魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第27話 奇跡の援軍

 -ドドドド・・・-

 

「あ、あれは・・・?」

 皆が避難している郊外にて、響いてくるその轟音に目を向けるミール。その先にはあの

怪物と、その周囲で起こるおびただしい数の激しい爆発。

「な、なにあれ・・・」

「ヤバいんじゃない?」

 周囲の女子供たちもその光景に嫌な予感を隠せない、その絨毯爆撃のような光景の中心にいる

エイの頭の怪物が全く苦痛の表情を見せず、むしろ悦に入ったような佇まいでいるから

尚更である。

「オグマ・・・リヴィアス、戦士のみなさん・・・」

 ぐっ、と拳を握り、凛として遠くの怪物を睨みつけるミール。負けない、負けるわけには

いかない!勇敢に戦った戦士たちの為にも、ここにいる皆の為にも!!

 

 

『オグマ!リヴィアス、起きろっ!!』

 ナタルコンが柄の翼で浮かびながら、倒れ伏した二人を叱責する。至近距離で無数の

爆裂呪文(イオ)が炸裂したとはいえ、二人とも直撃弾は無かったはずだ、ダメージはあれど

致命傷ではあるまい!

 その声に「お、おう・・・」と答えて身を起こすオグマ。だが完全に立ち上がる前に歩き出し、

そのまま横倒しに倒れる、バランス感覚が完全にいかれているようだ。

 リヴィアスもまた、むくりと起き上がりはしたが、そのまま前のめりに倒れる。

ダメージ云々よりも、うまくバランスを取って立ち上がることが出来てない。

『アレか・・・三半規管とかいうヤツをヤられておる!』

 皮肉にも先だっての獣人の村での戦い、子供二人に憑りついた精霊を引きはがすために

リヴィアスが使った、衝撃で相手の耳から脳にダメージを与える効果が今度は2人に及んでいた。

もし今、この怪物に目を付けられて踏み潰されたら一巻の終わりだ!

 

 だが怪物はそのエイのような頭を、視線の先を別の所に向けていた。よし、幸運だったと

思ったナタルコンは次の瞬間愕然とする。

 -エエエエェェェイイィィ-

 呻きながら口に閃熱エネルギーを溜める化け物。

『馬鹿な!あれほどの爆裂呪文(イオ)を放っておいて、その直後に・・・こやつの魔法力は

無尽蔵か!?』

100発近いイオを放ったその直後に、はるか遠方に狙いを定めて閃熱呪文(ギラ)を吐こうとする

その化け物に思わず驚嘆する。そして遠距離に居る相手と言えば・・・いかんっ!

 

 閃熱呪文(ギラ)の炎が空を駆ける。一本の熱線となった呪文は、そのまま町の住民が

避難した郊外に到達する。

 -ドゴオォォォ・・・ン-

 遅れてやって来るその破壊音が衝撃のすさまじさを物語る。閃熱呪文最低ランクのギラといえど

これだけのサイズの化け物が放てば極大閃熱呪文(ベギラゴン)にも匹敵するだろう。

 

 オグマが、リヴィアスが叫ぶ、声にならない声を上げて。

貴様の相手は俺達だ、無力な住民に手を出すな、行くなら俺達を倒してからにしろ!と。

 だが、その叫びは怪物には聞こえない。既に目標(ターゲット)を大勢の者たちの集まる郊外に

向けた怪物はそのままそこへ向かって歩を進める。町を、家を、店を踏み潰し、薙ぎ倒しながら。

 

 

「ゼェッ・・・ゼェッ・・・ゼェッ・・・」

「や、ヤバかったぜ!大丈夫かいミールさん!」

 大息を付いているミールの前で、黒い戸板のようにコゲついたラージシールドを

掲げているのは、武器屋の店主ドガ・カーンだった。

 彼は怪物が出現してすぐ、大声で店の武器を自由に使え!と叫び続け、戦士たちに

装備を次々提供していった。そして店の奥の棚に秘蔵してあったラージシールド

”あらしのたて”を持って、皆が非難している所に向かった。

 彼が避難所についたまさにその時、怪物からギラが発射されたのだ。ドガはそれを持ち前の

目の良さ、炎の行方を見切る鍛冶屋の経験則から見事に合わせて見せた。

 だが、いかにラージシールドとはいえあの巨大なギラを十全には防げない。その瞬間ミールは

口からありったけの水を耐火霧水として周囲に吹き散らした。

 

 二人の奇跡ともいえる献身によって全滅と言う最悪の事態だけは避けられた。だがそれでも

溢れた閃熱エネルギーは周囲にいた幾人かを焼き、あるいは貫いていた。

 子供の泣き声、懸命に回復呪文(ホイミ)をかける女性、自らの服を破って老人に包帯を巻く亜人、

悲劇と恐怖に懸命に抗うサルトバーンの住民たち。

 

 だが彼らはほどなく絶望の光景を目にする。高々と鎌首をもたげたそのエイの目が

まっすぐに彼らを見下ろし、その巨体は真っすぐにこの場所を目指して歩いてくる。

 -ドシン!ドシン!!ドシン!!!-

 その音と振動はまるで彼らの寿命をカウントダウンしているかのようだった。

その足は彼らの家を、店を、その中に内包する彼らの生活を、容赦なく踏み潰して来る。

「くそったれ!リヴィアスは何をやってんだ!そんなんで(ドラゴン)の騎士に勝てるかよ!

ロズさんもここに居るんだぞ!」

 悪態をつくドガにミールは返す、彼らの強さと心を信じて!

「やれるだけのことはやりましょう、この周囲に井戸はありますか?」

 

 

「く・・・そっ」

 這いずりながら怪物を追うオグマ、コーンランスを杖にして辛うじて歩くリヴィアス、だが

どう見ても戦場には間に合いそうにない、間に合ってもとても戦力にはなりそうにもない。

先の精霊との戦闘もあり、闘気も魔法力もほぼ完全に使い果たしてしまっていた。

「止めろおぉぉ・・・っ。」

 力なく前のめりに倒れるリヴィアス。

「お、おのれ・・・」

這いずりながら拳を固め、無念の臍を噛むオグマ。

 

 そんな彼らに、すっ、と手が添えられた。

麻痺回復(キアリク)。」

響くのは静かな、優しい女性の声。

「・・・え?」

「あ・・・立てる、立てるぞ!」

まるで今までの体幹の狂いが嘘のように、地に足がつく。

 

 オグマとリヴィアスの傍らにいたのは、美しい魔族の女性ヘルヴィーナスだった。

彼女たちはついでにこれも、と回復呪文(ベホイミ)もオグマたちに施す。

「・・・ありがとう。だけど、君たちは?」

「私たちは領主ケートス様の使用人(メイド)です。それよりあの怪物を止めましょう。」

そう言って後ろ手を指す、そこには屈強そうな魔族が10人ほど立っていた、いつの間に?

 

「さぁ、久しぶりの大暴れた!お前ら準備はいいか?」

「お前が仕切るな!」

「熊の兄ちゃん、頭ハンマーの借りは後で返すぜ、それまでくたばるなよ!」

「アンタ人間かよ、頑張るじゃねぇか。」

「おしゃべりは後だ!みんな寄れ、行くぞっ!」

 

 その声に応えてひと固まりになる魔族たち。次の瞬間彼らは光り輝き、一筋の閃光となる。

 -瞬間移動呪文(ルーラ)っ!-

 怪物に突進していくその光の矢を呆然と見送るオグマ達。彼らは一体・・・

と、オグマは先ほどの1人のセリフを思い出していた。

 

 -熊の兄ちゃん、ハンマーの借りは後で返すぜ。-

「ああああっ!!まさか・・・いや間違いない、領主の館にいた合成獣(キメラ)の魔族!」

はっきりと思い出す、領主ケートスの館にいた数々の魔族とモンスターのキメラ、その

最初に相対して”ハンマーヘッド(どたまかなづち)”で薙ぎ倒した最初のキメラ、今のセリフを吐いた彼は、

そのキメラから魔族の部分だけを取り出した人物だった。

 

「ってことは、元に戻れた・・・のか?」

『何と、一度キメラになったものが再び分離するなど、ありえぬ!』

 驚くリヴィアスとナタルコン。と、その背後に一人の人物がザッ!と立つ。

「そうでも無いよ、危うい賭けではあったが、のう。」

 

「「領主ケートス!!」」

 驚く一同。まさかの奇跡を成した人物に対する凄みを感じつつも、そもそも領主の立場に

居ながらこの騒動に駆け付けるのが遅くないか、という疑問を含んで。

「説明は後じゃ、ワシもあそこに行かねばならぬ、連れて行ってくれぬか!」

 

 

 ついに避難所まで到達するエイの化け物。邪悪な眼光で非力な住民たちを見下ろす。

傷付いた男たちも、女も子供も、そして老人もその怪物を睨み上げる。”力こそが正義”の

魔界に生きる者として、例え絶望的でも心は折れない、折らせない!

 

 その時だった。手近にあった井戸から、一人の水竜のような女性が飛び出して来る。

大量の水をその体に従えて!

「ミールさん、何を!?」

ドガの言葉にミールは返す。その場にいる全員に、無駄と分かっていても。

「皆さん、投擲の準備を!!」

 彼女は避難の最中、戦士たちとあの怪物の戦いを見て知っていた。あの怪物の皮膚は

刃物も呪文もその柔らかい弾力で弾いてしまう、ならばまずそれを固めなければ。

 

 ミールは右手を掲げ、そこに魔法力を注ぐ。彼女と融合した水竜(アクアドラゴン)が持つ

水を操る呪文を!

海の唸り(ソルティウェーヴ)っ!」

 手を振りかざすミール。その手に引っ張られるようにしなった水流がまるで蛇のように

波打って広がり、そのまま化け物の右半身に降りかかり、濡らす。

 

「もう一発・・・氷系呪文(ヒャダルコ)!」

ミールの左手から呪文が発射され、怪物の右腹あたりに着弾する。だがその巨体に対して

あまりにか弱い呪文に誰もが効くとは思わなかった。住民たちも、化け物自身も。

 

 -ビキビキビキィッ!!-

 

 信じられない事が起きた。怪物の右半身が瞬く間に氷に覆いつくされたのだ、先程の

水がかかった範囲がそのまま氷となって怪物の体を固める。

「今ですっ・・・みなさん、投擲を!」

疲労にヒザを付きながらもそう指示する。それに応えて住民たちがありったけの物を投げつける。

石、木切れ、包丁、クワ、鉢植え。だがそれらは凍った皮膚に歯が立たず、カンカンと

音を立てて弾かれる。

 

 海の唸り(ソルティウェーヴ)。水を操る水竜の呪文の一つ、地上に存在する”海”の

水の成分を作り出す呪文、本来は陸に打ち上げられた海洋生物を救うためのもの。

 それは純水に比して大量の塩分を含んでいる、それを冷やして氷にした時、通常の水より

遥かに強固な氷が出来上がる。

 その原理をミールは応用したのだ、普通の水を凍らせてもあの怪物なら簡単に砕いてしまう

だろう。だが強固なこの塩水の氷ならその動きを封じ、それをカチ割れば化け物の皮膚を

固着したまま剥ぎ取れると踏んだのだ。

 

 だけど・・・その氷を砕く力を持ったものが、今この場には・・・

 

「総員、投擲いぃぃっ!!」

「だからお前が仕切るなっ!」

 

 天から十条にも及ぶ投擲が降り注ぐ。剣が氷に突き刺さり、盾が怪物の横腹を穿ち、

鎧がガコォンと音を立てて氷にヒビを入れる。最後に投げられたスレッジハンマーが

凍った怪物のど真ん中に激突した時、ビキィッ!という音と共に氷全体に大きな亀裂が広がる。

 

「ミールさん、お久しぶりです!」

「相変わらずお美しい。」

軽口を叩きながら次々と着地する魔族たち。その姿を見て思わず硬直し、そして笑顔になる。

「自警団の皆さん!」

 

 かつて父ケートスに雇われ、外からの無法者を次々に取りしまった強者たち。そして

父の狂った研究の犠牲になり、キメラとなったはずの英雄たちが今、私たちを守るために

こうして駆け付けてくれている、その光景に思わず熱いものを目頭に浮かべる。

 

 -エ"エ"エエエエエエエイ"ィ"ィィィ・・・-

 初めて苦悶の表情を浮かべる怪物。ヒビ割れた氷が奴の皮膚ごとダメージを与えている。

 

 そして、その亀裂のド真ん中に向かって突っ込んでいく一筋の光!

 

「砕け散れえぇぇぇっ!!!」

 コーンランスを掲げたリヴィアスが、槍のミサイルとなって怪物のどてっ腹に突進、

氷をぶち割りつつ体にめり込むと、そのまま反対側まで突き破って飛び出して来る。

 同時に、怪物の半身を覆っている氷が粉々に割れ、四散する。そのぬるりとした皮膚を

丸ごと剥ぎ取って、中の肉をあらわにして。

 

 -イ"イ"イィィィヤア"ァァァァ-

 

 悲鳴を上げる怪物の横、オグマがあらわになった肉を見上げながら立っていた。

その手に握られている短剣が、その刃を黒い暗黒の真空で伸ばし、10mほどの超ロングソードと

化した状態で。

 

「受けてみろ、化け物おぉぉぉぉっ!!!」

 

 柔らかな皮膚を剥ぎ取られ、防御力を一切失ったその部分にオグマの、ナタルコンの渾身の

一撃が打ち付けられた。

 

 

 

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