魔界のオグマ   作:三流FLASH職人

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第37話 親の強さ

 地上、ベンガーナ王国の片隅の村での出来事。

 

「きらちゃんが・・・家出したぁ!?」

 よろずや”へろん”に飛び込んできたかつてのパーティメイト、でろりんとずるぼん夫妻に

思わぬ相談を受けた店主へろへろ。

 彼らの娘きらりんはその愛らしい素顔と、類まれなる魔法の才能を持ったまさに

”トンビが鷹を生んだ”ケースの典型であり、彼らの自慢の愛娘だった。

へろへろもまた幼いころから彼女をよく可愛いがり、面倒を見て来たのだ。

 何不自由なくすくすくと育っていたと思っていた彼女が、まさか家出とはまさに一大事!

やはりかつてのパーティにいた爺さん、まぞっほにも声をかけ、彼らは東に西にきらりんを

探し回った。

 

「しかしまた・・・何で家出なんぞ。」

 まぞっほのその言葉が夫妻に刺さる。かつての自分たちを誇張して勇者だの賢者だの

言っていたのが仇となった、事実を知ったきらりんは通っていた学校でも馬鹿にされ、

孤立を深めていったのだ。魔法において別格の才能を持っていたことがさらに事態を悪化させる、

 才能のある者が疎外といじめの対象になるのは世の常だ、両親のかつての素行が彼女の

心を傷つけたのは想像に難くなかった。

 

 失踪5日目、手がかりの無いまま奔走する彼らの前に、まぞっほの兄である大魔導士

マトリフが鏡通信で連絡を寄こしてきた。なんでも古くからの友人であるカール王国の宰相、

アバン・デ・ジュニアールⅢ世から知らせがあったらしい。

”封印してあったはずの破邪の洞窟の入り口が破られていました、しかも足跡から察するに、

中に入ったのは幼い子供である可能性が高い、心当たりはありませんか?”と。

 

 1も2もなくカール王国に駆け付ける一同。特別の許可をもらい洞窟の入り口に来た彼らは

その靴跡が間違いなく愛娘の物であることを確信した。

 

 本来進入禁止である破邪の洞窟。でろりん達は中に入らせろ、娘がいるんだ!と執拗に

フローラ王女や婿のアバンに詰め寄った。本来彼らの実力ではとても進めない洞窟だが、

娘を思う親心を止める事は彼らでもできなかった。

 

「この本を持っていってください、かつて私が破邪の洞窟に潜った時の事を記してあります。」

 そう言って貸してくれたアバンの本を頼りに破邪の洞窟にアタックする一行。見送る兵士たちは

誰もがその無謀な挑戦に呆れていた。何日も持つまい、どうせすぐ逃げ出すさ、と。

 

 その予想は外れた。子を思う親の強さ、それがでろりんとずるぼんを突き動かし、そんな

彼らの無茶を死の寸前で押し止めるへろへろとまぞっほ。厳しい洞窟内での生と死の綱渡りを

ギリギリで潜り抜けていったのだ。

 

 無論アバンの本を持っていたのも大きく役に立ったし、加えてきらりんの足跡を追跡していた

のも大きかった。彼女はその類まれなる才能で、ひとつひとつこの破邪の洞窟をクリアして

行っていた、その後をつける事により、時には元に戻り切らぬ罠をスルーし、時には

娘の魔法やアイテムの使用の痕跡をトレースすることにより、彼らの実力に見合わぬハイペースで

洞窟の奥へ奥へと潜っていった。付け足すなら、この洞窟で契約できる数々の破邪の秘術を

総スルーしたことも彼らをより早く奥へと進ませた。

 

 地下178階、彼らはミスを犯す。

 その階をクリアする魔法陣の操作を誤り、強敵のドラゴンゾンビを起こしてしまったのだ。

へろへろは額を割られて重傷を負い、ずるぼんは暗黒の火炎で顔の半分を焼かれてしまう。

でろりんも左腕を咥えられるが、そのとき握っていた魔法石が彼らの命を繋いだ。

 洞窟の途中にあった宝箱に残っていたその石は氷系呪文(ヒャド)の力を持っていた、ドラゴンに

腕を噛まれてパニックになったでろりんは咄嗟に火炎呪文(メラ)を使う。その魔法と

手にしていた魔法石のヒャドがスパークし、偶然に極大消滅呪文(メドローア)の効果を生み出し、

彼の手ごとドラゴンの頭を消し去ったのだ。

 しかも彼が腕を消された痛みでもがいたせいか、その魔法はそのまま真下に落下し、

洞窟の床を何十階かぶち抜いて、彼らに”抜け道”を提供することになった。

 

 重傷を負った彼らだが、止まるという選択肢も、引き返すという考えも無い。

まだ彼らは愛しい娘を抱きしめていないのだから。

 抜け道の最深部である227階に橋頭保(ベース)を築き、周囲を捜索して薬草や食料を

かき集めつつ、さらなる奥へとアタックを試みるパーティ。

 

 そこには、かつて”ニセ勇者一行”と陰口をたたかれた小悪党の集団はいなかった。

娘を救う、その一念で難関の洞窟に挑む勇者達がいるのみだ。

 

 だが、そんな彼らの心も、やがてぽっきりとへし折られる。もう階数を数えるのも

諦めた彼らが降り立ったその部屋。そこには下に続く階段は無く、ただ正面に大きな門が

あるだけだった。

 そして、その門に施されている結界は、彼らがどう頑張っても開く事など不可能だ。

触れるだけで強烈な電撃に晒され、その奥にある力の大きさを伺い知ったとき、その門は

例え神様でも開けることは叶わないとすら思わせた。

 

 そして、愛娘の足跡は、まっすぐその門に向かっていて、そこで途切れていた。

 

 でろりんもずるぽんも声を上げて泣いた。あの娘の足跡が、その門に手をかけたことを

物語っていたから。そしてその結果、彼らの愛娘はあの結界に蹂躙され、この世から

消え去ったことが確信できたから。

 

「ああああああ・・・うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「嫌・・・いやあぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

 片腕を無くした勇者と、顔の半分を火傷で歪めた賢者は泣き崩れた。宝物のような娘も、

ここまで踏破してきた苦労も全て無駄になってしまった。どうして自分たちはあんな嘘を

子供についてきたのだろう、どうしてもっと真っ当に生きてこなかったのだろう。

その仕打ちがこれだとするならあんまりだ、どうして罰を自分たちに与えなかったのか!

 

 そんな二人を悲しい目で見るへろへろとまぞっほ。かける言葉など見つからない、

見つかるはずもなかったのだ。

 

 

 -ゴウ・・・ン-

 

 音がした。

 

 -ズ・・・ズズズ・・・-

 

 門が開く。

 

 -ぺた、ぺた、ぺた-

 

 足音が聞こえる。

 

 -え・・・うそ。-

 

 懐かしい、愛しい声。求めてやまなかった、二度と聞けないと思っていた、声。

 

 

「お・・・父さん、お母・・・さん・・・うそ、うそ、でしょ?」

 

 求めた、ただ求め続けたその顔。きらりん、探し続けた、大事な大事な娘の・・・顔。

 

 涙を流し、顔を上げて、その奇跡のような光景を見上げるふたり。

生きていた、生きていてくれた。ようやく、ようやく会えた、届いた、願いが叶った。

 

「うわあぁぁぁぁぁーーーっ!きらりぃーーーんっ!!」

「会いたかったーーーっ!もう!もう!!この娘ったら、この娘ったらぁ~~」

 

 抱きつく、というよりタックルするように愛娘に飛びついて大泣きする父と母。

その後ろではまぞっほがしゃくり上げてもらい泣きし床を濡らす。その隣でへろへろが

両手を突き上げ、渾身のガッツポーズで天井に向かって吠える。

 

「うおぉぉぉぉぉーーー!やった!やった!!やったぞぉぉぉぉーーー!!!」

 

 

 きらりんは悟る。彼らのその傷付いた躰が何を意味するかを、両親の流す涙が持つ意味を、

そして、自分がどれだけ彼らに愛されていたのかを。

 

「ごめん・・・なさい。お父さん、お母さん・・・おじさん、おじい・・・ちゃん・・・」

 

「うわあぁぁぁぁん、ごめんなさい、ごめんなさい、うわあぁぁぁん!」

「お父さん、お母さん、ごめんなざい・・・ごめんなざあぁぃぃぃ・・・!」

 

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