魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第35話 魔王きらりんと仲間たち

 ・・・・・・・・・は?

それがその場にいた者全員の共通した感覚。

 

 あの恐ろしい結界をいとも易々と押し抜けて来た、冥竜王が”次代の魔王”と称する者が

現れた。

 

 だがそれは、恐るべき魔力を持った魔族でも無い、巨大で強固な肉体を持った竜族でも無い、

それは幼くて、小さくて、そしてあどけない、か弱い人間の少女。

 

「・・・おいヴェルザー、これはなんの冗談だ?」

 ガノイザーが台座のヴェルザーを仰ぎ見て問う。そのアクションに習うように全員が

ヴェルザーの方に注目し、返事を待つ。

 

-・・・まさか、人間とはな。しかもこれほどの幼子だとは。-

 しばしの間の後そう返すヴェルザー。と、その声に誰よりも早く返したのは、その幼い

少女だった。

「その声・・・あなたですね、私を呼んでいたのは・・・石像の竜さん。」

 見た目通りに幼い、そしてくぐもった声で話す少女。全員の視線が彼女に注目する中、

平然と言葉を続ける。

「あなたの所に来れば、私を魔王にしてくれるって事でしたよね。」

 

-小娘よ、貴様が魔王を志すなら我は力を貸す・・・つもりであったが・・・-

 言い淀むヴェルザー、無理もない。その類まれなる魔力と”魔王になる”という確固たる

意志を感じ取り、ここまで呼び寄せた人物が、まさかこのような少女とは思いもしなかった。

 

「私の名は”きらりん”です。貴方が何者かは知らないけど、小娘って呼ぶのは止めて下さい。」

 堂々と対峙し、胸を張ってそう言う少女きらりん。それは圧するのではなく、斜に構える

のでもなく、どこか精錬かつ凛とした真っすぐな物言いだった。

 

 そんなシーンに、ふふっ、と笑って横槍を入れたのはミールだった。

「きらりんさん、あの竜の像はとても偉い竜なの、だからお話はちゃんと身だしなみを

整えてからにしましょうね。」

「ん?・・・うわっ!なにこの人・・・人間?竜?」

 ミールの見姿に驚くきらりん。それも無理はない、彼女の魔族と水竜の合成具合は絶妙で

合成獣(キメラ)にありがちな不気味さや不自然さが皆無で、その様は美しくすらあった。

 

 洞窟の隅にある石に座って、そのボサボサの髪や汚れた体をミールに洗ってもらうきらりん。

水魔法を使うミールを心配するオグマ達だが、「この程度で失う寿命はほんの数日ほどです。」と

笑顔で返される。この対面はそれを遥かに超える重要なイベントなのですから、と。

 

 ちなみにリヴィアスは瞬間移動呪文(ルーラ)でサルトバーンに飛んで、彼女に合う服を調達に

向かっている。

 きらりんの服はほぼ原形が無いほどボロボロで、とてもこの年頃の少女が纏うものではない、

しかしそれでいて、その体にはキズひとつ、シミの欠片すらない。その穢れの無い肌は

先程の凛とした態度と合わせて、どこか高貴な印象さえ伺わせる。

 

「うわぁ・・・何よコレ、こんな強力な結界見たことない~」

 精霊レムは彼女が出て来た扉を調べながら呆れた顔でそう愚痴っていた。地上と魔界を繋ぐ

通路を封じることを使命としている彼女だが、この門にかけられている結界は彼女がどう

頑張っても作れない程に強固で、しかもきらりんが潜り抜けた後は速攻で元通りになっていた。

 

「で、お姉ちゃん、ここはどこなの?」

 頭を洗ってもらいながらそう問うきらりんに、ミールが、オグマが、ナタルコンが、

ケプラス達が、そしてヴェルザーまでが同時に返す(ツッコむ)

 

「「魔界だよ!」」

 

「え・・・えええええっ!?魔界?まかいってあの魔界!?」

 知らなかったのか、という顔で彼女を見る一同。というかあのドアの向こうが地上に

繋がっているなら、彼女はあの中を相当”降りて”来たはずなんだが・・・

 

「・・・そっか、破邪の洞窟って、魔界まで繋がってたんだ。」

 

 彼女曰く、そこのドアの向こうは地上で”破邪の洞窟”と呼ばれる地下世界の最深部だそうだ。

その洞窟の名の通り、そこでは魔法の様々な契約や知識の収集、応用を学ぶなどの試練があり

魔法を志す人間たちの試練と修行のための洞窟となっているらしい。

「だいたい300階くらい降りて来たかなぁ・・・行き止まりかと思ったらあのドアがあって、

色々調べたらここまでの破邪魔法を組み合わせたらくぐり抜けられそうだったの、試したら

バッチリだった。」

 

 得意気にそう話すきらりんを見て、レムは顔面蒼白になっていた。

彼女は人間だ、ならば生きて来た時間は見た目通り10年も無いだろう、そんな少女が

あの破邪の洞窟を最深部まで踏破し、しかも三界の境、古来より封じられてきたあの扉を

いともあっさり破って見せたとは。

『世界の常識を外れた天才、時にそのような者も現れるのだろう、我が主ヒュンケルが

そうであったように、な。』

 ナタルコンが解説を入れる。持って生まれた才能というのは決して公平ではない、世が凡才で

満たされる中ごくまれに、このような図抜けた存在は有るものだ、と。

 

 やがて体を清め終わり、ほどなくリヴィアスが服を持って帰還。なんでもミールが昔着ていた

中でも一番由緒正しい魔法装束とのこと。

「お兄ちゃんは人間なの?魔界なのに。」

「そうだよ、お嬢ちゃんでも魔界に来るんだから、お兄ちゃんくらいの人がいてもいいだろ?」

「そっか、それもそうだね。」

 膝を付いてきらりんに目線の高さを合わせながら笑顔を作るリヴィアス。彼にすれば

実に9年ぶりに見る同族、人間。しかも少女となれば自然と物腰も柔らかくなる。

 

 と、その時、洞窟の角からバリバリィッ、という衝撃音が響き渡った。振り返ってみれば

例の門の前でケプラスとガノイザーが黒焦げになって倒れ、体をひくひくさせている。

傍らではレムが頭を押さえて「あーあ・・・」という表情。

 どうやらきらりんの実力が信じられずに、ならばとレムの制止も聞かずに結界に挑んだ

らしい。まぁあの二人だから死にはしないだろうけど・・・

 

 黒を基調とした魔法の装束に身を包み、青紫色の宝玉が付いたティアラを頭に冠し、

再びヴェルザーの前に立つきらりん。背後にはミールが付き、両翼をオグマ&ナタルコンと

リヴィアスが固める。その後ろではケプラスとガノイザーが「恐れ入りました」とばかりに

ヒザを付いて控える。

 

 さぁ、改めて冥竜王と、次代の魔王の対面の儀。

 

「私はきらりん。魔王をめざし、あなたの声に応えてここまで来ました!」

-ご苦労だった。我が名は冥竜王ヴェルザー。お主にひとつ問おう。

 お主にとって”魔王”とは何であるか-

 

 皆がその質問を吟味する。それは彼女が何を思い、何を志して魔王を目指したのか、まさか

彼女が魔界を閉じる天界の思惑を知ってして、それを阻止に来たとも思えない、またこの魔界や

地上に覇を成す事を目指しているわけでもあるまい、そもそも地上世界なら”英雄”や”勇者”

にこそ憧れるのが普通では無いか、とリヴィアスやレムは思う。

 

 しばし瞑目して考えるきらりん。やがて言葉をまとめ、ヴェルザーを見上げてはっきりと

こう返す。

 

「私は、勇者に勝ちたい!勇者以上の存在になりたい!だから・・・だから”魔王”になりたい!」

 

 

 

 ヴェルザーとの対面が終わった後、一同はきらりんを囲んで食事と談話の時間を取っていた。

その上座で、なんともバツが悪そうな顔でうつむいている魔王様(きらりん)

「な・・・何よもうみんなして!重い、重すぎるわよ・・・ううーっ。」

そう叫んで目をバッテンにし、両腕をぶんぶん上下させて抗議する。

 あの後ヴェルザーに「魔王としてその者たちと行動せよ」と指令を受けたきらりん。

この食事会で彼らそれぞれが持つ”物語”を聞いて、彼女は自分の悩みや克己がいかに幼稚で、

価値の低いものであるかを痛感させられていた。

 

 

 きらりん。

 彼女の両親は地上で勇者のパーティを組んでいた。とはいっても父でろりんも母ずるぼんも

その仲間のへろへろとまぞっほも、勇者一行と言うには実力も、そして”心”も備わって

いなかった。彼らは勇者のフリをして自分の力を売り込み、取り入り、そして時には

火事場泥棒のような真似にまで手を染めていた小悪党でしかなかった。

 だが、そんな彼らがかつて魔王軍の進行に追われ、オーザム国に避難していたことが

彼らの運命を変えた。

 世界を救う一翼を担うことになった彼らは変わろうとした、ずるぼんが身ごもったこともあり

彼らは世界の復興に少しでも役に立とうと奔走し続けた。

 だが、過去の罪と言うものは追いかけてくるものだ、彼らが活躍すればするほど、その過去の

罪状も暴かれてしまう、やがて彼らは「たまたまそこにいたから世界を救っただけ」と

陰口をたたかれるようになる。

 

 その娘である彼女は幼少の頃から魔法の才能を開花させた。父も母も並以上の魔法の資質が

あったことがハマったのか、5歳になる頃には通っている学校の魔法教師を驚かせるレベルに

達していたのだ。

 だが彼女の才能に嫉妬した周囲の子供たちは、彼の両親の過去を耳ざとく知ると、

その過去を彼女に突きつけた。お前の親は英雄じゃない、泥棒だ、と。

 

 そして父も母も、その言葉を否定しなかった。否定、出来なかった。

 

 勇者だと思っていた父は泥棒で、きらりんを身ごもったことで僧侶から賢者に

ジョブチェンジしたと聞いていた母は、実は賢者はおろか僧侶ですら無かった。

世界を救った勇者は、賢者は、別にいたのだ。

 だからもう父も、母も、英雄にはなれない。そのポストはもう埋まってしまっているのだ。

 

 だから、その勇者を倒す存在になろうと思った。勇者と対にあり、勇者と対決する存在。

 

-魔王-

 

 8歳の時、彼女は人ならぬ声を聴く。お前は魔王になりたいのか、ならば我の元に来るがよいと。

誘われるままに家出をし、カール王国の一角にある”破邪の洞窟”に挑む。

 進み、逃げて、学んで、さらに進む。破邪の呪文を学習しながら数々の怪物や罠と戦い、

その生来の魔法力の高さと、子供独特の吸収力の高さによってどんどん各階を攻略していく。

 契約によって得た魔法、手に入れた希少なアイテム、そして魔力の法則や応用の仕方、

それらをパズルのように応用し、はめ込んでいくことにより彼女はついに最深部まで辿り着く。

 その前にある門の結界など、300階の試行錯誤で得た知識を持ってすれば簡単にすり抜ける事が

できた。

 

 そしてきらりんはついに魔界に到達、自分を誘った竜の王との対面を果たした・・・のだが。

 

 

 彼女の部下ということになった面々。熊人(オグマ)魔剣(ナタルコン)人間(リヴィアス)水竜と魔族の合成獣(キメラ・ミール)

そして二人の竜戦士。

 彼らの物語を聞いた時、きらりんは自分がいかに小さな人間で、小さなことにイジけて、

小さなことで家出をしたかを思い知らずにはいられなかった。

 

 故郷を滅ぼされ、己の妹をクッションにして生き延び、親や仲間を石にされ、長年忠誠を

尽くした主が新参の裏切りで殺され、残りの命をカウントダウンしながら生きる、各々の過酷な物語。

 そして今この世界が滅びに瀕している時、それに懸命に抗おうとしている彼らに比べて

私は何とつまらない事で悩んでいたのだろう。

 

でも。

 

『よいでは無いか、人の思いなどそれぞれだ。勇者に挑むその気概やよしだぞ。』

魔剣はそう言って、自分の負けん気を褒めてくれた。

 

「頑張れば必ず何かを残せるさ、頑張らなかった奴よりも、な。」

人間のお兄ちゃんはそう言って、わたしの努力を認めてくれた。

 

「あなたが来てくれて、私たちは道が見えました。どうかその力を貸してください。」

私を清める為に寿命を使った奇麗な竜の女の人が、私に恩返しの機会をくれた。

 

「神輿に担ぐにゃ、お前さんくらい小さいほうが楽でいい、がっはっは!」

「我々もヒマな身でな、俺の力を役立ててもらおうか、魔王殿。」

屈強な竜戦士ふたりは、何も知らなかった私を魔王と認めてくれた。

 

「神が世界をどうしようとするのか・・・あなたのその力がもたらす行く末を、私も見たいです。」

魔界の敵であるはずの雪の精霊、彼女もまた自分が世界の命運に参加する事を受け入れてくれた。

 

「救いたい者たちがいる、俺の・・・大事な人たちだ。どうか力を貸してほしい!」

熊の姿をした人、伝え聞いた獣王の姿をイメージさせるその彼が、ずっと年下の私に頭を下げた。

 

 

 -私、頑張ります!この魔界の為に-

 




これでこの物語の核となるキャラが出揃いました。
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