「ぬおぉぉぉぉぉぉおおおおお!」
老魔導鬼ロズテナーが独自の呪文”
巨大化と言っても己の運動能力そのままに拡大するわけでは無い、大きくなった分質量は
当然のように増し、それは即、肉や骨や皮の細胞に負担となって帰ってくる。
それをカバーすべく、彼はこの呪文を発動する時には同時に
体を浮かし、わずかでも重力の戒めから逃れ、大きくなったその体で少しでも動けるように。
だがそれでも十全に動けるわけもない、大きくなるサイズにもよるが、目の前の
怪物サイズになればせいぜい歩くのがやっとの事だろう。
だが、やはり大きくなるという事は敵にとって脅威だ。特にこの怪物、エイの頭に
ドラゴンの首と4足恐竜のような巨体のモンスターにとって、己と同等の体格の出現など
本能でも予想していなかっただろう。思わず足を止め、そして威嚇する。
「エイエエエエイエエエエェェェ・・・」
「さぁあ、こぉぉぉいぃぃっ・・・」
死力を振り絞って両腕を斜め上に掲げ、威嚇を返すロズテナー、その動作だけでもう
いっぱいいっぱいだ。もし相手が臆さずに攻撃をして来たらひとたまりもない、だが彼の狙いは
戦いではなく相手の気を引く事、その間に周囲にいる者たちを避難させ、被害を最小限に
食い止めるのが目的だ。
「みんな今だ、今のうちに弱い者を郊外へ避難させるんだ!!」
「戦士は女子供を守れ!回復呪文を使える者は負傷者の救助を-」
「頑張れーーーっ!じーさんっ!」
「頼むぞ、持ち堪えてくれーーー!」
そんな彼の頑張りに応えるように、弟子リヴィアスとその仲間たちが皆を誘導し、
この化け物の被害を最小限に食い止めようとしてくれている。
「(よしよし、いいぞ皆。わしももうひと頑張りせんとのう!)」
魔導鬼ロズテナー。
彼には才能があった。若き頃から数々の呪文を使いこなし、この魔界で少しは名の知れた
魔法使いととなった。やがてその才を魔界の実力者、冥竜王ヴェルザーに買われ、
彼の元でその魔力を振るい続けた。
だが、ヴェルザーは結局、自分を含む魔族の部下を重宝しなかった。彼には同じ
竜の一族がおり、竜族の復権にこそ力を注ぐ傾向があったのだ。
彼が”最後の知恵ある竜”と呼ばれ、竜族の野生化と知能の低下を案じていた存在ならば
それは仕方のない事なのかもしれない。
ロズテナーはついにヴェルザーの元を離れ、自ら魔法の研究に乗り出すこととなる。
魔族の中でも魔導鬼という種族は比較的寿命が短い、その知識と探求心がゆえに短命を呼ぶ様は
芸術家や音楽家が才能を使い果たし、若くして命を落とすのにどこか似ていた。
彼もまた、自分の命尽きる前にと様々な魔法の研究に没頭する。その過程で彼は
自らの肉体に魔法力を乗せることでその体を大型化する方法を見出していた。
だが、その研究は成功しなかった、大型化した肉体に膂力や細胞が負けてしまうのだ。
もし余りある魔力があれば肉体を巨大化させるとともに強化や変身も併用し、無敵の巨人に
成る事も可能だ。だが彼はもちろん魔界中を探してもそんな魔力を持つ者などおそらく居ないだろう。
・・・あの大魔王バーンならあるいは分からぬが。
それでも彼は諦めなかった。自らの肉体を鍛え、
巨大化呪文を生かそうと模索した。
だが、気が付いたら老いていた。彼は結局生涯をこの呪文に捧げ、そして自分以外誰も使えない
この”作品”を抱えて寿命を待つしかなくなってしまっていた。そう、そのハズだった。
-まさかワシの
「エェェェェェイイイイィィィ・・・」
「ふうぅぅぅぅぅぅぅ・・・っ!」
巨獣と巨人が威嚇を交わす。もう少し、もう少しで良いからワシに臆しておれ、エイの怪物よ!
だがその願い空しく、その化け物は息を吸込み、同時に喉の奥で呪文を唱え始める。
「(くっ・・・)」
エイが口を開け、そこから閃熱のエネルギーがあふれ出す・・・ここまでか!
「
-がっしいぃぃぃぃん!!!-
瞬間、エイの口が上下から強烈に叩きつけられ、半ば無理矢理に閉じられた!
上から飛んできたリヴィアスがコーンランスを横にしてその上に乗っかり、エイの鼻っ面を
下に叩きつける。
同時に下からナタルコンの
込めたもろ手突きでエイの下あごを撃ち上げる。
「
呪文を吐く直前に口を閉じられたエイ、口の中で暴発した呪文が、目から鼻から耳から
閃熱エネルギーが洩れ飛び、のたうつエイの頭。
「師匠、呪文解除を!」
「ロズテナーさん、もういい、無理するな!」
2人の気遣いはロズテナーにとって嬉しくもあったが、彼はそれを受け入れない、
心中こう返す。
「(そう言う訳にはいかんのだよ、若いの。)」
ひるんだ怪物に一歩間を詰め、かかげた両手を体ごと打ち下ろしていく。
「(これはワシの晴れ舞台じゃ、行くぞ化け物!!)」
そのまま怪物に体ごとダイブする巨人ロズテナー。アクションとしてはしれたものだが
そのサイズがゆえに必殺のボディプレスと化し、怪物にしなだれかかっていく。
-どどどどおどどどどどどぉぉぉ・・・ん-
砂ぼこりと轟音を撒き散らしながら倒れる巨人と巨獣。
「師匠!」
指示する。
『煙を払え!』
よし、と闘気を消し、キン!とナタルコンを抜いて砂塵に向ける。
砂煙を払い、既に元の大きさに戻った老魔族の姿をあらわにする。すかさず彼をかっさらって
オグマ達に合流するリヴィアス。
「どうじゃ・・・皆は、避難できたか・・・?」
苦しそうにそう告げるロズテナーに、リヴィアスもオグマも親指をぐっ!と立てて笑顔を見せる。
『朽ちぬ魂、見事なり!』
ナタルコンの絶賛の言葉を最後に、彼は意識を失う。自分の生涯をかけた呪文が晴れ舞台を得た
その幸福を噛みしめながら。
リヴィアスはトベルーラで皆が非難している場所に師匠を届け、とんぼ帰りで戻って来た。
今ここにいるのはオグマとナタルコン、そして数名の屈強な町の戦士たち。
「さぁ、負けられなくなったな、リヴィアス!」
「応!これで負けたら師匠に申し開きが出来んからなっ!!」
ゆっくりとエイの鎌首をもたげる怪物、オグマ達を黒く光る眼で睨みつける。
来るか!と構えるオグマ達に対して、意外にも怪物はそのエイの頭を上に向け、視線を逸らす。
臆したのか?と誰もが思ったその瞬間だった。
何と怪物の巨大な横腹から、長い首から、いきなり百にも達する無数の眼が見開いた!!
「「「
その瞳が一斉にそう唱える。次の瞬間全ての目から爆裂呪文が八方に撒き散らされた。
-ドドドドドドドォドドドドドドドッドドドドドオンドドドッドドドドド-
荒れ狂う爆発。リヴィアスもオグマも他の戦士たちも、まるで木の葉のように蹴散らされ、
抵抗の術もなく吹き飛ばされる-