「私、魔王になっちゃった。」
てへっ、と舌を出してそう両親に告げるきらりん。
一瞬フリーズした彼ら4人は、まるで示し合わせたように同時にリアクション!
目を丸くし、アゴ台形状に広げ、鼻水をたらしながら絶叫する。
「「えええええーーーーーっ!!!」」
魔界側。その門が鳴動をはじめ、周囲に乱流が荒れ狂い始める。
「お、もう来たか。早かったな。」
「というか早すぎないか?地下260階って言ってたから40階は上り下りしたはずじゃ・・・」
リヴィアスが首をかしげるのも無理はない、魔王きらりんがこの門をくぐって洞窟に
戻ってからまだ10分ほどしか経っていない、もしかして何か忘れたことがあって
引き返してきたのでは、といぶかしがる一同。
が、門を開けて出て来たきらりんの手には、先には持ってなかった半円状のアイテムがあった。
どうやら本当にこの短時間で必要なものを回収できたようだ。
「ただいま。」
「お帰りなさい。早かったですね、ご無事で何よりです。」
「それが・・・地上に転移するためのアイテム?」
オグマの問いに、ちょっと困惑したような表情を返すきらりん。
「うん、実はこれで半分なの。ちょっと事情があって・・・今からちょっと使うから。」
そのセリフに全員が不思議そうな顔をする。アイテムが半分なのもそうだが、皆が魔界に
いる今現在使っても意味が無いのでは?このアイテムは使用者と召喚者が別の世界にいる時に
呼び寄せるアイテムだと先ほど言っていたと・・・
「移転の
きらりんがそう唱えた瞬間、半円状のアイテムの中心にある宝玉が輝き出す。同時に
ビュウゥゥン!と激しく振動し、キィィ・・・ンと共鳴のような音を立てる。
「うわ!」
「ひゃい?」
「ぬおっ!」
「ほっほぉ・・・」
次の瞬間、きらりんの周囲に4人の人間が突如現れ、そのまま地面にどさどさと落ちる。
突然の事態に何事かと身構える一同。
「紹介します。私のお父さんのでろりんと、お母さんのするぼん。それに仲間のへろへろさんと
まぞっほさんです。」
一瞬へっ?という顔をした後に、ああ成程と納得する一同。この魔王きらりんの両親なら
さぞ只者ではあるまい、きっと洞窟のすぐ向こうまで来ていたに違いない、と。
どうやらあのアイテムも彼らが持っていたのだろうと推測する、それは当たりではあるのだが・・・
「父殿と母様ですか、私は魔王きらりん様の配下となりました、オグマと申します。」
律義に頭を下げる
「ようこそ魔界へ。まぁ、ひどい怪我をされていますね、ちゃんと治療しませんと・・・」
ミールが心配そうに覗き込む。その蒼い肌と竜の鱗は明らかに”異界の者”を印象付ける、
やたらと美しいからそれがなおさらだ。恐怖とプレッシャーから、へたりこんで抱き合ったまま、
ずざざざざっ!と後退する父と母。
「我らも配下の者で、ケプラスとガノイザーと申す、以後お見知りおきを。」
巨体の竜人と筋骨隆々の強面魔族にずいっと顔を近づけられ、半泣きになりながら鼻水を垂らす。
『我は魔剣ナタルコン、暗黒闘気と真空呪文を供えし刃よ。』
宙に浮き、暗黒闘気を燃え上がらせて、その宝玉の眼でギョロリと二人を見る。
すでにでろりんは真っ白な灰のようにビビり上がり、ずるぼんも顔を真っ青にして縦長に
伸ばしている。中々の顔芸っぷりだ。
-余は冥竜王ヴェルザー、きらりんを次代の魔王に据えた、魔界の覇者たる竜よ-
寝てたと思ったヴェルザーまでもが4人に自己紹介する。ちなみに4人ともかつて”神の涙”
ことゴメちゃんの最後の奇跡によって地上破壊寸前の事情を察した時、このヴェルザーの
存在もテレパシーによって知っていた。あの時見た台座の竜王が、そのまますぐそこの
高台にいる・・・
口から魂を吐いて、ぱたっ、と倒れるでろりん。ずるぼんは顔を頬に当て、がくがく
震えたと思ったらそのまま泣き出してしまった。
「うわあぁぁぁぁん!きらりんちゃんが不良になっちゃったーーーっ!」
「えーかげんにせい、お前ら。」
リヴィアスがコーンランスの柄で皆を軽く小突いて回る。明らかにビビってんじゃねぇかと
彼らに助け舟を出す。
ちなみにまぞっほとへろへろはわりと余裕で、にかっとした笑顔をして二人にツッコむ。
「まぁ、ワシらだって不良みたいなもんじゃしのう。」
「子供にそんな顔見せるなって、みっともねーから起きろ!」
ぺしぺしと気絶したでろりんの頬を叩き、目を覚まさせるへろへろ。
「すいません・・・父も母も、頼もしい時は頼もしいんですけど・・・」
きらりんが顔を赤くしてそう釈明すると、一同堰を切ったように大笑いを始める。
「がっはっはっはっは、うんうん、それが魔界に来た人間の正しい反応だ。」
「別に取って食ったりせんわい、野蛮なイメージを持つなよ、うわっはっはっは。」
思わぬ来客を迎えた魔界、しかも冥竜王の玉座の前で、だ。ここまで踏み込んだ初の
人間オンリーのパーティはなんともひょうきんで、臆病で、そして表情豊かなメンバーであった。
「成程、割符になっておるのだな。」
きらりんを中心に輪を作る一同。彼女が持って来た円盤状のアイテム”移転の
中心の宝玉の部分の小さな円盤と、その周囲のドーナツ状の外周部分に分かれる。そして外周部は
まるで
きらりんいわく、術者が宝玉部を持って呪文を唱えれば、分解した部分を持っている者を
世界を超えて呼び出す仕組みのアイテムらしい。ここに来た時半円状だったのは、うち4つの
ピースを彼らが持っていたからだ。
「縁のある場所に飛ばされる・・・なるほど、みなさんはきらりん様以外、魔界に縁が無いですから
ここに来たと言う訳ですね。」
「じゃあ、我々が地上に行く時も、きらりん殿の所に行くのでは?」
ミールの言葉にオグマが返すが、きらりんは首を振ってそれを否定する。
「地上の者と魔界の者、その境界を隔てて誕生した者同士は、魔法的な”縁”は
繋がらないんです。」
例えきらりんの配下の彼らでも、他に地上に縁のある者がいなくても、彼らはきらりんの
所に転移する事は無い、という事らしい。
ちなみにリヴィアスに関しては、つい先日知り合ったきらりんよりもさらに強い縁の
人や場所に引っ張られる可能性が高いそうだ。
「ま、いずれにしても準備が必要だろう。そっちの皆には休息と手当ても、な。」
リヴィアスの言葉に頷く魔界側の面々。でろりん達は洞窟クエストで憔悴しきっており、
とりあえず体力と精神の回復が急務だろうし、他にも地上に行く前に色々とやっておく
事はあるだろう。
リヴィアスの
◇ ◇ ◇
「
サルトバーン領主ケートスの館の応接室にて、メイドのヘルヴィーナスが唱えた魔法が
ずるぼんの顔を覆う火傷を奇麗に消していく。
「はい。女性なんだからお顔は大事にしなさいね。」
「おおお・・・消えてる、消えてるわぁ・・・よかったぁ~。」
鏡で自分の顔を見ながら歓喜の涙を流す母を見て、きらりんも、ほっ、と安堵する。
あの無茶なクエストを強いたのが自分の家出だっただけに、心から良かったと思う。
「おお!すげぇ、動くぞこの義手!・・・ただ見た目がなぁ。」
でろりんは失った左手の義手を別の医者に付けてもらっていた。だた義手と言っても機械的な
物ではなく、別の魔物の死体から保存しておいた手を魔法によって縫合したものなのだが。
お陰で明らかに右手より太い、しかも緑色の左手が違和感をありありと感じさせる。
「そのうちこの左手に俺の体、浸食されたりしないだろうなぁ・・・」
「へいらっしゃい!」
「「ひ、ひいぃぃぃっ!!」」
町のとある屋台の一角、店主に声をかけられたへろへろとまぞっほが一気に後ずさった。
あん?という顔で彼らを見ながら肉を焼いているのは、魔獣人族の
「ははは、大丈夫だって。ガガラさんはいいおっさんだぜ、彼らの一族は義理堅いしな。」
隣でリヴィアスが笑ってそう返す。何か滋養のある食べ物をと町に出張った彼らだが
リヴィアスが案内した串焼き肉屋の店主は、かつてまぞっほたちが
相対した「どう見ても勝てそうにないモンスター」と完全に一致していた。
まぁ彼らが義理堅いのは良く知ってる。かつて仕えていた大魔王バーンの野望の為、
その身を捧げても爆弾を守ろうとしたほどの一族なのだから。
「人間とは珍しい、何本いっとく?サービスしとくぜ!」
ビビるよりもむしろ申し訳ない気持ちで、じゃあ10本ください、と注文する、
立ち去る際「また来いよな」と笑顔で声をかけるガガラの姿が身に堪える思いだった。
夜、ケートスの来賓室にて、ソファーや床に寝転がる人間5人。
すぅすぅ寝息を立てるきらりんの傍らで、彼らは今日の経験を小声で話し合っていた。
「なぁ・・・魔界、なんだよな、ここ。」
「焼き肉、美味かった、ガガラさんも、いい人だった。」
「あたし・・・この顔、覚悟してた。でも、直ってみると、やっぱ嬉しい・・・」
彼らが思う魔界。実際に来て経験した魔界。そのあまりにかけ離れた世界観に思いを巡らせる。
偏見、現実、恩義、そしてそこで暮らす者たち。それは敵でも無ければ脅威でも無かった、
ただ自分たちと同じように生活があり、日常があり、そして将来もあった。
そんな彼らのリーダーとして、世界の命運を託された愛娘、魔王きらりん。
”魔界を閉じる”天界の事業を阻止すべく、多数の強者を従えて動く魔界の救世主。
最年長の魔法使い、まぞっほがきらりんの寝顔を眺めながら、静かに、こう呟いた。
「ひょっとしたら、あの勇者ダイ以上の大人物になるかものう、きらりんちゃんは。」