「(いけないっ!)」
ミールは直感的に判断する、あの雲が雷雲である事、そしてそこから繰り出される呪文が
極めて危険な、そして防御困難なものである事を!
「
-カラアッ、シャアァァァバリバリバリバリィィン・・・ッ!-
「グオォォォォォォッ!!」
「ぐあぁぁぁぁっ!!!」
天から10にも及ぶ稲妻が直下に降り注ぎ、そのうちの一つがオグマを、別の一つがリヴィアスを
串刺しに貫いていく。他の稲妻も湖に突き刺さり、そこから激しく水面と水中を駆け巡る電撃。
精霊”轟きのニカ”が放った
そしてそのまま煙を引きながら落下し、水面に激突する二人。
-ドッボオォォォ・・・ン-
二つの水柱を上げ、水中に消えて行くオグマとリヴィアス。
2人の精霊のうちの1人はそれを見下ろし、無事に使命を遂行できたと安堵の表情を見せる。
「・・・良かった。これでこの水の秘密が守られます。」
だが、もうひとりの精霊、金色に輝く体を持つ雷撃を放った女は、相方のその言葉に
否定的な表情でこう返す。
「まだまだだよイタ!あの女魔族は水の中に潜ってた。まぁ人熊と人間同様死んだと思うけど
念には念を入れないと、ねぇ!!」
水は電撃を通す、ならばあの魔族の女が水中に逃げたとしても結局は電撃を受けたはずだ。
直撃を喰らった二人よりダメージは少ないかも知れないが、どちらにせよ無事に済んでいる
はずは無い。なにしろこの呪文は、あの
だが”轟きのニカ”と呼ばれる金色の精霊は油断しなかった。彼女の使命はイタの成す
計画を阻止する可能性のある者を排除する事、天命である”魔界を閉じる”のを邪魔する
者の完全なる排除なのだから。
「
-ドッガァアッアァァァバリバリバリバリィィン・・・ッ!バチバチバチッ!!-
今度はすべての稲妻が水面に突き刺さる。水中を縦横無尽に電気が走り、その光が
まるで泉を巨大な逆さの山のように浮かび上がらせる。
駆け巡る電撃が収まった時、泉はうっすらと水蒸気を上げる、そして訪れる静寂。
その様に、もはやこの泉の中で生存している生物など皆無である事が容易に想像できた。
「ま、これで問題無しだろ。」
「もう、ニカはいつもやりすぎです、ここまでする必要があるのですか?」
人魚のような風貌を備えた精霊”落ちのイタ”が呆れたようにそう返す。
「いいじゃねぇか、どうせこの泉には生き物なんて居ないんだし、アイツ等さえ始末
できてりゃ。」
「でも・・・あの中に人間がいました。」
「しゃーねぇだろ!お前の秘密に気づいた可能性がある以上始末しねーと!」
精霊と言う立場上、なるべく人間に危害を加えたくないのは事実だ。だが、先程の槍を抱えた
人間は明らかに秘密を知った魔族や人熊の側であり、なおかつニカに槍を向けて攻撃しようと
したのだから。
「仕方ありませんね、ここに居てもしょうがないし、戻りましょう。」
「だな、浮かんでこねぇし、もう心配ないだろ。」
そう顔を見合わせて頷き合い、瞬時に光となって舞い上がる、天の大地に突き刺さって消える
ふたりの精霊。
後には静かにゆらめく泉と、誰もいない湖畔の静かな風景だけが残されていた。
◇ ◇ ◇
夢を見ていた。
いつもの悪夢。
背中で肉塊に成り果てた、まだハイハイも出来なかった幼い妹。
その妹を背負ったまま、空中で誰かと対峙している。
赤い肉体を持つ、人鬼のような風貌、背には蝙蝠のような翼。
額には青い、まるで竜の顔のような模様、手には幅広の刀。
その鬼が、ゆっくりと手を天から地に振り下ろす。
軽蔑と、嫌悪と、蔑みの目で自分を見下しながら、こう言い放つ。
-ギガデイン-
◇ ◇ ◇
がばぁっ!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
大汗をかいたリヴィアスがベッドから飛び起きる。悪夢と己の負傷が一致したが故の覚醒が
彼の全身を魚のように跳ね返らせていた。
「おお!起きたかリヴィアス。」
「よかった、ご無事で・・・」
『このようなところで死ぬ訳にはいかぬよな、我もお前も成すべき復讐がある故に、な。』
ベッドの傍ら、オグマとミールが安堵の表情でそう声をかけ、ナタルコンが当然だ、と頷く。
「俺は・・・どうなった?いやそれより、ここは一体・・・」
そう言って周囲を見渡し、彼はその部屋に見覚えがある事に気が付く。
「あれ・・・この部屋って、もしかして師匠の!?」
と、後ろからリヴィアスの頭をわしっ!と掴む大きな手。
「正解じゃと褒めてやりたいが、不甲斐ない限りじゃのうリヴィアス!この娘がいなかったら
今頃お前は死んでおったぞ!」
「師匠!」
彼の後ろにいたのはこの小屋の主、魔道鬼ロズテナーだ。口髭を生やした老人の顔ながら
その肉体は筋骨隆々にして張りツヤがあり、傍目にはとても魔導士には見えないだろう。
知と体を備えた強靭な老魔族、一言でいえばそんな雰囲気を醸し出す魔道鬼。
「って、一体どういう・・・師匠の家は水没してたんじゃ?それに俺は電撃を食らって泉に
落ちたはず、一体何がどうなって・・・?」
頭にハテナマークを浮かべたままきょろきょろと周囲を見回すリヴィアス。
気絶して起きたら状況が一変している、混乱するなと言うのが無理な話だろう。
「師匠、今まで一体どこに行ってたんですか!」
「何を言う、ワシは今までずっとこの小屋でおったわい。」
状況が理解できないリヴィアスに、オグマが後ろ手で小屋の窓を指差す、アレ見てみな、と。
「げっ!外が・・・水?ってことは・・・」
「魔力でこの小屋を密閉してるんだってよ、この状況で換気すらしてるそうだぜ、スゲェな
お前の師匠。」
オグマが感心しきりでそう告げる。そう、ここは水没した師匠の小屋で合っている。
彼は水が来た時からこの小屋を空気で密閉し、水中に沈んだままその中で暮らしていたのだ。
「この水は何か嫌な予感がしてのう、あえて逃げずに色々調べとったのじゃよ。」
ロズテナーが皆にそう話す。それを聞いたミールは静かに頷き、さすがです、という
表情をする。
「というか、俺を助けてくれたのはミール、なのか?一体どうやって・・・」
その質問に対し、ミールはあの時の事を話し始めた。
「(いけないっ!)」
咄嗟に水に潜るミール。あの上空から降ってくるのは、間違いなく雷撃の呪文!
もし受ければ無事には済まない。あれを今の私が防ぐには・・・
-
それを自らの周りにカプセルのように展開する。
-バリバリバリィッ-
電撃が水中を駆け巡る。そう、水は電気を通すのだ。正確には水に溶け込んでいる
数々の”不純物”が電導粒子となり、水とそこに居る生物に電撃を届かせるのである。
だからミールはこの呪文を使った。純水なら電撃は通らない、彼女はそのバリアで
そのまま水中に潜っていった。
2発目を察知したミールは、湖底の小さな亀裂に2人を押し込み、自分もそこに入って
再び
これで攻撃は凌げるであろうが、ミールにとってはここからが問題だった。
あの精霊たちが撤退したとは限らない、だが早く何とかしないとオグマとリヴィアスが
溺死してしまう、一刻も早く空気のある所に移動し、彼らを手当てしなければいけない。
荒れ狂う雷を凌いだ彼女は意外なものを見る、それは正面の水没した小屋の窓から顔を出し、
こちらにオイデオイデをしている魔族の老人、ロズテナーの姿だった。
渡りに船とはまさにこのことである、一も二も無く小屋に向かった彼女たちは、こうして
ロズテナーに保護されたのである。
「そうか、凄いなミールは。あの電撃をも防ぐとは・・・。」
感心するリヴィアス。聞けば彼女は体内の水分すら自在に操り、霧水を吐いて火炎を消火したり
飲み水すら口から出せるそうだ・・・絵面を考えたらちょっと飲みたくはないが。
「で、オグマのほうは大丈夫なのか?俺よりずっとピンピンしてるみたいだが。」
同じ
深刻ではなさそうだった。種族の違いか?と問うリヴィアスに、オグマは「コレ見なよ。」と
台の上にある物を示した。
そこにあったのは彼の装備、
本体の丸太は爆ぜて薪のように割れており、中央にあったヘルメットも外れ、別に置かれている。
「そのヘルメットの中心についている宝玉、それが”黒魔晶”だ。」
師匠の言葉にリヴィアスはげっ!と驚く。黒魔晶といえば魔力を無尽蔵に吸収する魔石、
加工すればあの超爆弾”黒の
その宝玉をコンコンと叩きながらロズテナーは続ける。この宝玉は魔法そのものを吸収し、
そして保存したり再利用出来るようになっている、見ろ、と言ってオグマに目配せする。
それに応えてオグマは竜の牙の手甲を取り出し、その先端を左右から宝玉に当てる。
と、バチッ!と電撃が走ったかと思うと、オグマの両手の手甲の先にプラズマが唸りを上げて
走り続ける。
「電撃呪文を・・・取り込んで、取り出して使えるのか!」
「ああ、ロズテナーさんの言うにはこの宝玉、
「
吸い取ってくれたのです、さすがドガ氏のお勧めですね。」
オグマに続いてのミールの説明に、へぇ、と素直に感心する。あの奇天烈に見えた武器だが
ちゃんとオグマの為になってるじゃないか、とナタルコンを見る。
『
「それってさらっと自分をホメてないか?」
リヴィアスの容赦ないツッコミにうぐ、と言葉を詰まらせるナタルコン。そんな様を見て
思わず笑う一同。
笑顔が呼ぶのは希望、そして行動。さぁ、ここから反撃開始だ!