魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

21 / 136
第21話 泉の上で!

 -カィーン!カーン!カーンカーンッ!-

 

 サルトバーンに響くマヌカイトの音、これは領主による民の非常収集の叩き方。

何事かとぞろぞろ領主の館の前に集合する者たち。

 そこにいたのは、どこかやつれ切った領主ケートスと、そして・・・水竜と融合した、

彼の娘の姿。

「皆、よく集まってくれた。これから大事な話がある故、どうか心して聞いてほしい。」

 

 彼の話は当然ながら民たちを驚愕させた。彼が不死の研究を行っている事、そのために

大勢の魔族やモンスターを犠牲にしてきた事、その中にはこの町の自警団や、彼の

使用人だった物も混じっている事。その最たる例である娘ミールの今の姿がその証拠である事。

 そして・・・この町の本当の支配者である大魔王バーンがすでに存在しない事。故にこの町が

これからどうなっていくのか、その先が見えなくなってしまった事などを、ケートスは

包み隠さず話した。

 

 ケートスは結局、殺されはしなかった。自警団の身内こそ憤慨して殺意を彼に向けたが、

彼自身も娘をあのような姿にしてしまっている事、そして何よりこの町の行く末を案じ、

それを導いていける人物が彼以外に居なかった事もあり、彼には断罪より償いの方が

求められたのだった。

 また、合成獣(キメラ)となった者のケアも必要だ。オグマがハンマーヘッド(どたまかなづち)で叩き潰した

キメラたちも幸い絶命は免れ、ケートスやミールの回復呪文(ベホマ)によって命を繋いでいた。

 彼らが魔界で生きていける生物にケアする事もケートスの償いの一環にされた。何より

生き残っているキメラ達の中に、自警団や従者の成れの果てである人物がほぼ全員いた事も

大きかった。

 

 こうして領主ケートスは余生を激務に、このサルトバーンの未来の為に注ぐこととなった。

 

 

 

「いやぁー驚いたぜ、まさかあの魔界皇ヒュンケル様の懐刀だったとはなぁ・・・」

 武器屋”ドガバッキ”店主のドガさんが笑いながらオグマ達にそう話す。あわや魔改造

される寸前までいったナタルコンだったが、その事実を告げたことで何とか通常のメンテと

プラスアルファの改造ですんでいた。

 

『まったく・・・完成図の絵を見せられた時は消滅したくなったわ、オグマのソレ(どたまかなづち)

セットだと、魔界一恥ずかしい戦士の完成間違いなしだぞ。』

 ナタルコンが疲れ切った目でそう話す。オグマもドガさんも「そーかなぁ?」と首をかしげて

否定するが、リヴィアスはその絵を見て(うわぁ・・・)という顔で冷や汗を流す。

思えば自分の刺突槍(コーンランス)も、本体はともかく装飾品は本当にアレだったからなぁ、と。

 

 ナタルコンの改造としては鍔の部分に小さな翼が取り付けられ、それに暗黒闘気を通せば

彼自身で空を飛ぶことがより容易になっていた。また両刃の短剣だった刃は、やや片側に反った

形になり、それが切れ味と真空呪文(バギ)の威力と速度を上げていた。

 銀のミミックの鞘はより収まりがよくなり、深く収めるとカチリとロックする仕様となった。

抜く時、収める時にメリハリが付くことは、戦いの際のオグマとナタルコンのターンの交代の

いい合図となるだろう。

 

 リヴィアスの刺突槍(コーンランス)は表面が鏡のように研磨されていた。これは彼の

注文で、相手の魔法をよりスムーズに貫くと共に、戦いの最中その表面に周囲を映し出し、

視野を広く持つ鏡の役割も担うだろう。

 

「って、そういやリヴィアス、師匠はどうなったんだ?ロズのじーさんは。」

忘れてた、という顔でそう問うドガさん。彼は領主の懺悔も見にすら行かず、内容を聞いても

「ま、いーんでない?」と興味を示さなかったのだが、そもそも領主の館を訪れたのは行方不明に

なったリヴィアスの師匠ロズテナーを探しての事だったから。

「領主も知らないそうだ。度々館に呼ばれていたのも合成獣(キメラ)の件の相談だった。」

 そうか、と俯くドガに、オグマがにやっと笑って後ろ指を指し、こう返す。

「だからこれから、その水没した小屋を調べに行くのさ。強力な助っ人が来てくれたからな!」

 その言葉と共に入り口のドアがきぃ、と開き、一人の長身の女性魔族が入って来る。

「失礼します。お久しぶりですドガ・バッキ、私が分かりますか?」

 

 仰天し、イスから尻もちをつくドガ。見間違えるはずが無い、聡明にして町の民の憧れ、

領主の娘のミール様!

 し、しかもだ・・・その背中には水竜のようなウロコが生え、尻の先には流れるように

大きな尻尾が生えている。

 水竜と魔族の合成獣(キメラ)となった彼女だったが、その美貌はむしろ水竜の瑞々しい

美しさを取り込んで増してているようにすら見えた。

「こっ、これはミール様!忘れるもんですかい・・・お久しぶりでさぁ!」

「ふふ、嬉しいわね。以前と変わらずに接して貰えるというのは。」

 

 

 ロズテナーの家は泉に水没してしまった。水深30mはあるだろうその小屋まで潜って

中から手がかりを探し、引き上げてくるというのは水中に適した体でないと不可能だろう。

そんな仕事に、水竜と融合したミールはまさにうってつけだったのだ。これから旅を続ける

仲間に対する初仕事に彼女は大いに張り切っていた。

 

「ドガさん、本当に世話になった、ありがとう!」

「なーに、いいってことよ。ハンマーヘッド(どたまかなづち)似合ってるぜ!」

 ぐっ!と親指を上げて笑顔を交わすドガとオグマ。センスの似た者同士、気が合うようだ。

「じゃあ、また結果報告に来るよ!」

「この町の鍛冶を頼みましたよ。」

 リヴィアスがコーンランスを掲げ、ミールは笑顔でそう告げる。ミールの腰を抱え込む

彼をちょっと羨ましそうに見ながら、ドガは彼に返す。

「彼女は町のマドンナだぜ、丁重に扱えよ!」

 

 

飛翔呪文(トベルーラ)っ!」

 3人は飛ぶ。郊外にある泉、彼の師匠の小屋が沈むその場所へ。

 

 

「では、行ってきますね。」

 泉のほとり、ミールはためらいなく水に入っていき、二人と一振りにそう告げると、すぃっ、と

音もなく泉に潜っていく。

「水に潜ったり、水中で呼吸するのも寿命を縮めるのか・・・な?」

「だとすると頻繁には頼めないな、帰ってきたら聞いてみるとしよう。」

 ミールは時と共に若返る体質、そして呪文や水竜の能力を使っても若返りが加速する。

あまり酷使すればあっという間に赤子まで行ってしまうだろう。そしてそうなればもはや

残りの寿命は無いに等しい。新たな仲間の持つ過酷な運命に改めて憤る二人。

 そんな彼らに、長き時を生きて来た魔剣(ナタルコン)はこう活を入れた。

『濃い人生を送る事が肝要だ、ならば短くともその生き方には価値があるものだ!』

 

 

 ミールは水に潜ってすぐ、強烈な違和感を覚えていた。

「この泉・・・横から沸いている?何かおかしい、この水脈!!」

 そう、この泉の水は下からではなく、窪地になっているその崖から噴き出している。

その水質も、流れ方も、とても自然にそうなったとは思えないほどの妙な泉だった、

この水はここに溜まるために流れたんじゃない、まるで何かを成すために使われた水が

ここに”捨てられた”かのように!

 

 彼女は方向転換する。調べるべき小屋は下だが、どうしてもその水の湧く位置が気になった。

水源になっている崖に取り付き、湧き出す水に手をかざす・・・

 -びりっ!!-

 ミールの手が弾けた。何か魔法の力によってその噴出口は閉ざされている、そして

その反応が何かのセンサーであることも彼女は察した。これは・・・合図結界!?

 

 身をひるがえし、一気に水面に向かって泳ぐ。そのまま水の上に飛びあがり、派手な音と

水しぶきを上げてオグマ達の所に着地する。

「な、なんだ!?」

「どうした、もう何か・・・」

 それ以上言う前に、ミールが大声で二人を制する。

「この泉の水脈何かおかしい!それに・・・何か来ますっ!!」

 

 

 その叫びと同時だった。水面の遥か上が明るく輝いたかと思うと、そこからふたつの人影が

形を成していった。

 

 

「精霊・・・かっ!!」

 激高するオグマ。その透明感のある気配、美しい女性の姿を取っている事、その身に感じる

プレッシャー、それはかつて彼の集落で会った”輝きのシア”の気配と同じものだった。

しかもそれが・・・2体!

 

「察しがいいっていうのもイイ事じゃないわよねぇ、ねぇ”落ちのイタ”。」

 全身を金色に輝かせた、妖艶な精霊が面白そうにこちらを見ながらそうこぼす。

 

「ええ・・・残念ですが、あなた方には消えて頂きます。お願い、”轟きのニカ”。」

 水色の髪の毛をたなびかせた、人魚のようなイメージの精霊が、相方にそう返す。

 

 オグマがナタルコンを抜き、リヴィアスがコーンランスを構え、頭上の二人を睨み上げる。

ミールは信じられない、といった表情で精霊を見上げ、そして呟く。

「あの結界・・・この水も精霊の、天界の意思だと言うの?だったら・・・」

 

 金色の精霊が天に手をかざす。

同時に彼女の頭上が、皆の上空が、たちまち黒い雲に覆われる。

 

天候呪文(ラナリオン)!?」

 リヴィアスが驚きの声を出す、師匠から学んで知っていた天気を操作する魔法!

『いかん!飛べ二人とも、奴に先手を打たせるなっ!!』

 ナタルコンの絶叫と共に、オグマは彼を鞘に納めて光の闘気を全開にする。リヴィアスも

即座に魔法の詠唱を心で唱え、コーンランスを構えて動く!

 

「ガラァァァッ!」

飛翔呪文(トベルーラ)っ!」

 2人が飛ぶ、金色の精霊に向かって、次のアクションを起こす前に先手の一撃を加えんと。

 

 だが、遅かった。

 

 その精霊は、手を下に勢いよくかざすと、勝ち誇った表情でこう叫んだ。

 

 -超電撃呪文(ギガデイン)!!-

 

 




登場人物解説

・ミール

【挿絵表示】

 魔族と水竜(アクアドラゴン)合成獣(キメラ)。222歳(魔族)と21歳相当(水竜)、女性。
人間の年齢で20歳前後。
サルトバーン領主ケートスの娘。父の影響で魔法や学問に通じ、また美しい容姿ながら
心優しい性格を持つ、通称”サルトバーンのマドンナ”。
 父の研究に身を捧げ、水竜と合成される際にかけられた未知現象呪文(パルプンテ)によって、
時間が経つ度に若返っていくという呪われた体となる。
 その若返り方が水竜の年齢に引っ張られているため、20年ほどで赤子に、そして胎児の状態に
戻り一生を終えることが確定している。
 また、水竜の力を使っても若返ってしまうため、使う程に寿命を縮めることとなる。
ずっと父の元でいたが、死ぬまでに少しでも世界を見せてやりたいという父の思いを受け、
地上を目指すオグマ達の仲間になった。
 水を操る様々な能力を備えており、水質を調べる事や水脈の流れを知る事、また体内の
水分を様々な形で吐き出して利用することも出来る。

得意呪文:回復系の呪文一通り、氷系呪文(ヒャド)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。