魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第36話 扉の向こうに

『まずは地上を目指さねばな。』

「ああ、天の大地が下がってきているってことは、地上も少しづつ沈下しているってことだ。

上手くいけば地上の連中の協力を得られるかもしれない。」

 ナタルコンの方針に同意するリヴィアス。オグマもミールもその指針に反論はない、

オグマにとっては魔界を閉じさせないと同時に、天界に赴き仲間の魂を開放するという

目的もある、ならばとにかく”上”を目指さなければ。

 

「だがあの結界を抜けるのは、魔王(きらりん)殿以外では無理であろう。」

 ケプラスの言葉にうむ、と頷くガノイザー。きらりんが下りて来た天竜山の内部である、

”破邪の洞窟”の出口にかけられた協力無比な結界は、彼女以外では突破不可能であろうことを

身をもって知ったばかりだ。

 

「となると・・・別の道を探さなきゃならないな・・・レム、心当たりは無いか?」

「今の私には分かりません・・・あの洞窟を私の能力で封じたら、次に向かう所が天啓によって

指示されるはずなんですが・・・」

 地上へ通ずる道を塞ぐことが使命の精霊”降りのレム”がそう答える。魔界を閉じる計画の

一端を担う反面、魔界の者に可能性を残すように様々な制約をかけられている彼女は、

そんな制限もあるのか。いや、あるいは魔界の手勢に捕らえられ、尋問されるのを恐れての

処置かも知れないが。

 

「地上に行くならいいものがあるよ、あの洞窟の中に。」

 そのきらりんの言葉に全員が注目する。彼女曰くあの洞窟の中には様々なアイテムが

存在したが、彼女がとりあえず必要のないものはそのままにしてあるらしい。

まぁさすがに彼女一人で全部持ち切れるはずも無いのだが・・・

 

「260階くらいに合流呪文(リリルーラ)の強化版みたいなアイテムがあったの。

お互いがそのペアのアイテムを持っていれば、世界をまたいで移動できる、って。」

「世界を・・・またいで?」

『つまり、魔界と地上を行き来できるという事か。』

その言葉にこく、と頷き、続きを話すきらりん。

 

「術者が地上に、もう一方が魔界にいれば、その人を地上に移動させる事ができるアイテム。」

「ルーラというより、召喚呪文のようなものか。」

「うん・・・でもひとつ欠点があってね。呼ばれた人は地上へは行けるけど・・・」

一度言葉を区切り、てへっ!と舌を出して続ける。

 

「ドコに行くかは分からないの。」

 全員がその言葉にがくっ、と体を傾け、あるいはずっこける。地上に行くけどどこに行くか

分からないって・・・?」

「なんでも送られる人の、縁の強い場所に飛ばされるみたいなの。」

「行き先はその者次第、というわけか。」

 そう言って赤い首巻きをそっと撫でるリヴィアス。彼なら行く先はおそらくテラン王国か、

かつてアルキード王国があった場所になるだろう。だがオグマやミールがどこに送られるかは

分からない、彼らはそもそも地上に縁が無いのだから。

 

「ま、試してみる価値はありそうだな、いずれにしてもあそこに戻ってからの話だ。」

 ガノイザーの言葉に全員がそうだな、と頷く。きらりんがそのアイテムを取りに戻るにしろ、

レムがそこを封じて次の場所、魔界と地上を繋ぐ別の道を見つけるにしろ、あの場所に戻って

試してからの話となるだろう。

 

 結局一同は一眠りして、体力を回復させてから再び天竜山の洞窟に向かった。

ただ、皆が起きた時にレムの姿が見えなかったのだが・・・行動の予想はついていた。

 

「あーきたきた、みんなおはよう。どう?コレ。」

 ヴェルザーの広場で得意気にあの”門”に上乗せした封印を示すレム。あの門の周辺全てが

強力な氷の壁でコーティングされている。

「まった・・・ゴツい封印をしたもんだなぁ、これ永久氷壁ってヤツだろ・・・」

氷をぺたぺた触りながら呆れるケプラス。ただでさえ魔力の封印がされているこの門に

ここまで重ねて通せんぼをするとはえらく念のいった事である。

 

 ちなみにヴェルザーは反応が無く、眠っているようだ。昨日あれだけ怒り狂ったレムに対して

無反応なのは興味が失せたからなのか、ナタルコンに痛い所を突っ込まれたからなのか・・・。

 

「次の天啓はきましたか?」

「うーん、まだ。」

 ミールの問いにそう返すレム。その返事に全員がほほう、という顔をして指をぱきぱき

鳴らしたり、肩をぐるぐる回してお仕置きの準備をする。

「ひいぃぃっ!ま、待って待って・・・私もほら、立場があるし・・・」

後ずさりして言い訳をするレムに男衆がずい!と詰め寄る。封印するならきらりんが

アイテムを回収してきてからだろうに、何フライングしとるんだこの精霊は。

 

「大丈夫だよ、問題なく戻れるからー。」

 きらりんの言葉に全員が振り向く、レムは(助かったー)という表情の直後に(えっ!?)

という顔になる。私の精魂込めた氷の結界が問題ないって・・・?

 

鋼鉄化呪文(アストロン)。」

 きらりんが氷壁に手をかざして呪文を唱える。すると半透明だった氷の壁がたちまち

黒みがかった銀色、つまり鉄の色に変わっていく。

「「へ?」」

 一同が間抜けな顔でその様を眺める。氷壁も強固だが、それでも時間をかけて熱や衝撃を

与えれば砕き溶かすことも可能かもしれない、だが鋼鉄化してしまえばさらに強くなり

いよいよ破壊するのが困難になるだろう。

 

「大丈夫だよ、氷は岩にくっつくけど、鉄は岩にくっつかないからこれでいいの。」

 その言葉になるほど、と手を打ったのはミールだ。他の男衆が頭にハテナマークを浮かべる中

ミールはリヴィアスに耳打ちして指示する。

 それに応えてトベルーラで鉄と化した氷壁の一番上まで飛ぶと、岩盤と鉄の間に

コーンランスを差し込んで、テコの要領でこじり、鉄と岩を引きはがす。

 

 -めきめきめきめき・・・ドドドドォン!-

 

 門より遥かに大きい鉄塊がはがれ、そのまま横倒しに地面に倒れる。後に残るのは

昨日のままに佇んでいる門のみだ、なんとも呆気ない。

 氷には癒着力があるが鉄にはそれがない、ただそれだけの性質の差を瞬時に見抜いた

きらりんの判断により、レムの結界はあっさり無くなった。

 

 間抜け面で真っ白になっているレムの肩をぽん、と叩くミール。

まぁ彼女は魔王だしねー、と涙を流して返すレム、道理で次の天啓が来ないわけだ。

 

 

「じゃあそのアイテム取って来るから、みんなはここで待ってて。」

後ろ手をひらひらさせながら門に向かうきらりんに、男衆が一斉にお辞儀をする。

おそれいりました!

 

破邪呪文(マホカトール)闘気霧散呪文(ナジースルー)開錠呪文(アバカム)角度調整呪文(レベノラ)重力制御呪文(ベタギナス)・・・」

いくつもの呪文を次々に唱え、自分とその門に複雑に絡めていく。

 やがてその門がゆっくりと開き、気流の渦が出入り口付近に吹き荒れる、彼女が来た時と

同じように。

 そしてきらりんが門をくぐり、再び閉じてその鳴動が収まった時、一同が同じ思いを抱く。

 

 なるほど、”魔王”か。

 

 あの門を開ける為に唱えた魔法の内、そのいくつかはとてつもなく膨大な魔法力を消費する

ものであった。並の魔法使いならそれひとつで全MPを使い果たすほどの。

 それらを惜しげもなく使い、さらに組み合わせてあの危険な門を開け、まるで散歩のように

通過するその姿に敬意と畏怖の念を抱かずにはいられなかった。

 

 そこに、10歳にも満たない少女の印象は、無かった。

 

      ◇           ◇           ◇    

 

「うわあぁぁぁぁん、ごめんなさい、ごめんなさい、うわあぁぁぁん!」

2人の人物に抱き着いて彼女は泣いていた。

 

 片腕の無い、全身傷だらけの”勇者”と、顔の半分を火傷(やけど)で失い、片目を眼帯で

隠した”賢者”に。

 

 彼らの後ろでは、額に深い一本傷を刻んだ”戦士”と、木製の杖を松葉杖代わりに

よろけ立つ、高齢の”魔法使い”の、安堵と笑顔の表情-

 

 

「お父さん、お母さん、ごめんなざい・・・ごめんなざあぁぃぃぃ・・・!」

 

 

 




登場人物紹介

・精霊、天の8行。降り(雪)のレム

【挿絵表示】

降雪とそのための気温、湿度調整を備えた精霊。見た目18歳ほど、銀色のショートヘアで
衣服も白系のカラーで統一されているが、ひらひらした服ではなくぴしっと締まった
スタイル。
彼女の使命は魔界と地上を繋ぐ道の封印。だがそれは神の意志により、魔界の者に生存の
可能性を残す為にあまり優遇されていない、レムからすれば酷な話である。
そう言った存在のせいか、魔界の者にもわりと友好的で、かつ魔界の者からも受け入れられる
空気を身に纏っている。

それもまた神の意図であることに彼女自身も気づいてはいない。
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