「へん、煮るなり焼くなり好きにしやがれ!魔界の野蛮人ども!」
「いきなり
正座して俯いている落ちのイタと対照的に、轟きのニカはふてぶてしくもあぐらをかいて
悪態をついては鋭いツッコミを喰らい、ぐぅの音も出ない。
湖のほとり、観念して座り込む精霊2人を囲むオグマ達。
得意の雷撃呪文はナタルコンの真空呪文で雷雲を封じられ、逃げようとしても水脈の出口に
配置されている結界の召喚スイッチによって呼び戻されてしまう、またイタの能力に殺傷力が
無いとくれば、彼女たちも観念するしかない。
「にしても、なんとも間抜けな話だな・・・こうも簡単に手詰まりになるとは。」
そう言って首をかしげるオグマ。かつて相対した”輝きのシア”のあの圧倒的な存在感に
比べて、今ここにいる二人の呆気なさにそう思わざるを得ない。
『精霊など所詮この程度、神の意志が絶対と思い込むだけの傀儡なればな。』
「神の意向に従っていれば全て上手くいくという思い込みの塊じゃからのう。」
長き時を生きて来た短剣ナタルコンと、老魔族のロズテナーがしみじみと、かつ容赦なく
指摘する。
「大きな力を得たようじゃが、それだけで全て思い通りに行くなどありえぬのじゃ。力を理解し
正しく使い、かつ最悪の事態まで想定し覚悟しておくことが肝心なのじゃ。」
『良い事を言う、オグマもよく心得ておけよ。』
うむ、と感慨深く頷くオグマ。自分もあの時以来ナタルコンという歴戦の魔剣と、彼によって
光の闘気という強力な力を得、今までの自分からは考えられない程のレベルアップを果たした。
だが、それに溺れているようでは、明日には自分も目の前の彼女らのような運命を辿るだろう、
ポンと与えられた力に頼って、己が強くなったと錯覚するなど愚の骨頂でしかない、だからこそ
父ダルタレクも”己を鍛えよ”と常に教え、また自分にも戒めて来たのだろう。
「さて、それでは本題に入りましょう。」
そう言って精霊の前に進み、片膝をついて目線を合わせるミール。かつてサルトバーンの
顔として民衆の信頼を集めていたその凛とした表情に、精霊2人はうっ、と目線を泳がせる。
「あなた方は水脈を乱し、何を成そうとしていたのですか?それは神の意志なのですか?」
静かに、しかし厳しい響きを込めて問い詰めるミール。
「へん!話すわけねーだろ。神の意志はお前らなんかに・・・」
-ぱしっ!-
悪態をつきかけたニカの頬をひっぱたくミール。隣のイタが「ひっ!」と縮こまり、硬直する。
「仮にもロズテナー氏の家を水没させておいて、その言い草は何ですか!」
叱りつけるミールを呆然とした目で見返すニカ。彼女にとってビンタを食らうのも説教されるのも
初めての経験である。
「オグマとリヴィアスに攻撃をしたのは構いません。彼らは戦士であり、あれは戦いでした。
ですが無害な老人の平穏な生活を奪うことが、神の使徒としての使命と言うのですか?」
容赦ない正論にしゅん、と黙り込むニカ。と、隣のイタがぼそりとこう発した。
「たかが一人や二人のことで・・・私たち神の使いに、何を偉そうに。」
その彼女の言葉に、一同は顔を見合わせてふむ、と頷き合う。
「なるほど、お前たちのやっている事は一人や二人ではなく、大勢の者を巻き込む
災厄というわけか。」
リヴィアスの指摘にびくっ、と肩を上げるイタ。実はこの話の切り出し方はミールの案で、
彼女らの反応から真実に近づこうという尋問なのだが、早速ヒットしたようだ。
「・・・これ以上、何も話すことはありません。」
そう言ってヒザ立て座りに移行し、顔を膝に埋めて黙り込む意思を示すイタ。それを見て
一同はオグマにターンを渡す。
「魔界を閉じる、か。」
がばぁっ!と顔を上げ、座ったまま一歩後ずさりするニカとイタ。何故、どうしてただの
「”輝きのシア”がそんな事を言っていた。俺の天寿が”魔界が閉じるその時まで”だとな。」
金色のニカと水色のイタが顔面を蒼白にして固まっていた。あうあう、と口を動かそうとして
それもままならない、実に分かりやすい反応だ。
「まさか、魔界を水没させるつもり・・・か?」
そう発したのはリヴィアスだ。だがその言葉に精霊たちはむしろ安心したように、ふぅと
息を吐くと、各々質問に答えた。
「ははっ、ンなワケ無いだろ、バッカじゃねぇの?」
「水はこの星の貴重な存在、それを魔界を埋めるのに使うなんて、神はそんな愚行はしない。」
その反応に、見えない所でミールがふふっ、と笑う。こちらの言動に対する反応が実に正直で、
それが彼女らの秘密のベールをひとつひとつ剥いでいる事に気付いていない。
とりあえず魔界水没説はナシのようですね、と。
「ふむ、精霊さん達よ、主らは地震という現象をご存知かの?」
次の質問者はロズテナーだ。いきなりの話題転換に顔を見合わせてハテナマークを頭上に
漂わせる。
「地が揺れる現象じゃよ。火山のマグマや大地そのものの動きが主な要因じゃが・・・」
未だに話が繋がらないという顔で聞く精霊たちに、ロズテナーは確信に迫る一言を発する。
「地底の水脈の流れによって、上の大地が動くことも往々にしてあるそうじゃ。」
今度は顔を真っ青にして、冷や汗をだらだら流して震える精霊2人。精霊って汗をかくんだ、と
頷き合って感心するオグマとリヴィアス。
『魔界を”閉じる”か。本のように閉じるとなれは・・・表紙はさしずめ、あの”天の大地”か。』
そのナタルコンの言葉に、全員が一斉に天を見上げる。そのあまりに壮大な、そして残忍極まる
所業に言葉を失う。あの天の大地で・・・魔界を、生き埋めにする・・・!?
-水脈を操作して天の大地、つまり地上を陥没させ、この魔界を埋める-
だが仮定としてはこれで全てが繋がった。それが神々の意思だとすれば、神は魔界を不要の
世界として埋めて消し去るつもりなのだ、そこにいる生物全てと共に!
どうりで精霊たちが容赦なく魔界の者を殺しにかかるわけだ。あのシアの石化といい、
”満欠のネル”の使徒といい、まるで魔界の住人をどう扱っても自由だと言わんばかりの
その所業は、埋めてしまうならどうしようと構わない、とでも言わんばかりだ。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!!」
ニカが突然絶叫し、天に手をかざして雷雲を呼び始めた、まるで狂ったかのように!
『
すかさず天にかざしたナタルコンが竜巻を呼び、雷雲を残らず蹴散らす。次の瞬間には
ロズテナーが老人らしからぬ俊敏な動きでニカの首根っこを押さえ、地に叩き伏せる。
同時に泉に飛び込み、人魚のような体を生かして一目散に対岸に向かうイタ。だがその横を
それ以上の泳力で追い越し、前に立ちはだかる水竜の
「どいてえぇぇぇっ!!」
「
パニック状態でミールに迫ったイタは、その目の前で動きを止められる、
周囲の水ごと固められ、抵抗すらままならなくなる。
イタは岸部まで連れ込まれ、ニカと共にロズテナーの”魔力の束縛”で縛られる。
その周囲でオグマ達が、まさかの神々の所業に憤慨し吐き捨てる。
「ふざ・・・けるなっ!俺達を、魔界の皆を・・・何だと思っている!!」
「・・・呆れ果てたよ。幼いころは神々に祈ったりしてたもんだがな、笑いも出ないぜ。」
『堂々と宣戦布告すればいいものを・・・こそこそと魔界を滅ぼそうとは、やはり
神々とは相容れぬ!』
オグマが、リヴィアスが、そしてナタルコンが憤る。そんな中ミールは精霊の前に進み、静かに
こう問いただす。
「何故です?どうして神々はこのような所業を・・・」
「仕方・・・ないんだ。」
ニカがぼそりとそうこぼす。生気のない顔を上げ、一同と目を合わせる、魔界の住人たちと。
やがて堰を切ったように吐き出すニカ。
「あんたら・・・強くなりすぎたんだよっ!ヴェルザー・・・バーン・・・この魔界をほっといたら
そのうちあいつら以上の奴が出てきて・・・みんな滅ぼしちまうだろうがっ!!!」
その絶叫に静まる一同。しばしの沈黙の後イタが静かに続く。
「この・・・”力こそ正義”の魔界は、次から次へと強者を生む。力があれば欲を呼ぶ。欲を持てば
必ず魔界だけでは飽き足らず、地上や天界すら欲するようになる・・・。」
「そんな・・・不確定な理由で?」
「・・・今までは、それらを神々の代行者”
悪を制裁出来ない程になってしまった。だから、もう、この魔界は・・・要らない。」
そこまで言ったイタの胸倉を、オグマがひっつかんで目の前に引きつける。
「ふざけるなっ!なぜ我々が悪だと決めつける、勝手なことを言うな!!」
怒鳴りつけるオグマ。その顔を正面から見返し、まるで反発するように叫び返すイタ。
「大魔王バーンは・・・地上を消し去ろうとしたのです!これが悪でなくて何ですかっ!!」
-ズゥゥ・・・ン-
突然の地響き、それは確かにサルトバーンの方角から届いた。
”魔力の束縛”はザボエラが超魔ハドラーを封じたアレ。