魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第23話 再戦(リターンマッチ)

 -ブヴンッ-

 

「あれ・・・また?」

「まーたあそこかよ、外れの山のはずなんだけどなぁ・・・」

 転送呪文が発動し、天界から再び魔界に召喚される精霊、天の8行”落ちのイタ”と

”轟きのニカ”がそうぼやく。

 彼女らの使命は魔界を閉じる為の水脈の操作と、それを魔界の住人に悟らせないために

要所となる水路にスイッチとなる結界を仕込み、それに触れた何者かを排除すること。

 今回召喚されたのは前回と同じ山中、人気のない場所で立て続けに水中のそれに触れた者が

いたことに対しても、彼女たちは偶然以外の理由を見いだせないでいた。

 

 -シュウゥゥゥ-

 

 転送呪文(コルセルーラ)で泉の上空に辿り着いた二人は、湖畔のほとりに立つ二つの影に目をやる。

自分たちを見上げながら、手に刺突槍(コーンランス)と短剣を構え、ギンギンの敵意を自分たちに

向けている二人の戦士を。

人熊(ウォーベア)と、人間?あの組み合わせって・・・よくあるのかしら。」

そのイタの言葉に、ニカはがくっ、と体を崩す。

「ンなわけねーだろ!あいつら前にあたしが仕留めたと思ってた・・・っていうかあいつら生きて

いやがったのか!!」

 つい先日、この場所に召喚された彼女たちが相対した二人。ニカの超電撃呪文(ギガデイン)によって

撃ち落し、念入りに落下した泉にまで雷撃を落として仕留めたはずなのに、まさか

生きていたとは!

 

「精霊達よ、聞きたいことがある!」

そう叫んだのは下にいる人間だった。彼は二人を見上げながら続ける。

「お前たちの目的はなんだ!水脈を操って何をするつもりだ、答えろっ!!」

 その言葉にびくっ、と反応したニカとイタ。が、その直後の反応は両者真逆だった。

ニカは問答無用と言わんばかりに手を上にかざし雷雲を呼ぼうとするが、イタは「待って!」と

その手を抑えて攻撃を止める。

「相手は人間よ!しかも話をするつもり・・・攻撃はいけない!」

「正気かよイタ!奴らは水脈を疑ってる、ほっといたらヤバいのはわかるだろ!」

 

 精霊、神の生み出した使徒。彼女たちは神の命に従い、その任務を遂行する者たち。

そんな彼女たちには、命令の外でも常に神の意向に従うことが必要とされていた。

 神々が恐れる事態の一つ。それは天界、地上、魔界の三世界のうち、地上と魔界の勢力が

結託して天界に反旗を翻す事だった。

 なればこそ神々は非力で脆弱な人間にこそ豊穣の地上を与えたのだ。その神の恩恵を

様々な形で伝え、信仰という形で天界の神々は正義、魔界の魔物は悪、という意識を

刷り込んできた。

 

 だが近年はそれが覆されつつあった。まず地上の住人である人間が魔法や闘気、武器などで

神や魔族に対抗し得る力を付けてきていた事。加えて魔界の住人も地上に上がる者が出始め、

あろうことか人間と親密な関係になるものまで現れていた。

 

 逆に魔王ハドラーを名乗る魔族や魔界の支配者ヴェルザーの地上侵行など、魔界の勢力が

地上を我が物にせんと台頭してきていた事。もしそれが成れば地上と魔界が同一勢力となり

天界を脅かすに十分な脅威となる。

 幸いそれらは(ドラゴン)の騎士や地上の勇者によって食い止められた。だがその結果、

魔界の勢力だった邪悪なモンスターが毒気を抜かれ、地上に適応し安住する者まで出始めた。

ことここに至って、魔界と地上の線引きが薄くなってきていたのだ。

 

 もし地上の人間達が天界を危険な存在と認識したら最悪である、それを避けるためにも

神々は出来るだけ人間に対する信頼を保とうとしていた。

「もしまたあの人間を倒し損ねて、彼が人間界に行ってこの事を告げ広めたら・・・」

「ぐっ・・・」

 どんな小さな種火でも広がれば火災となる、ここでも彼女たちの判断の誤りが、神々にとって

最悪の結末を迎える可能性は否定できない。

 

「だがどうすんだよ!まさかあたしたちの目的を話せってのか!?それこそ最悪だぞ!」

 彼女たち”天の8行”の使命、それはこの魔界を閉じる事。その事業のまさに中心にいるのが

この2人の精霊なのだ、間違っても魔界の者にそれを知られるわけにはいかない!

「なぁに、任せとけって。今度こそきっちり仕留めてやるよ!」

そう言って手を天にかざし雷雲を呼ぶニカ。

 

「オグマ!」

「おうっ!!」

 リヴィアスの声に応え、オグマは手にした短剣を上空に投げ飛ばす。手裏剣のように

回転しながら飛ぶその短剣は、上空に居るニカとイタの間をかすめて空に舞い上がる。

「はっずれーっ!」

 ニカがそう挑発し、今度はこっちの番とばかりに雷を落とそうとした時、彼女たちの真上で声。

『外してはおらぬよ。』

「え!?」

「なっ!!」

 

 そこにいたのは、暗黒闘気を燃え上がらせながら、剣の鍔についた翼で空中に静止している

魔剣ナタルコンであった。すでにオグマの光の闘気と己の暗黒闘気を相互干渉で高め合っており

戦闘準備は万端に整っている。

 

真空乱流(バギストーム)!!』

 -ぶわあぁぁぁぁっ!!-

 ナタルコンが起こした烈風が荒れ狂い、雷雲を片っ端から蹴散らしていく。

 

「くっ・・・させるかよっ!」

 ニカがそう叫び、まだ残る雷雲から雷をかき集める。最強呪文とはいかないが、これだけあれば

あの人間だけでも仕留められる!

電撃呪文(ライデイン)っ!」

 

 -カカァッ!-

 稲妻が走り、直下の人間リヴィアスを目掛ける。が、その前に人熊(ウォーベア)オグマが立ちはだかり、

その稲妻が彼に直撃・・・せず、その兜の宝玉に吸い込まれて、消えた。

「吸い込んだ・・・だと!?」

「あれは・・・黒魔晶!」

 驚き固まるニカとイタ。だが我に返るのを待ってやるほど魔界の戦士はお人好しではない、

戦いの賽を投げて来たのは精霊の方なのだから!

 

「グウゥルアァァァッ!」

 オグマは一吠えすると、光の闘気を纏って一気に飛び上がる。そしてその最中に両手の

竜の牙の手甲を兜の宝玉にあてがい、先程喰らったライデインの雷を取り出す。

両手の竜の牙の先から放電し、バチバチッ!とプラスマが両手の間に広がる。

 ジャンプの頂点に達した時、彼は精霊と同じ高度にいた。だがこのままなら彼はそのまま

何もできずに落下するだけだ。

 だが、その背後には飛翔呪文(トベルーラ)でついて来ていたリヴィアスが隠れていた。

彼は背中からオグマにタックルし、そのまま彼ごと精霊に突撃していく。

 

「ひっ!?」

 事態の深刻さに気付いてももう遅い。オグマはそのまま両手のプラズマを前にかかげ、

精霊”轟きのニカ”に挟み込むようにぶち当てる。

「返すぞ、雷龍の顎(ボリクスバイツ)!!」

 

 -パリパリパリ・・・っ!-

「あ"あ"あ"あ"・・・っ」

 雷撃を使う精霊が、電撃を返されて体を焼き悲鳴を上げる。そして意識を失ったのか

そのまま下の泉に落下していく。

「ニカ!」

「動くな!!」

驚くイタの眼前にコーンランスを突きつけて動きを止めるリヴィアス。

 

 オグマはというと、飛んできたナタルコンに捕まってゆっくりと湖畔に降りて行っていた。

ナタルコンに新たな羽根があるとはいえ、流石にオグマごと飛ばすほどの飛行能力はないが、

パラシュートのようにゆっくり降下させる程度の事は出来た。

「流石だ、ナタルコンやロズテナーさんの言ったとおりだった。」

 

 オグマは精霊との再戦における作戦会議で、その頭の宝玉をどう使うか思案していた。

が、ナタルコンやリヴィアスの師匠ロズテナーはあっけらかんと、相手の電撃を使えば

いいだろう、と返していた。

「電撃を使うという事は、電撃を恐れているという事じゃよ、若いの。」

ロズテナーの言葉にナタルコンもうむ、と同意する。そう、己にとって脅威の力こそ、

敵を倒すに信頼出来る武器となるものだ。結果、この電撃返しで見事に雷の精霊を仕留める事に

成功したのだ。

 

 落水したニカを、水中にいたミールが抱え上げ、湖畔まで運ぶ。

 リヴィアスに槍を突きつけられたイタは成す術なく、指示通り下に降りる。

そして合流、意識こそあるものの目を回しているニカと、こうべを垂れて地面に降り立つ

イタを取り囲むオグマ、リヴィアス、ミール、ロズテナー。

 

 と、イタがその手を泉の水に浸ける。そして俯いたまま、こう唱える。

降恵(あめ)。」

その瞬間だった、泉の水が瞬時に盛り上がり、上空に舞い上がると、間髪入れずに水のつぶてが

一同に瞬時に襲いかかった。

「グゥッ!?」

「これは・・・雨か?」

「水を操る能力・・・あの精霊も?」

 

 豪雨は5秒ほどで収まった。だがずぶ濡れになった一同の輪の中に、すでに二人の精霊は

居なかった。雨のスキにイタはニカを抱え、はるか上空に飛び上がっていたのだ。

「貴方達は・・・危険な存在です。きっと神々の制裁が下るでしょう。」

「覚えてろー!この借りは倍にして返すからなーっ!!」

 

 捨て台詞を吐いて上空に消えて行く精霊たち。それを見上げるオグマ達は焦ることなく、

ふぅと息を吐いてミールに向き直る。

「じゃあ、また頼むよ。」

「はいっ!」

 リヴィアスの言葉に笑って頷き、すぃっと水に入るミール。その見事な泳ぎであっという間に

この水脈の湧口の壁に取り付き、そこにある結界をちょん!とつつく。

 

 -シュウゥゥゥ-

 

 数瞬の後、天界に帰ったはずのニカとイタが、転送呪文(コルセルーラ)で再度この場に召喚された。

2人とも「え?あれ?」と目を丸くして愕然とした表情で固まっている。その目の前に

オグマを連れたリヴィアスが飛翔呪文で飛んで来て、呆れたまなこでこう告げ(ハモ)る。

 

「「お前ら・・・バカだろ。」」

 

 




雷龍の顎(ボリクスバイツ)は特大のスタンガンみたいなもんだと思ってくだせぇ。
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