁ、正直どうやって地上から魔界に来たかは覚えて無いんだが、俺の師匠なら何か

知ってると思うよ。怪我が治ったら案内するさ。」

「・・・恩に着る、ありがとう。」

 そう言って横になったまま拳を突き出すオグマ。それにゴッ!と拳を合わせるリヴィアス。

 

 ほどなくどかどかと入って来た面々により、オグマはベッドごと地下室から外に運ばれる。

そこでは宴の支度がすっかり整っており、彼らふたりと一振りは上座につかされ、心からの

もてなしを受けた。

 

 獣人と魔族の宴。マグマグマとメンフィスが飲み比べをし、ガッフォーと相棒のナッフォーが

死神流の一発芸を披露し、魔族の女性が厚さの違うマヌカイトを叩いてで美しい音楽を奏で、

それに合わせて獣人の女性たちが森の切り株を叩き、蔓を弦にして弾き、音を合わせてく。

 

 その演奏の後はマルタとザンによる力比べが披露された。5mほどの円の中で取っ組み合う2人。

リヴィアスいわく”スモウ”という地上ではポピュラーな力比べらしく、円の外に押し出されると

負けというシンプルなルールが子供たちに受け、今ちょっとしたブームになっているようだ。

 懸命に押し合う両陣営の少年に、皆が笑顔でヤンヤの声援を送る。

「マルター、足を止めるな!負けたら1週間メシ抜きだよ!」

「ええい何をしているザン、お前は怪力なんだからさっさと決めぬか!」

 

 ・・・まぁ両陣営のトップは少々入れ込み過ぎな気もするが。

 

 

      ◇           ◇           ◇    

 

 

「じゃあ、世話になったな。」

「皆、元気でな。」

『しっかりと生きろ!』

 旅立ちの日。オグマ達は彼らにそう告げる。

 

「目的を果たせよ、英雄たちよ。」

「魔界に帰ってきたら、また寄りなよ!」

 上位魔族のサタンジェネラル・マグマグマと上級魔獣のグルバレイダ・メンフィスが

そう返した。

と、二人の横をすり抜けてオグマ達に駆け寄る少年。かつて精霊に操られ、取り返しのつかない

後悔から救ってくれた恩人二人に、少年たちは拳を突き出す。

 

「今度はオイラ達が兄ちゃん助けるよ、いつか!」

「あの魔獣の伝説、ガルド様みたいに強くなるよ、僕!」

 ザンとマルタに、オグマとリヴィアスが拳を合わせる。うむ、頑張れよ!

 

 とある集落での出来事。それは悲劇から始まり、後には魔界に生きる者たちの強さ、したたかさ

を明らかにする。そして未来に向けて成長する、たくましい少年たちの明日も。

 

 -魔界は、一筋縄ではいかない-

 

 言葉は同じでも、精霊シアの認識するその事実と、オグマ達が感じたそのエネルギーは

決して交わらぬほどに遠く、かけ離れていた。

 

 

 

 




マルタ・・・ザンッ・・・うっ、頭が。

登場人物解説

・リヴィアス

【挿絵表示】

人間、男、27歳。175cm71kg。アルキード王国出身。
 7歳の時に祖国が滅亡し、幼い妹を含む家族や知人、そして祖国まで失った。
郊外で暮らしていたが故に難を逃れたわずかな人々と共にテラン王国まで逃れ、
そこで聞いた伝説で、自国を滅ぼしたのが”竜の騎士”バランであることを知った。
 それを天命だと受け入れるテランの人々やアルキードの生き残りの者たちを尻目に、彼は復讐を
誓い修行に明け暮れる。
 19歳の時(奇しくも魔王ハドラー復活の直前)、たまたま見つけた洞窟を下っているうちに
転落して戻れなくなり、ならばと先に降り続けた結果、魔界まで到達する。
 魔族の師匠に出会い、己に足りぬ心構えや、竜の騎士に対する知識、飛翔呪文などを教わり
竜闘気に対する刺突槍(コーンランス)を刀匠に依頼して手に入れる。
 復讐と己に対する自戒を忘れぬため、妹をおんぶしていたヒモを首に巻き、修行の旅に出て
あまたの戦いに身を投じる。
その強さと、人間であるという事実、そして首に巻いたその赤い布から”赤い首巻(レッドネック)リヴィアス
の名で知られるようになる。
 黒髪に琥珀色の目。魔界に来て以来、陽の光を浴びていないせいで色白、見た目は20歳前後で
止まっており、若々しい風貌の戦士。

装備:刺突槍(コーンランス)、皮の服、赤い首巻き。
得意呪文:飛翔呪文(トベルーラ)
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