「ふんふ~ん、ふふふ~ん♪」
鼻歌を歌いながらパーティの先頭をふわふわ進む精霊”降りのレム”、山脈超えの
渓谷の尾根を、彼女と共に歩いていくオグマ達。
このあたりは飛行能力の高い蛇竜スカイドラゴンのテリトリー、しかしレムが
しんしんと降らせている雪のせいで、ドラゴンたちは皆、崖の片隅で身を縮めて眠っている。
彼女と出会ってからもうずっとこの調子だ、元々ドラゴン族のほとんどは、周囲の気温に
体温が同調するタイプの生命体、そんな彼らは気温が下がると体温も低下し、活動が鈍くなる。
レムが雪を降らせ、気温を下げながら歩いているせいで遭遇するドラゴンたちは皆、自分たちに
構うどころでは無くなっていた。
ブレスを浴びせ合って冷えた体を必死で温め、
身を隠して転がっていた。
そんなこんなで、彼らはこの
・・・のだが。
「なぁ、どう思う?」
「敵意が無いのは確かなのですが・・・。」
「”天の8行”を名乗る以上、魔界を閉じる事に関与しているのだろうが・・・」
彼女の後ろでひそひそと話すオグマ達。ちなみにナタルコンは精霊相手に敵意丸出しで
暗黒闘気がダダ洩れなので、ミミックの鞘の中に押し込めて我慢して貰っている。
彼女の態度からして、自分たちが他の精霊たちと何度も悶着してるのは知らなさそうだ。
最初にあった”輝きのシア”が初対面のナタルコンすら知っていたことと比べると、
その存在があまりにかけ離れているような気がする。
最も、彼女が全て知ってて自分たちに取り入ってきた可能性もある。ならば彼女を
問いただせば、他の精霊に聞けなかった情報を得られる可能性もある、特にオグマは己の集落の
仲間の魂の安否や元に戻す方法など、精霊に聞きたいことは山ほどあった。
が、もし彼女が自分たちの事を素で知らずに、下手に話して敵と認識されたらもうこの
楽行脚は終了してしまうだろう。折角難関のドラゴンの大陸を総スルー状態できているのに
無駄にするのはやはり惜しい。彼らには時間が限られている、魔界が閉じる前に手を打つ
必要があるからだ。
そんなわけで、彼らはあえて多くを語らずに彼女をパーティに加えた。その効果は絶大で、
この渓谷を超えたらいよいよ目的地の深山、天竜山のふもとに辿り着けるのだ。
尾根から続く山頂に達した時、彼らの眼前のはるか先には、天をも貫くほどにそびえ立つ
巨大な山が姿を見せていた。
「うわ・・・デカいな。」
「こんなに大きな山があるのか・・・!?」
「天の大地まで余裕で届いてますね、あれなら頂上は地上まで出ているのでは?」
驚くオグマ達にレムも続く、屈託のないキラキラした目で。
「おっきぃねー、みんなもあそこに行くの?」
「と、いう事はお前もか?」
リヴィアスの問いに、うん!と元気よく答えるレム。目的地が同じということは・・・やはり
自分たちの事を知っているのか、あるいはヴェルザーそのものが目的なのか?
「何はともあれ、あそこまで行ってからだな。」
リヴィアスが指さしたのは天竜山のふもとにある都市、かつてヴェルザーの本拠地だった
ヴェルバリオという町だ。と言ってもサルトバーンなどとは違い、あくまでドラゴン族中心の
集落なので、亜人や魔族の町とは作りそのものが違う、とは下調べしていたミールの談。
だが、彼らがそこに辿り着いた時、思うのは別の感想、そして感情だった。
『強者どもが夢の後、か。』
ナタルコンの語り道り、そこはもう何年も生の気配の無い廃墟だった。街中の砦も小屋も
ドラゴンの寝床とおぼしき巨大な止まり木も主無きまま、塵を積もらせて佇んでいる。
そして、そこかしこで戦闘の爪痕もあった。薙ぎ倒された柵、地面に空いたクレーター、
各所に転がっている、あらゆるドラゴン属の白骨。巨大な頭部の骨もあれば、小型の竜亜人の
剣と盾を持ったまま突っ伏している骨もあった。
「
リヴィアスがコーンランスを握りしめてそう呟く。ヴェルザーの本拠地をここまで破壊
しつくす存在があるとすれば、それはかつて
時の戦闘の爪痕であることは明らかだった。
彼は、そんな怪物を生涯の敵としているのだ、首に纏う赤い布をそっと撫で、恐怖に負けぬよう
改めて決意を胸にする。
「
下からリヴィアスの顔を覗き込んでそう問うレム。瞬時に沸き上がった黒い感情は、彼女のその
幼い表情にかき消される、もし妹が生きていたら彼女くらいの・・・。
「ああ、まぁな。」
同じ天界の使徒、神々の遺産。だが彼女はバランではない、今この精霊に己の怒りを向けても
仕方がない、そんなことを妹は、父や母は喜ばないだろう。
「どこかで落ち着きましょう、長旅の疲れもありますし、それに・・・貴方に伺いたいことも。」
そう言ってレムを見るミール。オグマもナタルコンもいよいよか、という顔をするが、
それでもレムは「え、なになに?」と無邪気な表情を崩さない、果たしてそれは素の態度なのか
それとも・・・
街角の一角に大きな屋根が見える。家ではなく中心の柱に支えられた巨大なキノコのような
屋根のみの建物、とりあえずあそこに落ち着いて一息入れる事にする一行。
が、その屋根の前まで来た時、彼らの前に2人の竜族が仁王立ちしていた。
「なんだキサマら、どこから来た!」
敵意を見せて凄んでいるのは
どちらかというと魔族に近い存在。だが驚くべきは見事に鍛え上げられたその肉体、
彼が戦士であることは疑い無いだろう。
「まぁまぁ、珍しいじゃないか、今時この町に客なんてよ。」
そんな彼をなだめるのは身の丈3mほどの
獣の姿を多く残しつつ、上半身の立ち方や手指は人のそれに近い半獣人だ。
「我々はヴェルザー様に会いに来た、かの知恵ある竜に大事な話がある!」
オグマの返しに、ふたりは少し目を丸くした後、ふぅん、と少し顔をほころばせる。
「詳しく聞かせろよ。」
その竜人の言葉に従い、屋根の下に入って、一同輪になって腰を下ろす。
お互いに自己紹介から始める。
と名乗った。共にかつてはヴェルザーに仕えていた存在だったらしい。
続いてこちらの紹介をする、終わった時にはガノイザーもケプラスも大笑いしていた。
「
「バラエティ豊かだなぁオイ、俺等竜族じゃ絶対考えられねぇよ。」
「さてと・・・」
ひとしきり笑った後、ガノイザーが腰を上げる。ケプラスも座ったまま羽ばたいて身を浮かし
すたっ!と地面に立つ。
その目に殺気と、存分の戦闘意欲を漲らせて。
「ヴェルザーに会わせるわけにはいかん、ヤツは俺達が仕留めるんだからな!!」
「俺達を倒さない限り、ここから先にはいかせんよ、面白パーティご一行さん!」
「どういうことだ!」
「ヴェルザー・・・呼び捨て?部下では無かったのですか?」
オグマとミールが彼らの豹変ぶりに立ち上がって問う、それに続くのはリヴィアス。
「事情は知らんが、魔界の命運を決める話をしに来た。邪魔立てするならば・・・!」
「知った事か!俺達はなぁ、ヴェルザーに・・・」
その後の言葉に一同は、特にリヴィアスは戦慄を覚えずにはいられなかった。
-ヴェルザーに故郷を、根こそぎ滅ぼされたんだ!跡形もなくなぁっ!!-