魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

2 / 136
第2話 集落の切り札

「何が狙いだ・・・精霊どもおぉぉっ!!!」

 絶叫するダルタレクの正面に浮いているのは、白いローブを身に纏った一体の精霊。

2mほどの背丈に、魔族や人間の女性ような美しい姿、長い銀色の髪の毛を衣と共に

空中を泳ぐようにたなびかせて佇む。

獣人(ダルタレク)を見下ろすその目は氷のように冷たく、その表情は大理石のように微動だにしなかった。

 

 その周囲には、一目でこの精霊の使徒だと分かる精神体が大量に漂っている。

まるでこの精霊を少女にしたようなその見姿、精霊と同じデザインと色合いの衣。

 

 精霊が無表情なのに対し、この使徒たちは皆笑っていた。燃え盛る集落を見下ろし、

石像と化した住民たちを眺め、猛る巨人熊を光の無い目で、楽しそうに、面白そうに。

 

くす、くす

うふふふふっ

キャハハハハハハ・・・

 

 -答える必要はありません-

 

 精霊が返事と共にダルタレクをすっ、と指差す。それに応えて笑いながら、螺旋を描いて

ダルタレクに取り付こうとする使徒たち。

 

「ふん!!」

 ダルタレクがその両刃の斧をウチワのように一振りすると、精霊の使徒達は

まとめて薙ぎ払われ、その姿を霧散させる。

 だが、残った使徒たちは皆笑い続けている、仲間の消滅すら楽しく、面白いと言わんばかりに。

 

あはははっ

 

「くっ!」

ダルタレクの右ひざに一匹の使途が取り付いている。先程薙いだ斧の死角から接近したその使途は

そのまま体を光らせて彼の右ひざに同化する、その肉体を石に置き換えて!

 

 すでに彼の両足はヒザまで石化している、また右肩と腹の一部もすでに使途に取り付かれて

石に固められていた。

 

 そして精霊はすっ、と両手を広げる。すると彼女の後ろの空間に大量の光の玉が現れ、

それが次々と使徒の形を成していく・・・倍増した笑い声と共に。

 

クスクスクスクス・・・

あははーっ、あははははっ

うっふふっ

くっくっくっくっくっ。

 

 ダルタレクはおのれ!と唸って斧をぎりりと握り直す。

さっきからずっとこの調子だ、何匹消し飛ばしてもこいつら次々に湧いて出る、そしてその使途に

取り付かれた部分からこの身が石になっていく。

 

 最初に精霊どもが現れた時もそうだった、大量に生み出されたこの少女のような使徒どもが

次々に集落の仲間たちに抱き付いて行き、そのままもろともに石となっていった。

 

 無論腕に覚えのある者たちは勇敢に立ち向かった。火炎呪文を放ち、鎌を振りかざし、

ブレスを吐いて使徒どもを消し飛ばし続けた。

 だが所詮は多勢に無勢、いくら倒しても無限に沸いて出るその使徒たちに集落の猛者たちは

次々と石に変えられてしまっていった。

 

(何故だ・・・精霊は本来武力を持たぬ存在のはず、なぜこうも正面切って戦って歯が立たぬ?)

 

 ダルタレクは知っていた。精霊と言う存在が本来は自ら他を害する能力を有しないことを。

あのヴェルザー、最後の知恵ある強大な竜を封じた時も、伝説の竜の騎士に虫の息にされてから

石に封じられたはずだった。

 無論我らの力はヴェルザーには遠く及ぶまい、だがそれでも精霊と正面切って戦い負けるなど

ありえない、否、あってはならないのだ。

 

そうでなければ、魔界の者の生殺与奪を、天界に握られてしまうではないか!!!

 

 

 

「父よ!」

 

 ダルタレクの思考を中断させたのは、彼の息子の叫びだった。

「オグマか!」

「はいっ!」

 そう答え、足元にある木切れをひっつかんで構えるオグマ。

父は健在だ!その事実がこの状況にあってどれほど彼の救いになる事か。

事情を聴くのも仲間の事も今は置く。まずは戦え!『力こそが正義』の魔界の者なれば!

父の教えを胸に、非力な人熊の若者が闘志を漲らせる。

 

 だがダルタレクは知っていた、この状況が息子の参戦で打破できるようなものではない事を。

このままでは俺も息子も石になるのは時間の問題だ、どうする、何か、何か手は無いか・・・

 

 その時、彼の脳裏に浮かんだのは、遥か先祖から受け継がれているあの「危険な」箱!

 

「オグマ!土蔵の奥にある銀のミミックを持って来いっ!!」

 一も二も無くそう叫んでいた、この集落にある強力な力を持つアイテムといえばアレしかない!

この状況を打ち破るなら強力な力が必要だ、あるものは何でも使わねば!

 

「え・・・父よ、『アレ』を使うって?」

「いいから早く行け!問答している時ではないっ!!」

戸惑う息子を怒鳴りつける、困惑するのは当然だが、今はワラにもすがるしかない。

会話のスキを見て群がる使徒どもを薙ぎ払いながら、後ろ目に倅の顔を見る。

 

「行けっ!!」

「はっ、はい!!」

きびすを返して駆け出すオグマ、その背中を見送って、父は心でエールを送る。

(いい顔をするようになったじゃないか、アレも。)

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 駆けながらオグマは思う。土蔵にある銀のミミック。そう、あれは絶対に触れてはいけない

凶悪な宝箱だったハズだ。子供の頃に魔族の友人キールが好奇心に負けて開けようと近寄って

あわや食い殺される直前まで行った、もし父が近くに居なかったら間違いなくキールは

死んでいただろう。

 父と、キールの親父さんと、この集落の強者たちが総掛かりで取り押さえたその

殺人箱、確かにアレなら、今ここにいる敵に対する手段になるかも知れない。

 

 でも、どうやって?

 

 近づくだけで襲い掛かってくるミミックをどうやってあの敵にぶつける?持って来いと

言われてもそもそもどうすればいい?父なら土蔵ごと担ぐことも出来るだろうけど俺には無理だ。

それともアレには意思があるのか?頼めば一緒に戦ってくれるのか?いやまさか。

 

 そうこうしてるうちに土蔵に到着する、立て付けの悪い扉をずずずと開き、薄暗い土蔵の

奥に歩みを進める。

 件のミミックは今は材木の影にあるはずだ、キールが襲われて以来、誰かが不用意に

近づかないようにバリケードのように薪を積み上げていたのだ。

 

 薪の束をどかし、バリケードになっている材木を縛っているロープを解き、慎重に材木を

取り除く。襲って来るなくるなクルナ・・・

 

 土蔵の奥まである程度の空間を確保し、そのミミックを取りに行ける状態が出来た。

木の影から恐る恐る、土蔵の最深部を覗き込むオグマ。

 

 

 彼が見たのは、天井のフタの部分から粉砕され、箱の体をバラバラに破壊された

銀のミミック。そして・・・

 

 その上、空中に佇む、周囲に暗黒闘気を燃え上がらせた、一振りの禍々しい短剣。

 

 

 

 

 -ニオう、ニオうぞ・・・あの忌々しい神々の遺産、『神の涙』と同じニオいダ・・・-

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。