-エ"イ"ィア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァ・・・-
露出した肉にナタルコンの真空刀身がめり込む、全身をくねらせて悲鳴を上げるエイ頭の怪物。
その一撃は大きなダメージを与え、怪物の戦闘思考を”蹂躙する”から”自らの命を守る”に
瞬時に切り替える!
尾を振り回し、鎌首を煽って戦士たちに躍りかかり、全身から目をむいて
生死を賭けた最後の大暴れに、リヴィアスもオグマも、自警団の戦士たちもその周囲から
蹴散らされる。
「くっ!しぶとい・・・」
「アレでまだ暴れられるとは・・・何と言う生命力!」
「おい!アイツら倒れてるぞ、引っ張ってこい!!」
怪物から一度離れて対峙する自警団。オグマとリヴィアスが倒れているのを見て彼らを
担ぎ出し、後方に下がらせる。
「あーあ、こいつらもう戦えないな。後は任せな!」
そう言って二人をミールに預ける魔族。ご苦労様と彼らを受け取り、回復呪文を施すミール。
オグマは頼みの光の闘気が、リヴィアスも飛翔呪文を使う魔法力が底を突いている。
いくら体力が回復したところで物の役には立たないだろう。ミールを挟んで女子供の前に立ち
彼らを庇うポジションにつく。
と、リヴィアスがミールを見て驚愕の表情をする。オグマもまたそれに呼応し、彼女を見て
驚きの声を上げる。
彼女は若返っていた。先ほどまでは人間の年齢で20歳過ぎの彼女の顔は、ややあどけなさを
宿した、女性と少女の間ほどの年齢に見えていた、人間なら17~8歳ほどだろうか。
「あんた・・・本当に若返るのか!」
「無茶をするな、戦闘は俺達がする。」
そう言ってミールを気遣うオグマ達、そんな彼らに彼女は笑顔でこう返す。
「あら、私が戦わなければ私も皆も死んでたんですよ?寿命の2~3年くらい安いものです。」
その言葉に、オグマとリヴィアスは顔を見合わせて思わず息をつく。こりゃ負けてられないな、と。
-エイギャアァァァァァァァァァァァ-
怪物と自警団の戦いは続く。全身をのたうち回しながら、皮を剥ぎ取られた右半身を隠し
長い尾と首で蹴散らしにかかる化け物。
自警団の魔族たちは地から、空中から、次々に波状攻撃を加える。少し離れた所には先ほど
オグマとリヴィアスに手当てを施してくれた2人のヘルヴィーナスが対に位置し、戦士たちに
指示を与え指揮を取る。
だが、連携は完璧なれど怪物に致命傷を与えられない。呪文が舞い、刃が走り、鎌首が踊り、
尾が空気を切り裂く、熾烈な戦闘はどちらに傾くか、その先がいまだ見えない。
と、その戦闘の際から声が響く、この町の住民お馴染みの領主の声が。
「皆、そやつの動きを止めろ!仕留めるのはワシがやる!」
サルトバーン領主、
よし!と意を決する、
「クラック、マヌガン、足を狙って!」
「あいよっ!」
「オッケー!」
指示に従い、クラックが手持ちのスレッジハンマーで右後ろ脚のヒザ裏側を打ちすえ、同時に
マヌガンの放った
受けた怪物が、成す術なく尻もちをつく。
「パパオ、ネグネグ、そいつを立たせるな!」
指示に従い2人の魔族が怪物の両脇に走り、呪文を唱えて”地面に”叩きつける。
「「
瞬時に凍結する地面。尻もちをついた怪物が身を起こそうとするが、氷で足をつるりと滑らせ
どどぉん!と横倒しになる。
「エ"ィ"エ"ィ"エ"・・・?」
足の踏ん張りがきかず、状況が理解できずにうめくエイヘッド。
「よし、よくやった皆、下がれ!」
そう叫んで飛翔呪文でエイヘッドに向かう領主ケートス。
「な!」
「おいおい大丈夫か?」
「お父様・・・何を!?」
オグマ達が驚く。どちらかといえば距離を開けて魔法で戦うイメージのある
相手に接近する様に驚きを隠せない。彼をよく知るミールまでが驚いているから尚更だ。
ケートスは先ほどの我が娘の献身であらわになった怪物の肉に手をズボッ!と埋めると、
ミールの方を見て、少し口元を緩めてこう囁いた。
「まぁ見ておれ、ワシとて伊達に
続きの言葉は、心の中で叫び紡いでいく。
-娘まで犠牲にした研究を、そのまま熟成せんと思うたか!!-
「
そう唱えたその瞬間、彼の手が、そして怪物の全身がまばゆい光に包まれる。
「なっ!?」
「何だ、あの呪文は!」
ケートスも化け物もまばゆい光に包まれている。が、そこから光っていない”何か”が
その巨体から這い出して来る。1体、2体、3体・・・
「モンスター!奴の体から・・・これは!?」
傷口から、口から、耳から、尻の穴から、大小様々なモンスターが次々化け物から這い出し、
一斉に逃げていく。
「
そう嘆くミールに、メイドのヘルヴィーナスがその際について解説する。
「正確には、肉体の時間を戻しているのです。
応用して、あの化け物を本来の姿に戻しているの。」
彼女は語る。ケートスが娘にかけた時遡の呪い、それをかつて自分がキメラにした者たちに
かければ彼らを”
それは危険な賭けであった。もし失敗して彼らを殺してしまえば今度こそ自分は悪党として
許されない立場になるだろう。だが、この化け物が躍り込んだいわば緊急事態が、それを決断させた。
そして、今度こそ奇跡は彼に味方した、試みは成功した!自警団を、
戻すことに成功し、戦闘の現場に辛うじて間に合ったのだ。
-ウェェエェェェ-
何とエイの口から小型のドラゴンまで吐き出される。と同時に長かった怪物の首が、
体とくっつくほどに縮まっていく。”長い首”という特徴を失うその光景にオグマとナタルコンは
確信する、かつてドラゴンを逆に飲み込んでその特徴を取り込みキメラとなったあの怪物、
あの沼竜と同じ化け物!
傷口や肛門からは獣人や魔族まで排出されていた。彼らは化け物から転がり出ると
逃げ出しながら口々に叫ぶ。あいつは化け物だ、食われると力を取られるぞ、逃げろ、と。
-エイィィィィ-
そう呻いたのは怪物では無かった。怪物の口から最後に這い出したエイのモンスター、
”フライ・スティングレイ”の声だ。そのエイもまた素早く宙に舞い、空高く消えて行った。
やがて光が消える。後に残ったのは疲労困憊のケートスと、オグマ達には見覚えのある
大きな黒いイモリのようなモンスターだった。
「お父様!」
駆け寄ってケートスを抱え上げ、その場から避難するミール。そんな彼女に父は
申し訳なさそうにこう呟いた。
「すまんな、今のお前を戻すことはできんのじゃ、時を遡っておるがゆえに・・・」
「いいえ、戻らなくても私たちは救われました、それで十分です!」
後退する彼らと入れ替わるように、黒いイモリに歩みを進めるオグマとリヴィアス、
そしてナタルコン。
「リヴィアス、ヤツは大口を開けて食い付いてくる、その口を固定してくれ!」
「分かった、任せてもらおう。」
二人と一振りがイモリの眼前に立つ。イモリはその不気味な目を二人に向けると、ちろり、と
長い舌を伸ばし、二人の胸先を舐める。
次の瞬間、イモリは大口を開けて躍りかかって来た。二人は冷静にバックステップしつつ
リヴィアスがそのコーンランスを口の中の下側に突き刺して地面に縫い留めると、柄の部分を
上顎の口の中に突っ込み、口を開いたままつっかい棒にして固定させる。
もう二人に戦う力は残っていない、だが最後のオグマの光の闘気で強化されたナタルコンだけは
最後の一撃を残していた。
オグマはナタルコンを抜き、その刃先を怪物の口の中に向ける、まっすぐに。
『
-ズバァァァァァァァァァァァァ・・・ッ!-
口から体内に発射された真空の4枚刃が、イモリの怪物をまるで4枚におろすかのように尻尾まで
キレイに切断していった。
断末魔の悲鳴を上げる事もなく、体を4等分されたイモリは、ただの肉塊としてその場に
べちゃり、と倒れ伏した。
「うおおおおおおおっ!!」
「いやったぁーーー勝ったぞーーーっ!」
「ザマァ見やがれ、こんの野郎っ!」
「いいぞー、熊のあんちゃん、やったなぁっ!」
「さすが
「自警団のみんな、無事だったんだ、よかったぁーーっ!」
歓喜に沸く一同。死闘に注ぐ死闘の結果、彼らは生き残り勝利を手にした。戦士も魔法使いも
一般人も、女子供や老人も、そして他の町から来た流れ者たちも皆一丸となってもぎ取った勝利に
誰もが手を突き上げ、抱き合って喜んでいた。
力こそが正義、そしてその力で俺達はあの化け物を凌駕してみせたのだ!と。
そのとき。
周囲がにわかに暗くなった。あたりはあの怪物が放ちまくったギラの炎がそこかしこに
燃え、くすぶっているのに。
影が消えている、それは灯の火が消えたのではない、天の大地から降り注ぐ光が弱まった
ことを示してる、何事か?と思わず天を仰ぐオグマ。
天が雷雲で満たされていた。
その中心に、ふたつの影があった。
2体の精霊が佇み、うち一人が両手を天にかざし、その雷雲をますます濃いものにしていった。
「ニカ!イタ!!あいつらっ!!!」
全身に冷や水を浴びせられたような悪寒がオグマを貫く。そうだ、アイツらの事を忘れていた!
あの拘束を外したのか・・・そして、この状況は、マズいっ!!
女子供も大勢いる、戦士たちすら力を使い果たしているこの状況で、この場に
落とされたら・・・何人死ぬ?何人生き残れる??
リヴィアスもミールも天を見上げ、その光景に愕然とする。そう、彼らは”魔界を閉じる”
計画の実行者、ここにいる魔界の住民を皆殺しにすることをためらう理由はどこにも
見当たらなかった。
「・・・やめろおおおおおおっ!!!!」
オグマが絶叫すると同時、精霊のその手が、静かに振り下ろされた。